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47、西と南、終わりなきオーガ戦と一筋の光

 俺達が居るキョテンの街は、西、南、東にそれぞれ出入り口がある。


 この街に今、邪神の使徒が生み出したオーガの軍団がせまっていた。


 俺達は東口を守っていたが、その戦いの中、いつの間にか街が燃えていた。


 ユミーリアとコルットをそれぞれ西と南に配置してみたが、それでも街は燃えてしまう。


 何が起こっているのか。

 確認する為にも俺は今回、西口に来ていた。



「おい、なんだあのピンク野郎」

「ピンクのロングコートって、すげえな」

「ってなんだシリトじゃん」

「尻魔道士か?」

「ピンクの尻魔道士?」



 うん、やっぱりこのピンク色のロングコート、絶壁のコートは目立つな。

 しかしこのコート、意外と役に立つんだよな。危ない時には光って、俺を助けてくれたし。


 ただなぜか、オウガが自爆する時には役に立たない。いまだに謎が多いコートだった。


 俺は西側の責任者っぽい人に事情を話し、こちらの警備につかせてもらう。


 そしてオーガ達が来るのを待ちながら、現在の状況を整理する。



 東にオーガの軍団と、オーガキング3体が来るのは間違いない。


 そして、ユミーリアの居る所にはフィリスが、コルットが居る所にはジャミリーが来る。


 オウガが俺の所に来るのか、それとも東口に来るのかは、今回でハッキリするだろう。



 次に、今わからない、謎になっている事を考える。


 まずは東口を防衛しても、街が燃えてしまう事だ。


 これについては、西か南の防衛が突破されてしまっていると思うんだが、ユミーリアとコルットが居るのにどうしてそうなるのか、わからない。


 謎といえばこのオーガの軍団だ。ゲームでは邪神によって生み出された大量のオーガ、という事だったが、そもそもこんなに大量のオーガを生み出せる邪神とはなんなのか。


 邪神の事については、ゲームではあくまで、ラスボスだから、そういう存在だからで済ませていたが、あらためて現実的に考えると、謎だ。


 しかもこの世界の邪神は、ストレートファイターのオウガまで取り込んでいる。

 俺の知っている邪神と、違っているのかもしれない。


 オウガといえば、あいつなんで俺に対して自爆なんてしてくるんだ?

 そもそも自爆ってなんだよ?


 もしかして、俺は死ぬが、オウガは死んでなかったりするのか?

 俺にはやつの身体が爆発した様に見えたが、実は自爆ではなく、至近距離で何かされて死んでいるのか?


 自爆しているなら、なぜ俺に対してそこまでするのか、わからない。

 自爆で無いなら、いったい何をされて死ぬのか、わからない。


 そして一番の謎は、オウガの自爆の時、絶壁のコートが役に立たない事だ。

 なぜだ? 何か法則があるのか?



 現時点ではわからない事だらけだ。


 だが、できればあんまり死に戻りしたくない。


 死ねばあの、ヒゲのおっさんの姿をした神様に尻を撫でられる。


 結構気持ち悪いんだよアレ、しかもだんだん気持ちよくなってきてるんだよ、アレ。それがまた嫌なんだよ。



「来たぞ! オーガだ!」


 俺がそんな風に悩んでいると、オーガの軍団が来た様だ。


 みんなには悪いが、まずは俺抜きでどうなるのか、見せてもらう。


 本来の流れを知る事と、誰かが街に向かったりしないかを確認する為だ。


 冒険者と、ロイヤルナイツ程ではないが装備が整った王国の騎士達が、オーガに向かっていく。


 しばらく見ていると、こちらの劣勢だった。


 王国の騎士は3対1でやっとオーガを倒せるレベル。

 冒険者は5対1だ。


 何人か、ひとりでも倒している冒険者もいるがそれでも全体的に見れば、劣勢だった。


「……ああもう!」


 俺は見ているだけに我慢できなくなり、ランラン丸を抜いて、戦いに加わる。


「おや、今回は見ているだけではなかったのでござるか?」


 ランラン丸がうるさい。


「悪かったな! 誰かがやられるのを黙って見ていられるほど、俺は人間ができてないんだよ!」


 俺はランラン丸で、オーガを斬り裂き、アッサリと倒した。


 まったく、ついこの前までザコ冒険者だったってのに、重力修行の成果はすごいな。


 これでランラン丸と融合すれば、あのオウガだって倒せるんだから、俺も少しはチート転生者になってきているのかもしれない。


 そんな自分に苦笑しながらオーガを倒していると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「ほう? 思っていたよりやるではないか」


 オーガ達が道をあける。


 その先には、ストレートファイター2のラスボス、オウガが居た。


 やっぱり、俺が居る所にくるのか、こいつは。


「どうして俺の所に来た?」


 俺はオウガをにらみながら、聞いてみる。


「なに、お前には少し思う所があってな。フィリスにここに居ると聞いて来たのだ」


 だからなんだよ、その思う所って!?


