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105、月下の戦い

 月が綺麗な夜だった。


 俺は一度目はこの夜の村を堪能した。


 ゲームでは回想シーンでしか出てこなかった勇者の村。


 そんな勇者の村を、月明かりの中散歩するのはとても楽しかった。



 だが今は、俺は敵と相対している。


 どういう運命のいたずらか、俺と敵対しているのは、ユミーリアと同じくこの村の出身である、フィリスとゼノスだった。


「お前ら、ここはお前らの村なんだろう? なのに襲うなんて、何考えてるんだよ?」


 俺の言葉に、フィリスとゼノスは首をかしげた。


「別に? 私にとってはこんな村、何の価値もないんだけど? あんたとユミーリアが居たから襲っただけ。別にこの村には何の思い入れもないわ」


「同感だね。だいたい、どうせこの世界は滅びるんだ。この村だって滅びるんだから、早いか遅いかだけじゃないか」


 こいつら、こんなに人間味のない奴らだったっけ?


 どうも俺の知っている、ゲームで見たフィリスとゼノスとはだいぶ違ってきているみたいだ。


 フィリスなんかは性格どころか、見た目もヤバイ。


 あれからもフィリスは新たにモンスターを吸収しているのか、身体中のあちこちから触手や角や羽が生えている。腕や足もモンスターみたいだし、完全にキメラと化していた。


「ところで、ウワサに聞いたんだけど、あんたユミーリアと婚約したんだって?」


 フィリスの目が細まる。


 さて、どう答えるか。


 正直に答えれば、ユミーリア大好きなフィリスの事だ、怒り狂って襲い掛かってくるだろう。


 ここは慎重に……いく必要は無いか。


「ああ、ぶっちゃけプロポーズした。ユミーリアは俺のもんだ!」


「そう……そのケンカ、買ったわ!」


 うん、つい言っちゃったぜ。

 というかフィリスなんかにユミーリアは渡さん。


「死んじゃえ!」


 フィリスの身体から触手が生えて、俺に襲いかかってくる。


 俺はランラン丸を鞘から抜いて、触手を斬り裂く。


「おっ! 今、前回の記憶が戻ったでござるよ! リクト殿、今回は不意打ちではないでござるからな、負けられないでござるよ!」


「ああ、わかってる!」


 俺はランラン丸を構えてフィリスへ向かって駆ける。


 その進路を邪魔したのは、ゼノスだった。


 ゼノスの剣が、俺の刀を受ける。


「ぐっ!」


 だが、俺だって成長しているんだ。いつまでもこんなやつらに負けてられない。


 俺の刀が、ゼノスの剣を押す。


「何!? なんだこの力は、貴様、いったい何をした?」

「修行だ」


 そう、俺はあれから重力修行やコルットの親父さんとの修行を続けていた。


 魔王軍との戦いもあった。


 戦いの中で、俺だってパワーアップしているんだ。


「どおりゃあああ!」


 俺は無理矢理力で、ゼノスの剣を押し返す。


「くっ! この馬鹿力が!」


 まさか俺が馬鹿力なんて言われる日がくるなんて思わなかったな。修行はするもんだ、うん。


「はっ!」


 俺はそのままランラン丸でゼノスの黒い鎧を横なぎに斬る。


「がはっ!」


 鎧は斬れこそしなかったが、ゼノスはそのまま吹っ飛んだ。


「調子に、乗るなあああ!」


 フィリスがこちらにせまってきていた。



「爛々・百烈斬らんらんひゃくれつざん!」



 俺はつい先日、ランラン丸と融合した時に使った技を放つ。


 すさまじい勢いで、敵を100回斬り裂く技だ。


 ランラン丸と融合した時の動きは、身体が覚えてくれている。

 俺が強くなった理由のひとつだ。


「ぐっ! あっ! がっ!」


 俺の刀が、フィリスの触手を、角を、羽を斬り裂いた。


「フィリス!」


 起き上がったゼノスが、剣を縦に構えていた。


「この、ピンク野郎があああ!」


 ゼノスは剣を振りろし、黒い衝撃波をこちらに放ってくる。


「氷の尻!」


 俺の尻が光り、凍る。


