92、魔王と六魔将軍
俺達は六魔将軍のひとり、ウマゴオリを倒した。
「やったな、エリシリア」
「ふん、攻撃さえ通じれば、あの程度のムチ使い、わけはない」
そう言ってムチをしまうエリシリアの顔は、少し赤かった。
しかし、今回はこれで戦いが終わったわけではない。
俺は上空を見る。
続いてエリシリアも、ユミーリア達も上を見上げた。
空には、巨大な黒い戦艦、暗黒戦艦ダークワルダーが浮いていた。
あれは魔界の戦艦だ。
ゲームでは街に突然、あの戦艦が現れて、人々が襲われるんだったっけ。
「マキ、あれは暗黒戦艦ダークワルダーで間違いないんだよな?」
俺はそう言って、マキを見る。
「はい……私も文献でしか見た事がありませんが、間違いありません。あの様な巨大な戦艦は、魔界でも暗黒戦艦以外にはありませんでしたから」
どうやら間違いないみたいだった。
そうすると、あの中には、魔王が居るのか?
俺の予感を肯定するかの様に、声が聞こえてきた。
「さすがは姫様だ。姫様とその仲間の強さ、見せてもらったぞ?」
空から声が聞こえた。
腹の底がふるえる様な、おぞましい声だった。
暗黒戦艦が高度を落として、地上に近づいてくる。
ある程度地上に近づくと、戦艦の動きが止まる。
戦艦には……複数の人影が見えた。
どいつもこいつも、人間の顔ではなく、動物の顔だった。
六魔将軍だ。
六魔将軍は全員、身体は人間だが、顔は動物がモチーフになっている。
すでに倒したエンドラ、ヤツはトラの顔だった。
先ほどエリシリアが倒したウマゴオリも、顔はウマだ。
俺達の視線に気付いたのか、残りの六魔将軍が名乗りをあげる。
「ミーは海の将軍、ウミコアラ デース!」
コアラの顔をして、杖をクルクル回す、ウミコアラ。
「我輩は闇の将軍、ヤミガーメである」
ツメを伸ばし、光らせているのは亀の顔をした、ヤミガーメだ。
「ボクは風の将軍、ブタカゼだよ」
身体は元気な男の子、だけど顔は豚。格闘少年、ブタカゼ。
「俺は光の将軍、ライトニングレオ」
大きな剣をかかげるのは、ライオンの顔をした、ライトニングレオだった。
六魔将軍が揃っていた。
その後ろから、最後のひとり、魔王が姿を現す。
魔王の顔は、ゾウだった。
黒いローブをまとっており、他の将軍達よりも、ひとまわり大きい。
まさに、魔王の風貌にふさわしい姿だった。
「我が名は、魔王ゾウマ! 魔界とこの世界をすべる者! 全ての生命は、我が力の前に恐怖するが良い」
最初に空から聞こえてきたのは、こいつの声だ。
声を聞いているだけで身体がふるえてくる。
それほどおぞましい声だった。
「リリリフレート姫、いや、今はマキだったか? 貴様の父親は我が殺した。貴様も我にその生命をささげるが良い。今なら同じ元魔族のよしみで、苦しまずに葬ってやろう」
魔王ゾウマは右手に暗黒のエネルギーを集中させる。
「誰が、貴様などに!」
マキがゾウマに向かって叫ぶ。
するとゾウマは、ニヤリと笑った。
「ああ、良いぞ。その恐怖。それこそが我に力を与えてくれる。この世界は素晴らしい。人間達が皆恐怖すれば、我が力はさらに高まるだろう」
そう言いながら、ゾウマはマキに向かって、暗黒のエネルギーを放った。
「マキ!」
俺はマキに向かって駆け出す。
「氷の尻!」
俺の尻が光って凍る。
これで勇者の盾と同じく、あらゆる魔法を防げるはずだ。
俺はマキの前に出て、暗黒のエネルギーを受け止める。
「ぐおおおお!?」
「リクト様!?」
ヤバイ。これマジヤバイ!
