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75、国が死んだ日

「いやー、助かったぜ! 最高だったぞシリト!」


 ウミキタ王国の王様が豪快に笑っていた。


 俺はこのウミキタ王国に来て、王様から頼まれて、国民の前で尻を光らせた。


 なぜかそれで盛り上がった国民は一致団結して、セントヒリアとウミキタ王国は同盟を結ぶ事になった。


「ハハ、よかったっすね」


 一方俺は、考える事を放棄していた。

 どうせ王様相手にはツッコミ出来ないし、うまく話がまとまってるんなら、もう何でもいいんじゃないかな。


 俺達は王様にお礼を言われて、城をあとにした。



「なんで俺の尻が光っただけであんなに盛り上がって話がスムーズに進むんだよ!? わけがわからんわあああ!」


 俺は城を出た所で、ようやく叫ぶ事が出来た。


「静かだなと思ってたら、いきなりなんだシリト?」


 ユミーリア達が驚き、ヒゲのおっさんがあきれていた。


「王様相手に叫ぶのは気が引けたから我慢してたんだよ!」


 叫んでもきっと何も変わらないしな。ヘタな騒動を起こして捕まるなんてのはゴメンだ。


「はぁ、もう疲れた」


 なんだか疲れが押し寄せてきて、俺はその場にしゃがみこんだ。


「お疲れ様、リクト。宿に行ってゆっくり休もうね」


 ユミーリアが俺の頭を撫でてくれる。



 やっべ何これ、超癒される。


 これまでの気疲れが全てリセットされ、幸福ゲージがどんどん上昇していく。


 ああ、俺はなんて幸せ者なんだ。


「そうだな、街が騒がしいし、リクトもあんな事をした後だから目立っている。今日は早めに宿に戻った方がいいだろう」


 エリシリアの言う通り、街は先ほどの王様の演説のせいか、騒がしかった。

 そして俺に視線が集中している。


 まあ、元々ピンク色のコートを着てるせいで目立つんだけどな。

 それよりも時々聞こえてくる、シリト様ってのが気になる。


 王様がのせいで、すっかり俺はシリト扱いだ。

 再び疲れが押し寄せてくる気がした。


「ほれ、立てシリト、さっさと宿に向かうぞ」


 ヒゲのおっさんの言葉を受けて、俺は立ち上がって宿に向かった。



 宿に着くと、ああシリト様、なんて言葉が聞こえた気がしたが聞こえなかった事にした。


 俺は部屋に戻って、ベッドに倒れこむ。


 ユミーリアのおかげで一時は幸せな気持ちになったが、やはり思い返すとダメージが大きい。

 完全に黒歴史だ。


 俺だって男だ。人々が俺にひれ伏すなんて妄想をした事がなかったわけじゃない。

 しかし、尻の光で人々が感動してあがめるってのは、絵面的に最低だ。


 しかもあの王様、俺の名前を完全にシリトだって思い込んでるしな。

 ヒゲのおっさんと同レベルだった。

 おかげでこの国の人は完全に俺の名前をシリトだと認識してしまっただろう。もうやだこの国。


 寝よう。

 寝てさっさとこの国を去ろう。

 この国は俺にとって黒歴史だ。忘れよう。


 俺はそのまま目を閉じて、意識を落とした。



 ふと目が覚めると、外は真っ暗だった。


「ん……まだ夜中か?」


 俺はベッドから起き上がる。


「おお、起きたでござるかリクト殿」


 ランラン丸が声をかけてきた。


「ああ、ランラン丸、今何時だ?」

「部屋の時計を見る限り、夜中の3時でござるな」


 確かに、部屋の壁にある時計を見ると3時だった。

 何時に寝たかは覚えていないが、確か夕方くらいだった気がする。


「結構寝てたみたいだな。みんなはどうした?」

「みんな、リクト殿が疲れてるみたいだから寝かせておこうって言っていたでござるよ」


 そうか、気を使わせてしまったかな。


 さて、どうしたものか。

 今からもう一回寝るってのもあれだしな。


「そうだ! ランラン丸、せっかくだから修行してくれないか?」

「修行でござるか?」


 俺は昼間の戦いを思い出していた。

 剣での腕では、黒騎士ゼノスに敵わなかった。


 これからもあいつは襲ってくるだろうから、剣の修行もしておいた方が良いと思ったのだ。

 まあ、前からランラン丸と約束してたしな。


「ほら、前から約束してただろう? それにこのまま、ゼノスに剣で負けっぱなしってのも面白くないしさ」

「リ、リクト殿! 拙者、拙者感激でござるよ! あの素振りを10分で飽きてしまったリクト殿がついに剣に目覚めたのでござるな!?」


