左目
気づいたら紫吹の右目に入ってきた光景は知らない白い天井だった
「また白い………」
紫吹がボソッと呟くと
ガタッ!!と右から音がした
「じ、潤!!潤!!気づいたか!!」
すぐさま声のする方を見ると、そこには湊が心配そうな顔で紫吹のことを見ていた
湊は紫吹に意識が戻ったのを確認してすぐに人を呼びに行った
1人になった紫吹は辺りを見回す
「ここは…病院か」
身体は痛いけど少しは動かせる
手や腕に包帯が巻かれている
足にも巻かれているけど手や腕ほど怪我はしてないようだ
少し安心しかけた瞬間に紫吹はハッとする
左目の視界が真っ暗だ
恐る恐る触ってみると包帯が巻かれていた
そしてあの空間のことを思い出す
夢だったのかは分からないけどやけにリアルに感じた
「夢……?……だったとしてもやっぱりじいちゃんの言う通り俺の左目は無くなったのか…?」
すぐさま確かめたくなった時にタイミングよく湊が医者と看護師を連れてきた
医者は紫吹を見るなり優しい笑顔になった
「ふう…。紫吹君、目覚めてよかったよ。調子はどうだい?」
「全身痛いです…」
「痛いだろうね…。君は2日間ほど寝ていたんだよ」
2日間も寝ていたことに驚いたが
紫吹には特に気になっていることを聞く
「あの、俺の左目は……」
左目のことを聞いた瞬間に湊と医者と看護師は少し暗い顔になった
その顔を見て紫吹は察する
「俺の左目はやっぱり…なくなったんですね?」
医者は言いづらそうに口を開く
「うん…。全身に包帯は巻いてあるけど総じてはそこまでの怪我ではないんだ。けど左目は…手術した段階では潰れていて、もうどうしようもない状態だったんだ」
医者の話を聞いて夢だったのかどうか分からないあの空間でのじいちゃんの言葉を思い出した
「そうですか…。俺はいつ退院できますか?」
「退院は目覚めてから1週間後を予定していたから今日から1週間だね」
「分かりました」
医者の話を聞き終えると紫吹は湊の方を見る
「湊、由花は?」
「由花は安心しろ。お前が庇ってくれたおかげでそこまで怪我はひどくない。あと3日は入院が必要らしいけど別の部屋で元気にしてるぞ」
「そうか…」
紫吹が由花の状態を聞いて安心すると湊は言いづらそうに口を開いた
「その…左目は残念だったな…。実は由花にお前の目のことを伝えたら、あいつ自分のせいだって泣いちゃったんだ」
由花が泣いたということに紫吹は硬直した
「そうか…じゃああいつのせいじゃないって早く言わないとな」
「ああ…そうだな」
そこから入院生活で徐々に体の方も回復していき
由花の号泣に紫吹と湊は付き合いつつ、退院当日にはほとんど怪我も治ってきていた
退院当日に全て包帯を取るためにベッドに紫吹は座っていた
怪我も治ったとはいえ傷口が開かないように看護師が丁寧に包帯を取っていく
「ふう…体の怪我はもう完治してますね」
紫吹の体を看護師は視診をする
そして看護師の視線は紫吹の左目に移った
そして恐る恐る紫吹に聞く
「……どうしますか?ガーゼはそのままで眼帯をつけますか?それとも左目の状態を見ますか?」
看護師の問いかけに紫吹は一瞬悩む
悩んだ結果
見ることに決めた
「はい。状態を見てみます」
見たくないという気持ちもあったが
やはり気になるという好奇心が勝った
看護師はそっと包帯を取り、ガーゼを紫吹に抑えるように伝え、手鏡を渡した
「私は後ろを向いていますので見終わったら声かけてください」
「はい、ありがとうございます」
看護師から手鏡を受け取りガーゼを外すと
目を閉じた状態の左目が鏡ごしで見える
どっと緊張感が溢れ出た
心臓の鼓動が高鳴る
どんな状態になってるのか皆目見当もつかない
紫吹はゆっくりと目を開けていく
「…………………え」
紫吹の「え」という言葉に看護師は後ろを向きながら反応した
「紫吹君?どうしました?見ました?」
まだ声がかかってないから後ろを向くわけにはいかないと思っていた矢先
「あ、あの…見たことには見たんですけど」
紫吹の困惑してるような声が聞こえてきた
目のひどい状態を見てショックを受けるか
受け入れる覚悟のある声をイメージしていたのに全く違う反応が返ってきた
「紫吹君?振り向きますよ?」
「は、はい。どうぞ」
看護師はゆっくりと紫吹の方を振り向く
そして看護師の視界に入った紫吹には信じられないことが起きていた
「か、看護師さん?確か俺の目って潰れててもう治らない状態だったんですよね?」
「は、はい。私もそう聞いていました」
2人とも手術を担当した医者からは看護師は術後に
紫吹は目覚めてすぐに目は潰れていたと聞かされていた
しかし、潰れていた目はしっかりと紫吹の左目として綺麗に残っていた