58、光による足止め
俺達は、ブルードラゴンの討伐依頼を受けて、街から北西にある山に来ていた。
しかしそこにユミーリアの幼馴染であるフィリスが現れ、ブルードラゴンは邪神の力でアンデッドドラゴンになり、そのアンデッドドラゴンをフィリスは吸収しようとしていた。
そんなフィリスを援護するかの様に、フィリスの兄であるゼノスが現れ、さらにエリシリア達ロイヤルナイツのライバルである、ダークレディーズまで出てきた。
こっちは俺とユミーリアとコルットとエリシリアに加え、男勇者の一行もいる。
ちょっと人数多すぎないか? 乱戦でうまく立ち回るとか出来ないぞ?
「くっ!」
「エリシリアさん、そのままジッとしていて下さいね。今日はあなたと戦いに来たわけではありませんので」
「どういう事だ?」
エリシリアとダークレディーズのリーダー、デルフィナがけん制し合っていた。
「私達の役目は、あの方がモンスターを吸収するのを援護し、見届ける事ですの。ですから、その邪魔さえしなければ、今日はあなたとは戦うつもりはありませんわ」
おっとりした態度で答えるデルフィナ。
それに対してエリシリアは、あきらかに苛立っていた。
「ふざけるな! そこをどけ、そうすれば私もお前達とは戦わないでおいてやる」
エリシリアの一言に、ダークレディーズのひとりの顔色が変わる。
「はあ? 私達をナメてるの? あんたひとりで私達を相手にして、勝てると思ってるっての?」
エリシリアとダークレディーズに、険悪な空気が流れる。
マズイ。
エリシリアは普段は冷静で有能な指揮官タイプだが、イライラするとまわりが見えなくなるタイプなのだ。
今はあきらかに、まわりが見えてないな。
「エリシリア! 冷静になれ! この状況じゃ、お前が頼りなんだ! しっかり状況を見て、指示をくれ!」
俺は叫んで、エリシリアに呼びかける。
「わ、私が頼り?」
「そうだ! お前だけが頼りなんだ!」
「わ、私だけ……そうか、私だけか。フフフ」
エリシリアはああ見えて、人に頼られるのが好きで、まわりに頼りにされるほど力を発揮する、そういうタイプだったはずだ。
「フッ、しょうがないなリクトは。そこまで言われたらやるしかあるまい!」
エリシリアの顔に、笑顔が戻った。これで大丈夫だろう。
「ふむ、貴様ら……あの女がモンスターを吸収するまで、そこを退くつもりはないのだな?」
「ええそうよ」
エリシリアの質問を受けて、デルフィナがニッコリと答える。
「そこの黒い騎士! 貴様も同じか?」
続いてエリシリアは、黒騎士、ゼノスに問いかける。
「僕はそこのやつらとはかかわりは無いんだけど、そうだね、フィリスの用事が終わるまでは邪魔させてもらうよ」
ゼノスとダークレディーズは関係が無いのか。
そうなると、今回のこれは、いったいどういう集まりなんだ?
「なるほどな。ならば私達がとるべき道はひとつだ」
エリシリアが納得した様だ。
さて、エリシリアはどんな指示を出すんだ?
「よし! ユミーリア、コルット! 全力でフィリスの邪魔をしろ! そしてその隙に私がアンデッドドラゴンを消滅させる」
「なっ!?」
「え?」
「なにっ!?」
エリシリアの指示に、驚愕と疑問の声が多数あがった。
「いいかリクト、こういう時は、敵が一番困る事を全力でやるんだ。さあいくぞ!」
エリシリアは笑顔でそう言って、アンデッドドラゴンに向けて駆け出した。
「あなた達、エリシリアを止めなさい!」
「はいっ!」
エリシリアの行く手を、ダークレディーズが阻む。
「リクト! ゴッドヒールだ! こいつらにぶつけてやれ!」
エリシリアの指示で、俺は反射的に、ゴッドヒールを唱える。
「ゴッドヒール!」
もちろん、エリシリアの指示の意味はわかっている。
俺はダークレディーズに背を……正確には尻を向けて、ゴッドヒールを唱えた。
「なにっ!?」
「まぶしいっ!」
ダークレディーズの目がくらむ。
「なるほど、尻が光るというのはそういう事か」
今度は黒騎士、ゼノスがせまる。
「お前の相手は僕だ!」
そこに、男勇者ユウが立ち向かう。
「ユウ!? おのれ、またしても僕の邪魔をするのか!」
ゼノスとユウの剣が交差する。
その隙に、俺達はアンデッドドラゴンとフィリスの元へ向かう。
「あなた達! 何をしているの!? 早くエリシリアを止めなさい!」
目をこすりながらダークレディーズのリーダー、デルフィナが指示を飛ばす。
「無駄だ! ゴッドヒール!」
「きゃあ! まぶしい!」
だが、俺のゴッドヒールの光の前では無力!
