67、尻魔道士の事件簿
再び試練の洞窟で死んだ俺。
今回は二手に別れた後、突然赤い姫様が死んだ。
そして発狂した青い姫様に、俺は殺されたのだ。
どうやら誰かが死ぬと、青い姫様が発狂するらしい。
というか青い姫様がヤバイ。何かあるとすぐに発狂して俺を殺しに来る。
そしてそれを俺は、よけられず、殺されてしまう。
デッドポイント。
条件が満たされると俺は必ず死ぬ。なんて面倒くさいシステムだ。
俺はため息をつく。
しかし、気落ちしている暇はない。
これを乗り切らないと、俺のゲーム世界でのハーレムハッピーエンドには到達できないのだ。
……ん? いや、待てよ?
俺はひとつ、思いついた事があった。
「いや、しかし……どうだろう? いけそうな気もするがまた死にそうな気もする」
俺は悩んだ。
そしてその悩みは、神様の手によってさえぎられた。
「いいですよー。どんどん悩んで下さい。ああ、人が悩みながらゲームを攻略する姿というのはどうしてこう面白いのでしょう!?」
神様がもだえながら俺の尻を撫でていた。
男勇者の顔がもだえているのを見るのはキツイ。キモイ。
しかししっかりと尻は撫でてくる。
やっぱり出来るだけ、死にたくない。
死にたくないが、さっき思いついた事を、試さずにはいられない。
俺は再び生き返り、ギルドに着くまで話を進めた。
《同日 AM08:05 冒険者ギルド 2階 個室》
カタカタと音が鳴って、俺にしか見えない文字が現れる。
さて、俺が思いついた事、それは……
「ラブ姉ごめんなさい! この依頼、どうしても受けられません!」
俺はラブ姉に向かって、頭を下げる。
「ええ!? どうしてですか?」
ラブ姉が驚く。
「この依頼は、王家からのものなので、断ると色々とその、問題があるんですけど」
「それは、わかっています」
わかっている。
だが、ぶっちゃけこれが正解だったりしないだろうか?
どうも俺とあの姫様達は相性が悪い気がする。
なら、いっそ他の人に任せよう。
そう、探偵役が現場に行かなければ、事件は起きないんじゃないか作戦だ。
「実は俺、以前お姫様達を見かけた事があって、どーしても苦手なんですよ。多分俺と姫様は相性が悪いと思うんです。俺は我慢できますが、向こうは我慢できないかもしれません」
俺が頭を下げながら説明すると、エリシリアも同意してくれた。
「ふむ、確かにそうだな。あの姫様達は、そもそも男を嫌っている。リクトが居れば、目の敵にするかもしれん」
なんと、そうだったのか。
だから俺を一番最初に殺そうとしたのか?
いや、一番最初に殺されるのは姫様達か。
どちらにしても、事件が起きれば真っ先に疑われるのは男の俺になる、というのは姫様達の男嫌いからくるのだろう。
「……そういう事ですか。わかりました。男性がいるパーティでは揉め事が起きると、そう伝えてみます」
ラブ姉が肩を落としながら去っていった。
「すまないエリシリア、良かったかな?」
「先ほど言った通り、姫様達は男が嫌いだから、問題が起きていたかもしれんのは確かだ。王様もわかってくれるだろう」
そうだといいけど。
まあ、いざとなればエリシリアがなんとかしてくれるだろう。
エリシリアが居なければ、不敬罪で死んでいたかもしれないけど。
こうして、俺は事件とは関係のない1日を過ごす事になった。
しかし。
《同日 PM10:50 ヤードヤの宿 リクトの部屋》
レア肉の納品をして、たっぷりと修業した1日が終わろうとしていたその時、部屋のベッドでそろそろ寝ようかとしていたら、突然カタカタと音が鳴って、俺の前に文字が現れた。
え? なんで?
事件は起きなかったんじゃないのか?
なのになぜ、今回の事件の特別仕様だと思っていた文字が出てくるのか?
