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44、絶壁のコート

「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」


 死んだ俺はいつも通り、真っ白な空間にいた。


 うん、死んでしまったんだ、それはいいとしよう。


 だが……


 俺は目の前に居る、男を見た。


 この空間に居るのは、俺と神様しかない。


 だから、目の前に居るのは神様なんだが……


 この神様は、自由に姿を変えられるらしい。


 最初は男勇者だった。ラブ姉の姿になっている時もあった。


 だが、今回は……


「どうしました? 素晴らしき尻魔道士よ」


 ヒゲのおっさんだった。


「なんでだよ! なんでヒゲのおっさんなんだよ!?」


 俺は神様に抗議した。


「あの世界で、今一番、あなたに対する好感度が高い男性の姿を選んでみたのですが?」


 マジか。おっさん、俺への好感度、そんなに高かったのか。

 知りたくなかった、そんな情報。


「さて、それでは早速、お尻を撫でさせて頂きますよ?」


 俺は生き返る為に、3分間、神様に尻を撫でられなければいけない。

 そこから、生き返る為の力を注ぎ込むんだとか。


「んっふ、相変わらず、いいお尻してますねー」


 しかし、こ、これは……


 俺は今、ヒゲのおっさんに、尻を撫でられている形になる。


「いやだああああ!! 気持ち悪いいいいいい!!」


 俺は必死に逃げようとするが、神様の力によって、身体は動かない。


「あ、いいですよ、その微妙なお尻の力の入れ具合。どうやらあなたは嫌がる方が、お尻の感触が良くなるみたいですねー」


 いやだ! そんな情報聞きたくない!


