51、エリシリアの爆弾
オーガ軍団の侵攻の次の日。
今日はのんびり過ごそうかと思っていたが、突然俺の元に、エリシリアがやってきた。
オーガ軍団は退けたが、結局倒したわけではなかった。
エリシリア達ロイヤルナイツや国の軍は、どうやら逃げるオーガ達を追っていたらしく、その住処を突き止めたのだそうだ。
そこに攻め込むにあたって、エリシリアが個人的な依頼という形で、俺の所にやってきた、というわけだ。
「我々だけでも何とかなると思うのだが、お前や勇者の力をぜひ見たいという者が多くてな。そこでギルドに相談した所、ヒゲゴロウ殿がこの宿を教えてくれたのだ」
またあのヒゲのおっさんか。
「なんでも、今ギルドは昨日の事件の事で手一杯だから、個人的な依頼で個人的にやってくれ。きっとシリトは断らない。だそうだ。」
……まあ確かに、エリシリアからの依頼は断ろうとは思わない。
だけど、なんかおっさんに言い様に使われているみたいでちょっとむかつく。
しかしまあ……
「?」
俺はエリシリアをあらためて見る。
銀髪の巨乳美人。こうして目の前に居るだけでドキドキしてくる。
ユミーリアが超絶可愛いとすれば、エリシリアは超絶綺麗だ。
エリシリアはサンダーの紋章5における俺の嫁。
こうして向かい合っているだけでも、いとおしさがあふれてくる。
「……まただ。お前はなぜか、私をその、せつなそうな目で見る。私とお前は今回の騒動で初対面のはずだが、以前どこかで会っているのか?」
む、そういえば死に戻り中にも何度か同じ事を言われたな。
しかし、そんな変な目で見てるかな、俺。
どこかで会ったかと言われれば、ゲーム内で結婚した仲なんだけどな。
まあ、それをエリシリアに言っても、わかるわけがない。
「いや、ほぼ初対面で間違いないよ」
「ならばなぜ、そんなせつなそうな目で私を見るんだ?」
ううむ、どうもエリシリアを見る時は自然とそうなってしまうみたいだ。
それは多分、俺自身がエリシリアとはこれ以上、仲良くなれないと思っているからだ。
ゲームと違って、俺は王子でもなければエリシリアの仲間でもない。
この世界では、まったく無関係の人間なんだ。
そう思うと、どうにもさびしい気持ちになってしまう。
おそらく今回の依頼が終われば、その時こそ本当に……
イカンな。何を考えているんだ俺は。
俺にはユミーリアとコルットが居る。エリシリアにはこだわらないと決めたじゃないか。
しかし、エリシリアを見ているとどうしても、いとおしさがこみ上げてくる。
まったく、俺ってヤツは。
「……それで、依頼は受けてくれるのか?」
質問に答えない俺を見て、エリシリアが小さくため息をついた後、俺の意思を確認してきた。
「ああ、もちろん受ける」
たとえエリシリアの依頼じゃなかったとしても、オーガ軍団をこのまま放ってはおけない。
「俺も、あのオーガ軍団は気になっていたんだ、だからよろこんで協力するよ」
まあ、これがヒゲのおっさんからの依頼とかだったら、よろこんで、とはいかなかっただろうけどな。
「そうか、感謝する。私は街の南口で待っているから、準備が出来たら来てくれ」
エリシリアはそう言って去っていった。
俺はユミーリアとコルットに依頼の事を説明した。
突然の事にもかかわらず、二人はこころよく受け入れてくれた。
「私も気になってたんだ、あの逃げたオーガ達はどうするんだろうって」
どうやらユミーリアも、俺と同じ様にオーガ達が気になっていたらしい。
俺達は準備を済ませ、街の南口に向かった。
イノシカチョウのレア肉の納品は、今日はいいだろう。ギルドは今忙しいらしいからな。
しかし稼がなければいけないのは変わらないので、明日からまたがんばらないと。
俺達が南口に着くと、すでにロイヤルナイツや王国軍が待機していた。
「おお」
「すごいねー」
俺達は軍の精鋭達が揃っている事に驚いていた。
そういえば、軍隊なんてものをこうして見るのは初めてだ。
兵士達の装備は充実しており、馬や馬車も多数用意されている。
「きたか、リクト!」
エリシリアがこちらに駆けてきた。
その瞬間、周囲の視線がこちらに集中した。
「な、なんだ?」
「私達、すっごく見られてるね」
「さすがおにーちゃん!」
うん、見られてるのは俺だけじゃなくて、コルットもだからな。
とはいえ、俺達はなぜかとても注目されていた。
「今日はよろしく頼むぞ、勇者と尻魔道士、それに……」
