38、再戦、ゴブリンクイーン
ゴブリンクイーン。
かつて俺を何度も殺した、俺にとっては死の象徴だ。
だが、重力修行をした今の俺なら勝てるはずだ。
俺は念の為、ゴブリンクイーンの冒険力を見る。
《ゴブリンクイーン 冒険力:3200》
今の俺の冒険力は、3800だ。なんとか勝てるはずだ。
だが、やはり何度も殺されたせいか、手足が震えている。
「リクト」
ユミーリアとコルットがこちらを見ている。
おそらく今の二人なら、ゴブリンクイーンなんて楽に倒せるだろう。
だが、できればこいつは俺が、俺の手で倒したい。
この手足の震えに勝って、俺の手で、決着をつけたいんだ。
「ユミーリア、コルット……頼む、俺にやらせてくれ」
「でも、おにーちゃん」
コルットが何か言おうとしたが、ユミーリアがそれを手でさえぎった。
「ユミーリアさん?」
「コルットちゃん。これは多分、リクトにとって大事な事なの……だから、ね?」
コルットは俺とユミーリアの顔を見比べる。
俺がうなずくと、コルットもうなずいた。
「わかった、気をつけておにーちゃん」
俺はひとり、前に出る。
二人にあそこまで言ったんだ。もう逃げられない。
いや、逃げるつもりは無い。
今後、モンスターに怯えて生きていくなんて、まっぴらごめんだ。
俺はこいつをここで倒して、今日からオレツエーな人生を始めるんだ!
俺はゴブリンクイーンの近くまで走る。
「ゴアアアアアアア!!」
俺を視認したゴブリンクイーンが、咆哮をあげる。
やっぱり、迫力があって、怖い。
だが俺は、気合いを入れてランラン丸を鞘から抜き、構える。
「再生怪人は弱いって決まってるんだ! ビビッてられるかよ!」
そもそもこいつは再生されたんだろうか? それとも新しいやつ? よくはわからないが一度倒した相手だ、負けるわけにはいかない。
まあ、倒したのはユミーリアなんだけどさ。
そんな風に考えていたら、ゴブリンクイーンが手に持った棍棒を、こちらに振り下ろしてきた。
「……っ!」
以前は振り下ろされただけで殺された、棍棒。
しかし、今の俺は……楽によける事ができた。
違和感。
そう、はじめに感じたのは、違和感だった。
「ゴアアアアア!」
ゴブリンクイーンが叫びながら、こちらに向かって棍棒を振り下ろしてくる。
何度も、何度も。
俺はそれを、軽くよけた。
そして確信した。
動きが遅い。
以前は攻撃をかわしきれない事が何度もあったが、今はどうだ。
余裕でかわせる。敵の動きが遅い。
というより、俺が速くなっているのか?
やはり重力修行は正解だった。
5倍の重力に耐え切った俺は、以前とは比べ物にならない程のスピードを得ていたのだ。
「ふふ……ははははは!」
いざ真剣に動いてみると、身体が軽い。まるで羽が生えたようだ。
俺はその勢いで、相手の左手を斬り裂いた。
「ゴアアアアアアアア!?」
ゴブリンクイーンの左手が落ちて、消滅する。
いける!
冒険力は俺の方が上、スピードも俺の方が上で、さらにランラン丸のこの切れ味。
今の俺なら倒せる!
もう何も、怖くない!
「オラアアアアアア!!」
俺は思いっきりジャンプする。
なんとゴブリンクイーンの頭より上までジャンプできた。
重力修行ってスゴイ。
「これで、終わりだあああああ!!」
俺は全力でゴブリンクイーンを、頭から下に一直線に斬り裂いた。
「ご、ゴアアアア!?」
ゴブリンクイーンが消滅して……
「バカめ! かかったな!」
「え?」
近くに居た邪神の使徒が、突然叫んだ。
「死ね! ゴブリンクイーンよ! 自爆せよ!」
邪神の使徒がそう叫んだ瞬間、ゴブリンクイーンが自爆して、大爆発を起こした。
「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」
真っ白な空間に、羽を生やした男勇者が居た。
いや、そいつは男勇者ではなく、神様だった。
「まあ、あれだけ死亡フラグ全開なセリフを言った上、油断していればこうなりますよねー」
男勇者の姿をした神様は笑っていた。
ここは神様の空間。死んだ俺が訪れる場所だ。
「いやいやいや! なんだよあれ、反則だろ!?」
ゴブリンクイーンを倒したと思ったら、自爆した。
そして俺は、死んだ。
「いやあ、まさかここで死ぬとは思いませんでしたよ。まあ、今回は回避方法ももうわかっているでしょうから、さっさと戻ってくださいねー」
そう言うと神様は、俺の動きを封じて尻を撫でてきた。
死んだ俺はこうして神様に3分間、尻を撫でられなければ生き返れないのだ。
前回はラブ姉の姿だったから、ぶっちゃけ気持ちよかったが、今回は男勇者の姿なので、気持ち悪い。
しかし、回避方法か。
まあ今回は簡単だ。邪神の使徒を先に倒せばいい。
となると、後はこの気持ち悪い、神様が俺の尻を撫でるのを耐えるだけだった。
俺は3分間、神様の尻撫でに耐え切った。
「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」
俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。
気がつくと、俺は情熱の街、パッショニアに居た。
「大丈夫、リクト?」
ユミーリアが心配そうにこちらを見ていた。
俺は死んだら、その日の一番最初に、俺が目覚めた時間に戻るはずだが、どういう事だ?
