漢の見せ方
週明け、僕は早朝から学校の屋上で恥ずかしいセリフを叫ぶ特訓をしていた。
眠そうな宮永さんも一緒だ。
宮永さんにデートの練習をしてもらったおかげで、最近は自分に自信が持てるようになってきた。朝から恥ずかしいセリフを叫ぶのことも平気になった。
もう、葉山さんを目の前にしても、噛まずに想いを伝えられそうな気がする!
「宮永さん、僕、最近は特訓のおかげか自信が付いてきました!」
「ならよかった。早く自信つけて告白できるといいわね、いつまでも葉山がフリーとは限らないし」
「そ、そうか……」
宮永さんの言う通りだ。
あんなに綺麗な葉山さんを僕以外の男子が気にしていないはずがない!僕なんかよりほっぽどイケメンが葉山さんに告白なんてしてしまったら、僕に勝ち目なんてないじゃない!
だったら、告白は早い方がいい、今の僕なら、宮永さんの特訓のおかげで自信がついた。
告白はいつするか、今なんだ!
屋上からは、通学路が見えている。続々と登校してくる生徒たちの中には、ちょうど今話題になっている葉山さんの姿もある。絶好のチャンスだ!
「宮永さん!僕、頑張ります!」
「はいはい、頑張りなさい。まだセリフ残って――」
宮永さんの応援をもらい僕は目的の人物を目指して走り出した。後ろでは宮永さんが何か叫んでいる。きっと最後まで応援してくれているのだろう、人情に厚いところがあるからな。僕はその声援が嬉しくて、ますます覚悟が固まった気がした。
「葉山さん!」
「……何?」
学校から少しでたところで歩いていた葉山さんを呼び止める。
周りには沢山の生徒たち、以前の僕ならここでビビってしまっていたと思うけど、今は違う!僕は宮永さんのおかげで男らしくなれた。こそこそと隠れて想いを伝えるのではなく、男らしく真っ向から葉山さんに言葉で伝えるんだ!
僕の頭の中で、宮永さんとの特訓の日々が再生されていく、思い出す宮永さんと一緒に過ごした日々、宮永さんの笑顔――
――ん? あれ?
どうしてこんなに宮永さんのことで頭がいっぱいなんだろう。僕は葉山さんに――
目の前には怪訝そうにこちらを見ている葉山さんがいる。
当然の反応だ。いきなり呼び止められて、呼び止めた本人は何も言わない、不審に思うに決まってる。
僕は頭の中を埋め尽くす宮永さんとの日々を振り切って、口をあけた。
「お願いします!オ、オレと、付き合ってください!!」
澄み渡る青空に張りのある大きな声が響き渡る。
一斉に歩みを止めて視線を向ける学生たち、流石の葉山さんの目を見開いて驚いているようだった。
注目を集めたまま僕は、葉山さんの返事を待つ、ここで逃げたら男らしくない!
「……お断りするわ」
ガーン! と頭に殴られたような衝撃が走る。
お断りするわ
おことわり
お断り
お断り、されました。
「あの、ちなみに、理由を聞いても、いいですか?」
「貴方のことよく知らないし、好きでもない人とは付き合えないわ」
「あ、ですよね。はい、ありがとうございました……」
まっとうな理由過ぎて何も言えなかった。
僕は馬鹿だ。
自分に自信をつけるのは確かに必要だったけど、それと同じくらい相手のことも考えなきゃいけなかったんだ。僕はそれを蔑ろにして、一人で舞い上がって、告白してしまった。
これじゃあ失敗するのは当然だった。
僕は衝撃を受けすぎていた。
フラれたことにではなく、フラれた時のことをまったく考えていなかった自分に!
「あ、あははは……」
僕は大勢の人に見られながら、その場を後にした。
ちなみに葉山さんは僕に返事をした後、すぐに行ってしまっていた。クールだ。
――――――――
「はぁ……」
気が付くと僕は屋上に戻ってきていた。
「アンタ、馬鹿じゃないの」
屋上には宮永さんがいた。開口一番これである。まぁ反論のしようはない。
「……おっしゃるとおりです」
「葉山さんと仲良くなんなきゃフラれるに決まってるでしょ」
「はい、はい……」
自分が馬鹿すぎてちょっと泣きそうだ。
宮永さんがこっちに来たから、下を向いて歯を食いしばる。今の顔を見せたら男らしくないと思ったから。
「よく頑張ったね、えらいえらい」
「え――」
優しく頭を撫でられる。顔を上げると、優しい目をした宮永さんと目があった。
「ホント馬鹿、アンタには私が付いててあげるから」
「み、宮永さん⁉ それって、どういう?」
「そのまんまよ、アンタのこと放っておけなくなっちゃった。責任とんなさい」
「で、でも僕は葉山さんにフラれたばかりで」
「男なら!すぐ切り替える!」
「っ⁉……はい!師匠!」
「あーしが葉山さんのこと、忘れさせてあげる」
「は、はいぃ、師匠」
壁に押し付けられて真っ向からそんな事を言われたら、僕は流されるままに頷くことしかできなかった。
ギラギラした目つきの宮永さんの顔が近づいてくる。僕はただ見ていることしかできない。今の宮永さんはなんだか野性的でカッコイイと思った。この魅力こそが――
――これこそが、漢らしさ!
唇と唇が重なり合って、自分の意識がとろけていく中で僕はそんな事を考えた。