87、よみがえる伝説
「勇者よ、わしはお主を待っていた」
人間の言葉を話す、ぶさいくなウサギの顔をしたこの鳥は初代勇者、シリモトと名乗った。
名前のせいでみんなが俺の尻を見ている。むしろ俺がみんなのお尻を見たい。
当然俺は関係ない。関係ないはずだ。
「知っているかもしれんが、ここには伝説の勇者の装備、勇者のよろいがある」
ほう、勇者の装備があるのは知っていたが、よろいだってのは知らなかったな。
「じゃが、そう簡単に手に入れる事は出来んぞ? ここまで来ただけでもたいしたもんじゃが、ここから先はそうはいかん。火山の中はさらに暑さを増している為、普通の人間は火山の中に入る事すら出来んのじゃ」
俺達は火山の入り口を見る。
「……特に何か結界が張られているわけではないようですね。単純に火口の近くですので、暑いだけかと」
マキが率先して調べてくれる。
「よいか! この暑さに耐える為には、この世界のどこかにある水のベールが必要じゃ! まずは水のベールを探してくるが良い!」
ウサギの顔をしたシリモトが、ドヤ顔で叫ぶ。
「どうでもいいが、初代勇者なのになんでそんな姿なんだ?」
俺はさっきから突っ込みたくて仕方なかった事に、突っ込んだ。
「この姿か? どうせなら可愛い方が良いと思ってな。どうじゃ、可愛いじゃろう?」
いいえ、ぶっさいくだと思います。
「確かに、可愛いね」
え?
ユミーリアさん、これ、可愛いんですか?
「うん、かわいいー」
「そうだな、可愛いな」
「愛らしいと言っても良いレベルかと思います」
コルット、エリシリア、マキまでこのウサギ鳥が可愛いと言う。
「ら、ランラン丸は?」
俺は最後の希望、ランラン丸に聞いてみる。
「うん、なんというかあれでござるよ。みんな拙者と同じで、リクト殿の事をカッコイイと思う人種でござるからな」
おいちょっと待て、それはどういう意味だよ!
「拙者と同じく、趣味が悪」
「もういい、それ以上は言うな」
別に俺、そこまでぶさいくじゃないと思うんだけどな。フツメンだと思うぞ?
俺はなんだか悲しくなった。
「まあいい。しかし水のベールか。聞いた事はあるか?」
俺はみんなに聞いてみる。
しかし、返ってきたのは意外な答えだった。
「水のベールは存じませんが、中が暑いだけなのであれば、必要ないかと思われます」
手をあげたのはマキだ。
「私の魔法、カイテキスがあれば、暑さは問題ありません」
あ、そうか。
今の俺達は、カギが必要なイベントで、カギ開けの魔法をすでに覚えている状態なのか。
「というわけでシリモトさん、水のベール、必要ないみたいだぞ?」
俺はウサギ鳥、シリモトに話しかける。
「チートじゃ! そんなんチートじゃ!」
シリモトが泣いていた。
「……まあ良い。入り口から入り、頂上へ向かうのじゃ。そこにこれと同じ様な岩がある。あとは勇者が触れればよろいが手に入るようになっておる。まあ、がんばるんじゃな」
そう言うと、初代勇者の残留思念であるシリモトは消えた。
「なんか、アッサリだったな」
「自分の考えた試練が想定外の方法で突破されて、ふてくされたのでござろうな」
そういう事か。
なんだかシリモトが、ちょっとかわいそうだった。
俺達は火山の入り口に入った。
ゆるい傾斜が続く道をひたすら歩く。
「どうやら、火山をらせん状に上にあがっていっているようですね」
マキが歩きながら分析していた。
隊列はコルット、マキ、エリシリア、ユミーリア、俺だ。
コルットはモモフ族といって、罠を見つける事が得意な種族だ。
その為、こういう洞窟では、率先して前を歩いてくれる。
「む? リクト様、モンスターです」
マキの言葉を聞いて奥に目をこらすと、頭が燃えているゴブリンが5匹、こちらに向かって歩いてきていた。
「モエゴブリンですね」
別に可愛いわけではない。頭が燃えているからモエゴブリンなのだろう。
「ふむ、ここは私に任せてくれ」
エリシリアが前に出る。
「はあっ!」
