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31、盗賊のアジト攻略戦

 ついに全然知らないモンスターが現れた。前回のゴブリンクイーンとは違い、本来出てくるモンスターのメスバージョンではない。


 ライオルオーガ。しかも冒険力は57,000ときた。完全に勝たせる気が無いとしか言いようがない。



 なぜこんなモンスターが出てきたのか。


 それはおそらく、本来のストーリーとは違って勇者が二人いたからだ。


 邪神の使徒は、勇者がひとりなら何とかなると思っていたのかもしれない。

 だが、勇者が二人もそろってせめて来たもんだから、ヤケになってあのモンスターを出してきたのだろう。


 きっと本来のストーリーでは、あのモンスターは盗賊のアジトの奥でずっと眠ったままなんだろうな。


 だとすれば方法は簡単だ。

 勇者が二人だと相手に知られなければ良い。


 ユミーリアに、いや、みんなに言っておけばいいだろう。


 勇者が二人も来たと知れば、相手が警戒してしまうから、ユミーリアが勇者である事は黙っていようと言えばいい。



 他にはなにか無いか?


 元々所持金は10Pピールしか残していなかったから、いくら所持金が半分になろうが痛くない。

 尻を撫でられるのも、今回は相手がラブ姉の姿なおかげで、さほどつらくない。


 だが、死ぬのに慣れるっていうのは良くない気がする。


 今回、初めて俺は、自分から死にに行った。

 それは、死んでもまたやり直せるからだ。


 だけど、簡単にやり直せると思えば……慎重さがなくなってくるだろう。


 今回の様に、1日の間で何度もやり直す事自体はいい。実際、死に戻りがなければ、俺のこの世界での人生はあっという間に終わっている。


 だがその事で、普段も慎重さがなくなってしまってはまずい。


 今回の発端になった、あのうかつな男勇者への助言の様に安易な行動が、取り返しがつかない事に繋がる事もある。


 気をつけなければいけない。


 死に戻りは有効活用しつつ、死んでもいいやと気楽にならない様にする。

 これを心がけなければいけない。



「考えはまとまりましたか?」


 どうやら神様は、俺が考えているのを待っていたみたいだ。


「……意外だな、尻も撫でずに待っているなんて」


「いえ、大事な考え事みたいですからね。私のスタンスは、あくまであなたにこのゲームの世界を楽しんでもらうという事ですから。その為の邪魔はしませんよ」


 ラブ姉の姿で神様は笑った。


 ゲームの世界を楽しむ、か。


 そうだな、どこまでこの神様が本気かは知らないが、あんまり深く考えていても仕方ないだろう。


 そうだ、俺はさっさとストーリーを終わらせて、平和な世界でユミーリア達と楽しく生きるんだ。

 こんな所でずっとやり直している場合じゃない。


「よし、さっさと始めてくれ! 神様!」

「はい! それでは撫でますよ!」


 神様が笑顔で俺の尻を撫で始めた。


「うおおお! 待ってろよちくしょおおお!」

「あ、いいですよその力の入れ方! 新たなお尻の感触です! 新触感です!」


 神様のその言い方が気持ち悪くて、俺は力を抜いた。


 せっかく人が気合いを入れたのに、なんて事を言いやがるんだこのクソ神様め。


 やっぱりこの神様はクソ神様だ。ちょっとでもいいやつだと思ったのは間違いだったな。



「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」


 俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。




 俺はいつも通り、マイルームの俺の部屋で目覚める。


 準備を終えた俺は、話があるとみんなを集めた。


 そこで、コルットの事、罠の事を話した。


 そして、勇者が二人も居ると知れば相手が警戒してどんな手を使ってくるかわからないから、こちらが勇者である事は隠し、ユミーリアにも、勇者である事は黙っている様に言った。


