55、実現、夢のコラボ
闘技場は静まり返っていた。
そしてそれとは逆に、俺の鼓動はエリシリアに聞こえるんじゃないかというくらい、うるさかった。
「ふむ、ではもう一度、確認するぞ?」
静まり返る闘技場の中、王様が話し出した。
「素晴らしき尻魔道士リクトの、お前がほしい、俺のモノになれという願いに対して、エリシリア、お前はこれを受けるというのだな?」
王様の問いに対して、エリシリアがハッキリと答える。
「はっ! その通りです! 私はこの者……リクトのモノとなります!」
言っちゃったよ。今度こそハッキリと。
だから違うんだって! 仲間になってくれって言いたかった、というか言ったはずなんだよ!
俺は頭を抱えた。
「待ちやがれ! やっぱり納得いかねえぜ!」
待ったをかけたのは、強がりなかみつき男、ザインだった。
「納得いかねえ……このままじゃ納得なんてできねえぜ!」
ザインが俺をにらんでくる。
「やっぱり自分の手でやらなきゃ、納得なんざできねえ! 勝負だ尻野郎!」
ザインの言葉に呼応するかの様に、戦いにやぶれた兵士達が集まってきた。
うわマジか……これ、全部戦わないとダメなのか?
ざっと30人くらいはいるんじゃないなか?
いや、奥の方にもっといるかもしれない。
「テメエなんかに、エリシリアを渡すかあああ!!」
ザインが拳を振り上げ、向かってきた。
だが、遅い。ユミーリアとコルットに比べたら、止まっているのと同じだ。
いやはや、本当に成長しているんだな、俺。
俺は刀の柄で、ザインのアゴを打ち抜いた。
「ぐはっ!」
ザインはそのまま倒れた。
「ちくしょう! こうなったら総力戦だ! 全員でかかれ! コノヤロウをぶっ潰すんだ!」
ザインの言葉に、その場に居た兵士達が殺気立つ。
まさかの総力戦だった。
でもまあ、オーガの軍勢よりはマシかな。
俺はうんざりしながらも、ランラン丸を構える。
「やめんかキサマら!!」
俺が構えた途端、怒声があがった、
声の主は、レズリーだ。
「私に勝てなかったキサマらが、私を倒したそいつに勝てると思うのか!?」
レズリーの言葉に、全員が黙った。
「それにだ! キサマら、お姉様が自らお決めになった事に、異議を唱えるつもりか!? それでもお姉様親衛隊か!?」
おい待て、なんだよ お姉様親衛隊って。王国軍じゃなかったのかよ!?
「それでも文句があるというのなら、来い! 私が相手になってやる!」
レズリーの言葉に、その場に居た者は全員黙ってしまった。
「くっ! ちくしょう! ちくしょおおおお!!」
ザインは地面を殴り、涙を流していた。
「どういうつもりだよ?」
俺は先ほどまで、俺を認めないと騒いでいたレズリーに問いかける。
「フン、キサマを認めたわけではない。あくまでお姉様の意思を尊重しただけだ」
プイッと別の方向を向いてしまった。
これは完全に嫌われたな。まあ、愛しのお姉様を奪ってしまうわけだし、しょうがないよな。
エリシリアの宣言はともかく、俺はエリシリアに仲間になってもらうつもりだった。
それはつまり、エリシリアに冒険者になってほしいという事で、ロイヤルナイツ脱退を意味する。
「……エリシリア、改めて聞きたい」
俺はエリシリアに向き合う。
「俺は、エリシリアに俺達の仲間になってほしいと思っている。けど、それはつまり……ロイヤルナイツを、王国軍を抜ける事になる」
俺の言葉に、エリシリアの顔が引き締まる。
「ここまで言っておいてなんだが、俺は無理矢理エリシリアを引き抜くつもりは無い。あくまでエリシリアに決めてほしいんだ」
今回の騒動のは、王国軍が俺達にオーガ討伐を任せてサボっていた事から始まった。