俺の尻から放たれるピンク色の光が、ダークレディーズを足止めしていた。
「いったい何者なの!? このお尻の光、ただ者ではないわね?」
デルフィナが俺の光を見て叫ぶ。
「そいつは素晴らしき尻魔道士、リクト! 私の最高のパートナーだ、覚えておけ!」
エリシリアが敵に向かって、勝手に俺の名前を名乗ってしまった。
まあ、別に相手に名前が知られるくらい、いいんだけどさ。
「尻魔道士? 聞いた事もない……けど、ただお尻が光るだけなら!」
「ゴッドヒール!」
「いやあ! まぶしい!!」
俺の尻から放たれる激しいピンク色の光の前で、ダークレディーズは無力だった。
手で目をおおい、身動きできずにいる。
あれ? ひょっとしてこれ、相手にダメージは無いけど、足止めとしては結構いけるんじゃね?
俺は今さらながら、ゴッドヒールの可能性に気付いた。
「フィリス!」
ユミーリアがフィリスの元にたどり着いた。
「ユミーリア……アアアアアア! コレ、コレ最高なのおおおおお!」
すでにフィリスはアンデッドドラゴンを吸収し始めていた。
「これ以上はやらせん!」
エリシリアの光のムチがうなり、アンデッドドラゴンを襲う。
光のムチが当たると、今度こそアンデッドドラゴンは完全消滅した。
「アハァ……もう、終わり?」
フィリスが呆然としていた。
そこにユミーリアが駆け寄る。
「フィリス! 大丈夫?」
「ユミーリア……ええ、私は大丈夫。最高の気分よ」
フィリスが再び、黒いツバサを大きく広げる。
「離れろ! ユミーリア!」
エリシリアの声に気付き、ユミーリアはフィリスから距離を取る。
「ああん! もうちょっとそばに居てくれればよかったのに。そうすれば……ユミーリアを殺せたのに」
フィリスの右腕がドロリと溶け、オーガの角に変わる。
「うふふ、見てユミーリア。私の身体、こんな風に変化できるようになったみたい。素敵」
どうやらアンデッドドラゴンを吸収した事により、身体を溶かして自由に再生できる様になったみたいだ。
「ふむ、フィリスの用事は終わったようだね」
ゼノスはフィリスが変化した事を確認すると、男勇者から離れた。
「待ってくれ! ゼノス、なぜ君達はこんな事を!?」
男勇者が叫ぶが、ゼノスは振り返る事もなく、答えた。
「僕とフィリスは邪神の使徒となった。それだけさ」
ゼノスは男勇者に背を向けながら、男勇者に対して黒い風を放った。
「くっ!」
黒い風におされる男勇者。
その隙に、ゼノスはフィリスの元へとたどり着いた。
「あら兄さん、居たんだ?」
「ああ、さあ帰るよフィリス」
黒いツバサで宙に浮いていたフィリスは、ゼノスの元に降下する。
「もっとユミーリアと遊びたいわ」
「我慢するんだ。今のお前じゃまだユミーリアには勝てないよ。もっとモンスターを吸収しないとね」
ゼノスの言葉に、フィリスの顔がゆがむ。
「相変わらず兄さんの言い方はイラッとくるわ。でも、そうね……もっと楽しくユミーリアと遊ぶ為には、必要な事だもんね」
フィリスはオーガの角になっていた右腕を再び溶かし、元の手に戻した。
そしてその手を、ペロッとなめあげる。
「うふふ、待っててねユミーリア。いつかちゃんと……殺してあげるから」
フィリスはツバサを広げ、空へと舞い上がる。
ゼノスはそんなフィリスの腕につかまり、共に空へと去っていった。
「フィリス……」
ユミーリアと男勇者は、そんな二人を、複雑な顔で見送っていた。
「ゴッドヒール!」
「いやあ! まぶしい!」
俺はまだ、尻の光でダークレディーズを足止めしていた。
どうでもいいが、俺はいつまでこいつらの足止めをしていればいいんだ?