「いっそ殺してくれ」

「あなたもう死んでるじゃないですか」


 ヒゲのおっさんに尻を撫でられるという行為があまりにも気持ち悪かったせいで、俺は何も考えられないまま、3分間が過ぎてしまった。



「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」


 俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。




 気がつくと、俺は宿屋のベッドに居た。


 さて、状況を整理したい所だが、すぐにでもヒゲのおっさんが俺を起こしにくるだろう。


 考えるのは、行動しながらになりそうだ。



 俺はおっさんの呼び出しを受けた後、ユミーリアとコルットを起こしてギルドに向かう。


 俺達が東口に向かう事はすでにわかっているので、この間に状況を整理する。



 俺は、フィリスに殺された。

 それもアッサリとだ。


 フィリスは空を飛んで見回りをしていた様なので、どこにいても見つかってしまうだろう。


 いっそ屋内やマイルームに隠れたい所だが、非常召集の中、死ぬのが怖いからと逃げれば、Cランクを取り消されてもおかしくない。


 今後の依頼も受けられなくなるかもしれない。それはダメだ。


 となると、なんとかして生き残るしかない。


 そうなると、防御力を上げるしかないか。


 こうらの鎧は一撃で貫かれたからな。


 俺達はギルド長とラブ姉の説明が終わった後、東口に移動する事になる。


「なあ、おっさん」


 俺はヒゲのおっさんに話しかけた。


「なんだシリト?」


 先ほど、おっさんに尻を撫でられまくった事を思い出して、ちょっと吐き気がした。


 しかしそれは悪いのは神様だ。おっさんじゃない。


 俺はなんとか我慢して、おっさんに話をする。


「ちょっと相談があるんだ」

「相談?」

「ああ、東口に行く前に、防具屋に行きたいんだ」


 俺の言葉に、おっさんが少し考える。


「まあ、時間的にも少し余裕があるから構わないが、急にどうした?」


 一応おっさんは俺達、東口組のリーダーみたいだ。

 そのおっさんの許可さえおりれば、大丈夫だろう。


「いや、これからオーガの軍団とやらかそうって時に、こうらの鎧じゃ不安でさ」


 おっさんは俺の姿を眺める。


 気持ち悪い。だがそれはおっさんのせいじゃない。我慢だ我慢。


「なるほどな。いいだろう、行って来い」


 俺とユミーリアとコルットは、防具屋へ向かう事になった。



 まずは防具だ。


 せめて一撃で貫かれない様にしたい。


 俺達は防具屋につく。


「そういえば、俺についてきて良かったのか? 二人とも」


 俺は今さらながら、当然の様についてきてくれた二人に確認する。


「む、そういう事いうの、良くないよリクト」


 なぜかユミーリアに怒られた。


 まあ、俺も二人がどこかに行きたいと言えば、ついていくけどさ。


 今さらながら、俺達って仲間なんだなあと、実感した。


「さて親父さん、相談したい事があるんだが」

「なんだ、夫婦漫才はもういいのか?」


 防具屋の親父にからかわれた。


 ユミーリアは真っ赤になっている。


「ぐ! そ、それはいいとしてだ。防具の事で相談したいんだ」


 防具屋の親父はひとしきり笑った後、真剣な顔になる。


「で、相談ってのはなんだ?」


 親父が真剣になったので、こちらも真剣に相談する。


「次の敵は、このこうらの鎧を一撃で貫いてくるやつなんだ。俺が買える範囲で、なんとかなる防具は無いかな?」


 俺の言葉に、親父はギョッとする。


「こうらの鎧を一撃で貫くっておめえ、どんなやつを相手にしようってんだ?」


 どんなと言われても、ユミーリアの幼馴染なんだよなあ。


 あえて説明するなら……


「オメガドラゴンだ」

「オメガドラゴン? なんだそりゃ、聞いた事ないぞ?」


 そりゃそうだ。邪神の使徒が作り出すオリジナルモンスターだからな。


「ドラゴンか、まあ確かに、ドラゴンならこうらの鎧を貫いても不思議じゃねえか」


 親父は考え込んだ。


 俺は大人しく、親父が考え終わるのを待つ。


「……悪いがCランクのおまえさんに売れるもので、ドラゴンの攻撃を耐えられるものは無い」


 予想していたとはいえ、ちょっとショックだ。


 これで防御という面で、相手の攻撃を防ぐ方法はなくなった。


「そっか、残念だ」


 俺はそのまま、防具屋を去ろうとした。


「ああ待った、そういや、アレがあるか」


 親父は少しつぶやいた後、奥へ引っ込んだ。


「な、なんだろう?」

「うーん、ちょっと待ってみようよリクト」


 俺はユミーリアの言う通り、待ってみる事にした。


 コルットは退屈なのか、店の中をキョロキョロ見てまわっている。


 しばらくすると、親父が店の奥から出てきた。


「待たせたな、こいつが見せたいものだ」


 親父が持ってきたのは……



 ピンク色の、ロングコートだった。



「いやいや親父さん、いくらなんでもそれはないだろう。こうらの鎧が貫かれるっていうのに、コートって」


 俺の反応が予想通りだったのか、防具屋の親父はゆかいに笑った。


「ハッハッハ、心配するな、これは普通のコートじゃねえ。絶壁のコートって言ってな。魔力で編みこまれた特別なコートなのさ」


 ま、魔力ときたか。


 そう言われると、普通の鉄や鋼よりは強そうに思えるから不思議だ。


「だがな、こいつは人を選ぶんだ。自分に合った魔力でないと、効果を発揮しないらしい。さらにこの色だ。色を変えると魔力がなくなってしまうらしくてな。誰も買っていかないんで、倉庫に眠ってたのさ」


 親父は俺に、絶壁のコートを渡した。


「おめえ、なりふり構ってられないんだろう? だったらそいつを着てみるといい。もし魔力が合えば、どんな防具より強力だぜ、そいつはよ」


 俺は半信半疑で、コートを着てみる。


 すると俺の尻と、コートが光始めた。


 なんとなくだが、コート全体に魔力が通ったのがわかる。


「やっぱりな、俺の目に狂いはなかったか。選ばれたみたいだぜ、おめえはよ」


 親父が俺に向かって親指を立てる。


「うれしいんだがいいのか? これ、Cランクが買えるものなのか?」


 武器や防具はランクごとに買えるものが決まっている。


 これほど強力な防具は、Cランクでは買えないと思うんだけど。


「なあに、そいつは掘り出し物だ。だから売ったんじゃなく、ゆずったのさ。というより、そいつがおめえを求めたんだろうな。おめえの話を聞いた時、すぐにそいつの事が浮かんだからよ」


 服が選んだ、か。

 こいつもランラン丸みたいに、しゃべるんだろうか?