そのせいで、その責任をとる為に、エリシリアがお詫びに俺の言う事をなんでも聞くと言って、こうなった。
それは、エリシリアの責任感の強さからきたものだ。
そのエリシリアが、本当に軍をやめてもいいのだろうか。
だが、俺のそんな考えを吹き飛ばす様に、エリシリアがニッコリと笑った。
「今さら何を言う。私は私の意志で、お前のモノになると決めたのだ。お前の言う事を聞くというのはキッカケに過ぎない。正直私は……お前を見ていて、お前の近くに居たいと、思ってしまったのだ」
俺は自分の顔が赤くなるのがわかった。
こいつは、マジメな顔してなんて事言うんだよ。
「なぜだろうな……私を見るお前の目に、深い愛情の様なものを感じたのだ。それが気になっている内に、気付いたらお前から目が離せなくなっていた。お前と話をするのが、お前と一緒にいるのが、心地よく感じる様になったんだ」
ああマズイ。これはマズイ。
そんな事言われたら、俺も……エリシリアに惚れ直してしまう。
「そして先ほど、お前に言われて決めた。私はこれからもお前についていく。ロイヤルナイツをやめるのは残念だが、これもまたひとつの道だ。私はそんな……お前との道を、歩いてみたくなったんだ」
「ぐっ」
俺はエリシリアのあんまりにもド直球な言葉に、照れてしまい、顔をそむけてしまう。
「えーっと、ちょっと待ってくれ……え? なに? エリシリア、お前さん、ロイヤルナイツやめるの?」
王様が急に話に入ってきた。
というか、先ほどまでのナイスミドルなダンディでドッシリとした感じが消えて、なぜかあせっている。
「さすがにお前さんにロイヤルナイツを抜けられるのは困るんだが……」
王様は汗をかいていた。
えーっと、なんだ。
エリシリアが俺の願いを聞くとは聞いていたけど、まさかロイヤルナイツをやめるとは思っていなかったから、あせってるのか。
「申し訳ありません、しかし私は、自分に正直に生きたいと思います!」
「いや、うん、それはいいんだが……でも、お前さんが抜けるとだな、その……」
王様は完全にエリシリアの勢いに押されていた。
「皆もすまない! 私はこれより、ロイヤルナイツを抜けて、このリクトの仲間として、冒険者になる!」
高々とエリシリアが宣言する。
「そういうわけだ、リクト、よろしく頼む」
俺は差し出されたエリシリアの手をとる。
「ああ、ありがとう。よろしく頼む、エリシリア」
俺達は強く手をにぎりあう。
そんな俺達を見て、誰かが拍手をした。
するとそれをキッカケに、闘技場全体が、拍手と歓声で包まれた。
「ケッ! ああもうわかったよ! 認めてやるよ、ちくしょうが! その代わり、エリシリアを泣かせやがったら、ぶっ殺すからな!」
ザインが座ったまま、叫んでいた。
「いや、だからな、そのな、それはすっごく困るというか、あの、わしの話、聞いて……」
王様の声は、拍手と歓声にかき消されていた。
さすがにこのまま終わり、というわけにはいかず、その後、俺達は謁見の間に呼ばれた。
「なんだか、ドキドキするね」
「ああ」
謁見の間で王様を前に、俺とユミーリアは緊張していた。
エリシリアは慣れたものだった。
コルットは……相変わらず展開についてこれてないのか、ボケーっとしている。
あ、俺の背中におぶさってきた。
そしてそのまま、俺の背中で寝てしまった。
「あーその、なんだ、すまんな尻魔道士よ」
王様が申し訳なさそうにしていた。
「いえ、コルットはまだ小さいので。むしろ王様の前なのに、すみません」
よく考えてみればこれ、無礼だとか怒られないんだろうか?