 氷の尻、それは敵の攻撃を防ぐ効果を生む。


 俺の身体の前に障壁が生まれ、黒い衝撃波を弾いた。


「な、なんだと!? なんだそれは! 俺の攻撃が弾かれて、なぜ尻が凍るんだ!?」


「風の尻!」


 俺の尻が再び光り、今度はプーという音と共に風が出てくる。


 風の尻、それは俺の攻撃力を上げる。


 俺はフィリスの腹を、思いっきり殴る。


「あぐぁっ!」


 フィリスが身体をくの字に曲げて、吹き飛んだ。


「フィリス! 貴様、なんだ、何をしているんだ! その尻から出る、不快な音をやめろ!」


 俺は風の尻を解除する。


 音と光と風が止まり、再び静けさを取り戻す。


「この野郎、尻が光ったり凍ったり音が鳴ったり風が出たり、いい加減にしろ!」


 ゼノスが叫ぶ。


「なあランラン丸。こいつ、尻が光るとか凍るとか音が鳴るとか叫んで、恥ずかしくないのかな?」


「リクト殿がそれを言うのでござるか?」

「俺は出来れば口にしたくないぞ」


 俺はランラン丸とふざけあいながら、歩いてゼノスに近づく。


「こ、この! 寄るな! 寄るなヘンタイめ!」


「勝てなくなったらヘンタイ呼ばわりかよ?」

「お前は元からヘンタイだ!」


 酷い言われようだった。


「お前なんかに、お前なんかに好きにされてたまるか! 僕はユウを殺すんだ、ユウを殺して、僕だけのものにするんだ! 邪魔をするなあああ!」


 ゼノスが全身に黒い闘気をまとって突撃してくる。


 チャンスだ。

 あの技を、実戦で試してやる。


 俺は全身の力を抜く。


「あきらめたか? そのまま死ね!」


 ゼノスの剣がせまる。


 俺はそれを、ギリギリのところでかわす。


 そしてそのまま、ゼノスの闘気と己の闘気を混ぜて、相手に……押し返す。



竜我天聖りゅうがてんせい



 俺の拳から、竜の形をした闘気が放たれる。


「が、があああああ!!」


 竜の気はゼノスを空へと舞い上がらせる。


 竜は上空でゼノスを飲み込んで、激しい光と共に爆発した。



「お、おお、本気で放つとああなるのか」


 俺は奥義のあまりの威力にちょっと驚いていた。


 親父さんとの修行の時、もちろん本気だったが、本気で相手を殺そうとは思っていなかった。


 今のはちょっと、死ねえっと思って、思いっきりやってしまった。


 その結果がこれだ。爆発したよ。


 ゼノスが空から落ちてくる。


 鎧はコナゴナになっており、ゼノスも気を失っていた。


 よく見るとゼノスの身体は真っ黒で、完全に暗黒の力に浸食されていた。


「というか、死んでないか?」

「いや、死んではいないでござるよ。よく見るでござる、呼吸はしているでござるよ」


 ランラン丸の言う通り、よく見るとかすかにゼノスの胸が動いていた。


「に、兄さん……くっ! いつもいつも私達の邪魔をして、何なのよあんたは!?」


 ようやく起き上がってきたフィリスが俺に向かって叫んできた。


 なんて答えたものかと考えた時、良い案が浮かんだ。



「わしじゃよ!」


 俺はアーナのマネをして、自身を指差した。


 どちらかというとアーナのマネをするコルットのマネだな、うん。


「な、何よそれ! ふざけないでよ!」


 ごめん、ちょっとふざけた。


「見てなさい、いずれあんたも、ユミーリアもみんな殺してあげる! せいぜいみっともなく生きるがいいわ!」


 フィリスが背中から羽を生やし、すさまじいスピードでゼノスを回収して飛び立っていった。



「良いのでござるか? 逃がしても」

「ああ、あいつらと決着をつけるのは、俺じゃないからな」


 ゲームの通り、フィリスはユミーリアと、ゼノスはユウと決着をつけるべきだ。


 もっとも、今回みたいにイレギュラーでどうしようもない時は、全力でぶっ倒してやるがな。



 フィリス達の姿が見えなくなると、わっと村人達が家から出てきた。


「すげえぞ尻の人!」

「カッコ良かったべ! 尻の人!」

「綺麗だったわねえ、あなたのお尻!」

「聞いた事あんべよ! あんた、神の尻のシリトだべ?」

