館内トラブル
館内は薄暗い明りで照らされている
湊は券と席を交互に見て券と同じ番号を探していた
紫吹は3人分のポップコーンを持って湊の後を付いていく
由花は前の2人の後にスマホをいじりながら付いていく
「あ、ここだ」
湊が席を見つけて立ち止まった
紫吹は席の肘掛に付いてるドリンクホルダーの穴にポップコーンのケースを差し込む
「とりあえず…席どうする?今の俺、潤、早川の並びで座るか?」
「そうするか、別に俺か湊のどっちかが由花とカップルでもないし気を使うことはないだろ」
「私もこのままでいいよ」
紫吹が気を使わないでいいと言っていたがこの並び順に湊は気を使っていた
なぜなら紫吹は気づいていなかったが事あるごとに由花が湊の隣ではなく紫吹の隣にあえて立っていたからだ
歩いてる時に位置が変わっても必ず由花は紫吹の隣をキープしていた
この2人付き合ってはいないけどお互いの恋愛感情に気付いてないだけなんじゃないかと湊はずっと思っていた
「早く付き合えよな…」
湊はボソッと紫吹と由花に聞こえない声で呟いた
そんな思いと声を知らずに紫吹と由花は話しながら席に座る
「潤、私のポップコーン食べる?」
「ん、食べる」
由花は自分のポップコーンを人差し指と親指で摘むと紫吹の口に入れた
「んーキャラメルもやっぱ捨てがたいな」
由花のポップコーンはキャラメル味で紫吹のポップコーンは塩バター味だ
このやり取りを見ていた湊は
完全にこの2人がカップルできていて自分が1人で見に来てるように見えるんだろうななんて思っていた
するとビーという音がなり薄暗かった館内がさらに暗くなる
「おい、始まるぞ。イチャつくな」
「別にイチャついてねえよ」
3人ともスクリーンの方に目を向ける
1時間後……
映画は無事に終了しエンドロールも終わった
周りのお客さん達が席を立ち始めて紫吹と湊と由花も立ち始める
すると立った由花が少しモジモジしていた
「ちょっと私先に行ってるね。トイレに行きたくて」
「ん、分かった。俺と湊はゆっくり出るから」
由花は紫吹にポップコーンのゴミを渡してすぐに階段を駆け下りていった
その様子を見た湊が一言
「相当危なかったんだな」
湊の一言に紫吹は苦笑いを浮かべる
紫吹と湊も階段を降りて劇場から出ようとした
その瞬間
ドカーン!!という大きな音がなり館内が激しく揺れた
その瞬間に電気も消えて停電起きる
「な、なんだ!?」
突然の音と揺れ、そして停電に紫吹は少し動揺した
一方の湊も動揺していた
「わ、わかんねぇ…。今の音と振動はただ事じゃねえぞ」
2人と同様にまだ劇場にいるお客さん達も全員動揺していて小さい子供に至っては涙を流していた
するとすぐさま電気が復旧して館内放送が流れる
「館内にご来場の皆様にお知らせします!ただ今館内で爆発事故が起きました!火災が発生しているとの情報が入りましたので館内にいるお客様は速やかに劇場スタッフの指示に従い、避難をお願いします!!」
館内放送の口調からしてただ事ではないことを物語っていた
「潤…!早く逃げるぞ!」
「あ、ああ!………っ待て!」
紫吹と湊は劇場出口とは反対方向にある非常出口に向かおうとしていたが
紫吹はあることを思い出して足を止める
「湊!由花が心配だ!」
「……!!そうか!由花はトイレに行っていて…!」
すぐにさま2人は劇場出口の方に走る
しかし2人の行動がスタッフ視界に入りスタッフが湊の腕を掴んだ
「お客様!そちらは危険です!!早く非常口の方へお逃げください!!」
「友達がトイレに行ってるんです!心配だから行かないと!」
湊がスタッフと揉めてる間に飛沫は劇場出口のドアを開ける
すると出口の外はすでに炎が回っていた
「あっつ……!もうこんな!?」