エリシリアがコルットを見る。
「コルットです!」
コルットが元気よく、片手をあげる。
「そうか、コルットか。よろしく頼む」
エリシリアはかがんでコルットに目線を合わせて、コルットと握手した。
とてもやさしい笑みだった。
「さあ、早速出発しよう! やつらに逃げられては困るからな」
エリシリアはロイヤルナイツのリーダーだ。
そのエリシリアが全体に号令をかけ、ロイヤルナイツと王国軍は動き出す。
俺達もそれに混じって、移動を始めた。
俺達は街から南西の方向へ進んでいた。
そういえば、オーガ達がどこに居るのか、ちゃんと聞いてなかったな。
「どこまで行くのかな?」
ユミーリアも目的地を知らされていない事に気付いた様だ。
「すまん、ちゃんと聞いてなかった」
「あはは……まあゆっくり行こうよ」
ユミーリアが笑う。
可愛い。超絶可愛い。
歩く度にゆれる3本のテール、トリプルテールが綺麗だった。
ツインテールとポニーテールが一度に味わえるトリプルテール。ほんとに素晴らしい髪形だ。
やはり俺の嫁はユミーリアだ。間違いない。
「いい天気だねー、おにーちゃん」
「そうだな」
コルットは機嫌よく、トテトテ歩いている。
可愛い。コルットマジ天使。
しかしコルットは嫁というよりは娘だな。愛娘だ。とてもいとおしい。
うん、やはり俺には二人が居てくれるだけで十分だ。
エリシリアには出会えただけでよかったと割り切ろう。
「キサマが尻魔道士か?」
誰かが俺に声をかけてきた。
ふとそちらの方を見ると、声をかけてきたのは、若い男だった。
「えっと、どちら様でしょうか?」
俺は頭をかきながら、聞いてみる。ハッキリ言って見覚えがない。
「余を知らぬのか? 余はマクライド。この国の王子だぞ?」
なんと、王子様でした。
「ってなんで王子様がここに!?」
何やってんだよ王子様。今回はオーガを倒しに行くんだぞ?
「この度の掃討作戦は、国にとっても重要なものだ。故に余も同行して見届けようと思ったのだ」
なるほど、そういう事か。結構アグレッシブなんだな、王子様。
「ところでキサマ、エリシリアとずいぶん仲が良いようだな?」
急に王子様の目つきがするどくなった。
これって、まさか、その、なんだ。
「えっと、仲が良いというか、今回の騒動で初めて会ったというか」
どうにも王子様のチェックが厳しい。上から下までものすごい見られている。
これはあれか、余のエリシリアに手を出すな、とかそういうやつか?
こいつは王子様だ、エリシリアとそういう仲になる可能性が、無い訳ではない。
「……」
「なんだキサマ、余に何か言いたい事でもあるのか?」
しまった、ついにらんでしまった。
「いえ、なんでもありません」
俺は何を嫉妬しているんだ。まったく。
「エリシリアがキサマの事をずいぶん褒めていた。だが、勘違いするな。エリシリアは誰にでもやさしいのだ。キサマが特別ではない。その事を忘れるな」
言いたい事だけ言って、王子様は去っていった。
「ねえリクト、王子様、エリシリアさんの事が好きなのかな?」
ユミーリア大正解。俺もそう思う。
「だろうな。きっとエリシリアが突然連れてきた俺達が、気に入らないのかもしれん」
どちらにしても、王子様は俺達を敵視しているだろう。
言動には十分気をつけないとな。
俺達はできるだけ、王子様に近づかない様にした。
よく見ると、王子様はエリシリアにちょくちょく話しかけている。
……なんかむかつく。
「リクトー、顔が怖いよー」
ユミーリアに突っ込まれる。
イカンイカン、冷静になるんだ俺。
「どうもエリシリア殿がらみになると、リクト殿はダメダメでござるなー」
ランラン丸にまで突っ込まれた。
「いや、これでも冷静でいるつもりなんだけどな」
「うん、それ出来てないでござるからな?」
やっぱりダメみたいでした。
こんな調子じゃダメだ。早くこの依頼を終わらせよう。
そんな風に思っていると、ようやくオーガ達が隠れた場所に着いたようだった。
「この先の洞窟に、オーガ達が入っていったのを確認している! 全員、油断するなよ!」
エリシリアが号令をかける。
っていうかあの洞窟……以前来た、盗賊達のアジトじゃないか。
あの時は場所がハッキリとわかってなくて、探しながらだったから1日以上かかったけど、まっすぐ来ればこんなに早く着くんだな。
しかしなぜ、今頃あそこに?