なんか身体から力がどんどん抜けていく。
俺は早くも、ヒザをついてしまう。
「リクト!」
ユミーリアが俺のそばにきて、盾を構える。
そして、俺の受け止めていた暗黒エネルギーを、盾で防ぐ。
「う、ううう!」
「ゆ、ユミーリア、無茶するんじゃない!」
「無茶してるのはリクトだよ!」
俺は盾を持つユミーリアをささえる。
思っていたよりすごいエネルギーだ。二人でなんとか耐え切れるくらいだった。
「リクト! ユミーリア!」
「おにーちゃん! おねーちゃん!」
エリシリアとコルットは、タイミングを逃し、近づけなかった。
そうして二人で盾で防いでいると、なんとか暗黒エネルギーがおさまった。
「ほう? 我が暗黒エネルギーに耐えるか」
俺は肩で息をしながら、魔王を見る。
「なるほど、貴様が魔界でも伝説となっている、勇者か」
魔王が、勇者であるユミーリアではなく、俺を見ていた。
……え? 俺?
「尻が光るとはなんとも不思議な男だ。さすがは勇者といった所か。どうやら一筋縄ではいかんようだな」
暗黒戦艦が、再び高度を上げていく。
「よろしいのですか? 魔王様」
魔王ゾウマの隣に居たライトニングレオがひざまずく。
「構わん。我らが行うべきは、この世界の支配だ。恐怖で支配し、人間どもの恐怖のエネルギーを我が物とするのだ。それは勇者とて例外ではない。せいぜい生きて、我が力に恐怖してもらわなければな」
魔王は、俺達に聞こえる声でそう言って、去っていった。
暗黒戦艦は、東の方へ飛んでいってしまった。
「強いな……あの者は」
エリシリアが俺に肩を貸してくれる。
「ああ、さすがは魔王だ。ちょっと甘く見てた」
勇者の力があるから、もうちょっと楽勝かと思っていたが、さすがに甘かったみたいだ。
いくら勇者の力でも魔王の攻撃は防ぐので精一杯みたいだ。
それにしても魔王の野郎、ゲームと同じ様に、俺達をわざと生かして遊んでやがる。
いや、恐怖をかりたてて自分の力にしてるんだっけか?
どっちにしても、俺をここで殺さなかった事を、絶対に後悔させてやるからな。
俺は戦艦の去っていった方を見た。
「しかし、魔王はどこへ向かうつもりなのでしょうか?」
マキが俺に近づいてくる。
マキの疑問に、俺はひとつ思い当たる事があった。
「マキ、ウマヤロウが言ってただろう? 魔界とこの世界を繋ぐ穴をあける為に、協力者がいたって」
「え? はい」
そう、この世界にはヤツラの協力者が居る。きっと魔王は、その協力者のもとに向かったに違いない。
「そうか、邪神の使徒か!」
エリシリアが気がつく。
「そうだ。そして邪神の使徒と繋がっている所といえば、帝国だ。やつらが去っていったのも東の方、帝国がある方だ。きっとやつらは、帝国と組んでいるんだろう」
もっとも、邪神自体は帝国には居ないはずなんだけどな。
邪神が居るのは、俺達の国。セントヒリアの霊聖樹の地下だ。
だが、邪神が1体とは限らない。
帝国にも、魔界にも、それぞれ別の邪神が居る可能性もある。
せめてオウガを取り込んでいた邪神と帝国の邪神が同じならいいんだけどな。
オウガは倒したのに邪神だけ残ってるってのは、カンベンしてほしい。邪神が4体になってしまう。
霊聖樹の下にいる邪神、オウガを取り込んだ邪神、帝国を取り込んだ邪神、魔王を取り込んだ邪神。
どれも同じ邪神であってほしいが、それはそれで強敵だ。
魔王であの強さだからな。
俺は、本当に勝てるんだろうか?