俺は嫌な予感がした。
背中に嫌な汗が流れる。
俺はランラン丸を手に取った。
「どうしたでござる? リクト殿」
「わからない。わからないが、嫌な予感がする」
俺はランラン丸を握りしめ、周囲に気を配る。
なんだ、何が起こるっていうんだ?
俺はジッと息をひそめた。
するとだんだん、なんだか息苦しくなってきた。
「……くそ、緊張しすぎか? なんだか息苦しい」
俺は窓を開けた。
そして気づいた。
外が赤い。
すでに夜の為、外は真っ暗だ。
それにもかかわらず、外が赤い。
「な、なんだこれ?」
よく見るとそれは、赤い霧だった。
外には赤い霧がただよっていた。
「……ぐっ!?」
その時、突然息が詰まった。
呼吸が出来なくなる。
なんだ? 何が起こっているんだ?
「リクト殿! リクト殿!」
ランラン丸が叫ぶ。
だが、息が出来ない俺の意識は、だんだん薄れてくる。
結局俺は、また死んでしまった。
「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」
気がつくと真っ白な空間に居た。
「……なんだよ、アレ?」
さすがに意味がわからなかった。
事件をスルーしたら、街中に赤い霧がただよっていて、呼吸が出来なくなり、死んだのだ。
「いやあ、なんでしょうねえ。ミステリーですねー」
神様はうれしそうだった。
「実は今回、私も楽しむ為に、情報は極力見ない様にしているのですよ。いやあ、あなたが全ての謎を解き明かすのが楽しみです」
この神様、俺を使って楽しんでやがる。
いや、今さらか。今思えば、俺がこれだけ特別扱いされるのも、神様が楽しむ為なんだろうしな。
とはいえ、俺は俺でこのゲームの世界で、大好きなヒロイン達としあわせに暮らしたい。
その為には、こんな所でつまずいていられない。
「とりあえず、事件を回避するのは不可能、か」
理由はわからないが、依頼をパスすると夜に死ぬというのはわかった。
「あの赤い霧は、なんだったんだ?」
「ああ、あの霧ですか? どうやら試練の洞窟から流れてきていたみたいですね」
俺のつぶやきを聞いて、神様がシレっととんでもない事を言う。
「マジか?」
「ええ、今回は極力ネタバレを見ない様にしているので、アレがなんなのかはわかりませんけどね」
試練の洞窟から出てくる怪しい霧か……
ああ、そうか。そういう事か。
俺はゲームのストーリーを思い出し、納得がいった。
「おや、何か気づいたみたいですね?」
「ああ、思い出したんだよ。今回の試練の洞窟の護衛任務の、本来のストーリーを。本来のストーリーではまず洞窟内のモンスターが強すぎる事に、王子様が疑問を感じるんだ。そして奥に進むと、邪神の使徒がいる、と」
そう、またしても邪神の使徒のせいでモンスターが強化されていたのだ。
俺達はコルットがシレっとモンスターを倒していたから気づかなかった。
「多分あの赤い霧……邪神の使徒が何かしたんだろうなって思って」
「ああ、なるほど」
神様が納得した様に手をポンッと叩いた。
「では、結局試練の洞窟に向かうしかないのですね」
「そうだな。で、試練の洞窟は一般人は入れないから、お姫様達の護衛依頼を受けなきゃいけないわけだ」
結局逃げられないわけだ。今回も。
「それでは、方針も決まったところで、さっそくヤリますか!」
神様が満面の笑みでこちらを見る。
ああ、そうだよな。これも避けて通れないんだよな。
「なあ、今回は初見殺しが多そうな事件だし、無しって事には……」
「何言ってるんですか、別に私の趣味で撫でているわけではないんですよ? あなたに私の力を送って復活させていると説明したじゃないですか」
そうだよな、俺の尻を撫でる事でそこから力を注入して、俺を復活させてるんだった。
「他の方法は、無いんだよな?」
「ありません。あってもやりません」
神様がニッコリと笑う。
俺はあきらめて、その身をゆだねる事にした。
