28、準備と実食、イノシカチョウのレア肉!
俺達は武器屋に居た。
俺にはランラン丸があるし、コルットは素手が武器なので、ユミーリアの武器新調の為だ。
しかし、武器や防具はランクで購入できるものが制限されていた。
俺はできれば今後の為にも、ユミーリアには強い武器を持ってほしかったので、武器屋の親父に交渉してみたが、やっぱりダメだった。
そこに、いつもギルドで会う、ヒゲのおっさんが通りがかった。
「なんだ、武器を買うのか? どれ、どいつを買うんだ?」
おっさんが首を突っ込んできた。
「いや、俺じゃなくてユミーリアなんだ」
「ああ勇者のお嬢ちゃんか。それで、どれを買うつもりなんだ?」
俺は相談するか迷った。
正直、このおっさんはとても良い人なのはわかるが、どこまで信用していいのかわからない。
「えっと、リクトがあの炎の剣を、私にって……」
悩んでいる俺をすっ飛ばして、ユミーリアが説明してしまう。
「ほう? なるほどな」
ヒゲのおっさんがしたり顔でうなずいている。
「俺はDランクには過ぎたものだからって断ってるんだがな」
武器屋の親父がヒゲのおっさんに答えた。
「なるほどなあ……おいシリト、お前さん、金はあるのか?」
俺はリクトだと訂正しようと思ったが、キリがないのでやめた。
炎の剣は5,000P。俺の残り所持金は5,240Pだ、買えるだけの金はなんとかある。
「ああ、一応」
「そうか」
俺に確認すると、ヒゲのおっさんは武器屋の親父に話しかけた。
「すまねえ、ここは俺の顔に免じて、こいつに売ってやってくれないか?」
なんと、俺のかわりに武器屋の親父に交渉してくれた。
「あ? ヒゲゴロウの頼みってんならいいが……いいのか?」
なんというおっさんの信頼度。
ってそうか、ヒゲのおっさん、ギルド長の旦那だもんな。そう考えれば、有名人か。
「ああ、この間、ゴブリンキングとクイーンの騒動があっただろう?」
「おう、聞いた時は耳を疑ったぜ」
「そいつを倒したのがこいつらだ。どうもこいつらはそういうあぶねえ事に縁があるみたいだからな。強い武器がほしいってのはわかる」
「そうだったのか、なるほどな」
おっさん達の会話が終わり、二人が俺達を見る。
「よし、ヒゲゴロウの紹介ってんならいいだろう。ただし、これっきりだ。今後はちゃんとランクにあった武器を買え。強くなりたいなら、自分自身を鍛えるんだ、それが約束できるなら売ってやろう」
「ほ、本当か!?」
俺の言葉にうなずく武器屋の親父。
俺はユミーリアを、コルットを見た。
二人がうなずく。
「ああ! わかった、約束する」
「よし、ならこいつはお嬢ちゃんのもんだ」
俺は5,000Pを払い、炎の剣をユミーリアに渡す。
「え? ちょっと待ってリクト! お金は私が……」
「いや、前回俺は、ユミーリアにこの魔防の盾をもらったからな。そのお返しだ。受け取ってくれ」
「そ、そんなのダメだよ!」
せっかく購入できたのに、ユミーリアは炎の剣を受け取ろうとしなかった。
「あ、ちなみに俺が購入をすすめたのはリクトだけだからな? お嬢ちゃんじゃないぞ」
「そうだ、俺も売ったのはこいつだからだ、お嬢ちゃんが自分で買うなら売らねえからな? まあ、そいつが買った後は誰が使っても文句はないがな」
なんとおっさん二人が揃ってユミーリアには売らないと言い出した。
「そ、そんな……」
どうやらおっさん達は、俺の味方をしてくれるみたいだった。
「ユミーリア、今回は俺からのプレゼントって事で、受け取ってくれないかな?」
俺はあらためて、ユミーリアに炎の剣を渡す。
「リクト……ありがとう」
ユミーリアは炎の剣を受け取り、抱きしめる。
「ありがとうリクト、私、この剣、大切にするね」
「お、おう」
俺は今さらながら、恥ずかしくなってきた。
「いいなあ、ユミーリアさん」
俺はコルットのつぶやきを聞いて、今度はコルットに何かプレゼントしようと誓った。
「ありがとうな、おっさん」
「なあに、これからも面白い話を期待してるぜ」
ヒゲのおっさんはそう言って去っていった。
やっぱり、ヒゲのおっさんは良いおっさんだった。
「あのねリクト」
「ん?」
ユミーリアが話しかけてきた。
「実はね、あの人……私がリクトに魔防の盾を買った時にも、同じ様に防具屋さんに頼んでくれたの」