そして光のムチをふるうと、モエゴブリン達はアッサリ消滅した。
「手ごたえが無いな」
「エリシリア様が強すぎるのです」
ウチの女性陣は重力室大好きだからな。
みんなどんどん強くなっていってる。
俺も置いていかれないようにがんばらないと。
結局、この洞窟に出てくるモンスターはエリシリアが全て瞬殺してしまった。
きっとシリモトが見ていたらまた泣いているだろう。
全然試練になってないからな。
俺達はサクッと頂上に着いた。
頂上に着くと、火口の真ん中に向かって、2人分くらいの幅の道が伸びていた。
中央には、火山の入り口にあったのと同じくらいの大きさの、文字が刻まれた岩がある。
「みなさま、足元にお気をつけください」
マキが注意をうながす。
2人分の幅があるとはいえ、道は今にもくずれそうだ。
まずコルットが先を行き、続いてエリシリア、ユミーリアが歩いていく。
そして俺。今の所、なんともなさそう……
その時、ガラッと嫌な音が鳴り、嫌な感覚が足元を襲った。
「え?」
俺の右足部分の道が、くずれた。
俺はそのままバランスをくずして……
「う」
「リクト!」
「リクト様!?」
火口へ落ちた。
「嘘だろおおおおおお!?」
ドポンッと、俺はマグマに飲まれた。
「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」
久しぶりな気がする真っ白な空間。
ここは俺が死んだらやってくる場所だ。
ここには俺と神様しか居な……
「いやあ、しっかりフラグを回収する姿は本当に素晴らしいですよ。さすがですねえ」
俺は神様の姿を見て、逃げ出した。
「どこへ行こうというのです?」
しかし、フワッと身体が浮いて、元の場所に戻される。
俺が逃げた理由、それは……今回の神様の姿だ。
この神様は、毎回俺の知り合いの姿になる。
男勇者であるユウの姿をしている事が多いのだが、今回は違った。
ヒゲのおっさんだった。
これがどういう事か。
俺はこの世界では、死んでも生き返る事ができるのだ。いわゆる死に戻りだな。
しかしそれには、4つのルールがある。
1、死んだ場合はその日の一番最初に、俺が目覚めた時間に戻る。
2、俺以外は死ぬ前の事を覚えていない。
3、所持金が半分になる。俺以外はそれが元々の金額だと思い、減ったと認識できない。
4、生き返る前に3分間、神様に尻を撫でられる
ちなみに、俺が生き返る時には時間が戻るだけらしいので、俺が死んだ後の世界とか、パラレルワールドとかは生まれないらしい。
所持金は全てギルドに預ける様にしているから、減る事は無い。これは確認済みだ。
問題は4番。どうも俺を生き返らせる為に魔力を送り込むらしいのだが、その方法が尻を撫でるという事だった。
つまりだ、ヒゲのおっさんの姿をした神様に3分間、俺は尻を撫でられるのだ。
ユウの姿なら良いという事は無いが、それでもヒゲのおっさんよりはマシだった。
嫌だ。おっさんに尻を撫でられるのはもう嫌なんだ。
俺の脳裏に、ウミキタ王国でヒゲのおっさんに、生で尻を撫でられた記憶がよみがえる。
「ていうかなんでおっさんの姿なんだよ!?」
「ランダムです」
嘘だ! と叫びたかった。
「さて、それでは早速儀式を始めますよ。ほら、大人しくして下さいね」
神様がそう言うと、俺の身体が動かなくなる。
そしてゆっくりと俺の尻に手を伸ばし、ネットリ撫で始める。
「はぁあああ。これこれ、この感触ですよ! 相変わらずあなたのお尻は最高ですねぇ」
神様がしあわせそうに俺の尻を撫でる。
うれしくない。
涙があふれてくる。
「ううっ……そういえば、最高といえば、ランラン丸とマキが俺の魔力と相性が良いって言ってたけど、神様の魔力だからか?」
俺は出来るだけ意識をそらそうと、神様に話しかけた。
「いいえ? 私が送る魔力は全てあなたの死に戻りとチート能力の維持の為に使われています。彼女達が好いているのはあなたの元々持っていた魔力ですよ」
俺の元々持っていた魔力?