「しかし、困りましたね。まさか暗黒戦艦を引っ張り出してくるとは」
俺が邪神について考えている間に、話は進んでいた。
「その暗黒戦艦とは、なんなんだ?」
エリシリアがマキに問う。
「彼らの乗っていた、空飛ぶ船です。暗黒戦艦ダークワルダー。長らく魔界に封印されていた遺物です」
「魔界には、あんなものがあるのか」
エリシリアが空を見つめる。
「なあエリシリア、この世界には、空を飛ぶ乗り物はあるのか?」
「少なくとも私は聞いた事がないな」
エリシリアは即答だった。
ユミーリアを見ても、首を振った。
コルットは……
「おにーちゃん、すごいね! お空飛んでたよ!」
知らないよな、うん。
「……ひとつ、方法があります」
マキの発言に、みんなが注目した。
「魔界に封印された遺物の中に、飛変石というものがあります。船や城を空飛ぶ乗り物に変えると言われているものです」
船や城を、空飛ぶ乗り物に変える、か。
「おおそうか、それを使って、私達のピーチケッツ号を、空飛ぶ乗り物に変えるわけだな!」
エリシリアがそう叫び、手を叩く。
どうでもいいけど、船の名前変えたい。
しかし、船を空飛ぶ船に変えるか。不思議な石があるもんだ。
今の俺達じゃ、暗黒戦艦に乗り込む事も出来ないからな。
いや、俺ひとりなら飛んでいけばいいんだけどさ。
それだと連れて行けるとしてもひとりだけだ。全員では乗り込めない。
「とはいえ、魔界に通じる穴の場所もわかりませんし、魔界に行ったとして、飛変石がどこにあるのかも……はっ!」
暗い顔をして考え込んでいたマキが、俺を見て笑顔になる。
「そうです! リクト様のあのマイホームなら、探せるのではありませんか?」
マイホームで探す、か。
確かに、伝説の勇者の装備ですら探せたくらいだからな。
「よし、どうせ勇者の装備のひとつも空を飛んでる島にあるわけだし、飛変石、探してみるか!」
俺はそう言って、マイホームを出す。
マイホームに入った俺は、とりあえず自室に戻ってズボンをはきかえる。
燃えててから尻に穴があいたままだったからな。
ズボン、多めに買っておいたのに、そろそろストックが切れそう。
ズボンをはきかえた後、俺は早速マップ機能を使う。
「魔界に通じる穴」
そう言って、マップをタッチする。
するとマップの一部分が光った。
「これは……帝国領か」
そこは、帝国領の南の方だった。
先日行ったササゲ火山から、東に行った所だな。
俺はふと、壁にかかった時計を見る。もう夕方だった。
「よし、今日は一旦キョテンの街に帰って、ゆっくり休んでから、明日魔界へ向かうって事で良いか?」
俺はみんなの顔を見て、確認する。
「うん、私はリクトに任せるよ」
「ああ、このパーティのリーダーはお前だからな」
「わたしもいーよー」
「全てはリクト様の思うとおりにしてください。私はどこまでもついていきます」
みんなオッケーみたいだった。
なんか、信頼してついてきてくれるってのも、悪くはないもんだな。
俺達は再びマイホームの外に出る。
このままマイホームの機能で帰りたかったが、船をここに残しておくわけにはいかない。
「ゲームみたいに、移動したら自動でついてきてくれれば助かるんだけどな」
さすがにそうはいかないか。
俺がそう思ったその瞬間、俺の尻が光った。
「うおっ?」
「な、なんだ? またリクトの尻が光ったぞ!?」
俺の尻が光りだし、エリシリアが驚いている。
「今度は何が起こるんだろう?」
「ワクワク」
ユミーリアとコルットは楽しそうだった。
俺の尻から出たピンク色の光は、船を包み込んだ。
そして船を包み込んだ光は、船ごと俺の尻の中に吸い込まれていく。
「す、すごい!」
「おにーちゃんのお尻の中に、お船が入っちゃった!」
いやいやいや! 嘘だろ? 大丈夫なのか俺の尻?
尻の中に船が入るとか、とんでもなく気持ち悪いんですけど!?
「……はっ! もしかして!」
俺はとても嫌な予感がした。
「その、リクト様……つかぬ事をお伺いしますが、船を出す事は可能なのでしょうか?」
マキが遠慮がちに俺に聞いてくる。
そう、それだ。
船は俺の尻に吸い込まれていった。
つまり、出る時は、俺の尻から出るのか?
俺は嫌な予感がしたが、覚悟を決めて、尻から船が出る様に念じてみる。
俺の尻が光り、プリッっと可愛い音がして、船が出てきた。
「……」
みんなも黙ってしまった。
だよな、こうなると思ったよ。
「ヒック、エグッ」
俺はなんだか泣けてきた。
「り、リクト! 泣かないで! わ、私はステキだと思うよ?」
ユミーリアが俺をなぐさめてくれる。
「そ、そうだリクト。私はこの程度で、お前の評価を変えたりしないぞ、うん」
エリシリアも、なぐさめなのかよくわからないが前向きにはげましてくれている気がする。
「おにーちゃん、なんかう」
「コルット様、それ以上はいけません」
マキがコルットの口をふさいだ。
ありがとう、マキ。
そして最後のひとり、ランラン丸はというと。
「アハハハハハ! おなか、おなか痛いでござるー! プリッて! プリッて! アハハハハ!」
俺はランラン丸を、海に向かって投げた。
こうして俺達は、氷の島をあとにした。
バイバイ、ヒエコッチ島。
ランラン丸の叫び声が、波の音と共に、むなしく響いていた。