「わかった、リクトがそう言うなら、私は賛成よ」


 ユミーリアさえ黙っていてくれれば、相手に知られる事はないだろう。


 あとはユミーリアが張り切り過ぎない様に、今回はコルットの頭を撫でるのは我慢する。


 ユミーリアが張り切っていたのは、俺がコルットの頭を撫でた事が原因だと思ったからだ。



 しかし、それが良くなかった。



「……あ! おにーちゃん! そこダメ!」

「え?」


 盗賊のアジトに入った俺は、再び盗賊の罠に引っかかって、死んだ。




「おお、素晴らしき尻魔道士よ! 死んでしまうとは なさけない」


 俺は再び、真っ白な神様の空間に居た。


「なんでだよ! なぜなんだコルット! なぜ今回に限って罠を見抜けなかったんだ!?」


 俺は地面を叩いて悔しがった。


 次は死なないぞと、あんなに気合いを入れていたのに。


「あっはっは、女心がわかっていませんねー」

「なんだよ、どういう事だよ?」


 俺は笑ってくる神様をにらみつける。


「そりゃあ、頭を撫でられるか撫でられないかでは、気合いの入り方が違うに決まっているじゃないですか」


 笑顔のままそう告げる神様の言葉を聞いて、俺は力が抜けた。


「嘘だろ……じゃあなにか? 俺がコルットの頭を撫でてやらなかったから、コルットの気合いが足りてなかったって事か? それで死ぬとか、なんなんだよもう……」


 俺は頭を抱えた。


 コルットの頭を撫でればユミーリアが暴走するかもしれないし、コルットの頭を撫でなければコルットの気合いが足りず、罠を見落とす。


「……待てよ? コルットがいなかった勇者達は、どうやって盗賊のアジトを攻略したんだ?」


 本来のゲームのストーリーにコルットはいない。

 なら、勇者達はどうやって盗賊のアジトを、罠にかからず攻略できたのか。


 ……ゲームでは罠とか、一切なかったな。どういう事だ?


「運ですね」

「運かよ!?」


 神様の身もふたもない発言に、俺は絶望した。


「そりゃあ、仮に彼らは勇者ですから。盗賊の罠に引っかからないくらいの運はありますよ」


 神様が笑顔でとんでもない事を言っている。


「俺は運で死んでるのかよ」

「だって、これまであなた以外、誰も罠で死んでないでしょう?」


 ああそうか。つまりはだ。俺だけがコルットが罠を見つけてくれないと、罠に引っかかって死んでしまうという事か。


 それにはコルットの頭を撫でなければいけない。しかしコルットの頭を撫でると今度はユミーリアが自分もほめてほしくて張り切ってしまい、相手に脅威を与えて、あのライオルオーガを呼びかねない。


八方塞はっぽうふさがりじゃないか、こんな事で……」



 ……とりあえず、コルットの頭を撫でるしかない。


 そこをクリアした上で、ユミーリアが暴走しない様に、自分が勇者だと名乗らなせない様に……さらには、ユミーリアを目立たせない様にしなければいけない。


 勇者だと名乗らなくても、目立ってしまってはマズイ。


 あの邪神の使徒に、脅威を感じさせてはいけないのだ。そうしなければ、ヤツはライオルオーガを放ってしまう。



 邪神の使徒が出てきた瞬間、倒すしかない、か? ライオルオーガを呼び出す前に、さっさと倒すしか……


「さて、それではここで問題です。ユミーリアが暴走してしまったのは、なぜでしょうか?」


 俺の考えをさえぎる様に、神様が急にこちらに話しかけてきた。


「なぜって、それは……」


 ユミーリアが暴走する理由。

 多分それは、俺がコルットの頭を撫でたからだ。自分も頭を撫でられたかったから、だと思う。実際そう言ってたし。


 つまりは、あれか?

 俺がユミーリアの頭も撫でてやればいいと、そう言いたいのか?