なんと、そうだったのか。
そう言われてみればこの魔防の盾はBランク相当の物だ。
俺は去っていくおっさんに向かって、コッソリ頭を下げた。
その後、俺達は、道具屋に向かった。
俺は念の為、かいふくーんや、まかいふくーんを10個ずつ買った。
そして、残り所持金が10Pになった。
「り、リクト、お金……大丈夫なの?」
ユミーリアが俺の金の使い方に心配していた。
そりゃまあ、普通に考えれば、ギリギリまで金を使い込むのはおかしいと思うだろう。
だが、俺には予感がしていた。
「大丈夫さ。まあ……ちょっと考えがあってさ」
「考え?」
今の俺は、レア肉やマイルームがあるので、生活費の心配をそこまでする必要はない。
それよりもだ。
もし今度の盗賊のアジト攻略で、イレギュラーな事が起これば……また死ぬ様な事があれば、俺の所持金は半分になってしまう。
死ぬ回数によっては、あっという間に0になるだろう。
それなら、準備の段階で使い切っておきたい。後悔が無い様に。
「準備不足で後悔したくないんだ」
俺の考えを聞いて、ユミーリアが納得した。
「そっか、そういう事か」
「あ! でもユミーリアはマネしなくていいからな! コルットもだぞ? これはあくまで、俺だからやってる事だからな」
二人は俺の言う事に首をかしげた。
二人は死んでも所持金が半分にならないからな。
というか、絶対に死なせない。俺が死ぬまでは、絶対に……
俺は俺のマネをしようとする二人を止めて、宿屋に戻った。
さて、ここからは明日以降の事は全て忘れて、お楽しみタイムだ。
今夜の食事……それは俺達が倒してゲットしてきた、イノシカチョウのレア肉だ。
今まで食べきた、ウサギットのレア肉。
それもかなりのうまさだった。
正直、俺の人生で一番と言っても過言ではなかった。
しかし、イノシカチョウのレア肉は、それよりさらにうまいらしい。
いったいどれ程のうまさなのか。
それもだ、俺のつたない、焼くだけの料理ではなく、コルットのお母さんが料理してくれているらしい。
今からよだれが止まらない。
俺達が宿屋の食事スペースで待っていると、男勇者たちもやってきた。
「こんばんは、今日は誘ってくれてありがとう」
「誘ったというより、依頼の前払いなんだけどな」
俺達はそれぞれ、席につく。
「はあ、はあ……レア肉、イノシカチョウの、レア肉……」
「ま、マホさん! 落ち着いて下さい!」
魔法使いが相当興奮していた。
「こう見えて、マホは肉が大好きでな。先日もウサギットのレア肉が店で出されると聞いて、貯金をはたいて食いにいったくらいだ」
戦士が解説してくれた。
そうか、魔法使いは肉で釣れると。俺とは相性がバッチリじゃないか、覚えておこう。
やがて、イノシカチョウのレア肉が運ばれてきた。
ドロップした時にも光っていたが、こうして調理されたあとも、肉は輝いている。
刺激的な肉の香りが、部屋に広がっていく。
よだれが出て、お腹の音が鳴る。
俺達の中で、我慢できる者はいなかった。
自然と皆、ナイフとフォークを手にして、肉を切り、フォークにさし、口に運んだ。
そして、かむ。
ほどけた。
肉がほどけて、口の中にうまみが広がった。
頭の奥の方に駆け抜けていく何かを感じる。
今度は別の部位を食べる。
しっかりとした肉の歯ごたえがあった。
かめばかむ程、肉汁が、うまみが出てくる。
俺達は無言で、肉を食べた。
やがて食べ終わると、全員が声をそろえて言った。
「おいしい」
皆、涙を浮かべていた。
やっと出てきた言葉。
それまでなぜ無言だったのか。
それは簡単だ。
言葉を発するのを忘れるほど、おいしかった。
まさにこれに尽きるだろう。
「私は今まで、死んでいたのかもしれないわ」
「マホ……そうね、なんとなくわかるわ、確かに私も、生きてるって感じた」
魔法使いと僧侶が、抱きしめあう。
「なんか全身に力があふれてくるな、すげえ良い肉だった」
「ああ、こんなにも食事に感謝したのは初めてだよ」
戦士と男勇者も喜んでくれたみたいだ。
(ダメ! こんなもの食べさせられたら、私結婚しちゃう! リクトと結婚しちゃう!)
(おにーちゃんすごい! おにーちゃんのお肉おいしい! おにーちゃんだいしゅき!)