「さあこい、お前の力を見せてもらおう。どうせこの戦、俺達の勝ちはゆるがないのだからな」


 まただ、この時点でこいつは勝利を確信している。


 まさかとは思うが、すでに東か南がやられているのか?


 見に行きたい、今すぐユミーリアとコルットが無事か、見に行きたい。


 だが、戦闘中はマイルームが使えない。


 どうしたらいい?


「どうした? 変身せんのか? ならばこちらからいくぞ?」


 オウガが構えをとる。


 くそ! 気になるが、まずはこいつを倒さないと!


 そして、自爆に気をつけなければいけない。


「いくぞランラン丸! まずはこいつを倒す!」

「わかったでござる! 修行の成果をみせてやるでござるよ!」


 俺とランラン丸は、融合の為のキーワードを叫ぶ。



ごう!」

けつ!」



 俺の尻が光り輝き、俺とランラン丸は、ひとつになる。


 俺の髪に紫色のメッシュが入り、瞳は金色に、服は黒い着物になる。


「そうだ、その力だ。キサマのその尻の光……クックック」


「ブツブツうるさいやつだ、すぐに決着をつけてやる!」


 俺はすぐさまランラン丸で、オウガの足を斬り裂く。


 いつも腕なので、今回は足にした。


 これで身動き取れまい。


「ハッハッハ! まさかここまでとはな! その尻の光は伊達ではないという事か」


 オウガが斬られていない方の足でひざをつく。


 その瞬間、後ろで炎が燃え上がった。


「大変だ! 街が燃えている!」


 誰かがそう叫んだ。


 やはり、今回もこうなったか。


 西を守ってもダメなんだ。

 東も、ロイヤルナイツとコルットが居るから、負けたとは思えない。


 そうなると、南で何かあるのか?