「えっと、つまり、俺は元々魔力を持っていたって事か?」
俺の問いに、神様がニッコリと答える。
しかし、尻を撫でる手は止まらない。
「はい。あなたが元居た世界の人間の中には、魔力を持った人間が居るのですよ。あなたもその内のひとりでした。まあ、私があなたを選んだ理由は、この素晴らしいお尻ですけどね」
後半はどうでも良かったが、前半は聞き捨てならなかった。
「そうか、俺は元々魔力を持っていたのか」
「ええ。あなたの元居た世界では、珍しいですね」
そうかそうか。つまりだ、尻の事は置いておいて、俺は元々選ばれし者だったって事か?
ちょっと気分が良くなった。
「ほら、あなた達の世界にはちゃんと伝説が残っていたでしょう? 男性は30歳まで童貞だと、魔法使いになれると」
最悪の気分になった。
「ふう……それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」
俺の尻を撫で終わり、満足げな顔になった神様が笑顔で見送ってくれる。
目の前が光り輝き、真っ白になった。
そして目が覚めると、そこはマイホームの自室のベッドの上だった。
「誰が童貞だ!」
俺はひとり、ベッドの上で叫んだ。
再び一日が始まる。
俺は前回と同じ様に、朝食を済ませ、みんなに意思表明をして、ササゲ火山に向かう。
「ん? リクト殿、もしかしてまた死んだでござるか?」
火山に向かう道中、ランラン丸が話しかけてきた。
「そうだけど、わかるのか?」
俺が死に戻りをする事を知っているのはランラン丸だけだ。
そしてどうやら前回から、俺と同じ様に記憶が共有出来る様になったらしい。
「今、前回の記憶がよみがえってきたでござるよ。ってうわぁ……足をすべらせて死んだとか、さすがに笑えないでござるよ」
俺もそう思うよ。
「ていうか違うし、足をすべらせたんじゃなくて、足元がくずれたんだし」
「どちらにしても、ひどい死因でござるな」
ランラン丸があきれていた。
俺だって死にたくて死んだんじゃねえよ!
とはいえ、改めて言われたその死因は、我ながらちょっとかっこ悪すぎるとは思った。
火山にたどり着き、頂上を目指す。
道中には問題は無い。
とはいえ、油断すると前回発動しなかった罠が飛び出すのがこの世界だ。
俺は前回より慎重に、周囲を探る。
そして頂上に着く。ここまではオッケーだ。
中央へ向かう、くずれそうな道。
俺は今度こそ落ちない様に、慎重に歩を進める。
そしてなんとか、中央にたどり着いた。
「よし!」
「ふう、ドキドキしたでござるよー」
俺は生き残った事に安堵して、改めて周囲を見る。
中央は俺達5人が居ても十分な広さがあった。
そしてそこには、文字が刻まれた大きな岩がある。
「それじゃあ、触るね?」
ユミーリアが俺達に確認を取り、岩に触ろうとする。
「ちょっと待ってもらおうか?」
それを、後ろから聞こえてきた野太い声が止めた。
俺達は振り向き、その存在を確認する。
そこには、2mを超える巨大な身体を持つ、トラの顔をした男が立っていた。
重そうな黒いよろいを着込んでおり、手には巨大なオノを持っている。
「貴様は、エンドラ!?」
マキが相手を見て叫ぶ。
俺も、こいつには見覚えがあった。
「いかにも! 我は六魔将軍のひとり、炎のエンドラ!」
エンドラはそう叫び、口から炎を吐いた。
炎は俺達に届く事は無かった。恐らく威嚇のつもりだったのだろう。
「なぜ、貴様がここに!?」
マキがエンドラをにらみつける。
「ようやく魔界とこの世界をつなぐゲートが開いたのでな。まずはこの我が先陣として出向いたのだ! もっとも我が通った途端、再びゲートは縮小してしまったがな」
こいつはゲーム、プリンセスメイドに出てくる敵のひとり、六魔将軍のエンドラだ。
ゲームでも一番最初に戦う相手だった。
「この世界にきてみれば、近くに過ごしやすそうな火山があったのでな。それでここまできたというわけだ。まさかあなたがここに居るとは思いませんでしたぞ? リリリフレート姫様」