あれか、街に着く辺りで確か、一度ウトウトした事があったっけ。
そうか、それで一瞬落ちて、目が覚めた瞬間がここなのか。
すると俺は、今からまた尻を光らせて、邪神の使徒をおびき出さないといけないのか。
「リクト様、大丈夫ですの?」
カマセーヌさんも心配してくる。
だが、俺はこの人が、俺の尻を光らせる為にこの街につれてきた事を知っている。
そう思うと、今までの胸をおしつけてきたりしていた行為が、全てここにつれてくる為の罠だったと気付く。
モテ期ではなかったのだ。ちくしょう。
ていうか護衛依頼で来てるんだから、余計な事しなくてもちゃんと来たってのに、期待を持たせる様な事をしやがって。
俺はため息をつきながらも、カマセーヌさんの指示に従った。
そして再び、祭壇で尻を光らせると、邪神の使徒とゴブリンクイーンが現れた。
「ユミーリア、コルット、ゴブリンクイーンを抑えていてくれ。俺は先に、あの邪神の使徒を倒す」
そう、先に邪神の使徒さえ倒してしまえば、自爆はしないはずだ。
「先にゴブリンクイーンを倒すとやっかいな事になるから、足止めだけにしてくれ」
俺は二人に、先にゴブリンクイーンを倒してしまわない様に指示を出す。
「わかったわリクト、気をつけて」
「倒さない様にすればいいんだね、任せておにーちゃん!」
俺は二人と別れて、邪神の使徒を目指す。
「な、なんだ? なぜこちらに来る!?」
「あいつがお前の指示で自爆するのはわかってるんだよ! 観念しろ!」
俺は素早く邪神の使徒に近づき、ランラン丸で邪神の使徒を斬り裂いた。
「ぐはっ! な、なぜそれを?」
「それよりも答えろ、こいつは以前、一度倒したはずだが、なぜまたここにいる?」
俺は邪神の使徒をにらみつけた。
「じゃ、邪神様の力は無限大なのだ! モンスターを何度も生み出すくらい、できて当たり前だ! だからこそ、この世界を征服できるのだ!」
邪神の使徒は斬り裂かれ、倒れながらも強気に語った。
「見ていろ、貴様らが何をしようとも、いずれ我らが邪神様が世界を征服し、滅ぼすのだ! このゆがんだ、理不尽な世界をな!」
俺は邪神の使徒に、とどめをさした。
「ぐふっ」
「何がゆがんだ理不尽な世界だ。お前にとってはそうかもしれないが、最高だろう、この世界は」
俺は邪神の使徒が死んだ事を確認して、ゴブリンクイーンの元に向かった。
ユミーリアは炎の剣で炎を生み出し、ゴブリンクイーンの周囲を炎でおおっていた。
コルットはフレアボールの魔法をゴブリンクイーンの足に向かって放っていた。
「二人とも、ナイス足止め! もう大丈夫だ。一気に倒すぞ!」
俺はそう叫んで、思いっきりジャンプした。
「今度という今度こそは終わりだ! 消えてなくなれええええ!!」
俺はランラン丸を振り下ろし、頭から下に一直線に斬り裂いた。
「ゴアアアアアアアア!?」
ゴブリンクイーンは消滅し、あとには魔石が残った。
勝った。
今度こそ本当に、勝ったんだ!
「うおおおおお!!」
俺はおたけびをあげた。
俺はついに、死の象徴を倒したのだ。
そしてレベルが上がった。
《リクト レベル19 冒険力5,200》
冒険力が大きく上がった。
ははは、どうだ! 俺だってやればできるんだ!