「さすがシリトさんだ!」


「シリト! シリト! シリト!」


 こんな夜中だというのに大騒ぎだった。


 村人達をかきわけて、ユミーリア達もやってきた。


「大丈夫リクト? なんだか騒がしかったけど」


「ああ、フィリスとゼノスがきてた」


 フィリスの名前を聞いて、ユミーリアが驚いた。


「リクト、フィリスは……」

「ああ、さらにモンスターと合体してヤバイ事になっていた。ゼノスの身体も、邪神の力で真っ黒だったな」


 俺の言葉に、ユミーリアの顔が沈む。


 そこへ、一組の夫婦がやってきた。


「シリト様」

「リクトです」


 いい加減、あきらめようかとも思ったが、せめてユミーリアの故郷であるこの村の人達だけでも、シリト呼ばわりはやめてほしいと思った。


「す、すみませんシ……リクト様。あの、あなたが先ほど戦っていたのは、フィリスとゼノス、ですよね?」


 俺はユミーリアを見る。


「フィリスとゼノスのお母さんとお父さんなの」


 そういう事か。


 そうだよな、あいつらだって最初からモンスターだったわけじゃない。

 親が居てもおかしくないんだ。


「私にはわかります。あれはフィリスとゼノスでした。どうして、あんな姿に……」


 母親は泣いていた。

 父親も、やりきれない顔をしている。


 俺は二人に、フィリスとゼノスがユミーリア達を追って旅立った事、二人に追いつこうとしていた時に、邪神の使徒に騙されて、邪神の使徒となり、モンスターや邪神の力を吸収する事によって、あの様な姿になった事を話した。


「そうですか、あの子達がそんな」

「ごめんなさいおばさん。私が兄さんを追って、何も言わずに飛び出したりしたから」


 ユミーリアが顔を伏せる。


 そんなユミーリアに対して、フィリス達の母親がユミーリアの肩に手を置いて、首を振った。


「ユミーリアのせいじゃないわ。悪いのはあの子達よ。悪い人に騙されたとはいえ、最終的に力を求めて受け入れたのはあの子達だもの」


「その通りだ。馬鹿な息子と娘だよ、まったく」


 父親も顔を伏せる。


「あいつらは、もう元には戻らないのか?」

「……わからない」


 父親の言葉に、俺は答えを返せない。


 ゲームではあそこまで酷くはならなかったから、最終的には和解できた。


 だけど、あそこまでなると、元に戻るんだろうか?


「……そうかい。なあ、リクトさんよ。もし、あいつらが元に戻れないとわかった時は、その時は……」

「わかりました、俺がなんとかします」


 おそらく……殺してくれと、言うつもりだったのだろう。

 だけど、親が子供を殺してくれなんて、言うもんじゃない。


「だから、その先は言わないでください。まだ駄目だと決まったわけじゃありませんから」


「……悪い。だがな、何となくわかるんだ。あれはもう、フィリスとゼノスじゃない。いざという時は、ためらわず、やってくれ」


 そこから先は、誰も何も言わなかった。


 深夜という事もあり、俺達は再び眠りについた。



 次の日の朝、俺達はユミーリアのじいさんの所へ呼ばれた。

 なんでも俺達に話があるという。


「話ってなに? おじーちゃん」


 ユミーリアが首を傾けて聞く。


「ああ、実はな、先日ユウのやつから手紙が来てな」

「兄さんから?」


 ユウ。男勇者でユミーリアの兄だ。


「あいつ、相当切羽詰ってるみたいでな。もう一度稽古をつけて欲しいと言って来やがった」

「兄さんが、おじーちゃんに稽古を?」


 ユウは勇者だ。元々は俺より断然強かったんだが、いつ頃からか、重力修行で鍛えた俺達とは相当差がついてしまっていた。


 普通に冒険していた勇者はインフレについてこれなかったのだ。


 とはいえユウは勇者であり、ユミーリアの兄だ。このまま終わってもらっては困ると思っていたが、そうか、やる気はあるみたいだな。


「それで、今日辺りこっちに来るらしい。そこでだユミーリア、せっかくだからお前も稽古を受けていかないか?」

「私も?」


 いや、それ意味あるのか?