「クックック、キサマ、街が燃えているというのに、あまり驚いていないようだな?」


 オウガが俺を見ていた。


「なぜだ? なぜ街が燃える? 南で何か起きているのか?」


 俺はオウガにダメ元で問いかけるが、それは無駄だった。


「南か……そうだな、もしかしたら東かもしれんな? クックック。だが、すべては終わった事よ」


 オウガから突然、黒い闘気が噴き出した。


「なっ!? なんだ?」


 黒い闘気が俺を包みだす。


「あとはキサマだ、キサマを殺せば、それで終わりだ」


 オウガは片方の足で跳躍し、俺との距離を一瞬で詰めた。


「しまっ!?」


 俺は黒い闘気にビビッて油断してしまった。


「さらばだ、尻が光る男よ」


 再び目の前で爆発が起こる。




 俺は、真っ白な空間に居た。


「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」


 ヒゲのおっさんの姿をした神様が、うれしそうにしていた。


「ああもう! なんだよ! なんであいつはあんなに俺を殺したがってるんだよ!? 何かしたか俺?」


 俺は頭を抱えて座り込む。


 だが、すぐに神様の力によって、強制的に立たされる。


「はっはっは、なぜでしょうねー。その謎を追うのも、ゲームの醍醐味ですよ。それはそれとして、早くそのお尻を撫でさせて下さい!」


 神様は俺の尻を撫で始める。


「なんだよ!? 今回なんでそんなにがっついてるんだよ!? 気持ち悪いぞ!」


 ヒゲのおっさんがハァハァしながら俺の尻を撫でてくる。ほんと、気持ち悪い。


「いえ、なんだか撫で癖がついちゃって」

「死ねばいいのにこの神様」


 俺は再び、3分間尻を撫でられる。


「ふう」


 尻を撫で終わった神様は、満足そうな顔をしていた。



「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」


 俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。




 俺はまた、マイルームのソファで目覚める。


 南だ。


 あとは南しかない。


 きっと南で、何かが起きているんだろう。


 俺はユミーリアとコルットを起こし、それぞれ違う場所に配置につく事を提案する。


 俺は南、ユミーリアが東で、コルットが西だ。


 きっと今回が、勝負どころになるはずだ。


 本当は三人で南に行きたいが、東と西が手薄になって、そちらが落とされるのもマズイ。


 俺はマイルームでユミーリアとコルットをそれぞれ東と西に送り、ヒゲのおっさんに断りを入れて、南口へ向かった。



 南口に着くと、男勇者が声をかけてきた。


「やあリクト! どうしたんだい? ……いやほんと、どうしたんだい、そのピンク色のロングコート」


 多分、一度目のどうしたはなぜここにいるかという事で、二度目はこの絶壁のコートに対してだろう。


「いや、ちょっとこっちの状況が気になってさ。俺はこっちに配置を変えてもらったんだ」


 俺の言葉を聞いて、男勇者が喜んだ。


「そうか! リクトが一緒なら心強いよ! 頼りにしてるよ、リクト!」


 この男勇者の、俺に対する信頼感はなんだろう?


 そんなに俺、男勇者の信頼度を上げる様な事したっけ?


 俺は勇者のパーティの、戦士と魔法使いと僧侶にも声をかける。


「ピンクだな」

「うわ! なにそのピンク色のコート! ないわー」

「独特なセンスをお持ちなのですね」


 それぞれ、酷い感想だった。


「あ! ねえねえ、今の状態で、ちょっとお尻を光らせてみてよ」


 急に魔法使いが思いついた様に、そんな事を言った。


「なんでだよ?」

「いいから! ほら、早く!」


 なぜかウキウキしている。


 俺はしょうがないので、尻を光らせる事にした。


「ゴッドヒール」


 俺は回復魔法を唱えて、尻を光らせる。


「プププッ! やっぱり! ピンク色のコートを通して光るから、ピンク色の光になってる!」


 思いっきり笑っていた。


 確かに、光はキレイなピンク色だった。



「オイ見ろよ、あれ!」

「なんてキレイなピンク色なんだ」

「神々しい! まさに神尻!」

「さっすがシリト! 光の色まで変えられるのか!」

「桃尻の光だ!」

「桃尻魔道士だ! ほら、お前も見てみろよ!」



 まわりが大興奮していた。


 というか、盛り上がりすぎじゃないか?


 まわりが大騒ぎする中、俺はひとり、無表情で尻を光らせていた。



「オーガだ! オーガが来たぞ!」


 やがて俺の尻の光がおさまると、オーガがやってきた様だった。


「気をつけろ! オーガキングだ! オーガキングが居るぞ!」


 どうやら、ゲームのストーリー通り、オーガキングもきているらしい。



「くっ! まさかあんなモンスターが出てくるなんて!」


 男勇者が汗をかいていた。


 どれ、ちょっと男勇者の強さを見てみるか。


 俺は尻を光らせる。そして光は文字となり、俺の前に現れる。俺のチート能力のひとつ、ステータスサーチだ。



《ユウ レベル21 冒険力1万2170》



 は? おい待てよ、ちょっと弱すぎないか? 俺でもレベル25なのに、俺よりレベル低いって……


 いや、確かゲームでは推奨レベルは23だったっけ? このイベント。


 それにしても低い。冒険力とか、俺よりちょっと上なだけじゃん。


 確実にサボってるな、この勇者。


 これ、まずくないか?


 そう思っていると、オーガ達がやってきた。


 俺はランラン丸を抜いて、オーガを斬り裂いた


「す、すごいよリクト!」


 男勇者が、俺の成長っぷりに驚いている。


 見れば魔法使いや戦士、僧侶も驚いていた。


「あんた、何があったの?」


 ここの所、強敵続きだったからな。


 俺は調子に乗って、オーガキングも一撃で倒した。


「嘘だろ? オーガキングが、一撃なんて」


 戦士が驚愕していた。


 なんだかちょっと気分がいい。



 だが、調子に乗るのもここまでだ。

 どうせそろそろ、アイツがやってくる。


 俺はオーガ達を見つめる。


 すると、その向こうから、アイツが歩いてきた。



「ほう? 俺の気配に気付いていたか?」


 オーガ達が道をあけて、奥からオウガがやってくる。


 さて、ここからだ、ここから何が起きるかだ。


 さっきのオーガキングならユミーリアが倒せるし、フィリスだって、今のユミーリアの敵じゃないはずだ。


 ならば何か起きるとすれば、この後だ。


 この南口で、何が起きる?


