106、勇者の秘密と勇者の奥義
勇者とは、血統で決まるのだった。
そしてなんとじいさんも勇者だった。
ユウとユミーリア、エリシリアとユウの仲間達も驚いていた。
コルットとマキはいまいちピンときていないみたいだ。
アーナは、こいつの事だから、多分知ってたんじゃないかな。
俺はというと。
血統だったのか、実に王道じゃないか! いいぞいいぞーと、胸を躍らせていた。
実は俺は伝説の血筋が目覚めるという展開が結構好きだったりする。
惜しむらくはその血筋が目覚めるのが、戦いの中じゃなかった事か。
戦いの中で力に目覚めるのが一番良いんだよな。
特にこう、仲間がやられた時に、お前だけは許さんぞー! って感じが最高に燃える。
「お前達の母さん、俺の娘も勇者だった。まあ、平和な世の中だったから目立つ事はなかったがな。勇者として表世界に出るのも極力控えたり、変装したりしてた時代もあるから、世間では勇者はごく稀に現れるレアな職業くらいに思われているはずだ」
俺が王道展開の良さに浸っている内に、じいさんの話は続いていた。
じいさんがお茶を口にして、ため息をつく。
「そうして隠しておかないと、俺達一族は常に悪いヤツに狙われる事になる。だからユウ、ユミーリア、それにお仲間さん達も、この事は内緒にしてくれ、頼む」
じいさんが頭を下げる。
俺達はお互いを見て、うなずきあった。
「うん」
「わかったよおじいちゃん」
ユウとユミーリアが代表して答える。
じいさんが頭を上げて、笑う。
「おう、ありがとうよ。とはいえ、お前達は当事者だからな。特に気をつけろよ? 秘密を知れば悪いヤツだけじゃなく、勇者を子孫としてほしいやつらが、お前らと結婚しようと狙ってくるからな」
「けっ」
「結婚!?」
ユウは驚き、ユミーリアは真っ赤な顔で俺を見る。
「大丈夫だ、ユミーリアは誰にも渡さない」
「リクト」
俺とユミーリアの間に、しあわせな空気が流れる。
「あー、そういえばあんた達、婚約したんだってね。街でウワサになってたわ、おめでとう」
「えっ! そうなのかい!?」
ユウ、お前知らなかったのかよ。マホも知ってたなら教えてやれよ。
「おめでとうリクト、ユミーリア! そうか、ついにこの時がきたのか……おじいちゃん、早速稽古をつけてよ。僕はリクトの友として、兄として、強くならなければならないんだ」
いきなり兄ときたもんだ。
でも、実際そうなんだよな。
ユミーリアと結婚すれば、ユウは俺の義兄になる。
兄か。
元々、ゲームで勇者だったユウは、俺の分身みたいなもんだ。
なんかあれだな、昔の自分が兄になる、ちょっと変な気分だった。
「わかった。それじゃあ二人とも、表に出な! 元勇者の俺が、勇者の奥義を伝授してやる」
俺達はユミーリア達に続いて外に出る。
ある程度広い場所に移動して、じいさんが木刀を構えた。
「おいリクト、お前が相手をしろ」
「なぜ俺?」
俺はじいさんから木刀を渡されて、前に立たされた。
「お前はユミーリアと結婚するんだろう? だったらお前も俺の孫だ。じいさんの言う事は聞くもんだぜ?」
なんか、どんどん家族が増えていくな。
俺は渋々、木刀を構える。
「動くなよ、動くと死ぬぞ」
「殺す気でやるのかよ!」
マジでカンベンしてほしい。ここで死んだらまたフィリス達との戦いからやり直しじゃないか。
「いいか? よおく見てろよ、これが勇者の奥義、最強の技だ」
じいさんが木刀を高らかに持ち上げる。
「気を剣に集中するんだ。そして思い浮かべろ、お前達が守りたいもの、打ち砕くべき悪を! そしてその想いを気に乗せるんだ」
じいさんの木刀に集まった気は、黄金色の巨大な剣の形になる。
「これが勇者の奥義、ブレイブソードだ!」
じいさんはそのまま、俺に向かって剣を振り下ろす。
激しい爆風が俺達を襲い、俺はそのまま吹き飛ばされた。
「いってぇー!」
じいさんの攻撃は、俺の右側を打ち抜いた。
見てみれば俺の居た場所の近くに、クレーターが出来ている。
「す、すごい」
「うん、これが……勇者の奥義」
奥義か……とはいえ、説明を聞く限りずいぶん簡単な技に思えた。
俺は起き上がり、木刀に自分の気を集中してみる。
だけど、気は剣の形にはならない。
