本気デート
今日は日曜日。
いつもなら、家で一人寂しくゲームでもしているところだけど、今日の僕は、外出している。
時刻は午前10時。僕は人通りの多い駅前に来ていた。
壁に背を預けて、辺りを見渡すと沢山の人達が楽しそうに歩いている。笑顔溢れる子連れの家族、楽しそうにはしゃぐ友達同士、仲睦まじい恋人たち、みんな一人一人が生き生きとしている。
そんな空間に一人でいることがなかなかに辛い。道の端に立っている僕のことなんて誰も気にしないのは分かっているけれど、それでも変に見られてしまわないか、勝手に緊張してしまうのだ。
こればっかりは仕方ない。昔からの性分だ。そんな男らしくないところを治していくのも、また今日の特訓だった。
もうすぐ僕がここに来てから30分が経つ。そろそろあの人が来てくれるはず――
「おっす~、ちゃんと先に来てたのは偉いじゃん」
「宮永さん!おはようございます!ちゃんと早く来て待ってました!」
「ん、よろしい」
そう、今日は宮永さんとデート! の練習をすることになっているのだ。
宮永さん曰はく「スマートにエスコートできてこそ真の漢よ」とのこと、デートなんて生まれてから一度もした事がない僕には厳しい目標だけど、宮永さんがデートの練習に付き合ってくれることになって、今こうしてふたりで待ち合わせに集まっていた。
僕だけだったさっきまでとは違い、周りの人たちからはっきりと視線を向けられているのがわかる。
まぁわかります。宮永さんがいたら仕方ないよね。
私服の宮永さんはどこからどう見てもカワイかった。あと、短めのホットパンツから伸びる健康的な脚が最高だった。
「はいはい、まずは服を褒める!基本大事にして~」
「あ、そうでした!えっと……すごく、可愛いですね宮永さん!」
「……」
「えへへ……あれ?」
「ばっかじゃないの、なによ、今日は可愛い系の服じゃないのに、ていうか服って言わなきゃわかんないっつーの」
宮永さんは後ろを向いてぶつぶつと何かを言っている。
人の服を褒めるような場面に人生で初めて遭遇したから、よくなかったかな。
「あの、宮永さん? ダメでしたか?本当に可愛いと思って僕――」
「あぁ!!もう、いい!それでいい!早く行くわよ!」
「うわぁ、待ってください、宮永さん!」
なぜか顔を少し赤くした宮永さんに手を引かれて、僕は初デート (練習だけど)に繰り出した。
映画館
「じゃあ、どれを観る?」
「あ、僕はこのホラー映画みたいです!」
「バッカじゃない⁉ 初めてデートする女の子にスプラッタ映画見せんな!選びなおし!」
買い物
「これで、どうでしょう?僕なりカッコいいファッションです!」
「……控えめに言って、センスない」
「⁉」
「しょうがないなぁ~、あーしが選んであげるから」
お昼
「このお店の料理すっごく美味しいですね!宮永さんよく知ってましたねここ!」
「まぁたまに来るから、ていうか落ち着きなさいよ、ほっぺについてるわよ。とってあげるから」
「あ、すみません……えへへ、ありがとうございます!」
「な、何笑ってんのよ、まったく」
ゲーセン
「あ、なんかまぐれで取れちゃいましたよ!」
「わぁマジ⁉ ちょっ、一発でクレーンゲーム取れるとか凄いんですけど!」
「あの、これよかったら宮永さん受け取ってくれませんか?」
「へ?いいの?」
「はい!日頃の感謝を宮永さんに伝えたくて、プレゼントにはならないけど受け取って欲しいです!」
「そ、そういうことなら、受け取ってあげる……ありがと」
「いえ、こちらこそ!」
帰り道
「宮永さん、今日はありがとうございました!おかげでとっても楽しかったです!」
「まぁ、あーしも楽しかったし、アンタからプレゼントも貰っちゃったし、その、ありがと」
「宮永さんにも楽しんでもらえてよかったです!そうだ、このお礼もしたいし、いつかまた一緒に出かけませんか?」
「そんな気にしなくてもいいけど、まぁどうしてもって言うなら行ってもいいけど」
「はい!どうしてもお願いします!」
「っ……わかったわよ。まぁ楽しみにしておいてあげる」
「……」
「……?」
「って違うじゃん⁉ 何またデート行こうみたいな話しになってんの⁉葉山さんをデートに誘うための練習だからこれ!!」
「ハッ⁉」
すっかりデートを楽しんでしまった。
けれど、今まで女の子と遊んだことなんてなかったのに、宮永さんのおかげで自然に過ごすことができたと思う。
僕は自分に自信が持てるようになってきて確信した。これが、男らしさなんだ!