 ランラン丸がなんか感動していた。

 ていうかいつまで引きずるんだよそのネタ。


「よし、マイホームに行くぞ。マイホームの中ならランラン丸も人の姿になれるしな。重力室で修行だ」

「了解でござる!」


 俺はマイホームを出して、重力室に向かった。



「それではこれより、剣の修行を始めるでござるよ!」


 重力室に着くと、ランラン丸が刀を取り出す。

 今回は刀の稽古なので、重力制御は無しだ。


「さて、以前はひとまず素振りをしてもらったでござるが、リクト殿は型を見て覚える方が得意みたいでござるからな。今日は拙者が一通り型を見せるので、それを真似してみるでござるよ」


 コルットの親父さんの場合は、ゲームで散々動きを見てたってのもあるんだけどな。


 とりあえず俺は、ランラン丸の動きを見て、言われた通りに真似して型を覚える事にした。


「うむ、格闘技の修行でバランス感覚が強化されたおかげか、いい感じでござるなリクト殿! その調子でござるよ!」


 言われてみると、型の稽古は親父さんに言われてやっていた方法に似ている。

 いや、ランラン丸が合わせてくれているのか?


 何にしても、これなら何とかなりそうだった。


 俺はランラン丸と修行を続けた。


「よし、ここらでひとつ、リクト殿に必殺技を授けるでござるよ」

「おお! マジか! さすがランラン丸!」


 ランラン丸は気を良くしたのか、笑顔でステップを踏んでいた。


「さて、まずは拙者が技を見せるでござる。的は……アレにするでござるか」


 ランラン丸はエリシリアが持ってきていたワラ人形を立てる。


「リクト殿はしっかり見ているでござるよ」

「わかった」


 俺がそう答えると、ランラン丸の空気が変わる。


 ピンと張り詰めた空気になり、俺はノドを鳴らした。


「いくでござるよ」


 ランラン丸が刀を鞘にしまう。


 そしてワラ人形に向かって、刀を振り抜いた。


 ワラ人形に刀から放たれた闘気が向かう。

 それにあわせてランラン丸もワラ人形に向かって駆ける。


 放たれた闘気にあわせる様に、ランラン丸は刀を振り下ろした。

 闘気と刀の斬撃、そのふたつが重なり合う。


「爛々二重斬らんらんにじゅうざん


 ワラ人形は綺麗に斜めに真っ二つになった。


「剣から放つ闘気にあわせて斬撃を加える技でござる。闘気によって開かれた筋に斬撃をあわせる事で、剣の衝撃が相手に直接通る様になるのでござる。これぞ爛々二重斬。これならあの黒い鎧にも通じるでござろう?」


 ランラン丸が笑顔で刀を納める。


 なるほど、確かにあの固そうな鎧相手にはうってつけの技だ。


「ああ、最高の技だ! ありがとう、ランラン丸」


 俺がお礼を言うと、ランラン丸の顔が急に真っ赤になった。


「な、なんだかそう素直にお礼を言われると照れるでござるな。とはいえ! ここからが勝負でござるよ! 技を使える様になるかは、リクト殿次第でござる!」

「ああ、わかってる!」


 俺は今見た技を、早速練習する。


「リュウガ殿の修行によって闘気を扱える様になったリクト殿だからこそ可能な技でござる。がんばるでござるよ!」


 俺はランラン丸の言葉にうなずいて、修行を続けた。



 なんとなく技が形になってきた所で、そろそろ切り上げようとランラン丸が言いだした。


 そろそろみんなが起きてくる頃だと言う。

 結構時間が経っていたみたいだ。


 俺はシャワーを浴びてマイホームを出た。


「おうシリト、早いな」


 宿の食堂に行くと、ヒゲのおっさんが居た。


「おかげさまでタップリ寝たからな」

「そうか、それは良かった。それでどうする? 目的は果たしたしこのまま帰ってもいいが、1日くらいなら遊んでもいいぞ?」


 おっさんの言葉に、俺は考える。


 確かに、この国に来てやった事といえば、スモウのおっさんと戦って、黒騎士と戦って、尻を光らせただけだ。

 この国をまったく満喫していない。


 とはいえ、昨日あれだけ目立ったのだ。あんまり外を出歩きたくはない。


「この国にはすぐ近くに海があってな、海で遊べる様になっているから、せっかくだから水着の嬢ちゃん達と遊んできたらどうだ?」

「なにそれすごく良い! よし、それで行こう!」


 そうだ、水着だ。

 せっかくこの国に来たんだ。このまま帰っては勿体無い!