「あーいや、それはいい。ゆっくり寝かせてやってくれ。それよりもだ、わざわざここまで来てもらって、すまんな」
最初に闘技場で見た、王様の威厳はサッパリなくなっていた。
「なあエリシリア、お前さん、本当にロイヤルナイツやめるのか? わしとしては、ひじょーーーに困るんだが」
王様はエリシリアに問いかける。
「はい、我が王には申し訳なく思いますが、一度決めた事は最後まで貫きたいと思います! ですが、冒険者になっても私は私。この国に何かあれば、冒険者として必ずや駆けつけますゆえ!」
エリシリアはそう言って頭を下げる。
「う、うむ……いや、そういう事ではなくてな、その、普段のロイヤルナイツのまとめというか」
「ロイヤルナイツは精鋭部隊です。全員がしっかりしておりますし、フレイラがうまくまとめてくれるでしょう」
完全にエリシリアのペースだった。
王様、完全に頭抱えちゃってるよ。
「そうだ! 尻魔道士よ! お前さん、冒険者をやめてロイヤルナイツにならんか? その強さなら、まったく問題あるまい!」
王様が期待の目でこちらを見てくる。
なるほど、そうきたか。
「すみません、自分はやらなければならない事がありまして。それが終わるまで、どうしても冒険者でいなければいけないんです」
メインストーリーはあくまで冒険者としての物語だ。
男勇者は最近、どうにもストーリーから外れがちだし、任せておけないからな。ユミーリアの勇者としての物語を進めるしかあるまい。
そうなると、冒険者でいなければならない。
兵士になったら、ストーリーが変わってしまうから、王様の案は却下だ。
「む、むう……なら! そのやらなければならない事が終われば、いいのだな?」
うーん、まあ、メインストーリーが終わったら、いいのか?
「まだ、わかりません。私自身も、結末がどうなるか、わからないのです」
ここはあいまいにしておいた方がいいだろう。
正直本当に、この先どうなるのか、俺にもわからないしな。
本来のストーリーだと、冒険者としてSランクになった勇者は、その後しあわせに暮らしましたとさ、で終わりだからな。
具体的にどうなったかは語られないのだ。
「ならばその間は仕方あるまい。ただ申し訳ないが、有事の際はエリシリアも、そして尻魔道士よ、そなたも我が国の為、力を貸してほしい」
……まあ、それはしょうがないか。
俺としても、この国は好きだし、その内マイホームも持とうと思ってるしな。
「わかりました。その時の状況にもよりますので絶対に、とは言えませんが、できる限り力にはなります」
俺はそう言って、頭を下げた。
「そうしてくれ……ゴッフ、これでいいかな? もうわし、なんだか疲れた」
王様が椅子に深く沈む。
「ハッハッハ! 王よ、だから言ったではありませんか、今日はとんでもない事がおきますぞ? と」
「とんでもなさすぎるわ! まさかロイヤルナイツのリーダーがいきなりやめるなんて言い出すとは思わんかったぞ!」
軍団長が笑い、王様が疲れた顔を見せる。
「とはいえ、男女の問題に、これ以上どうこういうつもりは無いわ。ほれ、エリシリア、さっさと準備せい」
王様にそう言われ、俺達は退席する事になる。
しかし、謁見の間を出ようとした時、王様がエリシリアを呼び止めた。
「エリシリア、いつでも戻ってきて良いからな? むしろ問題が起きたら戻ってきておくれ」
なんだか、王様がちょっとかわいそうになってきた。そんなに問題なのか? エリシリアが居ないロイヤルナイツ。
……まあ、うん。個性的だもんな、みんな。
俺はゲームでの彼女達を思い出す。
そう考えてみると、エリシリアが居ないのは……ああうん、王様ごめん。
こうして、エリシリアは冒険者となり、俺達の仲間になった。
そんなエリシリアだが、なんと今日からコルットの宿屋に住むと言い出した。
「城から来てもらってもいいんだぞ?」
「おいおい、お前達と仲間になったんだ、寝泊りする場所も同じにしたいと思うのは当然だろう?」
そういえば、エリシリアは形から入るタイプだったな。
「これからよろしくね、エリシリアさん」
「ああ、よろしくユミーリア! お前の強さは私も一目置いていた。楽しみにしているぞ!」
ユミーリアとエリシリアが手を取り合う。
それを見た瞬間、俺の身体中に、電撃が走った。
これは……なんという、夢の様なコラボだ!
すごい、これすごい!
ぜひこの画像が欲しい! 待ち受けにしたい! なにこの夢の競演!?
すごいよ! クエファンのユミーリアと、サモン5のエリシリアが同じ場所で、手を取っているなんて、すごすぎるよ!
あ、ヤバイ。感動して涙が出てきた。
「リクト、なんで泣いてるの?」
「お前は……ほんと、おかしなやつだな」
二人に笑われた。
ああ! 二人が手を取り合って笑いかけてくれるなんて! この画像欲しい! スクショ! 誰かスクショして!
