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第4話


「はぁ――……」


 琴音は学校の教室の窓から外を眺め、知らず知らずのうちに溜息を吐き出していた。


 昼休みになり、何となく窓際から校舎を見下ろしていたのだ。


 2年生である琴音の教室は校舎の2階にあり、眼下では、昼休みにも関わらず男子生徒が走り回っている。


 その光景を物憂げな表情で見つめながら溜息を吐くものだから、周りの生徒から不思議な目で見られるのも仕方の無い事かも知れない。


 琴音は昨日の出来事を自分の中で整理しようとするものの、現実なのか夢だったのか……。そんな事を考え、自分でも知らない内に思考の沼にハマっていたのだった。


 とは言うものの、実際に体験した事だ。


 男達に連れ去られ、もう少しで汚されていた。あの時の恐怖は忘れる事は出来ないだろう。


 だが。


 その後の出来事が何処か現実味を薄れさせているのだった。




 翼と一緒に帰宅した琴音は玄関前で母親である恵海鉢合わせ、咄嗟に「(正二)とは家の近くで偶々会ったから一緒に帰って来た」と言って誤魔化した。


 その時に翼は微笑みを浮かべながら軽く頷き、何も言わずに自室へと入って行った。


「あ……」


 何か声を掛けようとは思ったが、上手い言葉が出て来なかった。


 そのまま翼の背中を見送り、自身も自室へと戻り事にした。


 あれから琴音は翼と言葉を交わしてはいない。




 教室の窓から見る景色は――見慣れた光景だ。


「琴ー音ー? どうしたの? 」


 声を掛けて来たのは、クラスメイトの沙紀(橘 沙紀)だった。


「なぁにー?気になる男子でも出来たの?」


「え!?ち、ちがっ!」


 琴音は慌てて否定するが、その様子が逆に肯定と捉えられてしまう。


「うんうん、分かるよー?どれどれ?どの男子?」


 沙紀は校庭を走り回ている男子を眺め、


「んー、何かパッとしなくない?」


 女子からそんな評価を受けた男子がどう思うかは別として。


「違う違う!あの中には居ないから!」


 顔の前で大袈裟に右手を振り、沙紀の推理を否定する。


「ふーん?あの中(・・・)には……ねぇ――」


 琴音は自分の失言に気が付き、慌てて否定しようとするが、


「だから!本当にそういうのじゃないんだって!」


「別に私は良いんだけどさー。ほら」


 沙紀はそう言いながら、目線だけで教室の中に琴音の視線を誘導する。


 男子達は聞こえないふりをしながら聞き耳を立て、琴音と沙紀の会話を聞いていたし、女子達は興味津々な様子で二人を見ていた。


「なっ……! 」


 琴音は恥ずかしさの余り、教室を逃げる様に飛び出した。


「あ、待ってよー」


 沙紀は琴音の後を追いかけた。


 琴音は校庭とは校舎を挟んで逆の方向にある中庭の備え付けのベンチに座っていた。


 そして沙紀は琴音の横に座り、


「いやさ、琴音って密かに人気あるからさ。まぁ、人気者の宿命だと思いたまえ」


 そう言って、自販機で買ったペットボトルのお茶を琴音に手渡した。


 琴音はそれを無言で受け取り、ペットボトルを首に当てた。


 少しだけ熱気を持った身体に心地良かった。


「だってさ、ホントにそう言う(・・・・)のじゃないんだもん」


「そっかー。まぁ、私としては少し安心かな。本当はね、自分の友達が男に取られちゃう! とか思ってさー。何てね」


「いやいや、取られちゃうって何よ。それにね、沙紀だって男子に人気じゃない。先週だって3年生から告られたんでしょ? 清楚系代表の沙紀さん」


 若干の嫌味を込めて琴音は沙紀に言い返した。


 沙紀は色白の肌に、サラサラと流れる様な黒髪を腰まで伸ばしている。


 スカートの長さも膝上10cmの校則の範囲内。


 品行方正を地で行くお嬢様――風な女の子だ。 

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