「リクト、ご苦労だった、もういいぞ」
エリシリアがこちらに来る。
「さすがはリクトだ。まさかここまでうまく足止めできるとは思っていなかったぞ」
「俺もだ、まさかゴッドヒールにこんな使い方があるなんてな」
今までも、目くらまし程度には使った事があったが、本格的な足止めは初めてだった。
「おのれ、ピカピカと光って、うっとおしい男!」
「ここまでコケにされるとは思ってもいませんでしたわ!」
ダークレディーズは完全にお怒りモードだった。
「お前達は何者なんだ? なぜ私を知っていて、あの者達を援護した?」
エリシリアが前に出て、ダークレディーズと向き合う。
「いいわ、このままじゃくやしいから教えてあげる。私達はアクデス帝国のダークレディーズよ。こう言えば、わかるでしょう?」
「アクデス帝国だと!?」
エリシリアが驚愕していた。
アクデス帝国。
サンダーの紋章5の敵国だ。
ある日いきなり全世界停戦協定を破り、サンダーの紋章5の舞台である、セントヒリア王国に攻めてくる帝国だ。
実は皇帝が邪神に乗っ取られている、っていう設定だったな。
ああそうか、ここでも邪神がかかわってくるのか。
クエストオブファンタジーの邪神、ストレートファイター2の邪神、サンダーの紋章5の邪神。
この邪神は、全てひとつなのだろうか? それとも、邪神が複数いるのか?
わからない。ゲームではどの邪神も、ラスボスだという印象しかなかった。
「覚悟しなさいエリシリア。アクデス帝国は、近々全世界に対して戦争を始めるわ。手始めに侵略するのは、あなた達の居る、セントヒリア王国よ」
いつの間にかキョテンの街が、セントヒリア王国になっている。
まあ、クエファンの方にはキョテンの街がなんていう国の街なのか、説明なかったし、いいのか?
お城もキョテン城だったしな。案外キョテンってのは国名だったのかもしれない。
ともあれ、ここでサンダーの紋章5が色濃く出てきたな。
ある程度予想していたとはいえ、また敵が増えるのか。
それも今度は国が相手だ。いったいどうなるんだよ、これ。
「じゃあね、エリシリア。次に会う時を楽しみにしているわ」
ダークレディーズのひとりが魔法を唱える。
足元に魔法陣が現れ、光っている。おそらく移動系の魔法だろう。
「それから、そこの尻が光る男!」
いきなり指をさされた。
「あなただけは絶対に殺すわ! それもただ殺すのではなく、エリシリアの前で苦しませて、殺してあげる!」
最大限の敵意を向けられ、そのままダークレディーズは消えていった。
足元の魔法陣が消えている。やはり移動系の魔法だったのか。
それにしても、最後のはちょっと怖かった。
「リクト」
エリシリアが俺に近づいてくる。
「心配するな、お前は私が守る」
なんとも、心強いセリフだった。
「リクト! 大丈夫だった?」
ユミーリアとコルットがやってきた。
「おにーちゃん!」
俺は飛び込んでくるコルットを抱きかかえる。
「ああ、なんとかな」
「おにーちゃん、すごかったよ!」
コルットがケモ耳を激しく動かし、興奮していた。
「ピンク色の光がキレーで、すごかった!」
俺はうれしそうに言ってくれるコルットの頭を撫でる。
ユミーリアがちょっとうらやましそうにしていた。
「私だって、がんばったのに」
「あーうん、ユミーリアも……あとでな」
俺達だけなら、ユミーリアの頭も撫でてあげたい所だが、今日はそばに、ユミーリアの兄である男勇者が居る。
そんな男勇者を見ると、いまだに空を見上げていた。
「ユウ」
俺は男勇者に話しかける。
「リクト……どうしてだろう、どうしてゼノスとフィリスは、邪神の使徒なんかに……」
俺はその理由を知っている。
ゲームでちゃんと語られるからだ。
理由は簡単、勇者が旅立つ時、村においていかれたのが、くやしかったからだ。
しかし勇者には簡単に追いつけない。だからあの兄弟は、邪神の使徒の力に頼ったんだ。
もっとも、フィリスはモンスターを吸収するなんて事はゲームではなかった。
ゼノスはどうなんだろう? いったいどういう事になっているんだか。
「ちょっと! それよりどうするのよ!? ブルードラゴンを倒して青竜の宝玉を手に入れるはずだったのに!」
魔法使いが俺に突っかかってきた。
「あ! そういえばそうか」
次から次に敵が出てきたせいで、すっかり忘れていた。
「そういえばそうかじゃないわよ! どうするのよ? 他にブルードラゴンが生息している所、知ってるの?」
ゲーム内ではブルードラゴンは1匹しかいない。