 今はみんな上にシャツを着ているが、海に入るとなれば脱がざるをえまい!


 そうすれば弾ける水着が見られるはずだ!


 水着イズビューティフル!


 俺は食堂に来たみんなに、海に行こうと話した。


「リクトがいいなら、それでいいよ」

「そうだな、少しは羽を伸ばす事も必要だろう」

「わーい海だー!」


 三人とも納得の様だった。


 俺達は準備をして、海に向かった。

 おっさんは何か用事があるらしく、別行動になった。



 輝く太陽! 輝く海! そして輝く水着!

 周りの目なんてまったく気にならない! シリト様だとか言われて拝まれても無視だ無視!


「ってそのシャツは脱がないのか!?」


 なぜか三人とも、シャツは着たままだった。


「このシャツは日よけのシャツと言ってな、着ているだけで全身の日焼けを防止してくれるシャツなんだ。この日差しの中で脱ぐのはちょっとキツイからな」


 なんと、そんな便利な魔法のシャツだったのか。

 それなら仕方ない。

 女の子の肌は大事だからな。


 俺はシャツを脱いでもらうのはあきらめた。


 しかし、だからと言って、ガッカリする必要はなかった。


「きゃっ!」

「こらコルット、冷たいじゃないか」

「あははは! えーい!」


 コルットが水をユミーリアとエリシリアにかける。

 するとどうだ。

 白いシャツはどんどん透けていって、逆にエロくなっていく。


 いいぞコルット、もっとやれ!


「えーい!」


 なんて思っていると、今度は俺に水をかけてきた。

 しょっぱい。


「やったなー?」

「きゃー!」


 コルットがおおはしゃぎしていた。

 ユミーリアとエリシリアも楽しそうだ。


 俺達は海を満喫した。

 まさか好きな女の子と海で過ごせる日がくるなんて……


 俺は今日の事を、一生忘れまいと、心のメモリーにみんなの姿を保存した。



 お昼になり、昼食を食べる。

 海沿いの店には焼きそば、カレー、ラーメンとお決まりのラインナップが揃っていた。


 材料とかどうなってるんだと思って聞いてみたら、モンスターのドロップにカレー粉とかがあるらしい。

 さすがはゲームの世界だ。


 俺達は昼食を終え、さて次はどうしようかと店内で相談していた。



 その時だった。


 外から悲鳴が聞こえた。


「何事だ!?」


 一番早く外に出たのはエリシリアだった。


 しかし、そこでエリシリアは止まってしまう。


「どうした?」


 俺の外に出て、海の方を見た。


 そしてエリシリアと同じ様に、固まった。



 海には、巨大な船があった。

 しかもただ巨大なだけではない。


 全体的にボロボロだった。

 船からはあやしい霧が出ている様で、この辺まで霧がただよっていた。


 船からは大量の、ガイコツ達が出てきている。


 これはあれだ、幽霊船だ。


 ジッと見ていると、幽霊船から出てきたガイコツ達は、海辺に居る人達を襲い始めた。


 我に返った俺達は、すぐさま海辺に居る人達を助けに行った。


「この!」


 俺はランラン丸でガイコツを斬り裂いた。


 さいわい、再生したりはせず、斬られたガイコツはそのまま消滅した。

 あとには魔石が残った。どうやらこいつらはモンスターの様だった。


「エリシリア!」

「ああ!」


 アンデッドやガイコツ系には、エリシリアの光のムチが効果抜群だ。


 エリシリアはムチをうならせて、次々とガイコツ達を蹴散らしていく。


 ユミーリアとコルットもガイコツ達を倒す。


 そうしていると、幽霊船から大砲が撃たれた。


「うおっ!?」


 俺は何とか大砲をかわした。

 重力修行でスピードが上がっていなければ即死だったかもしれない。


「私が乗り込む! みんな、ここは任せたぞ!」


 エリシリアがそう言って幽霊船に駆け込んだ。


 俺達は言われたとおり、エリシリアが打ちもらしたガイコツを倒す。


 しばらくすると、エリシリアがボスを倒したのか、幽霊船がゴゴゴっと音を立てて消滅した。


 放り出されたエリシリアが泳いで戻ってくる。


「大丈夫か、エリシリア?」

「ああ、大丈夫だ、なんとかなったな」


 俺はエリシリアに肩を貸す。

 さすがのエリシリアも少し疲れたみたいだった。


「ゴッドヒール!」


 俺はエリシリアに回復魔法をかける。


 俺の尻から出たピンク色の光が、エリシリアを包み込み、癒していく。


「ああ、気持ちいい。これの為に頑張るのも、悪くないな」


 エリシリアがピンク色の光に、うっとりしていた。


「ははは、お疲れ様、エリシリア」


 俺達はなんとか幽霊船を撃破した。


 しかしいきなりなんだったんだ?


