36、強敵、ジャミリー現る
修行を終えた俺達は、ゴブリン相手にその実力を試すべく、ゴブリン達が生息する森へきていた。
以前この森に来た時は、木々によって視界がさえぎられ、森独特の空気に恐ろしさを感じていた。
だが今日はどうだ。
まったく怖くない。
「よし、とりあえず一人ずつ、ゴブリン相手に試してみよう。まずは誰からやる?」
俺はユミーリアとコルットに話しかける。
「はい! わたしやるー!」
ケモ耳幼女のコルットが手をあげた。
「よし、それじゃあいってこい!」
「はい!」
コルットが駆けて行き、さっそく出てきたゴブリンに攻撃を仕掛ける。
「やっ!」
コルットが蹴りを放つと、ゴブリンは一瞬で消滅した。
「……おにーちゃん、つまんないよー」
完全に物足りなさそうだった。
続くユミーリアも、剣を軽く振っただけでゴブリンは消滅した。
「全然参考にならないね、どうしようリクト?」
ゴブリンではまったく相手にならない。というかどれだけ強くなったかもわからなかった。
「うーん、困ったなあ」
俺はどうするべきか考えていた。
その時、上空から声が聞こえた。
「ならば私が、試してあげましょうか?」
俺達は空を見上げた。
すると大きな木の上に、人が立っていた。
そいつは、金色の覆面をつけていた。
覆面には見覚えがある。
邪神の使徒だ。
だが、金色の覆面なんてのは、ゲームには存在しなかった。
「ま、まさか!?」
俺は背中に汗が流れるのを感じた。
ゲームで見た事ない色の覆面。そして先日聞いた、ゲームでは出てこなかった敵……
「Sランクの、敵か?」
邪神の使徒は飛び上がり、地面に降り立った。
アレだけの高さから降りたというのに、物音ひとつたっていなかった。
「あなた達の事は今、私達の中で大きな話題になっているわ。ゴブリンキングとクイーンを倒し、Aランクだったライシュバルトを倒した、勇者さん達」
その口調、声から女性だという事がわかった。
そして、感じる威圧感。
こうして向かい合っているだけでも、足が震えてくるのがわかる。
「そこの坊やは大した事ないみたいだけど、お嬢さん達は強そうね。ライシュバルトを倒したのは、あなた達かしら?」
邪神の使徒がユミーリア達に向き合う。
「少し、相手をしてもらおうかしら?」
邪神の使徒が構えをとる。
どうやら武器は持たない、格闘家の様だ。
「ユミーリアさん、ここはわたしが」
コルットが前に出て、構える。
「お嬢さんも格闘家、なのかしら?」
「はい、ヤードヤ流、コルットと言います!」
コルットの武術って、ヤードヤ流っていうのか、初めて聞いた。というか親父さんの名前だな、それ。
「楽しみだわ。どれだけ楽しませてもらえるのかしら?」
俺はコルットと対峙する邪神の使徒を見る。
俺の尻が光り、光は文字となって俺の前に現れる。
《ジャミリー 冒険力:5万5000》
だ、ダメだ! 今のコルットの冒険力は、2万1220、とても勝てる相手じゃない!
というかジャミリーって! お前、コルットと同じ《ストレートファイター2》のキャラクターじゃないか! ここで出てくるのかよ!?
「いくわよ!」
ジャミリーが地を蹴って、コルットへ迫る。
「ふっ!」
コルットは前に出て、お互いの右腕をぶつけ合う。
「やるじゃない、でも、まだまだ!」
ジャミリーは一度後ろに下がり、すぐさま前に出てコルットに下蹴りを放つ。
コルットはそれをよんでいたのか、ジャンプして飛び蹴りを放った。
「残念、それは悪手よ」
ジャミリーはコルットの足を掴み、そのまま投げ飛ばした。
「きゃあああああ!!」
コルットが木に激しく叩きつけられる。
「まだまだあ!」
ジャミリーはさらにコルットに迫り、拳を叩き込む。
コルットはなんとかガードするが、完全に劣勢になっていた。
「コルットちゃん!」
ユミーリアが剣を振りかざし、援護に向かう。
「ダメだ! ユミーリア!」
俺はユミーリアを止めるが、間に合わない。
「邪魔よ」
敵の腕が円を描く。そしてその中心から、黒い気の塊が現れる。
「な、なに!?」
「黒煉弾!」
黒い気の塊がユミーリアに向かって放たれる。
「きゃあああああ!!」
ユミーリアはそれをモロに食らって、吹き飛ばされた。
コルットはすでに気絶している様だった。
これがSランク、だというのか?