「ハッハッハ、無駄だ無駄。気を剣の形に出来るのは勇者だけだ。過去に俺の技を見て盗もうとしたヤツも居たが、勇者の心がないと、剣の形にはならないのさ」
うーん、そういうものなのか。
どうにか形にならないものかと思っていたら、俺の気が、だんだん姿を変えていった。
「お?」
「なに?」
じいさんが驚いて俺の気を見る。
俺の木刀に宿ったピンクの気は、やがて姿を変えて……
「こ、こいつは!」
「すごい!」
俺のピンク色の気は、その姿を現した。
「お尻まんじゅうだー!」
コルットが叫んだ。
その場に居る全員が、自分達が食べたまんじゅうを思い描いていた。
そう、俺の気の形は……丸いふくらみが二つ、尻だった。
「お前、いったい何者だ?」
じいさんが驚愕している。
実にシリアスな顔だが、見ているのは尻の形をした気だ。
俺はおもむろに剣を振った。
すると気が放たれる。
放たれた気は、近くの木に命中して爆発した。
爆発した後には、ピンク色の∞のラインが残り、しばらくすると消えた。
「い、今のは」
「ふむ、確か無限を意味するマークじゃな」
マホのつぶやきに、アーナが解説する。
この世界でも∞は無限なのか。
「じゃが、あの光の形を見た後では、お尻のマークにしか見えんの! ハッハッハ!」
だよなぁ。
無限といえば聞こえがいいが、どう見ても尻だった。
「素晴らしき、尻魔道士」
「その名は伊達ではなかったという事か」
ユウと戦士がシリアスにつぶやいていた。
「シリブレード、といった所か」
続いてエリシリアが真面目な顔をしてつぶやいた。
やめて! その名前だけはやめて!
「シリブレード」
「シリブレードか」
「しっくりくるね」
「いいですね」
「いいじゃない」
好評だった。
「よし、リクト! お前のその技は、特別にシリブレードと名乗る事を許してやろう! 勇者の奥義の名前を使ってるんだ、大事にしろよ」
じいさんが白い歯を光らせる。
うれしくない。
全然うれしくなかった。
だが俺には、凹む前にやる事があった。
「アハハハハハ! お尻! お尻の形のシリブレードって! アハハハハ! これが、素晴らしき尻魔道士か、キリッって! ヒーーヒッヒッヒ! お、お尻まんじゅだーって、アハハハハ! もうやめて! 拙者のお腹がねじ切れるでござるー!」
俺はランラン丸を抜いて、持ち上げる。
「え? リクト殿、何を?」
「シリブレード」
俺は気を集中して、お尻の形の気を作る。
「どうだランラン丸。お前今、お尻に包まれているぞ?」
「いいいいやあああああ! やめて! この技やめて! なんかピンク色のお尻に包まれてちょっと暖かい様な気持ち良い様な感じやめてえええ!」
俺は気を尻の形に保ったまま、コルットに見せる。
「ほーらコルット、お尻まんじゅうだぞー。ランラン丸がお尻まんじゅうだぞー」
コルットが俺の尻の形をした気を見てはしゃぐ。
「ほんとだー! ランラン丸、お尻まんじゅうになってるー!」
「いいいいやああああ!」
俺にしか聞こえないランラン丸の叫び声が、空に響いた。
ユウとユミーリアの稽古が始まった。
二人とも木刀を構えて、気を集中している。
後で聞いたがあの木刀は気を集めやすい材質で出来ているらしい。
色々あるんだな、ファンタジー世界。
マキとエリシリアは情報収集に向かった。
小さな村だがこれから行くデンガーナについて何か情報が得られるかもしれないとのことだった。
ユウの仲間達はジッとユウの稽古の様子を見ている。
俺はお昼寝中のコルットをヒザに乗せて、ユミーリアを見ていた。
ランラン丸? 横で泣いてるよ。
「ユミーリアのやつは、とんでもなく強くなってやがるな、いったいどうやったんだ?」
俺の横に、じいさんが座った。
「修行だ」
「そうか修行か。生半可な修行じゃなかっただろう。聞かせてくれないか? お前達がこれまでしてきた冒険を」
じいさんが俺にお茶をよこした。
ユミーリア達の稽古はしばらく時間がかかりそうだし、じいさん相手に話をするのもいいかもしれない。
俺はこれまでの事を話した。
キョテンの街でユミーリアに出会った事。
邪神の使徒の事。
オウガ達との戦いの事。
帝国の事。
魔王軍の事。
そして今、勇者の装備を集めている事。