「あはぁっ! 相変わらず良い感触です!」
「あああああ! やっぱり気持ち悪いんだよこのクソ神様があああ!」
無心になろうとすると、男勇者の声で、キモチワルイ事を言ってくる。
ちくしょう、今回あと何回死ななきゃならないんだよ。
「ふう、それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」
満足そうに笑う神様がそう言うと、俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。
《同日 AM10:40 試練の洞窟分岐ポイント》
生き返った俺は、これまでと同じ様にティーポット毒殺事件を解決し、再び洞窟の分岐点までやってきた。
前回はここで青い姫様について行って、行き止まりだった。
そして別の道から悲鳴が聞こえてきて行ってみると、赤い姫様が死んでいた。
何があったのか、確かめるしかないだろう。
今回もお姫様達は、それぞれ別の道を指定した。
俺は青い姫様の方にはユミーリアとコルットが付き添い、赤い姫様と黄色い姫様の方に俺とエリシリアが付き添う様に提案した。
エリシリアが先頭に立ち、間に姫様達をはさんで俺は一番後ろにつく。
これで何が起きるか見極められるだろう。
エリシリアは慎重に前方を確認し、姫様達は仲良さそうに話しながら歩いている。
どうにも黄色い姫様のスキンシップが過剰な気がするが、そういうものなのだろうか?
だが、その時俺は見てしまった。
黄色い姫様がドレスのポケットから針の様なものを取り出し、流れる様な手つきで赤い姫様に針を刺す所を。
「いた!」
針で刺された赤い姫様が痛みをうったえる。
「うっ!」
そして次の瞬間、その場に倒れた。
「きゃああああああ!!」
黄色い姫様が悲鳴をあげる。
なるほど、今回は黄色い姫様が犯人だったわけか。
おそらくあの針には毒か何かが塗られていたのだろう。
ティーポットの時といい、なんでこの姫様達はみんな毒を持ってるんだ? なんとも恐ろしい。
だが、残念だったな、黄色い姫様。
「ゴッドヒール!」
「え?」
俺の尻がピンク色に輝き、赤い姫様を光が包み込む。
すると赤い姫様から毒が抜けた。
「あら? 私……」
赤い姫様が目を覚ます。
これに驚いていたのは黄色い姫様だ。
そして一瞬、俺の方をにらんだ。
「……すみませんアカリア様。どうやらモンスターがどこからか攻撃してきたようです」
「え? そうなの? もう、ビックリしたじゃない! ちゃんと護衛してよね!」
赤い姫様がプリプリ怒っている。
黄色い姫様を見るとどこか呆然としていた。
「イエロン様も、ここはモンスターが居る洞窟です。今の様に何が起こったかわからない様な攻撃をしてくるモンスターが居るかもしれません。我々も気をつけますが、何か気づいたら教えてください」
俺の言葉を聞いて、黄色い姫様はどこかホッとした様な顔をした。
おそらく、自分の反抗がバレていなかったと安心したのだろう。
ここで黄色い姫様を摘発するのは簡単だが、そうするとこのまま撤収という事になりかねない。
それでは困る。この洞窟の奥にはあの赤い霧を発生させる何かがあるはずだ。
それをなんとかするまでは、この洞窟からは出られない。
今回はこれで良い。今回の事で黄色い姫様が他の姫様を殺す事をあきらめてくれるのを願うだけだ。
悲鳴を聞いて青い姫様とユミーリア、コルットがやってくる。
俺は事情を説明し、モンスターの攻撃に気をつけようと注意をうながした。
青い姫様は、モンスターのせいかもと言われたからか、俺を殺そうとはしてこなかった。
しかし困った。
これで青い姫様に続き、黄色い姫様も他の姫様を殺そうとしている事がわかってしまった。
以前エリシリアが言っていた。
この姫様達はみんな、自分が愛されもてはやされる為に、他の姫様が邪魔だと言っていたと。
なんとか仲良く出来ないもんなのかね、こういうのって。