「いくぞ! 突撃ー!」
エリシリアの号令で、王国軍が洞窟になだれこむ。
……入り口が狭い為、一歩遅れた俺達は、順番待ち状態になっていた。
「これ、俺達いらないんじゃないかな?」
「ダメだよリクト、中にオーガ達が居るとしたら、私達もがんばって倒さないと」
ユミーリアに怒られた。
注意してくれるユミーリアも可愛い。癒される。
「とはいえ、俺達が入れるのは、いつになるんだこれ?」
兵士達が順番に洞窟の中に入っていっているが、まだまだ待機中の兵士も多い。
……ん?
俺はふと、違和感を感じた。
何かがおかしい。
なんだ、何が引っかかっているんだ?
「ねえおにーちゃん」
コルットが俺に話しかけてきた。
「こんなせまい洞窟に、オーガさん達がいっぱいいるの?」
コルットのその言葉に、俺の違和感が確信に変わった。
そうだ、オーガの数はそれはもうハンパじゃなく多かった。
東、西、南とそれぞれの防衛にあたった俺にはわかる。あの数はそれはもう膨大だった。
それこそ、こんな洞窟の中に入りきるレベルじゃない。
だとすると、あの大量のオーガはどこに行ったんだ?
俺の疑問を解消するかの様に、後ろから声が聞こえた。
「グオオオオオオオ!!」
後ろを見ると、大量のオーガ達が居た。
どうやら俺達は、挟み撃ちにされたらしい。
洞窟の前で待機していた兵士達がうろたえている。
「ユミーリア、コルット、俺達でやるぞ! あのオーガ達を倒すんだ!」
「うん!」
「わかった!」
洞窟の前に残った王国軍はどうにも頼りにならない感じだった。
そうなると、俺達がやるしかない。
さいわい、オーガキングの姿は見えない。普通のオーガくらいなら、俺にも倒せるだろう。
「よし、いくぞ!」
俺たち三人は、オーガ達に向かって走り出す。
「いくぞ、ランラン丸!」
俺はランラン丸を鞘から抜いて、オーガを斬りつける。
「ゴアアア!?」
一撃。
俺の一撃で、オーガは倒れ、魔石へと変わる。
うん、ランラン丸と融合しなくても、俺も結構イケるじゃん。
俺達は次々とオーガを倒していく。
俺より強いユミーリアとコルットは、遊んでいる様なものだった。
「す、すげえ」
「なんだよあいつら」
「あれが勇者、なのか」
「ピンク色のやつもスゲーよ、誰だよ大した事ないとか言ってたの」
「いやいや! 俺は最初からできるやつだと思ってたね!」
「スッゲー! なんて可憐なんだ! 勇者様!」
「ちっちゃい子可愛い」
「いいぞー! やっちまえー!」
兵士達が俺達を見て、盛り上がっていた。
オイオイ、お前ら働け。
なんで完全に観戦モードなんだよ。
結局、ほとんどのオーガを俺達三人で倒した。
もうすぐ全滅だ、という時に、洞窟の中からエリシリア達が戻ってきた。
そしてその現状を見て、エリシリアの怒声があがった。
「キサマら! 何をやっている! 早く三人に加勢せんか!!」
エリシリアに怒鳴られて、あわてて兵士達が俺達に加勢してきた。
だが、すでにほとんど倒しきっていたので、まったく意味がなかった。
「すまない! リクト! まさか挟み撃ちを狙っていたとは! しかも我が軍はこの体たらく! お前達に任せきりになってしまうなんて!」
エリシリアがガバッと俺達に土下座した。
「ま、待った待った! いいから! そんな事しなくていいから!」
俺はあわててエリシリアを立ち上がらせる。
「そうはいかない! かくなる上は……リクト!」
エリシリアが俺の肩を掴んで、まっすぐに見つめてくる。
綺麗な瞳だな。思わず吸い込まれそうになる。
「リクト! お詫びに私がなんでもお前の言う事を聞こう! さあ、何でも言ってくれ!!」
ん? 今なんて言った?
「な……」
エリシリアの後ろに居た兵士達から、声があがる。
「なんだってーーーーーー!?」
オーガの大群を倒した俺達だったが、エリシリアによって、思わぬ爆弾が落とされた。