もともと廊下は布系の床で出来ていたためにすぐに燃え移ってしまっていた
「潤!うぉ!?あっつ!!」
紫吹の後に続き湊とはスタッフと一緒に出てきた
「み、湊…!やべえぞこれ!?」
「く……!けど進むしかねえだろ!女子トイレはどっちだ!?」
紫吹と湊は首を左右に動かしてトイレの場所を探る
それを見た後ろのスタッフが左を指差す
「女子トイレはあちらです!館内の道が分かる僕も付いていきます!」
スタッフさん先導の元、紫吹と湊は女子トイレに急ぐ
走ってる途中に紫吹のスマホが鳴る
画面を見ると由花の名前が写っていた
すぐさま紫吹は電話に出る
「もしもし!?由花!?大丈夫か!?」
電話越しに聴こえる由花の声は焦っていた
「ど、どうしよう潤!さっきの爆発の揺れが関係してるのかな!?トイレのドアが引っかかって開かないの!!助けて!!!」
トイレのドアが開かないということはまだ女子トイレの個室に閉じ込められてるということ
紫吹は走る速度を速めてスタッフと港を抜かし1番に女子トイレの中に入る
「由花!?由花!!どこだ!?」
すぐさま大声で由花を呼ぶ
反応はすぐにあった
「潤!?ここだよ!助けてー!!!」
真ん中の個室から声がしてノックをするとすぐさまノックが返ってきた
「由花!少し離れてろ!」
「う、うん!!」
紫吹は助走をつけて個室のドアにタックルをする
しかしドアはビクともしない
「くっそ……!俺1人じゃ無理か!?」
そこへ湊とスタッフが到着した
「潤!由花は!?」
「この個室だ!けどドアが開かねえ!!湊!スタッフさん手伝ってくれ!」
「は、はい!」
3人は助走をつけて今度は面積的にちょうどいい飛び蹴りを食らわす
ドアはバターン!!と大きい音を立てて勢いよく開いた
トイレにいた由花はすぐさま紫吹に抱きつく
由花を受け止めた紫吹は由花の頭を撫でた
「潤!由花!早く逃げるぞ!」
「よし!」
紫吹は由花の腕を掴んでトイレから出ようとしたその瞬間
「危ない!!」
スタッフの声が響く
紫吹、湊、由花はなにが危ないのかすぐには分からなかったが
紫吹と湊が異変に気付いた
「「!!!!」」
2人が気付いた瞬間に天井が崩れ落ちてきた
湊は出口側、紫吹は由花を守るためにトイレの奥側に由花を抱えながらダイビングで回避する
紫吹はすぐに起き上がり肩で息をしながら由花の無事を確認する
「はぁはぁ…あぶねえ…、由花大丈夫か!?」
「うん…ありがとう」
由花が無傷なのを見て紫吹はホッとした
「潤ー!!由花ー!!大丈夫かー!?」
崩れた天井の瓦礫の向こうから湊の声が聞こえる
どうやら湊も無事なようだ
湊の声に紫吹が返す
「湊ー!俺も由花も無事だ!」
湊は瓦礫の向こうの紫吹の声に安心した
しかし安心したのもつかの間
ピシっと音が上から聞こえたのを湊は聞き逃さなかった
紫吹と由花も音は聞こえなかったけど妙な危機を察知していた
「潤…。ここまずくない?」
「ああ…。早く離れた……!?」
紫吹が全て言い終わる前にまだ崩れていない天井にヒビが入った
「やばい…さっきより落ちてきそうな範囲が広い」
さっきは避けられたが、次に落ちてくるのは避けられそうにない
そんなことを考えてるとまた爆発が起きた
その衝撃でヒビの入った天井が降り注ぐ
「っく!!由花ー!!」
紫吹は自分の身より由花を守ることを優先させた
「じゅ、イヤァァァァァ!!!」
湊は瓦礫の向こうにいる紫吹の大声と由花の悲鳴を聞き焦り大声で2人を呼んだ
「潤ー!!!!由花ー!!!!!」
必死に2人を呼ぶが2人からの返答がない
2人は崩れてきた天井の下敷きになってしまっていた
「…………っ」
下敷きにはなっていたが紫吹はなんとか生きていた
しかし意識がどんどん薄れていく
薄れていく中で最後に紫吹の視界に入ったのは気絶した由花の顔だった