俺は小さくため息をついた。
《同日 AM11:20 試練の洞窟 休憩所前》
カタカタと音が鳴って文字が現れる。
俺たちの前には4つの扉があった。
中央に先に進む道があり、左右に2つずつ、扉がある。
扉はそれぞれ、赤、青、黄色、白色だった。
左に赤と青、右に黄色と白色の扉がある。
「なんだこれ?」
俺は思わずつぶやいた。
そのつぶやきに答えたのは、エリシリアだった。
「ここは仮にも王族が挑む為の洞窟だからな。中間ポイントにこうして休憩室を設けてあるんだ」
そっか。考えてみれば、この洞窟はモンスターが出るとはいえ、完全に国が管理しているんだもんな。
「今回は事前に姫様達の分の休憩室が作られたのだろう。ちゃんと扉に魔よけの魔法もかけてある」
至れり尽くせりだな。これでモンスターがいなければ完全にヌルゲーだが、そこまではしないのだろう。それじゃあ試練にならないしな。
俺達はそれぞれの部屋に入って休憩する事にした。
お姫様達は俺達が部屋に入る事を嫌がったので、俺達三人は白い扉の部屋に入る。
扉には中から鍵がかけられる様になっていた。どうやら外からは鍵の開け閉めは出来ないみたいだ。
中にはお茶やお菓子が用意されていて、ユミーリアとコルットがよろこんでいた。二人とも超可愛い。
俺も一息つく事にした。
先ほどエリシリアがここを中間ポイントと言ったので、あと半分って所か。
それまでは姫様達には大人しくしていてもらいたいもんだ。
俺達は一息つき、部屋を出た。
《同日 AM11:50 試練の洞窟 休憩所前》
俺達は外に出て、お姫様達が出てくるのを待っていた。
しかし当然、誰も出てこない。
俺にしか見えない文字を見れば、20分は休憩していた事がわかる。
いくら待っても出てこないので、エリシリアが扉を叩いて声をかける事になった。
「アカリア様! そろそろ行きましょう、早くしないと今日中に帰れませんよ?」
赤い姫様が出てくる。
「はいはい、まったくエリシリアは騒がしいな。もっとエレガントにならないと駄目だぞ」
うぐっとエリシリアが声を出し、こちらを見た。
「どうした?」
「いや……なんでもない」
エリシリアはそう言って、黄色い姫様の扉を叩く。
「い、イエロン様、そろそろ出発しないと今日中に帰れません事よ?」
エリシリアがよくわからないキャラになっていた。
もしかして、さっきの赤い姫様の言葉を気にしていたのだろうか?
それで自分なりにエレガントに?
エレガント……ちょっと笑ってしまった。
それを察したのか、エリシリアがこちらをにらんでいた。なんだか可愛いかった。
「はいはい、ていうかなに今の? ちょっと気持ち悪かったんだけど?」
黄色い姫様が渋々出てきた。
そしてその言葉を聞いて、エリシリアのテンションが下がった。
トボトボ歩いて青い姫様の扉に向かうエリシリア。
そして扉を叩く。
「アオイ様、出てきてください。出発しますよ」
今度は無難だった。
しかし反応が無い。
「アオイ様? どうしました? 返事をしてください」
再度エリシリアは扉を叩く。
しかし、反応が無い。
「アオイ様? アオイ様!? 何かあったのですか!?」
まったく反応が無いので、ドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。
エリシリアがあせり始めた。
「エリシリアさん、扉、開けていい?」
ユミーリアがエリシリアに声をかける。
「ああ、やむを得ない。緊急事態だ。頼むユミーリア」
それを聞いて、ユミーリアが壁と扉の隙間に剣を通して、カギとラッチを斬る。
そして扉を、エリシリアが開けた。
「なっ!」
中には……青い姫様が倒れていた。
「アオイ様!」
エリシリアが青い姫様にかけよって確認するが、すでに死んでいる様だった。
ああ、俺これ知ってる。
密室殺人事件ってやつだ。
ついに、本格的な事件が起こってしまった。