「そうか。俺の時より、よっぽど大変な冒険をしてるんだな」
じいさんが遠い目をした。
「じいさんは、どんな冒険をしてきたんだ?」
俺はじいさんの過去に少し興味がわいた。
しかし、それは間違いだった。
「聞きたいか? よし、嫌ってほど聞かせてやる。」
俺はその後、じいさんの話をこれでもかというくらい聞かされた。
気がつけば夕方になっていた。
とはいっても、退屈はしなかった。
じいさんの冒険話は、とってもワクワクして、楽しかった。
「お、もうこんな時間か」
じいさんも話が長くなっている事に気付いたみたいだった。
これで話が終わる。
だけど俺は、どうしてもひとつ、聞きたい事があった。
「なあじいさん」
「うん? なんだ?」
俺は少し、遠慮がちにじいさんにたずねた。
「ユミーリアの両親って、どうしてるんだ?」
「……ユミーリアからは聞いてないのか?」
「ああ」
俺の返答に、じいさんがアゴに手をあてて考える。
「冒険の途中で二人とも死んだと、ユウとユミーリアには言ってある」
言ってある、という事は、それは真実ではないという事か。
「……本当は?」
じいさんが俺を見る。
「……お前ら、帝国とやりあってるんだったな?」
「ああ」
じいさんがため息をついて、小さな声で答えた。
「あいつらは今、帝国に居る」
「え?」
帝国に? どういう事だ?
「あいつらは勇者の力を……自分の為に使っているんだ」
「自分の為に、使う?」
「そうだ。あいつらは力で、帝国という国を作り上げた」
帝国を、作り上げただって?
「気をつけろよリクト。あいつら今は表舞台に立っていないが、帝国とやりあうなら、いずれお前達の前に立ちふさがるだろう」
帝国にユミーリアの両親が居る。
そして、俺達の前に立ちふさがる。
それはつまり、ユミーリアの両親は、俺達の敵という事か?
「さて、この話はここまでだ。まだあいつらには言わないでくれよ? きっとまだ、受け入れられないだろうからな」
そう言って、じいさんはユミーリア達に声をかけた。
「おいユウ! ユミーリア! そろそろ出来たか?」
じいさんが立ち上がってユミーリア達の元へ向かった。
俺はひとり、この事実をどう受け止めるべきかを、考えていた。
「私は出来たよー!」
「ぼ、僕はまだ……気を剣の形にする所までは出来たんだけど、それがうまく保てなくて」
どうやらユウはまだ完成には至っていない様だった。
「兄貴の方がそれじゃあカッコつかねえな。ユウ、お前はしばらく居残りだ。ここで修行していけ」
「ま、まあ元々そのつもりだったし、そうするよ」
ユウがガクッと肩を落として、それを魔法使い達がなぐさめていた。
「ユミーリアは免許皆伝だ。これからまた勇者の装備を探しに行くんだろう? 今日はここでゆっくり休んで、明日からまた頑張るんだな」
「うん、ありがとう、おじーちゃん」
俺達はこの村で一晩泊まり、翌日デンガーナに向けて旅立つ事になった。
「リクト!」
村を出る前に、じいさんが俺を呼んだ。
「あいつの両親の事は、帝国と本格的にやり合う様になったら話してやってくれ。それまでは、悪いがお前の胸にしまっておいてくれ」
じいさんが俺の肩に手を置いて俺の目を見た。
「わかった。約束する」
「ああ、頼んだぜ、我が孫よ」
俺とじいさんは笑って、別れた。
「何を話してたの?」
ユミーリアが俺とじいさんの会話が気になったのか、話しかけてきた。
「内緒」
「えー!」
ユミーリアだけでなく、エリシリア達も気になっていたみたいで聞いてきたが、じいさんと約束したから内緒だと断った。
「今後の事を思うと、なんとも、嫌な話でござるな」
「ああ、そうだな」
唯一、俺のそばに居て話を聞いていたランラン丸と共に、俺はため息をついた。
「そういえば、デンガーナについては、何か情報はあったのか?」
俺はエリシリアとマキに情報収集の結果を聞いてみる事にした。
「リクト様は、デンガーナの事はどれほどご存知ですか?」
「実は、まったく知らないんだ」
デンガーナはゲームには登場しておらず、これまでかかわる事もなかった。
西にある、ただそれだけの情報しかない。
「では、デンガーナは商業が盛んな国です。独自の文化、独自の経済を成しておりますが、外の文化や人々も積極的に受け入れていて、新しいものを取り入れ、成長を何より大事にしている国と言われています」
