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 僕が滝川先輩と知り合ったのは、それより一ヶ月ほど前のことになる。


 その年の九月半ばごろのこと、僕は学校のクラスの会議で文化祭の実行委員に選ばれた。僕は実行委員などやりたくなかったのだが、クラス推薦の多数決で無理矢理選ばれてしまったのである。そしてそれから毎日実行委員会に参加することになった。


 実行委員会は放課後の理科室で行われた。一年生から三年生までの各クラスから一人ずつ選ばれた委員と、それとは別に生徒会の役員が集まっていた。


 委員会はまず始めに全体の会議をして、文化祭の大まかな工程とイベントを決め、イベントごとの係を割り振った。僕は文化祭のフィナーレで全校生徒が踊るダンスの係に、なんとなく挙手でなった。――このダンス係に、滝川先輩が居たのである。


 係が決まると、それぞれ係ごとに集まって席を座り直した。理科室の机は四人がけの大きなものだった。教壇の近くにあるその机のひとつに、ダンス係は集められた。


 ダンス係は男子二人、女子二人の計四人だった。一年生は僕だけで、他は僕が顔も知らない先輩だった。集まってすぐ、男の先輩の発案で、お互い自己紹介をすることになった。そこで僕は、ぱっと見てからすぐ気になっていた、女の片方の先輩が滝川美琴という名前で、三年生だと知った。


 滝川先輩は誰が見ても美人(いや、齢を考えれば美少女と言うべきか)だった。顔が小さく、奥二重の目はぱっちりしていて、瞳は茶色がかっていた。透き通るように色白で、華奢で、二の腕なんか誰かが両手で持って力を込めたらぽきっと折れてしまいそうなほど細かった。髪は背中まで伸ばしたストレートヘアーで、中学生ということもあり髪質はサラサラだった。ただ、小ぶりな鼻の、穴が、ちょっと上を向いていて、そこだけがこの美少女の欠点で、点数をつけるならば九十八点、といった感じだった。


 この先輩が、はきはきとした口調で、笑顔を交えながら簡単に自己紹介をした時から、僕は彼女に魅かれてしまった。僕はといえばその頃は思春期の入り口に差しかかったところで、色気づくぎりぎり手前であり、髪はしゃれっ気も無くスポーツ刈りに刈り込んで、まだ白のブリーフパンツを穿き、毎日の登下校にはなんの疑いも無くヘルメットを被って自転車通学している、要するにほんの子供だった。そんな僕にとって滝川先輩への気持ちは、生まれて初めて芽生えた恋心だった。


 ダンス係の男の先輩は、森本(もりもと)達樹(たつき)という名前で、やはり三年生だった。三年生のわりには背が低く、体つきは少しふっくらとしていて、長髪を暗い茶色に染めて、穿いている学生服のズボンは太かった。一目見て、不良であることが分かる格好だった。森本先輩はなぜか関西弁を話し、その関西弁でいつもうるさいくらいおしゃべりをするのだった。もう一人の女子は、中林という二年生で、控えめでおとなしい人だった。この中林先輩の下の名前は、僕はもう忘れてしまった。ただ、いつも皆が話をしているのを脇で聴いていて、かわいらしい笑顔をニコニコ浮かべていたのを印象的に覚えているばかりである。


 この四人で、ダンスの曲決めや振り付けをしていかなければならないのだったが、それはちっとも進んでいかなかった。というのは森本先輩と滝川先輩がいつも騒がしくおしゃべりばかりしていたからだった。二人はどうやら付き合っているらしく、お互いを下の名前で呼んで、来る日も来る日も夫婦(めおと)漫才(まんざい)のような無駄話をするのだった。その二人の会話を、僕と中林先輩が時に笑わされ、時には苦笑いを浮かべて大人しく聴いている、というのがダンス係の大抵の様相だった。そうして日が経つにつれ、どうしてそうなってしまったか、僕が森本先輩と滝川先輩からいじられる役になり、二人に度々からかわれるようになった。


 毎日ダンス係の会議(というか無駄話)に加わるうち、僕はどんどん滝川先輩に魅かれていった。野球部に所属していて、女子の先輩にはそれまで接点の無かった僕にとって、滝川先輩は全く新しい存在だった。彼女は僕の同級生の女子とはまるで違っていた。眉を細く整え、香水の匂いをかすかにさせて、森本先輩のバカな話に笑うときも、突っ込むときも、どこか女を感じさせる仕草や表情をするのだった。そう、僕の同級生の女子は「女子」だったのに対し、滝川先輩はもう大人になりかけの「女」だった。


 しかしいくら僕が滝川先輩を好きになっても、彼女には森本先輩がいる。そもそも彼女は僕には美人過ぎてとても不釣合いだと思えた上、毎日毎日森本先輩との仲睦まじい様子を見せつけられる。僕はただ滝川先輩に憧れを抱くばかりで、こちらから告白などのアクションを彼女に起こすなど、おこがましくて考えられなかった。


 それに、僕は滝川先輩が森本先輩と仲良く騒いでいるのを見たり、二人のそばに居たりするのが嫌では無かったのだ。僕は森本先輩のことも(LOVEではなくLIKEの意味で)好きだった。森本先輩は不良っぽい見た目とは裏腹に、全然怖くなどなく、ただひたすらに明るくて、周囲は常に笑いに包まれていた。いわゆる人気者というやつで、同級生にも後輩にも先生にも好かれ、魅力的だった。そんな森本先輩がいつもくだらないことを言う、それに滝川先輩が突っ込む、その空気が僕は大好きで、森本先輩というこんな仲の良い彼氏がいるなら、はじめから滝川先輩のことは諦めても仕方ないという思いでいた。


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