始まりの絶望
小春日和な河川敷にやってきた。生い茂る斜面を下り、辺りを見回す。どうやらリーゼントさんはいないようだ。
「太郎どの! 止めてくれ!」
スライムさんは転げ落ちてきた。
そのまま川に流れ落ちた。
「はぁ、今日はいい天気だなぁ。スライムもいなくなったし、これでこの世界を征服できる……おっといけない」
――実は、僕の中には魔王的な人格が存在するらしく、それを表に出してしまったときはあら不思議、世界が滅びそうになった。現在は不老不死である僕の人格が勝っているのだけれど、まあ滅びたときは滅びたときだと楽観視している。なんたって、止める手段がないのですから。
スライムさんは、スライムの顔を少し大きくして戻ってきた。川の水でも飲んだのだろう。
「くそ! なぜだ太郎くん! なぜ止めてくれなかった!」
「Sだからです」
驚愕の形相を浮かべるスライムさん。といっても顔がないから恐らくだけど。
「とりあえず、座って番長を待つとしようか」
「そうですね」
しばらくして、電車が通りすぎた。河川敷の右側には線路があり、いつもここで僕とスライムさんとリーゼントさんで待ちぼうけを食らうのが定番になっているのだ。まあ、誰も待ってはいないんだけど。
と、リーゼントさんがうつ伏せのままに斜面を滑り下りてきた。
「おはようございますリーゼントさん」
「おお、はよう太郎! 今日も男前じゃのお」
うつ伏せのままに言う。
「よぉ、番長。席空いとるでぇ」
「おぉ、すまんなスライムさんよ」
リーゼントさんはうつ伏せのままに寄ってきた。
肝心要のリーゼントは折れ曲がっている。何せうつ伏せなのだから、そりゃあ曲がるだろう、と。
「今日はいい天気じゃのお」
「ところで番長、今日のわしの髪型どうや? かっこええやろぉ」
「いんや、ところてんの方が好きだぞ」
「そうやろぉ、まぁ気に入ったんなら同じような髪型にしてもええんやで?」
「だな、ジャーマンスープレックス最高だよな」
「なにいってるん、俺とお前はダチ公じゃろ?」
「じゃがいもだな」
何いってるのかさっぱりわからん。
でもまあ、親しい仲に変わりはなく、こうして三人でつるむのも悪くはないのかなと。なんか照れるな。
「そんなに照れんなよ、俺のリーゼントをもいでみるか? もぎたてフレッシュ!」
なぜ心の声が聞こえる。
リーゼントさんに特殊能力などはない。普通の人間(僕たちとつるんでいる時点で何かあるかは知れない)であり、学校というものにも通っている。こう見えても元気な小学生なのだ。
にしては体格いいし、なんで学ランなのかは知るよしもない。
「あんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
リーゼントさんがうつ伏せのままに叫んだ。