 神様はニコニコ笑っているだけで、何も答えなかった。




 結局、俺は……




「えへへ、急にどうしたの? リクト」


 コルットの頭を撫でた後、ユミーリアの頭も撫でた。


「何よ、見せつけてくれるわね?」


 魔法使いがニヤニヤ笑って茶化してくる。ウザイ。


「ふむ、兄としてはそう簡単に妹の頭を撫でられるのはどうかと思うんだが、その……」


 男勇者もなにか言ってくる。だが。


「……なんで無表情なんだい? リクト」


 俺の表情を見て、深くは追求してこなかった。


「黙っていてくれユウ、これは、必要な事なんだ。決してやましい気持ちは無い」


 そうだ、こんな事でやましい気持ちを抱いてはいけない。


 心を無にするんだ。決して好きな子の頭を撫でているとか、意識するんじゃない。


 でなければ……俺はみんなの前であろうと、この可愛い生物を抱きしめてしまいかねない。


 そんな余計な事をすれば、また別の問題が起きて、死んでしまうかもしれない。


 俺は心を無にしてユミーリアの頭を撫でながら、ユミーリアに語りかける。


「いいかいユミーリア、今回はユウの未来を本来の状態に戻すのが目的なんだ。俺達は目立たない様にしような。決して自分が勇者だと名乗ったり、張り切って目立っちゃいけないよ?」


「うん、なんだかよくわからないけどリクトがそう言うならそうする」


 ユミーリアが笑顔で答えてくれる。

 よし、これなら問題ないだろう。



「うーん、妹がうれしそうにしている事を喜ぶべきか、なんだか洗脳されている様に見える事に危機感を覚えるべきか」


 そこの男勇者、洗脳とか言うな。


「これはあくまで作戦の確認だ。とにかくここで盗賊のアジトを潰して乗り切らなければ、俺は先に進めない……」


 俺はユミーリアの頭を撫で終わった後、みんなに最後のお願いをする。


「みんな聞いてくれ、色々お願いしている所申し訳ないが、最後にもうひとつだけ、頼みがあるんだ」


「何よ、今さらだから早く言いなさい」


 魔法使いが俺の言う事をうながしてくれる。


「ありがとう。今回、盗賊達を倒していると、いずれ緑色の覆面を被った男が出てくるはずだ。そいつが現れたら、真っ先に倒してほしいんだ」


 俺の言葉に、みんなが若干反応する。


 個人を真っ先に倒せ、というのはどういう意味か。それを考えているのだろう。


「その覆面の男は、邪神の使徒なんだ」


 俺のその言葉に、男勇者がいち早く反応する。


「邪神の使徒って、以前君が言っていた?」

「知ってるの兄さん?」


 即座に反応した男勇者に、ユミーリアが驚いていた。


 この中で、邪神の使徒の事について話をしてあるのは、男勇者とランラン丸だけだ。


「ふむ、そういう事でござるか。ならば確かに、出てきたら真っ先に倒した方がいいでござるな」

「ああ。リクト、任せてくれ。そういう事なら、僕も協力するよ」


 二人には、邪神の使徒が邪神を復活させ、世界を滅ぼそうとしている事を話してある。


 邪神の使徒の危険性は、理解してくれていたみたいだった。


「何よそれ、私達には説明してくれないの?」


 魔法使いがつっかかってくる。


「マホ、これはリクトの秘密の任務にかかわる事なんだ。だからあまり聞かないであげてほしい」


 男勇者にそう言われ、魔法使いがため息をつく。


「あのね、秘密の任務って言っちゃう時点でどうなのよ? まあいいわ。ユウに免じて許してあげる。というかユウ、今後はその、秘密の任務っていうのも、言っちゃダメよ、多分」


 魔法使いの気づかいがありがたい。やっぱりこの人、良い人だ。


 というか男勇者め、秘密の任務にかかわるって、いかにも何かありますって言ってる様なもんじゃないか。


 やはり男勇者は口が軽い。今後は情報の開示には気をつけよう。



 俺達は作戦を確認し、盗賊のアジトへ向かった。



「コルット、頼むぞ、お前の力が必要なんだ」


 俺は念の為、盗賊のアジトの入り口で、コルットのやる気をあげておく。


「うん! 任せておにーちゃん!」


 これで罠は大丈夫だろう。



 あとは、あのライオルオーガが出てくる前に、邪神の使徒を倒すだけだ。



 俺達は奥に進み、広間にたどり着く。


 そしてそこに居た盗賊達を、次々と倒していった。


「おのれ! 何者だ! ……キサマ、まさか勇者か!?」


 突然出てきた緑色の覆面の男……邪神の使徒が男勇者を見て叫んだ。


 男勇者の事は知っているのか。

 ゴブリンキングを倒した時にでも見ていたのだろうか?


