Sの迎え
ZEROの存在を知った翌日
紫吹と湊はいつもと同じ通学路を歩いていた
いつもと違うとすれば
紫吹は学校に向かうために制服を着ていつも通りだが
湊は学校に行くというカモフラージュで通学路の間にZEROの関係者が迎えを寄越すということになっていた
紫吹はシードフォルダーとしてZEROにスカウトされたとはいえ組織に入っていないので一般市民という扱いでアジトまでの行き方を教えられない
湊も当然ながら受験者ということで一般市民の扱いだ
紫吹「湊…緊張してるか?」
湊「……ああ、高校受験より遥かに緊張してる。筆記なのかな?それとも実技?」
会ってから湊は緊張のあまり顔色が良くない
一方の紫吹は能力がコントロールできてないという男の言い分が正しいのか分からないが
目の色が元に戻りつつあった
少し進むと黒いスーツの女の人が立っていた
「初めまして。涼川湊君ですね?」
女の人は澄んだ目で湊を見透す
湊「は、はい。そうです!……ZEROの方ですか?」
湊が聞くと女の人は人差し指をゆっくり自分の口に当てた
「組織の名前をやたらに口にしないでください。試験を受けると言っても今のあなたはあくまで一般人、あなたが知っていいはずの組織ではないのです」
女の人に言われて湊は慌てて手で口を抑える
湊「すいません!」
湊が謝った後に女の人は紫吹の方を見る
「紫吹潤君ですね。睦美様からお話は聞いています。あなたもスカウトされた身とはいえ、今は一般人なので…お分かりいただけますね?」
紫吹「は、はい!」
怖いという雰囲気はないが女の人の声質、纏ってる空気に警戒してしまう
紫吹に忠告した後に女の人は2人を同時に見る
「では、少しお二人にお話をするお時間をいただきます。試験を受けるために涼川君を車でアジトまで送ります。睦美様からお話を聞いてるかと思いますが、今は一般人ということなのでアジトまでの経路をお教えることは出来ません。なので少し不安でしょうが、涼川君には移動中は組織で開発したこちらのアイマスクと耳栓を付けていただきます」
そう言って女の人は黒いアイマスクと黒い耳栓をポケットから取り出した
「こちらは付ければ視覚、聴覚共に外からの情報がシャットアウトされます。ですが、なにか質問や疑問がありましたら、私のことをSとお呼びください。そうしますと、その耳栓は通信機器にもなっているので私のタブレットと耳栓を繋いでいるので私と話せます」
女の人の話を聞いて
2人は素直に(すげえ…)と感心していた
S「私と話してる間も私の声しか聞こえませんのでご了承ください」
湊「わ、分かりました」
湊の返事を聞いて女の人は軽く会釈をする
S「合否は試験が終了したその場で分かります。合格した場合はその場で、エージェントかサポーターのどちらかに振り分けられます。その際は涼川君のどちらに行きたいという希望は通りません。そして、もし不合格だった場合はアイマスクと耳栓を付けた後に眠らせて記憶消します。目が覚めるころには組織のこと、試験のことは一切記憶になく、学校をサボっていたという記憶に変換して、学校の正門前に送ります」
紫吹「嫌な変換ですね…」
変換した記憶の内容に紫吹は苦笑いをする
S「そして紫吹君には事前に睦美様から組織専用のタブレットをお渡ししてあるかと思います。紫吹君から連絡は出来ないことになっています。涼川君の結果が出次第、タブレットに結果を送ります。不合格でしたら変換後の記憶に合わせてください」
紫吹「分かりました」
湊「なんか予告ドッキリを聞いてる気分なんですけど」
湊のボケにもSは一切反応せずに話を続ける
この女の人って笑うことあるんだろうかと2人は同時に思っていた
S「合格をしても、もし気が変わって辞退をするようでしたら、同じく記憶を消して変換します。その際も紫吹君のタブレットに辞退とお伝えします」
Sは2人が理解しているかどうか交互に2人を見る
2人はSと目が合うと同時に分かりましたという意味で頷く
S「紫吹君のタブレットにも涼川君の結果通知が来ましたら、涼川君と再会するまでの間に所属する、しないの選択肢が画面に表示されます。辞退をするのであれば家の前で私が待っていますので、その際に組織の記憶は消させていただきます。涼川君と再会するまでにどちらかを決定しない場合は所属するとみなしますのでお気をつけください。所属するのであれば、学校が休みの土曜日に噴水公園に来てください。その際にアジトまで送ります。もちろん涼川君も所属する場合、お2人で来てください。紫吹君だけであればお1人で来てください。………長くなりましたが、ご理解いただけましたか?」
Sからの問いかけに2人同時に頷く
2人の頷きを見てSはなにかボタンを押した
するとSの後ろから黒い車が突然現れた
紫吹「ええ!?急に車が!?」
S「サイレント機能です。肉眼では見えません」
Sの車の機能と紫吹の反応を見てふと湊は疑問に思った
湊「え?潤?お前の左目で見えてなかったのか?」
そういえばそうだ
湊の言葉に自分も疑問に思った
なぜ見えなかったと
見破る能力なら左目で見えていたはずだ
やはりコントロールを出来ていないのだろうか
そんなことを尻目にSはドアを開ける
S「では、涼川君」
湊「はい!…潤!絶対合格するからな!」
そう言って湊は車に乗り込んだ