「何を警戒している? この俺が怖いか? ……いや、そうではないな。キサマは俺を見ていない」


 オウガがつぶやいている。


 そりゃそうだ、お前がこの後の、街が燃える事には関係ないのはわかっている。


 それ以外だ、それ以外に、何かあるはずだ。


 俺は周囲を警戒する。


 だが、特に何も無い。


「何を警戒しているのか知らんが、お前達の負けは変わらんぞ? 見るがいい、あの光景を」


 オウガが街を指差す。


 ま、まさか!?



 俺が振り向くと、街が燃え上がった。



 そんな……


 なんでだ? 何が起こっているんだ?


 待てよ?


 今俺は、融合もしていない。


 オウガも、今回はまだ俺と戦う気になっていない。


 もしかしたら、使えるかも。


「マイルーム!」


 俺の尻がピンク色に光り、尻から扉が現れる。


 よし! やっぱり今は戦闘中扱いじゃないみたいだ!


「む? 何をした、キサマ?」


「悪いが気になる事がある! お前と戦うのは、その後だ!」


 俺はすぐにマイルームに入って、扉を閉める。


 そして急いで出口を、西口に設定する。


 俺はマイルームを出て、西口に着いた。


「え? おにーちゃん?」


 コルットが居た。


 見るとジャミリーはすでに、コルットによって倒されている。


「コルット! 敵が街に向かったか? なんで街が燃えているかわかるか?」

「ううん、わかんない、急に街が燃えたの!」


 コルットも何が何やらわからないといった状態の様だった。


「おにーちゃん、おとーさんとおかーさんが!」

「わかってる! なんとかするから、コルットはここに居てくれ!」


 俺はすぐさま、マイルームを呼び出す。


 そして今度は東口に向かう。



「リクト?」


 東口に出ると、ユミーリアが居た。


 こちらもフィリスを倒した所の様だった。


「ユミーリア! 街が燃えた事に、何か心当たりはあるか? 敵が街に向かったとか」

「ううん、わかんない。フィリスを倒したと思ったら、急に街が燃えたの」


 こっちもか。


 なんだ、何が起こっている?


 どうして、街が燃えてしまうんだ?


 南も、西も、東も無事だった。


 他に入り口があるのか?




「見つけたぞ、尻魔道士よ」


 声が聞こえた。


 そしてそれは、空から降ってきた。


 どうやら、空を飛ぶモンスターに運ばれてきたらしい、オウガだった。


「キサマを逃がしはしない。キサマはここで、俺と死ぬのだ」


 オウガが俺に向かって、真っ直ぐに落ちてくる。


「うお!?」


 俺は思わずランラン丸を抜いて、刀をオウガに向けた。


 だが、融合していない俺では完全に斬り裂く事ができず、オウガが俺に張り付いた。


「リクト!」


 ユミーリアの叫び声と


「さらばだ、尻が光る男よ」


 オウガの声が聞こえて、俺の視界が白く染まった。




 そして再び、俺は真っ白な空間に立っていた。


「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」


 わからない、何がなんだかわからない。


 東も、西も、南も、どこを守っても街が燃えてしまう。


 しかも今回は、マイルームで他の場所の確認もできた。

 どこも、みんな無事だった。


 ならなぜ?

 どうして街は燃えてしまうんだ?


 俺は立ち尽くして、考えていた。


 だが、答えは出なかった。


「あなたはーピンクのーお尻だからーふふふーん」


 神様が鼻歌まじりに尻を撫でていた。


 ていうかなんだその歌、ヤメロ。


「あ、そうだ! 今回ちょっと死にすぎなんで、次回からお尻を撫でる時間が倍になります」


「は?」


 オイ、ちょっと待て。なんだそれ聞いてないぞ?



「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」


「いやだから待っ!」


 俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。




 俺はマイルームのソファで目を覚まし、途方に暮れていた。


 どうしたらいいか、わからなかった。


 死にたくない。アレ以上尻を撫でられたくないから、死にたくないのに!



 俺はとりあえず、ユミーリアとコルットに、それぞれ南と西を任せて、東に向かう事にした。


 しかし、俺が東に来て、どうなる?


