76、素晴らしき仲間達
ウミキタ王国の事件に巻き込まれて死んだ俺。
幽霊船、デスマギュウ、オウガ達、そしてウミキタ王国を包囲しているという帝国。
問題は山積みだ。
しかし、できれば今回は一発でクリアしたい。
その為にはどうしたものかと考えていた。
まず幽霊船。
これはエリシリアに任せるしかないだろう。
エリシリアの持つ光のムチはああいう幽霊とかガイコツには効果抜群だ。
なんとかがんばってもらうしかない。
次にデスマギュウ。
こいつがやっかいだ。
全部で5匹いる上に、角で突かれると問答無用で死んでしまう。
即死耐性持ちがいればなんとかなるが、少なくとも俺は無理だ。ちょっと突かれただけで死んでしまった。
本来は絶壁のコートが守ってくれそうなもんだが、どうやらデッドポイントに設定させているみたいで、効果が無かった。
デッドポイント。
条件が一致すると必ず死んでしまうという、本来は積み防止の為の設定なのだが、こいつは本当にやっかいだ。
オウガ達はなんとでもなるだろう。
今まで何度か戦ってきたが、俺達なら誰でも対処できるはずだ。
最後にウミキタ王国を包囲しているという帝国軍。
こいつらに関してはまったく情報が無い。
どれくらいの規模で、どれくらいヤバイのか、まったくわからない。
情報が足りない、か。
勝つ為のピースも全然足りてない気がする。
これを次回、一発でクリアする為にはあぁん!?
俺が考え事をしていると、神様が俺の尻を撫でてきた。
「何するんだよ!?」
「私を無視して考え事をするなんて、100万光年早いですよ?」
「光年は時間じゃない、距離だ!」
って何を言わせるんだよこのクソ神様は。
「それはともかく、私に尻を撫でられないと生き返れないのですから、我慢してくださいねー」
「ああもう、わかってるよ!」
どちらにしても、俺は神様に尻を撫でられている間は動く事が出来ない。
ただ一方的に尻を撫でられるしかないのだ。
「はぁ、はぁ、相変わらず良いお尻です。このさわり心地、最高ですよー」
相変わらず気持ち悪い。
おかげでまったく考える事ができない。
俺はなんとか3分間耐えきった。
「ふう、いやあ、今日も最高でした」
神様がツヤッツヤの笑顔を咲かせていた。
「ああそうか、それは良かったな」
俺は無表情だった。
これさえなければ死に戻りは本当にありがたいんだけどな。
ほんとに、これから俺はまたひとりで考え込まなきゃいけないってのに、このクソ神様ときたら、のんきなものだ。
「ふむ、今回はちょーっと大変みたいですからね。ちょっとだけ、サービスしてあげましょう」
ん? サービス? 何の事だ?
「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」
神様に問いただす事ができないまま、俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。
俺はウミキタ王国の宿屋のベッドで目覚める。
「おお、起きたでござるかリクト殿」
ランラン丸が声をかけてきた。
「ああ、ランラン丸、今何時だ?」
「部屋の時計を見る限り、夜中の3時でござるな」
確かに、部屋の壁にある時計を見ると3時だった。
どうやら今回はここから再スタートになるみたいだった。
「さて、どうしたものか」
「何がどうしたのでござる?」
ランラン丸が聞いてくる。
ランラン丸は俺が死に戻りする事は知っているが、記憶の共有は出来ない。
せめて、ランラン丸に相談出来ればな。
そう思った瞬間、俺の尻が光り始めた。
「な、なんでござる!?」
見るとランラン丸も光っている。
やがて光がおさまると、ランラン丸が苦しみ始めた。
「ぐおおお! 何か頭の中に大量の情報が入ってくるでござる!!」
「だ、大丈夫かランラン丸!?」
いったい何が起きたというのか。
しばらくすると、ランラン丸が落ち着いてきた。
「はぁ、はぁ、こ、これは」
「いったいどうしたんだよ、ランラン丸」
俺の尻が光って、ランラン丸が光って苦しみ始めた。
おそらく俺のせいなのだろう。
しかし、俺にも何がなんだかサッパリわからない。
「り、リクト殿、今まで、こんなに何度も死んでいたのでござるな」
え? 何を言ってるんだこいつは?
「リクト殿、拙者にもこれまでの記憶がよみがえってきたでござるよ。ゴブリンクイーンの時から今回の事まで、リクト殿が死んでやり直した記憶が、拙者にも見えたでござる」
なんと、ランラン丸にも死に戻りの記憶が共有された様だった。
まさか……これが神様の言っていたちょっとしたサービスってやつか?