 ユミーリアの強さは俺達の中で一番だ。ゲーム通りの邪神だったら、余裕でソロで倒せるぞ。


「じいさん、残念だけど今のユウとユミーリアじゃ、相当差があるぞ?」


「だろうな。ユウの手紙にもそう書いてあった。だが今回俺がお前達に教えるのは、ただの稽古じゃない」


 じいさんは座って、一度パンとヒザを叩いた。



「勇者の奥義を、伝授してやる」



「勇者の」

「お、奥義?」


「そうだユミーリア。ついでにお前達、勇者の事についても話してやる。どうだ? この稽古、受けるか?」


 ユミーリアは俺を見る。


 俺は黙ってうなずいた。


「うん、私やるよ」

「よし。と言ってもユウがくるまでにはまだ時間があるからな、まんじゅうでも食うか」


 そしてまた出てきた、尻まんじゅう。


 このまんじゅう、なんかヤケにうまいんだよな。特に食感が良い。俺の尻がモデルって事さえなければとても良いまんじゅうだ。


 俺達はまんじゅうを食べながら、ユウを待った。



「リクト! どうしてここに?」


 やがてユウがやってきた。

 戦士、魔法使い、僧侶も一緒だ。


「デンガーナに行く途中に寄ったら、今日お前が来るって聞いてな、待ってたんだよ」

「リクト……僕の事を待っててくれるなんて、君ってヤツは……」


 ユウは俺の手を取る。


 なんで目がうるんでるんだよ気持ち悪い。


「はいはい、男の友情はわかったから、さっさとしてくれない?」


 マホが俺達の握手を手刀で切り離す。


「ご、ごめん。おじいちゃん、手紙、見てくれたかな?」


 ユウが若干残念そうな顔をした後、じいさんを見る。


「ああ見たぞ。その事で待っていた。お前とユミーリアに、稽古をつけてやる為にな」

「ユミーリアにも?」


 ユウがユミーリアを見る。


「ユミーリア、そのよろいは!」

「うん、勇者のよろい。盾と剣もあるよ!」


 ユミーリアが盾と剣を見せる。


 しかしそれを見て、ユウがニッと笑う。


「僕も、盾は手に入れたよ」


 ユウが勇者の盾を持ち上げた。


 ほう、ちゃんと冒険してたんだな。


「あの氷の大陸は大変だったよ。船を借りて、マホと僕の炎の魔法でなんとか氷を溶かしながら上陸したと思ったら、とても寒くて寒くて。聖なる種火がある洞窟は手ごわいモンスターでいっぱいだったしね」


 あ、ちゃんと正規の冒険をしたんだな。


 俺達はマキの防寒魔法とかコルットのパンチとかで、色々すっ飛ばしたからな。


「次は火山に向かおうと思ったんだけど、その前にもう一度自分を鍛えなおそうと思ってね。それでこの村に戻ってきたんだ」


 ユウはユウなりに、色々考えて冒険してきたみたいだ。


「よし、とりあえずお前ら座れ。稽古の前に、まずはその勇者について話してやる」


 俺達はじいさんの前に座った。


 じいさんは一口お茶を飲むと、ゆっくりと語り始めた。



「お前達には小さい頃から、勇者について聞かせてやってきたな。強く気高く勇敢で、誰よりもやさしくて立派な職業だと」

「うん」


 じいさんの言葉にユウがうなずく。


 勇者か。


 この世界で職業とは、神様から与えられるギフトの様なものだ。ギルドなんかでそれはわかる様になっていて、そこで決まった職業によって、魔法を覚えたり強さに補正がかかったりする。


 ちなみに俺の与えられた職業は、素晴らしき尻魔道士だった。

 この事からも、神様というのがあのヘンタイ尻好き神様だというのがわかる。


 つまりあの神様が決めているのだろう。まあ、全部が全部ちゃんと決めてるのかはわからないけど。


「神様に勇者と選ばれる人間ってのは特別な人間だ。数百年に一度と言われている。なのになぜお前ら二人が揃って勇者に選ばれたのはなぜか、わかるか?」


 ユウとユミーリアは二人揃って首を横にふる。


 そう言われてみると、なんでだろうな?


 俺はユウもユミーリアも、ゲームで勇者だったから勇者なんだと、何の違和感も持っていなかったが、改めて言われてみると確かに不思議だ。


 ゲームでは特に二人が勇者である理由は語られなかったな。選ばれし者だと、それだけが理由だったはずだ。


「これは俺達の一族が必死に隠してきた事だから、お前達も秘密にするんだぞ? 実はな……勇者というのは、代々受け継がれるものなんだ。つまり俺は昔、勇者だった」


「ええ!?」


 勇者とは、血統で決まるだった。

 そしてなんとじいさんも勇者だった。


 衝撃の事実に、その場に居た全員が、固まった。



 そんな中俺だけは、血統という王道的な展開に、胸を躍らせていた。



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