「なるほどね、ライシュバルトが勝てないわけだわ」
ジャミリー手でホコリをはたくと、俺の方を向いた。
「それで、もう終わり? そっちのお兄さんはどうする? まだやる?」
俺は震えて動けなかった。
だが、ユミーリアとコルットがやられて、黙っているわけにはいかない。
「うおおおお! ランラン丸! やるぞ! 融合だ!」
「待つでござるリクト殿! それより逃げるでござるよ! 今の拙者達では融合しても、やつには……!」
ランラン丸が止めるが、俺は聞く耳を持たなかった。
「逃げられるわけないだろう! やるしかないんだ! ランラン丸、頼む!」
「くっ! ……わかったでござる、こうなったら、やってやるでござる!」
俺はランラン丸を鞘から抜き、前に構える。
「あら? 何をするつもりかしら?」
俺は息を整え、叫ぶ。
「合!」
「結!」
俺の尻が光り輝き、俺とランラン丸は、ひとつになる。
俺の髪に紫色のメッシュが入り、瞳は金色に、服は黒い着物になる。
「あら、おもしろいじゃない。さっきまでの坊やとは、違うみたいね?」
俺は相手の言葉を待つまでもなく、相手に斬りかかった。
「てりゃああ!」
俺は刀を思いっきり振りぬいた。
「っ!?」
俺の速度が相手の予想を上回ったのか、相手の脇腹に、ひとすじの傷を与えた。
「油断したわ。まさかそこまで強くなるなんて、あなた何者なの?」
「それはこっちのセリフだ。その強さ、あんたがライシュバルトの言っていた、Sランクの使徒だろう?」
俺の言葉に、ジャミリーは黙ってこちらを見つめていた。
「……そうね、いいわ。私に一撃当てたご褒美に、教えてあげる」
ジャミリーは金色の覆面を取る。
そこには、俺の良く知る、《ストレートファイター2》のキャラクター、ジャミリーが居た。
緑色の長い髪をみつあみにしていて、目つきは鋭い。
確か元軍人で、アサルト格闘術を使うって設定だったか?
「私はジャミリー。邪神の使徒であり、オウガ様に仕える者」
「お、オウガだって!?」
オウガは《ストレートファイター2》のラスボスだ。
まさかというか、やっぱり居たのか、しかも、敵に。
「オウガ様を知っているの? あなた、本当に何者なのかしら?」
「……」
ゲームで知っています、って言ってもしょうがないよな。
オウガは、初代主人公リュウガの親友だ。初代では味方だったが、2では邪神に取り込まれて、ラスボスになったんだっけ。
そうか、ここでも出てくるのか、邪神。
もちろん、クエファンの邪神とは違うはずだが、もしかしてこの世界では同じ扱いなのか?