「これは……酷いでござるな。無意味に何度も死んでる事もあるし、あのお姫様の件とか、あんなしょうもない事で何度も死んでたんでござるな。というかデッドポイントって、酷いシステムでござるな」
なんと、デッドポイントの事まで理解していた。
これは……助かる!
「ランラン丸、早速で悪いが今回もヤバイ状況なんだ、どうしたらいいか、相談に乗ってほしい」
俺は早速ランラン丸に助けを求めた。
今回の件、なんとか死なずに解決する為には、俺ひとりの考えでは難しい。
「うむ、どうやらその為に拙者にも記憶が共有される様になったみたいでござるからな。任せるでござる!」
なんとも強い味方が誕生した。
これまではひとりで悩む事が多かった。
だが、ランラン丸がいれば百人力、とまではいかないが、俺が気付かない事に気付いてくれるかもしれない。
「今回の問題は、幽霊船、デスマギュウ、オウガ達、そしてウミキタ王国を包囲しているという帝国だ。幽霊船はエリシリアに任せようと思っている」
「うむ、幽霊やガイコツが相手でござるから、あの光のムチを持つエリシリア殿が最適でござろうな」
ランラン丸が同意してくれる。これだけでもひとりで考えているよりはなんだか安心できる。
「次に、デスマギュウをどうしたらいいか、困ってるんだ」
「即死攻撃を持つモンスターでござるな。誰か即死耐性を持っている知り合いに心当たりは無いでござるか?」
そんな知り合い、そう都合よく居るわけが……
「あ」
「お? 居るのでござるか?」
居るも何も、身近に居るじゃないか。
「勇者だ」
「勇者?」
そう、勇者だ。
「勇者は、即死耐性を持っているはずだ」
「という事は、ユミーリア殿でござるな」
そうだ、マイエンジェルユミーリアが居るじゃないか!
「じゃあ、デスマギュウはユミーリアに任せれば!」
希望が出てきた。
だが、俺の安易な考えに、ランラン丸が待ったをかけた。
「いや、ユミーリア殿ひとりでは5匹のデスマギュウは抑えきれないかもしれないでござる。敵の目的がこちらを倒す事ではなく、街の人達を殺す事でござるからな、逃げられる可能性もあるでござる」
なるほど、確かにその可能性はある。
となると……
「もうひとりの勇者、男勇者のユウを呼ぶしかないか」
「おお! それでござるよ! 勇者兄妹なら、なんとかなるかもしれないでござる」
いいぞ、なんだかこれだけで希望が見えてきた!
「よし、オウガ達は適当になんとかするとして、後は帝国の軍団だな」
実際にオウガ達はどこにどう現れるのかわからない。
デスマギュウと一緒に出てくるのか、他の場所から出てくるのか不明だ。
もし現れても、今の俺達なら倒せるはずだ。
「帝国でござるか。それに関しては難しいでござるな。規模がわからないでござるし、どうやって包囲されているのかもわからないでござる」
確かに、オウガが言っていただけで、実際にこの目で確認はしていないからな。
「それに、国を包囲するほどの数の軍勢がきているのであれば、拙者達では何ともならんでござるよ」
軍勢を相手に……大勢の敵か。
こればっかりは俺達個人が何とかできる問題じゃないのかもしれない。
「うーむ……そうだ、ダメ元で王様やヒゲゴロウ殿に相談してみるのはどうでござるか?」
なるほど、その手があったか。
王様や、ヒゲのおっさんなら、何か手があるかもしれない。
「それだ! やるな、ランラン丸!」
「ふっふっふ、早速お役に立てて何よりでござるよ」
ランラン丸のドヤ顔が見えた気がした。
「リクト殿、今までひとりで抱え込ませて悪かったでござる。これからは拙者も一緒に、考えていくでござるよ!」
ランラン丸が頼もしかった。
思えばこれまでずっと、ひとりでなんとかしなければと奮闘してきた。
だけどこれからは違う。少なくとも同じ記憶を共有できるランラン丸という味方ができた。
だからこそ見えてくる。
もっとみんなに頼る事。もっとみんなの力を信頼する事。
そうだ、何も俺ひとりで全てを解決しなくてもいいんだ。
俺には仲間が居るんだから。
「よし、そうとなれば早速みんなに」
「待つでござる! 今何時だと思っているでござるか。みんなまだ寝てるでござるよ」
それもそうか。今まだ夜中の3時だっけ。
「せっかくでござるから、前回と同じ様にマイホームで修行するでござるよ。それで朝になったら、まずはヒゲゴロウ殿に相談するでござる」
修行か。確かに強くなるに越した事は無い。
「よし、そうと決まれば早速修行だ!」
