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僕と滝川先輩は小川を渡り、更に進んだ。道の両脇には相変わらず味気ない風景が続いている。山も海もビルも無い、ただ平坦な土地が広がっているだけの、北関東南部特有の風景。司馬遼太郎が、何かの小説で「起伏の少ない平坦な土地に生まれ育った人間は、起伏に富んだ風景の土地に生まれ育った人間と比べて、その土地に愛着を持つことが少ない」という意味のことを書いていたが、僕と滝川先輩が歩いているのは、まさにそんな、愛着の生まれにくそうなつまらない風景だった。
道なりにしばらく進んでいくと、道がひらけて、渡良瀬川に架かる大きな橋に差しかかった。橋の手前にはセブンイレブンがある。滝川先輩がそこに寄りたいと言ったので、僕たちはセブンイレブンに入った。
滝川先輩は雑誌のコーナーから店内を回った。僕が後についていくと、彼女は成人男性向け雑誌の棚を指差し、僕の方を向いて、
「こういうの、読みたいんでしょ?」
と言って意地悪く笑った。
滝川先輩は自分には午後の紅茶を選び、僕にコーラを買ってくれ、更にレジで肉まんを二つ頼んだ。店を出て、店の裏手に回った。
そのセブンイレブンの裏手は町立の文化会館になっていて、その隅に田中正造という町の偉人の像と記念碑がある。像はちょっとした石垣の上に建てられて、植え込みに囲まれている。そして像の手前には短い石段がついている。僕と滝川先輩はその石段の一番上の段に座り、肉まんを食べた。
「あーあ、終わっちゃったねえ、一中祭」
肉まんを食べ終え、肉まんの底についていた紙をくしゃくしゃと丸めながら、滝川先輩が言った。それから僕たちは文化祭の準備の思い出と、本番の成功についてしばらく話した。僕たちの周囲の植え込みの中で、秋の虫が鳴いていた。半熟卵の黄身のような色をした夕陽が、渡良瀬川の土手の向こうにじっくり落ちていく。
辺りが暗くなり始めた時、滝川先輩の制服のスカートが「ムー、ムー」と言って震えた。滝川先輩はポケットから携帯電話を取り出した。その頃携帯電話はまだ珍しく、僕は学校の生徒で持っている人を初めて見た。折りたたみ式でない、ストレートタイプの、家庭用電話の子機を小さくしたような形の携帯電話だった。滝川先輩は僕に「ごめんね」と一言かけると、電話に出た。
「もしもし。……うん、いや、まだ家じゃない。……セブンの裏。……え? うん、誠也と一緒」
話の内容から、おそらく森本先輩かなと僕は思った。電話はもう少し続いた。
「え? なんで? ……関係ないじゃん。……知らない!」
滝川先輩が語気を強めたところで、電話は唐突に切れた。滝川先輩は携帯電話を少しの間睨み、ポケットにしまった。
「はあ」
滝川先輩はわざとらしく大きなため息をつくと、両手を背中側の地面につき、腕に体重を乗せて体を後ろに倒した。
「なんか、帰りたくなくなってきちゃった」
そう呟くと、僕の顔を見た。




