童貞ゆえに
そこにいたのはクラスメイトの葉山 栞さんだった。
漆黒の黒髪を伸ばした細身の美少女。
葉山さんはあまり他人とつるまない。あまり話しをしているところを見たことがなく、その容姿も相まってミステリアスな魅力があり、クラスでも高嶺の花のような扱いをされている。
「それで、どうして掃除当番が一人だけなの?」
スッと目を細めて僕を見る葉山さん。
それだけで僕は、まるで叱られている子供のようにビクッと身体が硬直した。
どことなく鋭さを感じさせるその目つきも、葉山さんを孤高の存在にしている一因かもかもしれない。
「ぁ、えっと、みんな、今日は用事があるそうで仕方なく、はい、えへへ……」
「……」
ぅぅ、無言の圧力が凄い。
何故か怒られているような気がして、嘘は言っていないのに、すぐにでも謝りたい気分になってきた。
僕が冷や汗をかいて震えていると、葉山さんは踵を返して僕に背を向けた。
帰るのかとホッとしたのも束の間、葉山さんは掃除用具のロッカーから箒を引っ張り出してきて、僕には何も言わずに教室の掃き掃除を始めてしまった。
え?え? 何?この状況?
無言で掃除を始めた葉山さんは、今日の掃除当番には入っていない。流石に悪いと思い、止めようと思った僕は、意を決して話しかけてみることにした。
「ぁ、あの! 葉山さんは当番じゃないですよね? ど、どうして……」
そこまで言ったところで、またあの鋭い目がこちらをとらえて、僕は何も言えなくなった。
なんか、本当に怒られているような気になって言葉が詰まるのだ。
僕が、よく分からないままハラハラしていると――
「一人じゃ大変だと思って、私も手伝うわ」
ふぁ、ふぁあああああああ!!!!!
……好き。
今までの人生で一番優しいセリフを言われ、僕は、恋という病に容易くかかってしまうことになった。
続けてもう一話投稿します!