 エリシリアに聞くと、船長らしき格好をしたガイコツが居たが、話には応じず、何も情報は得られなかったらしい。


 とにかく、なんとか無事で良かった。


 そう思っていた。


 しかし、ユミーリアがそこで違和感に気づく。


「ねえ、あんな船が出てきて、モンスターも出てきたのに、なんだか静かじゃない?」


 言われてみると、俺達以外には人が居なくなっていた。

 街の方もやけに静かだ。


 俺達が周囲を警戒していると、街の方から何かがやってきた。


「なっ!? まさか、アレは!」


 エリシリアが驚愕していた。


 そこに現れたのは……角が生えた牛だった。


「デスマギュウ!」


 デスマギュウ? 聞いた事がないモンスターだった。


「知っているのかエリシリア?」

「デスマギュウ、死を呼ぶ牛とも言われている。あの角で突かれると即死するという、とんでもなく危険なモンスターだ」


 おいおい、即死って、マジかよ。


「あの角はそういう特性なんだ、即死耐性の魔法がかけられている防具でもなければ、問答無用で即死する」

「……じゃあもしかして、街が静かなのは」


 俺は嫌な予感がした。


 そうしていると、デスマギュウの数が増えてきた。


 全部で5匹のデスマギュウがこちらを見ていた。


「ありえない。デスマギュウは人里には降りてこない、本来は高い山頂にしか生息しないはず! それがなぜここに?」


 エリシリアが大量の汗をかいていた。


 次から次に、なんだっていうんだ?



「だから言っただろう? 後悔するって」


 デスマギュウの後ろから、黒騎士ゼノス、フィリス、オウガ、ジャミリーが現れた。


「お前ら!」

「久しいな、リクトよ」


 オウガがデスマギュウを引き連れて、歩いてくる。


「街の人間は全滅したぞ? この国も完全に包囲されている。お前達に逃げ場は無い」

「なんだと!?」


 オウガの言葉を聞いて、エリシリアが声をあげる。


 予想していたとは言え、最悪だ。

 街の人間は全てデスマギュウに殺されたのだろう。


 しかも、国を包囲しているだと?


「いつの間にそんなに巨大な組織になったんだよ、邪神の使徒」

「今回は我々が主導ではない。あくまで協力しているだけにすぎん」


 協力? という事は、別の敵がいるのか?

 今の俺達の、邪神の使徒以外の敵といえば……帝国くらいしかない。


「まさか、アクデス帝国か?」


「その通り。だから言っただろう? 帰らないと後悔するって。お前達がこの国に来て、同盟が結ばれれば、この国を一気に攻め落とす作戦になっていたのさ」


 黒騎士がこちらを見下した様に答えてくる。


「この国は終わりだ。そしてお前達も……幽霊船はうまく撃退したようだが、ここまでだ」


 やはりあの幽霊船もこいつらのしわざだったのか。

 しかしあんなものまで生み出すなんて、どんどん邪神の力が強くなっている気がする。


「やれ、デスマギュウ」


 オウガの合図で、デスマギュウ達が襲い掛かってくる。


「くるぞ! 角に気をつけろ!」


 エリシリアの号令で、俺達も応戦する。


 なんとか角をかわして攻撃をくわえるが、この牛、意外と強い。


 さらにゼノス達もこちらに向かってくる。


「くそ!」


 あきらかに俺達は不利だった。

 デスマギュウ5体に加えて、オウガ、ジャミリー、フィリス、ゼノスと数は圧倒的にこちらが少ない。


「あっ!」

「リクト!!」


 ユミーリアとエリシリアの声が聞こえた。


 気がつくと、俺は後ろから牛に角で突かれていた。


「え?」


 俺は意識が遠くなるのを感じた。


 これが、デスマギュウの力なのか。


 どうやらデスマギュウが、今回のデッドポイントの様だった。


 俺の視界が、真っ暗になった。




「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは ふがいない」


 そして俺は死んで、真っ白な空間にきていた。


 男勇者の姿をした神様が、ニッコリ笑ってこちらを見ている。


「はぁ……ちくしょう、またこの展開かよ」


 俺は思わずため息をつく。



 幽霊船、デスマギュウ、オウガ達、そしてウミキタ王国を包囲しているという帝国。



 今回も問題は、山積みだった。



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