「金はいらねえ。その代わり、生きて帰って来い。それでまた、ウチで買い物してくれよな」


 俺は親父の好意に感謝した。


 そして、せっかくだからユミーリアの防具も買う事にした。コルットの装備はBランク相当のものなので、今回は必要なかった。


 はがねの胸当てに、火グモの糸で編んだ、耐火性の服、マントを購入する。


 こちらは全部で1万Pピールにしてくれた。結構サービスしてくれたな。


 代金はパーティ資金から払う事にした。これは前から決めていた事だった。


 俺達は防具屋の親父にお礼を言って、防具屋を出た。



「ランラン丸、こいつ、しゃべると思うか?」


 俺は同類っぽいランラン丸に聞いてみる。


「いや、そういう気配は無いでござるな。ただ、持ち主を絶対に守るという、強い意志は感じるでござる」


 しゃべる事はないか。ちょっと残念だな。


 でもまあ、絶対に守ってくれるというのはありがたい。


 これでなんとかなればいいんだけど。



 俺達はそのまま、東口に向かった。


「おお、シリト……ってなんだおめえ、そのピンク色のコートは?」


 ヒゲのおっさんの言葉で、その場に居た全員が俺の方を見た。


 うん、このコート目立つわ。



「オイ、アレ見ろよ」

「うわ、尻魔道士がピンク色だ」

「ピンクの尻魔道士か」

「ピンクの尻……」

「桃尻ってやつか?」

「それだ! さすが神の尻を持つ男だぜ!」

「より美しさが増したな」

「よ! 桃尻魔道士!」



 そして、最低な評価だった。


「桃尻って言うなああああ!!」


 俺の声が、空にこだました。



 そういえば、ロイヤルナイツの姿が見えない。


「おっさん、ここにロイヤルナイツがきてなかったか?」


 俺はヒゲのおっさんに聞いてみる。


「ん? よく知ってるな。さっきまで居たぞ? 今は持ち場に向かったがな」


 そうか、防具屋に寄った事で会えなかったか。


「そういやロイヤルナイツのひとりがお前さんに会いたがっていたぞ」


 お? それってもしかして、エリシリアかな?


「遺跡を破壊した事で話があるって言ってたな。あとで詰め所に呼び出すそうだ」


 ……ああ、そうだよな。そういえばそんな事言ってたもんな。


「え? でも、あれって遺跡がゴーレムになったからで、私達のせいじゃ……」


「ユミーリア、それはそれ、これはこれってやつだ。罪になるならとっくになってるだろうから、文句だけでも言いたいんだろう」


 いくらゴーレムになったからといって、貴重な遺跡を破壊したのは確かだ。


 ここは大人しく説教を受けよう。


 ……決して、説教を受けたいわけじゃないからな?


 俺は自分に言い訳しながら、おっさんと一緒に持ち場へ向かった。



 街から少し離れた街道。


 あと少しすれば、ここにフィリスがやってくるはずだ。


 そして、俺を殺しにくる。


 どうやらユミーリアと一緒にいる男である、俺が許せないらしい。


 一直線に向かってくる事はわかっている。ならば、対処のしようもある。


 それに今回は、このコートがある。

 これだけピンク色で恥ずかしい目にあったんだ。役に立ってくれないと困るからな。



「見つけたわよ、ユミーリア」



 上空から声が聞こえた。


 そこには……緑の縞々。


 じゃない! 黒い羽を生やした女性が居た。


「フィリス!?」


 ユミーリアが叫んだ。


「ごきげんよう、ユミーリア」


 フィリスがゆっくりと、地上に降りてくる。


「フィリス、どうしてここに?」


「それが、先日のオメガドラゴンの試運転に失敗してしまったので、急遽オーガ軍団の進行を早める事になったの。それで、私もその責任をとる為に、こうして前線に送り込まれたってわけ」


 ここまでは同じだ。


 本来のゲームだと、ショシンリュウが勇者に倒された事によって、あせった邪神の使徒の上層部がオーガ軍団で街を攻める計画を早めた。それがオメガドラゴンに変わったわけだ。


「だから、上空から見回りと遊撃として働いていたんだけど、そこでユミーリアを見つけたから、きちゃった」


 ケラケラと笑うフィリス。だが、どこか狂気をおびている。


「これはもうあれね、邪神様が愛しのユミーリアを殺せと言っているに違いないわ! うふふ、早く殺して私のモノにしたいわ、ユミーリア!」


 うん、相変わらず思考が病んでいらっしゃる。


「でも、その前に……」


 一瞬、俺の背筋がゾクッとした。


 ……くるか。

 嫌な汗が滝の様に流れてくる。


「そこのあなた、確か先日もユミーリアのそばにいたけれど、何者なのかしら?」


 フィリスが俺を冷たい目で見てくる。


「まさか、私のユミーリアに手を出そうというのではないわよね? もしそうなら……」


 フィリスが黒い羽を大きく広げ、爪を伸ばす。


「ユミーリアに近づく邪魔な虫は、殺すわ」


 フィリスの殺気が、俺を包み込んだ。



 ここだ!