ユミーリアとコルットは、目を閉じて感動している様だ。
何を考えているかわからないがその表情は歓喜に満ちている。
俺達の心は、イノシカチョウのレア肉により、ひとつとなった。
これなら何があっても、きっと乗り越えられるだろう。
俺達は互いにうなずきあい、心をひとつにした。
しかし、ただひとり、違う意味での涙を流している者がいた。
「拙者も! 拙者も皆と一緒に食べたいでござるううう!!」
マイルームでしか人の姿になれず、食事ができないランラン丸だった。
「明日はマイルームで、パーティしような」
俺はそっとつぶやいて、ランラン丸を撫でた。
その後、俺達は解散した。
俺はひとり、部屋のベッドに寝転んだ。
明日は1日ゆっくり休んで、次の日には盗賊のアジトに乗り込む。
果たして、盗賊のアジトでは何が起きるのか。
ゲームのストーリー通り、邪神の使徒と盗賊を倒すだけなら楽なんだが……
こればかりは、実際に行ってみないとわからない。
それよりは、明日の事を考えよう。
ふと考えてみれば、明日はこの世界にきて初めての休みか。
明日は何をしようか?
ゆっくり観光するのもいいかもしれない。
ユミーリアやコルットは、何をするんだろう?
俺はそんな風に考えながら、眠りについた。
夢の中で、イノシカチョウに出会った。
俺はイノシカチョウに感謝して、その旨みの海に、身をゆだねた。
「リクト殿! リクト殿!」
ランラン丸の声が聞こえる。
「起きるでござるよリクト殿!」
「ああ、ランラン丸、おはよう。もう朝か」
外はすで明るかった。
窓から部屋に日差しが入ってきている。
ふと窓の外を見ると、雲ひとつない青空が広がっていた。
「良い休日になりそうだ」
「は? 何言ってるでござる? 今日は勇者達と盗賊のアジトに乗り込む日でござるよ」
……なに?
「何を言ってるんだ? 今日は1日休むと昨日言っただろう?」
男勇者たちは遠征から帰ってきたばかりだし、俺もこの世界に来て休んだ事がなかったから、今日は1日休みにすると、ランラン丸にも言ってあったはずだ。
「……あー、やっぱり、最後のアレが悪かったのでござるな」
ランラン丸が何か気になる事を言っている。
「リクト殿、残念ながら楽しい休日はすでに終わったでござる。リクト殿は最後のショックで、昨日の記憶が飛んでしまっているのでござるな」
なん……だと……?
「おい待て、どういう事だ? 休日がすでに終わっているだと?」
そんな馬鹿な、俺は昨日、イノシカチョウのレア肉を食べて、眠ったはずだ。
「まあ、それはいずれ話してあげるでござるよ。いわゆる後日談ってやつでござるな」
うーん、気になるが仕方ない。これ以上言っても無駄だろう。
まあ、本当に今日が盗賊のアジトに乗り込む日かは、コルットや親父さん達に聞けばわかるだろう。
「まだ疑ってるでござるな? 今日は盗賊のアジトに乗り込むというのは真実でござる。現実でござるよ。だから早く用意をするでござる!」
俺はランラン丸にせかされて準備を始めた。
準備をして下におりていくと、コルットがいた。
「あ、おにーちゃん。昨日は楽しかったね。でも最後はおにーちゃん、あんな事になっちゃって……大丈夫?」
何の事だ?
俺はコルットに確認してみたが、確かに昨日、俺達は休日を過ごし、今日は盗賊のアジトに乗り込む日で間違いないみたいだった。
……うん、どうやら本当に休日は終わっていたらしい。
というか最後、俺に何があったというんだ?
気になる。
だがまあ、昨日の事はあとでランラン丸に聞けばいいだろう。
それよりも、気持ちを切り替えていかないとな。
「コルット、今日は何が起きるかわからない。気合い入れていくぞ」
「うん、任せておにーちゃん!」
コルットも準備は出来ていたようだ。
俺達は朝食を食べる。
「はい、これお弁当。がんばってね二人とも」
コルットのお母さんがお弁当を作ってくれていた。
なんと、イノシカチョウのレア肉のサンドイッチだった。
これはお昼ご飯が楽しみだ。
俺とコルットは、二人でギルドに向かった。
ギルドに着くと、すでに勇者一行とユミーリアが居た。
コルットのDランク昇格の申請は、昨日済ませてあったみたいで、俺達はそれぞれの準備を確認して、街を出た。
街の南西、盗賊のアジトを目指して、平原を歩く。
本来のゲームなら、盗賊のアジトで戦うのは、盗賊達と盗賊の親分と、邪神の使徒だけだ。
ゴブリンキングほどの強敵はいない。
だから今回は、死ぬ事はないはずだ。
そうだ、きっと大丈夫。男勇者たちもいるんだ。うまくいくさ。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
リクト
レベル:10 HP:94 MP:108 冒険力:654 ランク:D
職業:素晴らしき尻魔道士
能力:ゴッドヒール、マイルーム、ステータスサーチ、覚醒のくちづけ、レア肉ドロップ確定、覚醒融合
装備:ランラン丸、魔防の盾、くさりかたびら、こうらの鎧、皮の手袋、皮のくつ
所持品:かいふくーん×12、まかいふくーん×12
所持金:10P




