謎の男
退院してから初めての日曜日
紫吹と湊はボーリング場へ向かっていた
本当なら映画を観に行く予定だったのだが
左目のこともあり目と耳で楽しむ映画で異変が起こるのを避けたかったから
紫吹の提案でボーリング場へ行くこととなった
「なあ、潤?お前退院してからなんか変な行動が多いけど大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だ。サンキューな」
変な行動とは退院してからの学校生活で左目に度々異常が起きる
その度にビックリして反応してしまい
それが浮いた行動になってしまっていた
「まあ、お前が大丈夫ってならいいけどさ?…ん?なんだあれ?」
湊の視線の方向に人集りが出来ていた
立っている人や座っている人
よく見えないが誰かが人前で話をしているようだ
少し気になった紫吹と湊は人集りに近づく
人集りの理由に最初に気づいたのは紫吹だった
「ん?あ、あの人って確か…最近ニュースで話題になった…」
紫吹の言葉に湊も思い出す
「ああ!あの宗教団体の!」
人集りの注目の理由は
最近話題になっているある宗教団体の教祖がいたからだ
危険な思想を持った宗教団体ではなく
市民寄り添った宗教であることから支持もかなり得られている
湊は興味を持ったようでジッと教祖を見ている
紫吹は左目を閉じて右目だけで見る
「顔は生で見るのは初めてだけどなかなか若いんだな」
見た目年齢に湊は感心したようだ
どこに感心してんだよなんて思っていると急に突風が吹いて右目にゴミが入る
「いった!!」
「うっ!」
2人同時にゴミが目に入り
お互い目をこする
紫吹は反射的に左目を開けてしまった
少し焦りはしたが左目の視力は右目と変わらない状態で安心をした
(ふぅ…よかった。…………ん?なんだ?あの男?)
安心した瞬間に左目がなにか妙な違和感を捉えた
みんなが座ったり立っていたりするところより前に男がゆっくりと教祖に歩み寄っていた
一見そこまで違和感のない光景だ
ただ周りの視線が気になった
(なんでだ?周りの人達…あの男のことを見ていない?気付いていないのか?あの教祖も?)
教祖も一切気付いていない様子だ
紫吹は湊の方を向く
「湊、あの男ってなんだろうな?」
「いてて……ん?男?どこ?」
湊は男を見つけられないでいた
あんなに目立つ立ち振る舞いをしているというのに
そこで気づく、右目で見てみればいいと
ゆっくりと右目を開く
(………な!?)
紫吹は右目と左目の視界の違いに驚く
左目でははっきり男が見えてるのに右目では見えていない
(な、なんで!?どういうことだ!?)
紫吹が混乱してる間に男は教祖との距離が腕一本分伸ばしたくらいの近さになった
そしてポケットに手を入れた
(なにをやっているんだ?あの男は?)
そのあとは一瞬だった
男はポケットからナイフを取り出し
教祖のお腹に突き刺した
「な!?」
その光景に驚いてつい声が出る
その声に湊も驚く
「潤?どした?」
「み、湊…あれ」
紫吹が指差した方向は教祖の方向だった
教祖は急に話すのをやめていた
と思ったら苦しそうに吐血をし始める
「な!?どうしたんだ!?あの人!?」
湊の反応を聞いてやはり刺した男のことは見えていなかったんだと悟る
周りも湊と同様に動揺していた
真っ先に動いたのは宗教関係者で教祖の元に駆け寄っていった
「お、おい…。なんか大変なことになってるな?」
そう言って湊は紫吹の方を見たが
そこには紫吹の姿は見えなかった
「あれ?潤!?」
一方の紫吹は裏路地を走っていた
紫吹は騒動の間もあの男のことを左目で追っていた
相手は凶器を持っていて、いとも簡単に人を刺す男
正直恐怖心がかなりあったが、正体を突き止めずにはいられなかった
そして紫吹は足を止める
(あいつだ!)
声をかけた瞬間に殺されるかもしれない
それでも
「おい!アンタ!なんであの人を刺した!?アンタは何者だ!?」
紫吹の声に男は歩く足を止めた
そして紫吹の方をゆっくりと振り返った