 敵がどこから攻めてくるかわからないんだ。


 対処のしようがない。


 俺は東口について、ヒゲのおっさんにユミーリアとコルットが南と西に向かう事を話した。


 そしてひとり、ボーッと立ち尽くしていた。



 このままではまた、街が燃える。


 そして、オウガが自爆して、死ぬ。


 今までの倍の時間、尻を撫でられる。嫌すぎる。


 いったいどうしたら……どうすればいいんだ。



「何を思い悩んでいる?」



 キレイな声が聞こえた。


 ふと見ると、そこにはエリシリアが立っていた。


 日の光が、エリシリアの長い銀髪に反射して、キレイだった。


 そしてふと、思い出した。


 ゲームでもこうして、何か作戦や状況に詰まった時、エリシリアが助言して、助けてくれたっけ。


 俺はエリシリアを見つめた。

 

 今の俺が、エリシリアを頼っても、いいのだろうか?


「な、なんだ? なぜそんなに、せつない目で私を見る?」


 いや、別にそんなつもりは……ない、とはいえないかな。


 今の俺は、王子じゃない。ロイヤルナイツとも、エリシリアとも関係ない。


 なら、ここでエリシリアを頼る事はできないだろう。


 エリシリアにとって、今の俺はただの、冒険者だからな。


「なんでもない。気にしないでくれ」


 俺はこれ以上、エリシリアの目を見る事ができなかった。


 見たら、頼ってしまいそうになるから。


「馬鹿を言うな。そんな目とそんな態度で、何も無いわけないだろう? 話してみろ、誰かに話す事で、気が楽になる事だってある」


 俺はエリシリアを見た。


 俺は、エリシリアに頼っていいんだろうか?


 そもそも、なぜ俺にそんな風に言ってくれるのか?


 ゲームの記憶がある? いや、そんなわけない。


 これは多分……エリシリアの、やさしさだ。


「……やさしいんだな、エリシリアは」


 俺はつい、そんな事を言ってしまう。


「や……!? 馬鹿を言うな! 文句のひとつも言ってやろうとした相手の覇気がないから、肩透かしを食らっただけだ! いいからさっさと話せ! 馬鹿者!」


 エリシリアが顔を真っ赤にして、顔を背けた。


 可愛いな、エリシリア。


 俺はつい苦笑してしまう。


 そして俺は、エリシリアに相談する事にした。


「例えばの話なんだけど」

「そういう時は、十中八九自分の事だという、アレだな」


 ええい、エリシリアに余計な事を教えたのは誰だ!?


「ま、まあいい。でだ、例えばなんだが、この街をモデルにしたとする」

「モデル?」


 エリシリアが首をかしげる。


 俺は木の棒で、地面に街の図面を書く。


「ああ、この街と同じ構造の街があったとする、でだ、同じ様に東と西、南に出入り口があって、今回の様に、敵の軍団に攻められたとする」


 俺は地面に書いた街に、東と西と南に出口を追加した。


「で、東、西、南にそれぞれ精鋭を配置するんだ。敵が来ても、負けないような」


 地面に書かれた図面に、人の形を足していく。


「守りは完璧だ。なのに東に現れた敵が、お前達の負けだと言い出すんだ。俺はそれで敵を倒すんだが、その直後、街が燃えるんだ」


 エリシリアは黙って俺の話を聞いていた。


「なぜだと思う? なぜ街が燃えてしまうのか、どうしたら街を、みんなを守れるのか、俺にはわからないんだ」


 俺はそこで、木の棒を捨てた。


「質問だが、敵がこちらの負けだと言ったのは、戦いを始める前なんだな?」


 俺はオウガとの会話を思い出す。


「ああ、いつも戦う前だ。そしてその時点では街は燃えていない」

「ふむ」


「俺は、どこかの入り口が突破されて街が燃やされたと思っていたんだが、敵を倒したあと確認してみると、どの入り口も、ちゃんと敵を倒していて、無事だったんだよ」


 だから、どこから攻められたのか、どうやって攻められたのかわからない。


「ふむ、ならば間違いなく、敵はここだろう」


 エリシリアが木の棒を拾って、丸を書く。



「え?」



 エリシリアが書いた場所は、街の中心だった。


「街の中に、あらかじめ敵が潜んでいたのだろう。だから敵は、お前と戦う前にすでに勝利を確信していた。そして出入り口が無事なのに街は燃えてしまった、という事ではないのか?」


 エリシリアが俺を見る。


 逆に俺は、地面に書かれた街を見つめていた。



 それはとても、シンプルな答えだった。



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