7.異能
「君はいたいけな少年少女を拘束することに罪悪感を抱かないのかい?」
「残ン念ながら敵に施す慈悲はねェな」
「交渉決裂かい。僕としても穏便に済ましたかったんだけどね」
詩音と不良陰陽師がバチバチと睨みを聞かせている。クソッ、俺らにできることはなのか!
(無いみたいだね)
「ウォッ!?」
「あ? うるせーぞ。潰すぞ、クソガキ」
ビックリした! めっちゃビックリした! ビックリしすぎて変な声出ちゃったよ!
今のなんなんだ? いきなり雫さんの声がしたが………
(それ、私の『念話』スキルだね。いつも新太君に使ってる『読心』スキルと併用して会話してる感じかな)
もうなんでもありかよ……そんなにスキル使えるんだったら。この拘束も解けないの?
(私には経験と知識が一切無いからね。どんな原理でこうなっているかさっぱりだよ)
『解析』スキルはどうだ。
(やってるけど相手がこっちの解析を妨害してるから凄い時間かかると思う。多分終るのは次の授業が終る位じゃない?)
じゃあ詩音に任せるしかないのか……
「クソガキ、ね。僕の友人に向かって酷い言い様じゃないか。しかも君僕と同い年だろ? 年齢的にいったら君もクソガキだよ?」
「そういうことじゃねェって事も理解できないのか? 覚悟がなけりゃ大人でもクソガキだ。それともテメェは俺とこうやって喋りに来たのか?」
「ただのジョークさ。ところでそさ、ろそろ授業が始まるからこれ、解いてくれない?」
詩音は体をぐっぐっと動かそうとするがほとんど動かせてない。
これミイラ取りがミイラになっちゃってるじゃん……助けに来た意味無いじゃん。
「……俺の目にも『気』が全く見えないから、大した隠行だと思ってたが。まさか全く『気』無いだけか? これは笑いモンだな。丸腰でしかも対抗する力も全く無いとはなァ。これじゃあなにしに来たのか分からねェなァ」
「あは、」
あはははは。彼女は笑う、狂った様に、新しい玩具を貰った子供の様に、そして
逆鱗に触れてしまった様に。
「自分のマヌケさに気づいておかしくなったか?」
「いや、違う。君がマヌケだったから笑っていただけだよ」
「あん?」
先程とは違いもう詩音は対話の姿勢を解いている。
コイツ異能使う気かよ……大人げないな、おそらくコイツ相手だったら特攻の様な能力だ。
(詩音さんだっけ、彼女はなにをしようとしているの?)
まあ、見とけって。
「いやなに、君が勘違いをしているから面白くて笑えてくるんだ」
「勘違いだァ?」
眉をひそめながら問い直す。しかし詩音を拘束しているからだろうかその顔にはまだ余裕が感じ取れる。
「一つ目の勘違いは僕は別に君の敵対者じゃない」
拘束されているなかで人差し指だけ立てて一を表した。
つーか指だけだったら動くのね……ホントだ動いた。
「今さら命乞いかァ? 無様にも程が有るぞ」
「二つ目の勘違いだが僕は別に君と対話しに来たんじゃない、ブッ飛ばしに来たんだ」
「へェ……それでこの様か、笑いもおきねェよ」
なに相手あおってんだよ、今なんかキュって絞まったんだけど! さっきより強くなったんですけど? 腕とか足とかメッチャ絞まってるんだけど!
今さらなんだけどね!
「今ので確信したよ。この拘束は足、手、胴体の五ヶ所を見えない紐の様なもので縛っている」
「だからなんだってんだ、テメェにはこの拘束は解けねぇ。絶対だ」
「そしておそらく君がなにもしなくても念じるだけで強弱を変えることができる」
「………」
キーンコーンカーンコーン
あ、チャイム鳴った。もう授業に遅刻したじゃん。どうしよっかな、サボろっかな。
(サボりは駄目だよ、新太君)
へいへい。
「だからおそらく君を倒せば、意識とリンクしているこの拘束は解けるんじゃないかい?」
「俺の聞き違いじゃなきゃよォ、俺を倒すって言ったのか?」
「聞き違いもなにもそう言ったんだよ」
本当にさっきまでは拘束の為の行為だったが今は肉を引き裂かんと力強く紐が食い込んでくる。
「ハハッ、ここまでコケにされたのは久しぶりだよ。安心しろ俺は相手が女でも手を抜かねェ」
「結構キツいな……で、最後の勘違いだ、これは肝に命じた方がいい」
「ボコった後でじっくり病院で聞いてやるよ!」
「自分が不思議な力を持ってるからといって、それが全ての不思議だと思うな」
パチンとフィンガースナッチを一つ鳴らす
その瞬間不良陰陽師はまるで一斉に殴られた様に身をくねらせダウンした。
これが家棟詩音を主人公たらしめる異能。
それは、ってあれ? なんで詩音がダウンさせたのにまだ拘束解けてないんだ?
「クソッ、こうなりゃ道ずれに……」
拘束されているのに逃げられる筈もなく、俺は相手のビリビリ攻撃をもろにくらってしまった。
そのまま視界がブラックアウトしていった。南無三。