「オウでござる!」
俺はランラン丸を手にして、マイホームを出して重力修行室に向かった。
今までの死に戻りの中で、一番心が軽かった。
朝になり、ヒゲのおっさんが宿屋の食堂に来るのを待つ。
しばらく待っていると、ヒゲのおっさんがやってきた。
「おう、早いなシリト」
相変わらず俺の名前を覚えようとしないおっさんだった。
だが、今は、そんな事を気にしている場合じゃない。
「おっさん、話があるんだ」
「あん?」
俺はおっさんに、今日起こる事を話した。
「また未来が見えたって話か。しかもなんだ、相当やっかいな話だな」
おっさんがヒゲをいじって考え込んでいた。
「幽霊船やデスマギュウはなんとかアテがある。問題は帝国軍なんだ」
「確かに、この国とセントヒリアが同盟を結ぶと情報を得ていれば、ありえない話じゃないか。まいったなこりゃ」
おっさんが頭をボリボリとかく。
「あと、海岸に幽霊船、街にデスマギュウが出るから、みんなの避難もお願いしたい」
「はぁ……無茶言うなまったく」
おっさんが深いため息をついた。
「とりあえずそっちは任せろ。王に話をしてみる。お前はその、幽霊やデスマギュウの方を何とかしてくれ」
「ありがとうおっさん。何か作戦が決まったらまた教えてくれ」
俺はそう言って、今度はユミーリア達に説明しに向かった。
「幽霊船に」
「デスマギュウか」
ユミーリア達も驚いていた。
ユミーリア達にもおっさんと同様に、俺が未来を見れる事があるというのは話をしてある。
これまでに死に戻りでわかった事をそうやって話してきたから、今さら俺の話を疑う仲間はいない。
「確かに、ガイコツ系モンスターが出てくるなら、私の出番だな」
「私も、勇者には即死耐性があるって聞いた事があるよ。私に任せて、リクト!」
エリシリアとユミーリアが俺の作戦……いや、俺とランラン丸の作戦に同意してくれた。
「ユミーリアの方は、ユウにも協力を頼もうと思ってる」
「兄さんにも?」
俺は敵が5匹いる事、人々を殺す為、逃げるかもしれない事、もしかしたら、オウガ達の妨害が入るかもしれない事を話した。
「確かに、私ひとりだとちょっと難しいかも」
「ああ、だからもうひとりの勇者、ユウに頼もうと思ってる」
俺の言葉に、ユミーリアがうなずく。
「うん、いいんじゃないかな。最近兄さん、あんまり活躍してないみたいだし、ちょっとはがんばってもらわないとね」
そう言ってユミーリアが笑う。意外とユウには厳しいのかもしれない。
「わたしは?」
コルットが俺のコートを引っ張ってくる。
「コルットは、俺と一緒に遊撃……足りない部分を補うって感じだな」
「うん、おにーちゃんと一緒にがんばる!」
コルットがにぎりこぶしを作る。可愛かったのでつい頭を撫でてしまう。
気持ち良さそうにケモ耳を動かしていた。
俺は早速、マイホームでセントヒリアのキョテンの街の、ギルドに戻る。
そこには都合よく、男勇者が居た。
「やあリクト。どうしたんだい? 確かウミキタ王国に向かったんじゃなかったっけ?」
相変わらずイケメンスマイルが輝いていた。
俺は男勇者に、ウミキタ王国で起きている事を話す。
「幽霊船にデスマギュウに邪神の使徒、それに帝国軍か」
「なんなの? いったいウミキタ王国で何が起きてるっていうのよ?」
男勇者や魔法使い、戦士と僧侶が俺の話を聞いて驚いていた。
「無理よそんなの! 早くこっちに逃げてきなさいよ! あなた達がウミキタ王国の為に命を張る必要なんてないじゃない!」
魔法使いが叫ぶ。
しかしそんな魔法使いを男勇者が止める。
「違うよマホ。僕やユミーリアは勇者だし、エリシリアさんは元ロイヤルナイツだ。正義の為に動くのが僕らの宿命だ。放ってはおけない」
男勇者のその言葉に、魔法使いが食い下がる。
「でも!」
「それにね、放っておけばこの国にも同じ様に襲ってくるかもしれない。すでに他人事じゃないんだ」
魔法使いは今度こそ、何も言えなくなる。
男勇者の言う通り、今回はウミキタ王国が狙われたが、この国だって同じ様に狙われているのだ。いつ同じ状況になってもおかしくない。
「リクト、僕に声をかけてくれてありがとう。よろこんで協力するよ」
「ああ、助かる。それじゃあ早速行こう」
俺は男勇者を仮パーティ扱いにして、マイホームへと誘う。
「待って! 私達も行くわ!」
魔法使いがついてこようとするが、男勇者がそれを止めた。
