5.理由
「新太君は私に勝つって意味を理解してる?」
おお、なんだか結構大きく出たな。凄い強キャラ感ヤバいし目だけ笑って無いし……
「私って結構なんでもできるんだ、勉強やスポーツや芸術方面まで」
「ラノベのよくある超人ヒロインみたいだな」
俺は茶々を入れ空気を変えようと少し小馬鹿にしたように嗤った。
それより私は酷い。彼女はそれに間髪入れずそう言った。
「私はなんでもできる。頑張らなくても、結果だけが向こうからやって来るんだよ?」
「……すまんが抽象的すぎてわからんのだが」
なんか雫さんの様子がおかしい。闇属性ついてるなんて聞いてないよ?
自虐的にふと笑うと先程の笑みとは違い今度は少し狂暴笑みで。
「例えば、クロノ君の『魔力』と『魔法技能』のスキル。これらのスキルレベルはA。これは世界で数人いるかどうかのレベル」
でも、と一息ついた雫さんはかなり興奮状態にあるのだろうか、少し声を荒くしながら。
「でも、私はクロノ君の一段階上のスキルレベルSの『魔力』と『魔法技能』を持っているの」
「え? お前魔法使えんの?」
「やったことないけど……ほらできた」
彼女がパチンと指をならすと、そこから火花が散り、そしてその火花が拳ぐらいの火の玉になった。
「……スゲーなお前」
別に魔法自体は決して凄いものでもない。詩音の異能で馴れているし、魔法と異能との違いなんて俺は知るよしもない。
凄いのは、魔法を知らなかった人ができると思っただけで成功したとこにある。
魔法を使おうとしただけで魔法を使えるとなれば中二病患者は大喜びだ。
しかし、それが出来ないからこそ中二病患者が中二病と言われるのである。
それは妄想の産物だ。現実を見ろ。お前はおかしい奴だ。
そんな誹謗中傷に耐えながら、夢をいつか現実の物にしようと……
「中二病に関しては結構饒舌に喋るんだね」
「さらっと心を読むな、おい、そうしたら俺が教室の時思ってた事って!」
「実は全部聞こえてたかな、でも、私の事結構見てるんだなーって思えて少し嬉しかったかな」
ア"ア"ア"ア"ァァァッ! 死にたい! 凄く死にたい! なに変なこと考えてんだよ! 俺のバーカバーカ!
どのくらい死にたいかというと、俺が好きな子に告白しようとしたら土壇場で噛みまくって相手に笑いながら『ごめんwww』って言われたぐらい死にたい!
「えーと、つまりね私が言いたいことは、なんでもできる私に一つでも勝っている新太君は凄い人なんだよ?」
ふう、ギリギリ致命傷ですんだぜ……
彼女はなんでもできるのだろう。それこそ一流と言われる人物たちを差し置いてトップになる程度は。
そして下手な主人公が動くよりも彼女が動いたほうがより良い結果が出るだろう
だがそれはとても……
「……かわいそうだな」
同情なんて求めてないかもしれない、でも俺は少しだけ彼女の隣に居たいと思った。
「それって、プロポーズかなにか?」
「ムードが台無しだよコンチキショウ!」
感傷に浸ってていても良いじゃないか! シリアスがそんなにお嫌いですか!
「嫌いかな」
「だから、心を勝手に読み取るんじゃない!」
このやりとりめっちゃ疲れるんだけど……
そういえば、と何かを思い出して様子で語りかける。
「あの二人ばどうだった?」
「どうって、何が?」
「部員に丁度いいかなーって思ったんですが、部長としてはどう?」
「あー、あいつらはパスかな、ちょっと危ないし。確か、部の発足には部員が四人以上だろ? 一人は俺の友達が入りたいって……って俺が部長?」
「ノリツッコミが遅い、うーん四十点かな。新太君のほうがスキルレベルが高いから部長かなぁって思ったんだけど……」
「まあやることは少なさそうだしやっても良いけど……ねぇ、最初の方の批評って一体何なの?」
「それじゃ、決まりだね。後はもう一人の部員と部室の確保かな、最近文芸部が廃部になったからそこの部室を貸して貰おうか。明日、部室の下見に行こう?」
「明日の昼休み辺りに行くか」
スルーっすね、もう優しいのか鬼畜なのか全くわかんねーな…
あ、そういえば松阪君と仲良くなるの忘れてた。一応部員に誘って見るのも有りかもしれない。