姫様。
その単語を聞いて、みんながマキを見る。
「りりりふれーと?」
ユミーリアがエンドラとマキを見比べる。
「その名は捨てました。今の私はウミキタ王国の姫であり、リクト様のスーパーメイド、マキです」
マキがスカートの中から、武器を取り出す。
マキの武器は、巨大なハンマーだ。
妙にゴツくてメカメカしいハンマーで、メイド服のマキとのギャップがすごい。
というかあんなものが入っているって、どんなスカートだよ! と突っ込みたくなるがそれは駄目だ。
メイドさんのスカートの中は異次元だと相場が決まっている。決して突っ込んではいけない。
「はあっ!」
マキがエンドラに向かって、ハンマーを振り下ろす。
「むん!」
エンドラはそれを巨大なオノで弾く。
「くっ!」
「おやおや、ずいぶんと弱っておりますな、姫様?」
マキの攻撃は通用しなかった。
恐らく、レベルが足りていないのだろう。
ゲームでも何度か魔力供給をしないと勝てない相手だったからな。
魔力供給……か。
俺はマキとの情事を思い出し、ちょっと悶々としてきた。
「リクト殿、今そんな場合じゃないでござるよ?」
俺の心境を察したのか、ランラン丸が突っ込んでくる。
「そ、そうだな、うん」
ランラン丸の言う通りなので、俺は反省するしかなかった。
「ならば私が!」
今度はエリシリアが光のムチをふるう。
だが、エンドラの目の前に魔力の障壁が現れ、ムチを弾いた。
「なに!?」
「駄目です! 六魔将軍は皆、特別な魔力障壁を持っています。通常の攻撃では通用しません!」
マキが前に立ち、叫ぶ。
以前マキが言っていた通り、六魔将軍に対して攻撃が通るのは、転生してもなお魔界の魔力を持つマキだけだ。
俺達の攻撃は通らない。
しかし、だからと言って黙ってみているわけにもいかない。
マキの言う事が正しければ、伝説の勇者の装備があれば、敵に攻撃が通るはずだ。
「ユミーリア! 早く岩に触れるんだ! 勇者の装備があれば、攻撃が通る様になるかもしれない!」
「あ! そっか。うん、わかった!」
ここにある伝説の勇者の装備はよろいだ。もしかしたら剣じゃないと駄目かもしれない。
だが、だからと言ってあきらめるわけにはいかない。
敵が唯一の道をふさいでいる以上、俺達に逃げ場は無いんだ。
ユミーリアが岩に触れる。
すると岩の文字が輝き始めた。
「む? 何をしようとしている!」
エンドラがこちらに向かってくる。
「お前の相手は俺だ!」
俺は前に出て、ランラン丸を抜き、エンドラに攻撃する。
「ふん、無駄だ!」
だが、目の前に魔力障壁が現れ、俺の攻撃は弾かれる。
「くっ!」
「邪魔をするでないわ!」
エンドラがオノを振り下ろす。
俺はそれを、なんとかかわす。
だが、それがいけなかった。
「あ」
「む?」
オノを振り下ろす。
それはどこに?
さっき俺が歩いただけでくずれた、道に、だ。
そこに巨大なオノを振り下ろせば……当然、道はアッサリくずれる。
「あ……」
「な! しまった!」
道がくずれ、俺とエンドラはマグマに向かって落ちていく。
「あほかあああ!!」
「おのれええ! わしをハメよったなあああ!」
ハメてねえよ! この脳筋野郎が!
馬鹿か? 馬鹿なのか? あんなオノを振り下ろせば、こうなるのはわかるだろうが!
俺達はドボンッとマグマの中に落ちる。
「ぐおおお!」
さすがのエンドラも、マグマに落ちては終わりの様だ。
トラの顔が苦痛にゆがみ、身体が溶けていっている。
「ち、ちくしょお! このわしがこんな事で! ちくしょおおお!」
エンドラの断末魔を聞きながら、俺の意識も、ゆっくりと溶けていった。
「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」
ですよねー。
俺は再び真っ白な空間に居た。
奇跡は起きず、俺はまた死んでしまったようだ。
相打ち、とも呼べない酷い死に様だった。
俺はヒゲのおっさんの姿をした神様を見て、ため息をついた。




