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どうした? 眠れない? ……まあ明日もお互い予定は無いことだし、遅くなってもいいとは思うけど……じゃあ、ちょっと話をしてもいいかな。少し長くなるかも知れないけど、そのまま、寝ながら聞いてくれればいい。なに、今ふと思い出したことがあるんだ。……僕の初恋の話だ。
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もう、十七、八年も前のことになってしまった。中学一年生だった僕は、その日、文化祭が終わった後の学校からの帰り道を、滝川美琴という先輩と二人で歩いていた。滝川先輩はセーラー服の冬服を着て、片手に鞄を下げ、ブカブカでサイズの合わない学ランを着た僕は、自転車から降りてそれを手で押しながら。
「じゃあ、誠也は今好きな人本当にいないの? クラスとかに、いるんじゃないん?」
滝川先輩は僕の隣から、いつものように元気いっぱいで饒舌に、僕のことをからかってくる。
「だからいませんよ。何度も言ってるじゃないですか」
僕はそれに反抗しながら、しかし心うちでは滝川先輩と二人きりになれた幸運に、幸福感と緊張を覚えていた。
僕が通っていたのは栃木県南部の田舎町にある町立中学校で、その通学路はひどく殺風景な、うらぶれた道だった。うるさく車の行き交う細い車道の脇に、歩道がついていて、そこを僕と滝川先輩はしゃべりながら並んで歩いていく。道の両脇には住宅や個人商店がぽつりぽつりと建ち、その合間を誰の土地とも分からない空き地や小規模な林が埋めている。住宅街とも、商店街とも言えない、つまらない土地。その風景を秋の夕陽が赤紫色に染め上げていた。どこからか、終わりかけの金木犀の花の香りがしていた。
「鮮魚 仕出し あきやま」そう看板に書かれた古びた鮮魚店を通り越し、さらに一軒屋をひとつ通り過ぎて、名も忘れた細い川に差しかかった。川には小さいながらも橋が架かっていて、滝川先輩はその橋の中央まで行くと、突然立ち止まって欄干に両手を置き、欄干に覆いかぶさるようにして川面を覗き込んだ。前かがみになった分、短いスカートのお尻の裾が上がり、中が見えそうになった。僕は慌てて視線を外して自分も川を覗いた。川の水はコンクリートの川底に仕切られて、水量少なく、音も無くとろとろと下流へ流れていた。両側の川岸に、木々が無造作に生い茂っている。
「ああーっ、飛び込みてえーっ」
川面を覗き込みながら、突然滝川先輩が叫んだ。そうして僕の方を向いて、
「飛び込んだら死ぬかな?」
と言った。僕は改めて川の様子を見て、ちょっと考えてみた。橋の上から川面までは五メートルほどしかなく、水の深さは二、三十センチも無さそうである。
「ちょっと死ぬには低いですよね。悪くて骨折、ってとこじゃないですか」
僕は生真面目に滝川先輩の質問に答えた。すると滝川先輩は僕の方を向いて、
「そっか、つまんないね」
と言い、何が楽しいのか、はは、と、笑って、僕の大好きな笑顔を浮かべた。そよ風が吹いて、彼女の長い髪を揺らした。