「面白いわねあなた。気が変わったわ。本当は今日ここであなた達を皆殺しにするつもりだったのだけど、生かしておいてあげる」
「……なぜだ?」
俺は刀を構え、いつでも戦える様にしている。
だが、相手はすでに構えをといていた。
それでも俺は、相手に斬りかかれずにいた。スキが見つからなかったからだ。
「あなた達が、どれだけ私達に迫ってこれるか、楽しみになったの。だから生かしてあげる。そのかわり、もっともっと強くなってちょうだいね。それまでは手を出さず、待っていてあげる」
そう言って、ジャミリーは去っていった。
俺は気が抜けて、ランラン丸との融合がとけた。
一気に疲れが押し寄せてきて、俺はその場に座り込む。
「はあ、はあ、助かった、のか?」
「なんとか、というか完全に拙者達の負けでござるよ」
ランラン丸が悔しそうにつぶやいた。
Sランクの邪神の使徒。
その内の2人は《ストレートファイター2》のキャラクター、ジャミリーとオウガだった。
残る2人は誰なのか……どちらにしても、今の俺達では勝てそうになかった。
「もっと強くならないとな、俺達」
「でござるな」
俺はユミーリア達を回復し、マイルームで街に戻った。
その日のイノシカチョウのレア肉を納品し、宿屋へと戻る。
「おかえり……って、おい、どうした? まさか負けたのか、コルット?」
宿屋の、コルットの親父さんが声をかけてきた。
「ううっ、ごめんなさい、負けちゃいました」
コルットが悔しそうに涙を流す。
「おめえ、最近強くなったんじゃなかったのか? いったいどこの誰に負けたんだ?」
「……」
コルットは答えなかった。
かわりに俺が答える事にした。
「親父さん、俺達が負けた相手は、オウガの部下の、ジャミリーだ」
オウガの名前を聞いて、コルットの親父さん、リュウガさんの顔つきが変わった。
「……本当、なのか」
「ああ、相手がそう言っていた」
この世界で、リュウガさんとオウガに何があったのかは知らない。
だが、親父さんの顔つきを見ると、無関係とは思えなかった。
「それで、相手はなんだって?」
「何も。どうやら俺達を殺しにきたみたいだったけど、俺達が成長するまで待ってくれるんだとさ」
俺の言葉を聞いて、親父さんが拳をにぎる。
その拳からは、うっすらと血がにじんでいた。
親父さんはその後、何も言わなかった。
「しばらくそっとしておいてあげて。あの人も、何か考えがあるみたいだから」
コルットのお母さんが出てきて、俺達を宿に迎え入れてくれた。
「リクト」
部屋に向かう途中、ユミーリアが話しかけてきた。
「私、強くなるよ。今度は絶対に負けない。もう、コルットちゃんを泣かせたくない」
ユミーリアの瞳に、強い決意が感じられた。
「ああ、俺もだ。今度は絶対に負けない」
俺達は強くなって浮かれていた。
だが、さらに強くなる必要が出てきた。
意外な強敵の出現に、俺達は決意をあらたにした。
次の日、俺はいつも通り、イノシカチョウのレア肉納品の為に、ギルドを訪れた。
「あ、リクトさん、おはようございます。ちょっといいですか?」
いつも通りの笑顔で、ラブ姉が俺を迎えてくれた。
「なんですか?」
「リクトさん達、最近すっごく強くなってるじゃないですか、だからそろそろ、Cランク昇格試験を受けてもらおうと思いまして」
Cランク昇格試験か。
確か、商隊の護衛と、遺跡調査と、フレアイーグルの討伐だったか。
そういえば、最近見ないが、男勇者達はどこまで受けたんだろう?
「ユウさん達は、先日遺跡調査を終えましたよ。あとはフレアイーグルの討伐だけです」
ふむ、あんまり進んでないみたいだな。
Cランクか。
これからのストーリーの為にも、ランクは上げておいた方がいいだろう。
「わかりました、Cランク昇格試験を受けます」
「良かった! それでは早速、護衛依頼を受けて頂きたいんです」
え? 早速?
「は、早くないですか?」
「実は、先日からリクトさんに、護衛の依頼がきていたんですよ。なのでちょうどいいかなと思いまして」
俺に依頼?
いったいどういう事だ?
「あなたがウワサの尻魔道士ね?」
俺は声がした方を振り向いた。
そこには、褐色の巨乳の、お嬢様が立っていた。
「私はカマセーヌといいますの。尻魔道士さん、あなた、お名前は?」
「え? はあ、リクトです」
「そうリクト……ねえ、早速だけど、あなたのお尻が光る所、見せてもらえないかしら?」
なんだこの人?
「まあ、別にいいですけど」
俺は何を使って尻を光らせるか考えて、とりあえずゴッドヒールを使う事にした。
「ゴッドヒール」
俺の尻が、激しく光り輝いた。
「きゃー! 本当に光りましたわ! すごいですわ! 神秘ですわ!」
カマセーヌさんが喜んでいた。
そしてそのままの勢いで!
「あなた! ウワサ通り、素晴らしいですわ!」
俺の腕に、大きなお胸を押し付けてきた。
「リクトさん、それではカマセーヌさんの護衛依頼、お願いしますね」
どうやらこのお嬢様を護衛するのが、昇格試験のひとつの様だった。
俺は腕に当たる柔らかな感触に酔いしれ、この後に修羅場が待っているなど、思いもしなかった。




