9.約束
ん、ここは、何処だ? 知らない天井だ。それにしても最悪の目覚めだよチクショー。
頭がガンガン言ってるし、さっきまで縛られていた場所は痛いし、後頭部に感じるムッちりとした感触は最&高だし……え? なにこのムッちりとしたヤツ。
「目覚めはどうだい王子様。只今五限の終了十分前だ」
「マジかー最悪じゃん、っておいィィ! なんで膝枕してんだよ! てか頭押さえんな、離せ、恥ずかしいんだよ!」
なにこいつ、めちゃくちゃ力が強いな!
ボヤけた頭が段々と回り、辺りの状況を確認できるようになってきた。周りには俺の他に詩音しか居らず、雫さんもあの不良陰陽師も居ない。
「あっはっは、その顔を見て笑うために膝枕していると言っても過言じゃないね。まあまあ、少し落ち着いて美少女の太ももでも堪能たら?」
そう言われると嫌でもこいつの太ももを意識してしまう。こんな卑劣な手を……クッ。殺せ!
あれれー立場が逆だぞー? なんで俺が屈服するのー? 需要あるー?
にしてもこいつ太もも、女子特有のすべすべお肌に・・・・・・・ッ! 健康的な太もも・・・・・・ッ! これは最早・・・・・・ッ! 悪魔の所業・・・・・・ッ!
「そんなに鼻伸ばしちゃって、新太のムッツリスケベー」
スケベなのはお前の太ももだ!
と声高らかにセクハラができればどれ程良かったのだろうか。主人公だったら殴られるだけですんでた。誰とは言わないがある人は、ラッキースケベで胸に顔と手を突っ込んでた。誰とは言わんが。
だが悲しいかな、俺は主人公に非ずなので言ったらヒロインのお仕置きじゃなくて、公的機関による社会的制裁が待ってる。
「怪我とかは大丈夫か?」
「君が僕の怪我の心配かい? いつも僕の後ろに隠れているのに。殊勝な心掛けだね」
うるせー、お前が戦ってる敵と戦うと二秒でミンチなんだよ。
「足と言うか、腰以外はこれと言った怪我は無い。君は大丈夫かい?」
「えっ? と言うことは俺以外電撃くらってないの?」
「雫君も拘束が解けた直後に出ていったしね、食らったのは君だけだ」
「スゲーショック……なあ、そろそろ離してくれんか?」
「新太、少しだけこのままでいさせてくれ」
彼女が少し神妙な声で問いかけてきた。と言っても顔立ちは神妙なことはなく、いつも通りの綺麗な笑顔だ。
「……やっと君に返すことができたよ」
「そんなことまだ言ってるのかよ。俺は気にしないし、何だったら異能を使って立てないお前を背負えて役得だっつーの」
少しの罪悪感と気恥ずかしさを皮肉の中に混ぜながら俺は言う。
「それでもまだ足りない位さ、こんなんじゃ全然返し切ることができない。私の全ての人生を君に使ったって……」
本当にゴメンな、詩音。俺さ、ただ物語が面白くなればいいなって思っただけなんだよ。
俺はモブなのに詩音は優しいから俺を気にかけてしまった。そして俺がコイツに助けられた直後、コイツのストーリーに呑まれた。
定期的に誘拐される探偵物の助手的なキャラクターとして。
そこからは地獄だったよ。一緒に行動すれば見たくもない凄惨な死体を見るはめになるし、かといって一人になれば誘拐されるし。
そのたびにコイツは『ゴメン』って謝ってくるんだぜ? 俺が下手に干渉したせいでな。
そんとき初めて主人公も人間なんだなーって思ったよ。
干渉を止めようとは思わない。それがただの俺のワガママだとしても。俺は学習しない動物の様に、食虫植物に誘われる虫のように、止めることができない。
「君はどうしたら僕を罰してくれるんだい?」
彼女は義理をとても大事にする人だ。だから自分がしたことにはけじめをつけたいのだろう。
「だったら罰として、俺がまた誘拐されたらまた助け出すこと、マジで俺のこと一生守ってもらうかんな?」
「ふっ、あっはっは! 普通そこは『俺が守ってやるって』てカッコつけながら言う所じゃなないかい?」
なんだかんだいって、いつもの詩音が一番しっくりくる。
「ばっかお前俺より強いだろ、つーかこれ罰だかんな。拒否権ねーかんな。……マジでお願いね?」
「それぐらいだったら、いつでもやってやるさ。ふふっ、今後ともよろしくね」
「こちらこそよろしくな」
そして俺達は詩音の足が回復するまで何気無い話で会話にはなを咲かしていた。
「あーっ! 新太君が別な女の子を連れてるー!」
「いちいちうるせーな。アッチだって付き合いってのが有るだろうよ」
足が回復したのち、やけくそで六限の授業をサボり。そのまま詩音と帰ろうとした矢先。
見覚えのある特徴的なピンク髪の少女と、北欧の世界の住人のように、妙に色白の男子のコンビに会った。
「よーっす、クロノ、すももちゃん」
「え、なになに、この人新太君の彼女! 新太君ってば隅に置けないな~」
「そうゆうのじゃないって、コイツは俺の友人だよ」
「ご紹介に預かった家棟詩音だ、出来れば詩音と呼んでくれ」
二人に対して大げさに胸に手を当て一礼するとコイツらしい綺麗な笑顔で笑った。
「私、椎崎すもも! 気軽にすももって呼んでね!」
「クロノ・マテリアルだ、クロノでいい」
一通り自己紹介が終わり、さあ帰ろうかと思った矢先。後ろの方から弾丸、否、弾丸の様な少女が飛んできた
「お兄様ーッ! 私の愛をーッ!」
クロノに向かった弾丸少女をヒラリとかわす。
学年は一つ下だろうか。身長はそれほど高くなく、すももちゃんと同じ位の身長だから百四十前後だと思われる。
にしてもすっごい見覚えがある顔だな。具体的に言ったら似ている奴が三メートル以内に要るような感じ。
こちらの動揺も異にも介さず少女は機関銃の様に捲し立てる。
「まあ、まあ、お兄様このお嬢様がたはどこのどいつでしょうか? まさか、お兄様の隠しきれない魅力にあてらた夏の虫の様な害虫どもでしょうか? ですがお兄様! 安心ください不肖このアリア・マテリアルがお兄様の代わりに……いたっ!」
クロノがいつの間にか出してあった丸めた教科書でアリアさんを叩いた。へー、アリア・マテリアルさんって言うんだ。ん? マテリアル?
「ハァ……こっちに来てから少しは落ち着いたかと思ったら。全く反省してないみたいだな」
「はい! 私のお兄様の愛は不滅です! あたっ!」
「お前の愛だか何だか知らねーが少なくとも今のは礼節に欠ける失礼な言動だった」
「ぐぬぬ、まあ、良いでしょう。私はアリア・マテリアル。このクロノ・マテリアルお兄様の妹を勤めさせています。将来の夢はお兄様のお嫁さんになることです♪」
……またブッ飛んだのきたな。