 俺は左手を前に出し、左手にはめられた腕輪に魔力をこめて、魔力の盾を展開する。


 これは以前、ユミーリアにもらった、魔力の盾を発動する魔防の腕輪だ。


 これと、この絶壁のコートがあれば、なんとかなるはずだ!


「なにっ!?」


 敵の攻撃を、魔力の盾が弾いた。


「へえ、ただのザコかと思ったけど、やるじゃない」


 フィリスが俺から距離を取る。


 その隙に、ユミーリアとコルットが俺に近づいてくる。


「大丈夫、リクト?」

「ああ、ユミーリアにもらった、この腕輪のおかげだな」


 俺が左手の腕輪を見せると、ユミーリアの顔が少し赤くなる。


 とはいえこれはあくまで保険だ。


 何度も通用する相手じゃないだろう。


 その為の絶壁のコートだ。頼むぞ、コート!


 俺の意思に呼応するかの様に、コートがピンク色に光りだした。


「なにそれ? ていうか、ユミーリアに近づきすぎなんですけど!!」


 フィリスが羽を広げて、再び俺に襲いかかる。


 俺は魔力の盾を展開するが、敵は直前で方向を変えて、俺の後ろにまわりこんだ。


「死んで!」


 俺の背中に、敵の攻撃がせまる。


 だが。



 ガキンッ



 鈍い音が鳴って、敵の攻撃は弾かれる。


「うそ? なんなの、その服……私の攻撃を弾くなんて!?」


 敵が驚いている。


「いまだ! ゴッドヒール!!」


 俺の尻が、激しく輝いた。


「いやああ!! ま、まぶしい!! な、なんなのよお!?」


 俺の尻の激しい光によって、敵の目がくらむ。


「おりゃあああ!!」


 俺はランラン丸を振りかぶり、敵の羽を斬り裂いた。


「きゃあああああ!?」


 敵の悲鳴があがる。


 なんだか、ちょっと罪悪感を感じる。


「よ、よくも私の羽を……!」


 俺は罪悪感を感じながらも、追撃を試みる。


 しかし、その行動は、一瞬で止められた。


 背後に強烈な殺気を感じたからだ。



 後ろを見ると、二人の男女が立っていた。


「あなたは!?」


 コルットが俺の前に出る。


 ユミーリアも、臨戦態勢に入っていた。


 現れた二人、その内のひとりは先日会ったばかりの女性だ。


「ジャミリー」


 俺は女性の名をつぶやいた。


 先日シンリンの森で会った、コルットと同じスト2のキャラクターで、Sランク相当の強さを持つ敵だ。


「悪いわね、その子を今失うわけにはいかないの。だから、回収させてもらうわよ」


 いつの間にか移動したのか、ジャミリーはすでにフィリスのそばにいた。


「な、なによ、よけいな事を……」

「黙りなさい。オウガ様の前よ」


 そう言われて、俺はもうひとりの男を見る。


 赤い髪に赤い瞳。


 筋肉はおそろしいほど膨れ上がっていて、周囲には黒い闘気が見える。


 これが、リュウガのライバルであり、邪神に取り込まれてしまった、スト2のラスボス、オウガ。


 実際に見ると、メチャクチャ怖い。


 俺は汗が止まらなかった。


 こうして向かい合っているだけで、息が止まりそうだった。


 せっかく生き残ったのに、また死ぬのか?


 オウガがその拳を前に突き出す。


 俺はコルットとユミーリアの前に出る。


「リクト?」

「おにーちゃん!?」


 俺は死んでも、二人は死なせない。


 絶対に、死んでも守ってみせる。


 俺の意思を感じたのか、絶壁のコートがピンク色に光る。


 俺はオウガを見つめる。



 次の瞬間、視界が真っ黒に染まった。


 だが、それだけではなかった。


「なに?」


 オウガの声がした。


 その瞬間、周囲にピンク色の光が広がり、黒い何かを払った。


 それは俺の、絶壁のコートだった。


「ほう、俺の攻撃を防ぐ、か」


 オウガがニヤリと笑う。



 助かった!


 何をされたかわからないが、このコートが俺を守ってくれたんだ!


 いける。


 これなら倒せないまでも、なんとかなるかもしれない!


 俺はオウガを再びにらみつける。



 そんな俺を見て、オウガが笑みを消す。



 俺は全力で、この場を乗り切る方法を考えていた。



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