「ごめんマホ、それにセンとソウも、今回は僕に任せてくれないかな? 敵はデスマギュウだ。僕以外だと即死してしまう危険性がある」
男勇者の言葉に、魔法使い達が黙ってしまう。
「足手まといって事?」
「そうじゃない。そうじゃないんだマホ」
さすがにそれは苦しい。実際に今回はついてこられても、足手まといだしな。
「悪いが俺もユウに同意だ。というか、俺もデスマギュウには手が出せない。心苦しいがユウとユミーリアに任せる事になる」
俺の言葉を聞いて、魔法使いがこちらに食い下がってくる。
「じゃあ! 他に何か!」
どうやってもついてくるつもりみたいだった。
「リクト殿」
「ん?」
ランラン丸が話しかけてきた。
「ここは……」
俺はランラン丸の話を聞いて、その提案をのむ事にした。
「悪い、三人にはここに残ってほしいんだ」
「どうしてよ!?」
当然の様に、魔法使いが食い下がってくる。
「さっきも言っただろう? この国だって危ないかもしれないんだ。俺やユウが居ない間に何かあったら、誰がこの国を守るんだ?」
「そ、それは……」
俺は男勇者に目線で合図する。
男勇者もそれを読み取ったのか、仲間達に語りかけた。
「みんな、リクトの言う通りだ。今回は何が起こるかわからない。僕が居ない間、この国を守ってほしい」
男勇者にそう言われては、魔法使い達はもう何も言えなかった。
「わかったわよ! その代わり、絶対に戻ってきなさいよ!」
魔法使いが涙目で男勇者に叫ぶ。
「あとあんた! ユウに何かあったら承知しないんだから! あと、ちゃんと報酬として、レア肉を食べさせなさいよね!」
きっちりレア肉まで要求をしてきやがった。
まあ、それで納得してくれるならいいだろう。
「わかった。悪いが時間が無いからすぐに向かう」
「ああ、そうしてくれ」
俺はマイホームを出す。
俺の尻が光って、尻の間から扉が出てくる。
「絶対、帰ってきなさいよ!」
魔法使いの叫び声を背に、俺と男勇者はウミキタ王国へ向かった。
ウミキタ王国に戻った俺達は、それぞれ配置に着く事にした。
エリシリアは海岸で待機してもらう事になる。
「問題は、デスマギュウがどこから現れるかだな」
俺は悩んでいた。
いくら勇者がふたり揃っても、デスマギュウの出現場所がわからないと防ぎようが無い。
「正面の門から入ってきたら、絶対にバレるしな」
この国は俺達の国とは違い、出入り口は一箇所しかない。
しかしいくらなんでも5匹のデスマギュウを連れて通るのは難しいはずだ。
俺は他の侵入経路を考える。
「……ねえリクト、ゼノスだけど、あの時どうやって私達の前に突然現れたり消えたりしたか、わかる?」
ユミーリアがゼノスの事を気にしていた。
ユミーリアの口からゼノスの事が出てくるだけでちょっとイラッとするが今はそれどころじゃない。
「多分、魔法か何か特殊能力だと思う。特定の場所を行き来するとか……あ!」
言われて気づく。
もし、ゼノスがそういった能力を持っているのであれば、もしかしたら出現場所は、ゼノスが出てきた場所……城の前かもしれない。
「そうだユミーリア、それだ! さすがユミーリア!」
俺は思わずユミーリアの手を取る。
ユミーリアはうれしそうに、顔を真っ赤にしていた。
「えへへ、なんだかわからないけど、良かった」
話を出したユミーリア自身はよくわかってないみたいだった。
ユミーリアと男勇者には、城の前で待機してもらう事になる。
俺とコルットは念の為、同じく城の前で待機する事にした。
もしかしたらオウガ達も一緒にやってくるかもしれないからだ。
その場合、デスマギュウはユミーリア達に任せて、俺とコルットでオウガ達を倒すしかない。
あとはおっさんの方だな。
俺はおっさんがどうなったかを確認する為、一度宿屋に戻る事にした。
そうして宿屋に戻ってみると、そこには……
「おうシリト! とりあえず数は集めたぞ。正門の方は俺達に任せろ!」
そこには、ふんどし一丁か、まわしのみを装備した男達が揃っていた。
「ふははは! シリトよ! おいどんもいるでごわすよ!」
マゲール親子も参戦していた。
ここはウミキタ王国。
外に出る時は水着着用が義務化された国だ。
ふんどしもまわしも水着みたいなもんだよね。
それを忠実に守った男達が今、俺の前に勢ぞろいしていた。
宿屋の前が熱気に包まれていた。
「いくぞお前ら! 気合いを入れろ!」
「おおー!」
男達が大声をあげ、ソイヤソイヤと叫んでいた。
俺達の、国全体を巻き込んだ戦いが、始まろうとしていた。