だからどこかにいるかと聞かれても、わからない。
「いやまあ……あーそうだ、じゃあこうしよう。やっぱり俺のゴッドヒールで治すって事で」
青竜の宝玉を手に入れるのは、少女のお母さんを治す為だ。なら、ゴッドヒールで治せばいい。
「だったら最初からそうしなさいよ、もう!」
魔法使いの怒りが止まらない。
だからブルードラゴンを放っておいてストーリーが変わるのが嫌だったんだって。
すでに思いっきり変わってる気もするけど。
いや、まだ基本ラインは変わっていないはずだ。
でも……サモン5の帝国が出てきた。
これがどういう影響を与えるのか、わからない。
俺は不安を抱えながらも、みんなで魔法使いをなだめて、ひとまず街に帰る事にした。
帰りはマイルームで一瞬だ。
初めて経験したエリシリアはとても驚いていた。
俺達は男勇者の案内で、病気のお母さんと一緒に居る少女の元へ向かう。
「あ! 勇者のおにいちゃん!」
少女が男勇者を迎える。
「やあ、お母さんはどうだい?」
「うん……まだ、くるしそうなの」
少女の顔がくもる。
「リクト、お願いできるかい?」
「ああ、任せろ!」
俺はさっそく、少女のお母さんの元へ向かう。
「おにいちゃん、あのピンクの人、誰?」
「ん? 尻魔道士のリクトって言ってね、僕の憧れの人だよ」
少女のお母さんは苦しそうに眠っていた。
「ゴッドヒール!」
俺の尻からピンク色の光が放たれる。
少女のお母さんは、ピンク色の光に癒され、みるみる表情がやわらいでいった。
「あら? 私……」
少女のお母さんは目を覚まし、起き上がった。
「うそ? 苦しくない。私、どうして?」
「おかあさん!」
少女がお母さんに抱きついた。
「お前、どうして?」
「おかあさん、あの人たちがね、おかあさんを助けてくれたの!」
そう言って、少女が俺達を指差した。
「そう、だったの。でも、あの、お代は……」
少女のお母さんが困った顔をする。
「いえ、お代はすでに受け取っています。ね?」
男勇者が少女にウインクをする。
「うん! わたしのおこづかいで、おにいちゃんたちが治してくれたの!」
「おこづかいって、そんな……ほ、本当によろしいのですか?」
少女のおこづかいがどの程度かは、もちろん知っているのだろう。
確か、10Pだったっけ?
少女のおこづかいにしてはそれでも多い方だが、ブルードラゴンの討伐を頼める金額ではない。
「もちろんです、この子のあなたを想う気持ち、それが何よりの報酬ですから!」
男勇者はニッコリと笑った。
こういうところ、ほんと勇者だよな。
「ああ……ありがとうございます……ありがとうございます!」
少女のお母さんは涙を流してお礼を言った。
少女も、つられて泣き出した。
しばらくして、落ち着いた二人は満面の笑みで、改めて俺達にお礼を言った。
「なんかいいな、こういうのも」
「うん、そうだね」
俺とユミーリアはうなずきあう。
コルットは自分の時の事を思い出したのか、俺にくっついてきて、俺の服をギュッとにぎった。
俺はそんなコルットを抱きかかえて頭を撫でた。
俺達は少女の家を出て、ギルドへ向かった。
「うん、今回のクエスト、とても良かったぞリクト! やはりお前についてきて正解だった」
エリシリアも満足そうな顔をしていた。
俺達はギルドについて、ラブ姉に声をかけた。
「あ! おかえりなさい、リクトさん。どうでした? ブルードラゴンは倒せましたか?」
ラブ姉が笑顔でむかえてくれた。
ついラブ姉のゆれる大きなラブルンに目が行きそうになるが、エリシリアが見ているので我慢だ。
「ただいま、えーっと、どこから説明したらいいものか」
俺達はラブ姉に、途中で邪神の使徒が現れた事、ブルードラゴンがアンデッドドラゴンになっちゃった事、アクデス帝国のダークレディーズが現れた事を話した。
「……」
ラブ姉は固まっていた。
「え? ブルードラゴンがアンデッドドラゴン? 邪神の使徒? 戦争が起きるんじゃないかと話題のアクデス帝国? え?」
ラブ姉は激しく混乱している。
「おや? どうした、また厄介事かい?」
ギルド長が出てきた。
ちょっと疲れた表情をしている。
そういえばギルド長、先日のオーガ軍団の騒動の後処理が相当大変だったみたいで、ちょっと寝込んでたって、ヒゲのおっさんが言ってたっけ。
「ぎ、ギルド長ー!」
ラブ姉がギルド長に泣きついた。
そして、ラブ姉の報告を聞いたギルド長は……
「なんてこった」
ドシーンと大きな音を立てて、そのまま後ろに倒れた。