 だとすれば、ゴブリンクイーンを倒したユミーリアの事も知っているかもしれない。


 ならば、ユミーリアが居る事に気付く前に、倒すしかない。


「おおおお!」


 俺はランラン丸を振りかぶり、邪神の使徒に向かう。


「む? なんだキサマ!」


「これで終わりだあああ!!」


 俺はランラン丸を振り下ろし、邪神の使徒を斬り裂いた。


「ぐあっ!」


 だが、俺の攻撃が浅かったのか、邪神の使徒を倒すまでに至らなかった。


「フレアボール!」


 横から炎の魔法が飛んできた。


 魔法を撃ったのは、コルットだった。


「ぐあああっ!」


 炎の魔法は邪神の使徒に直撃した。


「リクト! そのまま動かないで!」


 後ろからユミーリアの声が聞こえた。


「……っ! まさか、キサマは!?」


 邪神の使徒が、ユミーリアに気付いた。


「てやあああ!」


 ユミーリアが炎の剣で、邪神の使徒を斬り裂いた。


「ぐあああああっ!」


 邪神の使徒は燃え上がり、消えていった。



 振り返ると、盗賊も男勇者達によって、全て倒されていた。


「お、終わったのか……」


 俺は力が抜けて、その場に座り込んだ。


 今度こそ、終わったのだ。



 俺はようやく、盗賊のアジトの攻略を、達成した。



 だが、そこでふと思う。


 実際にはまだ残っている、あのライオルオーガの存在をどうすればいいかだ。

 本当に、このまま放っておいていいのだろうか?


 俺は邪神の使徒が出てきた、奥の方を見る。


 奥には道がまだ続いている様だった。



「多分もう残党はいないと思うけど、行ってみる?」


 俺の様子に気付いたのか、魔法使いが話しかけてきた。



 どうする? ヘタに手を出さない方がいいんじゃないのか?

 

 ゲームだと奥に行っても何も無かったはずだ。


 というより、本来はこの奥の広間で、邪神の使徒と戦うんだ。


「……あれ?」



 俺はゲームの流れを思い出していて、そこでひとつ、思い出した。というより気付いた事があった。




 オイ、盗賊の親分はどうした?



 俺は周囲で倒れている盗賊達を見る。


 どれも同じ様な格好だ。一目で盗賊の親分だとわかる様なやつがいない。


 本来はここで1度、盗賊の親分と戦って、負けた親分は奥の広間に逃げる。

 そこで邪神の使徒と合流して、再度勇者と戦うんだ。


 その盗賊の親分だけが、ここに居ない。



 背中に嫌な汗が流れる。


 まだ終わっていない。そんな予感がした。


「……行こう」


 俺は立ち上がって、洞窟の奥を目指した。



 そこには、何もなかった。


 だが、この先に何かある、ライオルオーガを作り出す施設があるとわかっていると、気付くものがあった。


 壁におかしなくぼみがある。


「あ、おにーちゃん」


 コルットも気付いた様だった。



 俺は意を決して、その壁のくぼみを押してみた。


 すると壁が動いて、その奥には道があった。


「こんなものがあったのね」


 魔法使いが驚いていた。

 おそらく、本来のストーリーでは見つからなかったものだろう。


 この先には、おそらくライオルオーガがいる。


 手を出さない方がいいだろう。


 だが、盗賊の親分が見つかっていない以上、まだ何かあるかもしれない。



 ……今ならまだ、死んでも取り返しがつく。

 むしろここで放っておいて、後々取り返しがつかない事が起きる方が怖い。


 だから俺は、先へと進んだ。


 暗い道を曲がると、すぐに大きな広間に出た。



 ドラム缶の様な、透明なカプセルが並んでいた。ゲームで見た事がある。

 これは確か、霊聖樹れいせいじゅの下の、邪神の使徒のアジトにあったやつか?


「なんなのよ、これ?」


 魔法使いが、みんなが驚いている。


 カプセルの中身は、空だった。

 あとはよくわからない魔法陣が描かれた紙が乱雑に捨てられている。


 そして、その奥には……


「やっぱり、ここに居たのか」


 俺は声を絞り出す。




 そこには、変わり果てた盗賊の親分が居た。



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