「やったね、リクト!」
「すごいよおにーちゃん!」
ユミーリアとコルットが駆け寄ってくる。
俺は思わず、二人を抱きしめた。
「り、リクト?」
「おにーちゃん?」
俺は二人を強く抱きしめる。
ここまでこれたのは、二人のおかげだ。
そして、これからも一緒にがんばっていきたい。
「ありがとう、二人とも。これからもよろしくな」
俺が言った事に、二人はいまいちピンときていない様だったが、それでもうなずいてくれた。
「本当に、ありがとうございますリクト様。あなた達のおかげで、この街は救われましたわ」
俺達に声をかけてきたのは、カマセーヌさんだった。
「カマセーヌさん、俺、もうみんなの前で尻を光らせるのは、ごめんですからね?」
俺がそう言った途端、カマセーヌさんは笑った。
「ウフフ、ごめんなさい。でも、これからもお願いする事になりますわよ」
「できればカンベンしてほしいな」
「邪神の使徒がこれで最後とは思えませんから。ともあれ今回は本当に助かりました。これから宴をひらきますので、ぜひ楽しんでいって下さい。まあ、あのリクト様が出したお肉に敵う料理は出せませんけど」
そう聞いた俺は、こっそりマイルームからイノシカチョウのレア肉を出した。
「せっかくだから、その宴でみんなにもふるまってくれ。二度と邪神になんか惑わされるなってさ」
俺の言葉を聞いてレア肉を受け取ったカマセーヌさんは、これまで見た事のない笑みを見せた。
「本当に、ありがとうございます、リクト様」
ちょっとドキッとした。
こうして俺達は、宴を楽しみ、その日の内に帰る事にした。
「本当に、泊まっていかなくてよろしいのですか?」
カマセーヌさんは俺達に泊まっていく様に言ってくれた。
「ああ、もしかしたら聞いてるかもしれないけど、俺にはギルドに一瞬で帰れる魔法があるんだよ」
「そういえば、ラブルンさんとそんな話をされておりましたわね」
俺のその言葉に納得したカマセーヌさんは、深いお辞儀をした。
「この度は、本当にありがとうございました。パッショニアを救ってくれた英雄、リクト様。私達はいつでもあなたのお力になる事を約束しましょう。何かあれば、いつでも言ってください」
なんだかおおげさな事を言われているが、悪い気はしなかった。
俺はマイルームを出して、情熱の街、パッショニアをあとにした。
「さてじいや、あのお尻の神秘的な光と、その後のレア肉、リクト様は十分な功績を残して下さいました」
「その通りですな、お嬢様」
リクト達が去った後、カマセーヌのそばに、いつの間にか老紳士が立っていた。
「邪神の使徒に対抗するには、この手段しかありません。抜かりなく行う様に」
「承知しました」
そう言って、老紳士は去っていった。
「リクト様、あなたが残してくれたこの種火、必ず大きな、情熱の炎にしてみせますわ」
この後、パッショニアで起こる事態にリクトが気づくのは、当分先の話である。
俺達はギルドに戻り、今日の分のレア肉を提出して、護衛依頼の終了報告も済ませた。
「はい、それでは今日の分、5万Pと、モンスターの魔石が全部で620Pですね」
合計5万620Pだ。これを半分、パーティ資金にする。
残り半分を3人で分けて、ひとり8400Pの分け前にする。
あまった分はパーティ資金に入れるので、パーティ資金はプラス2万5420Pだ。
パーティ資金は35万2320Pになり、俺個人の所持金は……今回1回死んだから半分になっていて、4万8400Pになった。
「ラブ姉、もし家を持つとしたら、お金はどのくらい必要かな?」
俺はかねてより計画していた、自分の家について聞いてみる事にした。
「そうですね、リクトさんだけの家なら今でも購入できる物件はあるかもしれませんが、みなさんで住むとなると、100万Pは必要かと思います」
そうか、俺個人の家にするか、パーティの拠点にするかによって変わってくるのか。
とはいえ、女の子と同居するのは、どうなんだ?
「リクトと私の家」
「おにーちゃんとわたしの家」
二人は目を輝かせていた。
まあ、コルットは実家があるが、ユミーリアは俺と同じ、宿屋暮らしだもんな。
あくまでパーティの拠点としてなら、ありかもしれない。
「ですけどリクトさん、この街で家を持とうとすると、Cランク以上の冒険者にならないと、許可はおりませんよ?」
「え? そうなんですか?」
初めて聞いたぞそんな設定。
そうか、ゲームでは自分の家を持つのは、エンディングの後、つまりSランクになってからだもんな。説明を受ける必要もなかったわけだ。
「じゃあ、早いとこCランクになって、100万Pを貯めないと、だな」
結構目標が身近になってきた気がする。
「よし! さっそく明日、残りのCランク昇格試験を受けよう。明日は遺跡の調査に行こうと思うんだが、どうだ?」
俺は念の為、ユミーリアとコルットに聞いてみる。
「私は大丈夫、まだまだ力はあまっているわ!」
「わたしも! おにーちゃんと一緒ならどこまでも!」
二人の元気な返事を聞いて、俺はラブ姉に話しかける。
「ラブ姉、そういうわけだから、明日は遺跡調査でよろしく!」
「ふふ、はいはい、わかりました。でも、無理はしすぎないでくださいね」
こうして俺達は、次の日遺跡調査に向かう事になった。
しかしこの時、俺は気付いていなかった。
これまでの細かい積み重ねによって、遺跡がとんでもない事になっている事に。
Cランク昇格試験として冒険者が向かう、コダイノ遺跡。
そこでは今、邪神の使徒による、ある計画が実行されようとしていた。
リクト レベル19 冒険力5,200
ユミーリア レベル28 冒険力:29,500
コルット レベル25 冒険力:21,220
リクト所持金:4万8000
パーティ資金:35万2320P




