4
それからは、文化祭がいよいよ近づいてきたことへの焦りもあって、僕たち四人は比較的まじめにダンスの振り付け等に取り組むようになった。曲は既に「モーニング娘。」の「LOVEマシーン」に決まっていた。この曲に振り付けをし、その振り付けの動きを紙に書きおこし、まずは実行委員全員に覚えてもらった。そうして実行委員に教える役になってもらい、それぞれのクラスでダンスの練習をしてもらった。クラスごとの練習が進むと、体育館を使って生徒全員での予行練習を一回行った。
そんなこんなで文化祭の準備期間はあっという間に消化されていった。僕は先輩たちと無駄話をしているのも好きだったが、協力してまじめに振り付け等をしていく作業も楽しくて、毎日の放課後の委員会が楽しみで仕方なかった。いや、今思えば、この文化祭の実行委員会での一ヶ月余りの準備期間は、ぱっとしない僕の人生において、一、二を争うくらい幸福だった時かも知れない。
文化祭本番は十月中旬に行われた。文化祭はおおむね成功した。特に、僕たちが担当したダンスがプログラムに組み込まれたフィナーレは、予想以上に盛り上がった。
ダンスが行われた時、僕たち実行委員は体育館の中央に作られたお立ち台の上に登り、その周りに集まった全校生徒と、保護者席に座って眺めている保護者全員の前で踊った。お立ち台の上から、自分たちが振り付けをしたダンスを全校生徒が一緒になって踊っているのを見るのは、なかなかの快感だった。生徒も教師も保護者たちも体育館の壁も皆、カラー照明に照らされて、青や緑や赤や黄色の光にどぎつく染まり、その中で生徒がゆらゆら踊っていた。
フィナーレが終わると、生徒と保護者が居なくなったがらんとした体育館で、僕たち実行委員は後片付けをした。それもだいたい終わったころ、僕は、体育館の隅で立ち話をしている滝川先輩と森本先輩とを見つけた。僕は二人に近づいていった。
「ああ、誠也」
森本先輩が僕に気づき、笑顔で迎えてくれた。そうして右手を出して、まごつく僕の右手を取って握手した。
「ありがとな。三年の最後で一中祭が成功できて、ほんま良かったわ」
隣で滝川先輩がニコニコ笑っていた。滝川先輩の目は少し赤くなって、どうやら泣いた後のようだった。僕はうれしさと、次の日からもう二人と関われない寂しさとがないまぜになった気持ちの中で、内向的でこんな時にうまく感情を表現できない自分をもどかしく思った。
実行委員はその後理科室に集められて簡単な振り返りの会議をし、解散となった。僕は駐輪場に行って自転車に乗り、校門を出て帰り道を走りはじめた。すると学校を出てからすぐのところで、見覚えのある、背中までかかる長い髪をした女子が、歩道を一人歩いていくのを追い越しかけた。追い越す時、ちらと顔を見ると、やはり滝川先輩だった。僕は自転車のブレーキをかけた。
「誠也じゃん。ははは」
滝川先輩は笑って、ゆっくり歩いて、停まった僕に並びかけてきた。
「一人ですか?」
僕がそう聞くと、
「うん、佳美、関根君と一緒に帰っちゃったんさ。文化祭の準備で良い感じになってたからね」
と、やはり実行委員で、滝川先輩と仲の良い三年生の女子のことを言った。滝川先輩はこの佳美という先輩と、いつも一緒に実行委員会が終わってから帰っていたのである。
「そうなんですか」
僕はいかにも自然に見えるように、自転車を降りてそれを押し、滝川先輩の隣を歩きだした。――そうして君にこの話のはじめで話したように、滝川先輩と二人きりで一緒に帰るチャンスを運よく得たのである。




