熱血ランニング
「漢らしさってなんだと思う?」
放課後、何故かジャージに着替えさせられて、学校近くの河川敷まで連れてこられた。僕を連れてきた宮永さんもスカートの下にはジャージを着ている。そして、誰からか借りてきたのか、竹刀を担いで自転車にまたがっていた。
自転車にまたがったまま腕くみをして聞いてくる宮永さん。ハチマキにサングラスをして、しっかり熱血スタイルになっている。
「男らしさ、ですか? う~ん、なんでしょう?強いこととか、自分の意見をしっかり言えるとか!ですか?」
「そう!つまり筋肉よ!」
バシッと竹刀をたたきつけて高らかに宣言する宮永さん。初めから僕の返答は聞いていなかったらしい。
「筋肉ですか?」
「そう!筋肉!アンタはなよなよしてるからね、メンタルだけじゃなくて身体も鍛えて漢らしくならないと、女の子に見向きもされないわよ。ということで、今から河川敷をランニング!」
ま、まぁ、そんな展開かなぁとは思ったよ。けど、いよいよ宮永さんがひと昔前の熱血教師みたいになってきた。河川敷のランニングなんて定番すぎる。
「言っとくけど!あーしは自転車で付いて行くから、遅くなったら竹刀で気合入れるから、そのつもりで」
「え?た、叩かれちゃいます?」
「叩かれたくなかったら必死に走れ」
目が本気だ。絶対遠慮なく叩かれる気がする。
「返事は?」
「は、はいっ!師匠!」
「よろしい、あ、ランニング終わったら筋トレもするから」
宮永さんは、重要なことをサラッと言ってのけて、早く走りなさいよと言わんばかりの顔で自転車をこぎ出そうとしていた。
き、筋トレもかぁ。
僕、今日の特訓乗り切れるかな。
不安を抱えながらも、僕は宮永さんと走り出した。
――――――――
「ペース落ちてるぞ~。叩かれたくなきゃ頑張れ~」
「ひぃ、ひっ、はぃ、し、しょー!」
あれからどれくらい走ったのか、僕はもうヘロヘロだった。
自分では必死になって足を動かしているけれど、まったく進んでいないのも分かっている。ただ一定のペースで走り続けることがこんなにも辛い、普段から運動していない僕には余計にだ。
それでも、足だけは止めない。
ここで辞めたら男らしさの欠片もない気がする。付き合ってくれている宮永さんにも申し訳ない。
ペースが落ちたら叩くと言っていた宮永さんだったけど、こんなに遅くなっても僕はまだ一回も叩かれていなかった。ゆっくりと自転車をこいで、僕に声をかけながらついてきてくれる宮永さん。
宮永さんが見てくれているなら、僕はまだ頑張れると思った。
――――――――
「はいストップ!今日はここまででいいかな~」
「あびゃー」
し、死ぬ。
途中から横にある川がいつも見ている川とは違うものになっていた気がする。危なかった。
「走った距離はね~……うん、まぁもうちょっとで3キロってとこ」
「ひっ、ひっ、ウっ⁉」
「一時間は走ったんだけどね、それで3キロって、アンタのこと舐めてたわ」
「あば、っう、あばばー」
「……」
「び、びやががざん?」
「まぁ、なよなよしてるアンタにしては根性見せたじゃない。私の特訓の成果かしら、それとも、そんなに葉山さんが好きなわけ」
「いや、後ろで宮永さんが見ていてくれたから、宮永さんのおかげで、僕は最後まで頑張れたんです!ありがとう」
「……っ」
「……?」
「帰る!!」
「え⁉ あ、待って!僕もう動けません!待って!助けて宮永さーん!!」