あああ! コルット起きて! コルットも入って! でも寝てるの起こすのかわいそう! 可愛い!
俺は感情がグチャグチャになっていた。
しかし、これだけは言える。
このゲームの世界、やっぱり最高だぜ!
エリシリアは色々と引継ぎがある為、合流は明後日となった。
俺達は今日はこのまま休んで、明日からまた冒険者としての活動を再開する。
当面はBランクを目指しつつ、お金を貯めて、いい加減家を買おう。
今、パーティ資金が64万2320Pで、レア肉の納品で1日5万だから……10日くらいか。
Bランクになると、また色々とイベントが起こって面倒だから、Cランクの内に達成したいな。
しばらくは稼ぎつつ、修行だな。
ユミーリア達の強さを見ると、これ以上強くなる必要があるのか疑問だが、強くなっておいて損はない。
俺はそんな事を考えながら、宿屋に戻った。
「おう! 尻魔道士様のお帰りだ! いやあすごかったな、あの告白! 感動したぜ」
コルットの親父さんが元気にむかえてくれた。というか見に来てたのか。ああ、見に行くって言ってたな、確かに。
「それでだ、あんたには感謝してもしたりないんだが……コルットの事は別だ。ウチのコルットの事は、どうしてくれるんだ?」
いきなり温度が下がった気がした。
「いや、どうするも何も、コルットはまだ小さいし」
「そうだ! コルットはまだ小さい! まだそういう話は早い! だが、どう見てもコルットはあんたに惚れ」
ガコンっと音が鳴って、親父さんが気絶した。
コルットのお母さんが、フライパンで親父さんを殴ったみたいだ。
「あはは、気にしないでね。これからもコルットと仲良くしてあげてねー」
親父さんを引きずって、奥さんは去っていった。
俺は答えを、いつか出さなければいけない。
しかし、今はまだ駄目だ。
今誰かひとりを選ぶ事はできない。少なくともメインストーリーが終わるまでは、このメンツでクリアしたい。
……言い訳だな。うん、正直に言おう。今の俺には誰かひとりなんて選べない。
ヘタレと言われてもだ、無理だ。それより俺は、この奇跡のコラボをもっと見ていたい。
決めるのはエンディングでいいじゃないか。それまではハーレムを楽しもう。
ユミーリア達に決めろと言われたら、その時はその時だ。
俺はいつか来るその時が、できるだけ未来になる様に祈りながら、眠りについ……
「で? で? リクト殿! リクト殿はユミーリア殿とエリシリア殿、どっちを選ぶのでござる? それともコルット殿でござるかこのロリコン! え? まさか拙者とか!?」
ランラン丸がうるさかった。
そして 夜が明けた。
俺達は軽くランニングを済ませ、シャワーを浴びた後、イノシカチョウを狩りに行った。
ここの所サボってた、というか全然狩りにこれなかったからな。
在庫も尽きかけてたし、多めに狩っておこう。
俺達はイノシカチョウを狩った。レベルは全然上がらなかった。
「まあ、重力室の修行に比べたらなー」
すでにイノシカチョウは、ザコでしかなかった。
以前は怖かったあの突進も、あくびをしながらかわせるレベルだ。
あの、ケモリンすらロクに倒せなかった俺が、だ。
すでに俺は、男勇者をも超えているかもしれない。
そんな風に思いながら、ギルドに戻って、レア肉の納品を済ませた。
「リクト!」
そこに、男勇者がやってきた。
「ユウじゃないか、久しぶりだな」
「いやいや! オーガ討伐の時に会ったばかりだよ!? それよりリクト! いい所で会った、リクトに話があるんだよ!」
男勇者は興奮しながら、俺に事情を話してきた。
「実はリクト、君に手伝って欲しい事があるんだ」
「手伝って欲しい事?」
なんだいきなり? クエストか?
男勇者は俺達と同じく、Cランクになっている。
この時期に発生するイベントといえば……なんだったか?
「リクト、僕と一緒に、ブルードラゴンを退治してほしいんだ!」
それは、本来のゲームの、メインストーリーのイベントの、ひとつだった。
再び俺は、メインストーリーに巻き込まれようとしていた。