商業国家か。
俺、内政とか苦手なんだよなぁ。
「今度の帝国との戦いも、デンガーナの支援なくては成り立たないほどだ。それほどデンガーナは経済的に強い。ただまあ、私はあの王様はちょっと、苦手だな」
デンガーナの王様か。
そういえばまだ会った事がない。
セントヒリアの王様は真面目な人だった。
ウミキタ王国の王様は豪快なおっさんだった。
パッショニアは、カマセーヌさんでいいのかな? 律儀で変な人だった。
デンガーナの王様は、どんな人なんだろうか。
出来ればまともな人であって欲しい。
「ああ、あの御仁か。わしもあれは苦手じゃな」
まんじゅうばっかり食って静かだったアーナが話しに参加してきた。
「アーナも会った事があるのか?」
「うむ、実に変なやつじゃったぞ!」
アーナに言われるデンガーナの王様って……エリシリアも苦手だと言ってるし、これは期待しない方が良さそうだ。
俺達は西に向かって歩き続けた。
そしてついに、デンガーナにたどり着いた。
「でかい門だな」
国はグルッと円状に高い石造りの壁に囲われていた。
そして正面に、巨大な門がある。
「む? 何者だ?」
門の前に居た兵士が話しかけてきた。
「私はセントヒリアの元ロイヤルナイツのひとり、エリシリアと言います。今日はデンガーナ王に聞きたい事があってきました」
エリシリアはそう言ってステータスカードを兵士に見せた。
兵士がエリシリアのステータスカードを見て驚愕する。
「なっ! ぼ、冒険力27万!? し、失礼しました! エリシリア様、どうぞお通りください!」
兵士の号令で門が開かれる。
「この国は来るものを拒みません。どうぞ中へ! ようこそデンガーナへ! デンガナマンガナー!」
「デンガナマンガナー!」
兵士達がそう叫んで、俺達を通してくれた。
でんがなまんがなって、なんだよそれ。
「アーナ、あれはなんだ?」
「ん? あれはこの国の伝統のあいさつじゃな」
過去に関西出身の異世界人でも居たのだろうか?
俺達は門を通って歩き出す。
城までの道には、店がたくさん並んでいた。
さすがは商業国家といったところか。
「へいいらしゃい! マルダコが焼きあがったよー! おいしいよー!」
おっさんが大きな声で叫んでいた。
マルダコ? なんだろう?
見てみるとそれは、たこ焼きだった。
「ほう? うまそうだな」
エリシリアが興味を持った。
ユミーリアとコルットもよだれをたらしている。可愛い。
「おっちゃん、これって中にタコが入ってるんだよな?」
俺はおっさんに聞いてみた。
「おうよ! この近くの海じゃダイフクダコがたくさんとれるからな! あいつらを焼くと、こんな風にやわらかい膜が出来て膨らんで、パン生地みたいになってこんな形になるんだ」
ダイフクダコってあれか、男の服だけを溶かすタコのモンスターか。
服が大好きだからダイフクダコかと思っていたが、大福の様に膨らむからダイフクダコだったのか。
「あいつ、男の服を溶かすだろう? そんなに簡単にとれるのか?」
「何言ってるんでい! 服を溶かされるくらいじゃこの辺りで漁師はつとまらないぜ? むしろふんどし一丁で溶かされてもいいって気持ちで挑むもんだ!」
なるほど、むしろ全裸で挑めと。
想像すると嫌な光景だった。
「素晴らしいですね、ぜひウチの国の漁師達にも見習わせたいです」
マキが静かにそう言った。
ウミキタ王国の漁師達に危機がせまっていた。
俺達はマルダコを食べながら、城へと向かった。
「おいしー!」
「ほんと、すっごくおいしいよリクト!」
確かに、このマルダコ、すごいもんだった。
食感は完全にたこ焼きだし、中からソースの様な汁も出てくる。
歩いていても、そこら中からおいしそうな良い匂いがただよってくる。
この国、ちょっと好きかもしれない。
俺達は気分良く、城へと向かった。
「ようこそリクトちゃん! アタシがこの国の王、カマーンよ! エリシリアちゃんも久しぶりね! うっふん!」
早速謁見の間へ通された俺達は、王様に会った。
そして俺達を見た王様の一言が、これだった。
オカマだーーー!!!
俺は早くも帰りたくなってきた。




