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第9話 ようこそ生徒会へ

「ようこそ生徒会へ。歓迎するわ。海佳」


「は、はあ……」


私はその後、生徒会に連行された。

生徒会……そこだけは関わらないようにしてたのに。


「あんまり気乗りはしないって顔だな」


「それはそうですよ……私に生徒会のお手伝いなんて──」


「勤まるわ」


「え?」


「海佳なら大丈夫よ」


「な、何を根拠に、」


「だって、海佳は私の妹だもの」


そんな、私が守るものみたいなテンションで言われても。


「なにその理由……」


「はー、会長のシスコンがまーた始まった」


「でも海佳さんならきっと大丈夫よ」


「え? なんで?」


「だって、お姉さまの妹だもの」


「ははは……」


私はあんたもかーい! と瑞希さんにツッコミを入れたいところだったけど、その気持ちを引っ込めた。


「あ、あの……」


「あ、栞ちゃん」


「わたし、海佳さまのお世話を頑張ります!」


「えぇ、頑張って頂戴。何分、生徒会に人手が足りなかったから海佳と栞が来てくれて助かるわ」


「ひ、人手?」


「そう。まずはあれからね。咲良?」


「はーい」


何が始まるかと思えば生徒会室の雑務処理の始まりだった。





「まさか、本当に寮で暮らすことになるなんて……」


その後待っていたのは大量の資料の山々だった。

それら片付けて帰路へついた。

私は本当に寮暮らしを余儀なくされた。

短すぎる憧れの女の子との同居生活。

割り当てられた部屋にはいつの間にか荷物が運ばれていた。


「わたしも海佳さまと衣食住を共にできるなんて思いもよりませんでした。感激です!」


「そ、そう?」


「はいっ」


代わりに、じゃないけど、可愛い後輩が同居人になってくれた。

屈託ない笑顔で言われると寮暮らしも悪くないかな、なんて気持ちになってくる。


「さてと、一段落したし、お昼にしよっか」


「はいっ、海佳さま!」


私は栞ちゃんと一緒に部屋を出ると食堂へ向かった。

栞ちゃんが道中、話してくれたことではあるけれど、食堂は全て無料で食べられて和洋中華と好きなジャンルの料理を選択できるらしい。


「海佳さま、ここが食堂です!」


「へー、ここが。結構広いんだね」


「はい。ここは全学年の寮生のみなさんが使用するのでこれほど広く建てられたんですよ」


「なるほど。それなら待つこともなさそうだね」



「もちろんです! 海佳さまは何にしますか?」


「私? うーん、そうだなぁ、」


栞ちゃんに何にするか聞かれるとメニュー表が書かれた壁を見上げる。

まじまじとメニューを見るとたしかに、和洋中と定番に押さえているようだった。

私はしばらく考えた後に栞ちゃんに何のメニューにするか伝えようとしたときに彼女は現れた。


「うーみーかー?」


「あれ、飛鳥ちゃん?」


「飛鳥さま! ごきげんよう」


「……うん、栞、ごきげんよう」


「どうしたの?」


飛鳥さんめっちゃ笑顔。

天使の微笑みかと思った。

思わず血反吐を吐きそうになったのをグッとこらえて私はあらためて問いかけた。


「……そうね。色々聞きたいことはあるのだけど、まずはメニューを選びましょうか。ここで話し込んでたら邪魔でしかないでしょうし」


「そうだね」


「わかりました。では選びましょう」


そうして私たち三人は各々《おのおの》好きなメニューを選んで席へ着いた。



「それで聞きたいことって?」


「……どうしてこんなに早くうちを出たの?」


「え? それはだって咲良さんから早めに寮に移った方が良いって――」


「だったとしても! こんなに早く出て行く必要なかったでしょ!」


「え? え?」


「本当は私たちと暮らすのが嫌だったんでしょ? だから姉さんの言葉を良い口実にして早々に出ていったんじゃないの!?」


私はあらためて話を切り出した。

すると飛鳥は座ったばかりにも関わらずバンと強くテーブルを両手で叩いて立ち上がった。

そのテーブルを叩く音と飛鳥の怒声にも聞こえる大声で栞ちゃんは萎縮し、周囲の生徒たちの視線を独り占めにしていた。


「お、落ち着いて飛鳥? 私、そんなつもりなくて。本当に単純に早く出て行った方が学園の早く慣れられそうだし、飛鳥や咲良さん、それに――」


「……だからおかしいでしょ」


怒っていた飛鳥は私の言葉を聞くと静かに再び席へ座るとさっきとは打って変わってひどく小さな声で呟いた。


「え? 何が?」


「……おかしいでしょ。海佳は最初は学校に行きたがらなかったわよね?」


「ま、まあそうだけど……」


「どういう心境の変化? あんなに行きたくなくて引きこもっていたあんたが今頃になって前向きに寮暮らしなんてどう考えてもおかしくでしょ……そんなの私たちと暮らすのが嫌になったとしか考えられないじゃないの……」


「だから違うって! 私は――」


「もういい! 私、帰るわ!」


「え? 海佳さま? 飛鳥さま?」


「ごめんね、栞。悪いけど、今日は帰るわ。ごきげんよう」


「は、はい……ごきげんよう」


そう告げると飛鳥は食堂の出入口から出て行った。


「…………」


「あの、海佳さま……?」


はあああああ?! ごきげんようってレベルじゃないよ! メシ食うってレベルじゃないよ!?


「私たちは食事、続けましょうか」


「海佳さま……はい……」


私は何がなんだか分からなかった。

でもどうやら飛鳥は私の行動に大変ご立腹らしかった。

モヤモヤしてて食事どころじゃなかった。


「あのっ、海佳さま?」


「うん? なに?」


「ひとつだけ聞いてもいいですか?」


「いいよ?」


「飛鳥さまと喧嘩したんですか?」


「うーん、わからない。だけど、飛鳥、すっごく怒ってた。私の知らず知らずのうちに怒らせてたみたい」


本当に私は飛鳥を怒らせるつもりなんてなかった。良かれと思ってやったことだし、飛鳥には怒るよりも笑っててほしい。

私の好きな人だから。


「喧嘩はよくないです」


「……うん」


「海佳さまも、飛鳥さまと仲直りしたいですよね」


「うん……」


「じゃあ決まりです! 仲直りしましょう!」


「しましょうって言ってもそんな簡単にできるのかな」


栞ちゃんの言葉は有難いし、元気づけてくれてることは分かる。

でも本当に仲直りできるのかな。


「海佳さまは飛鳥さまのことが好きなんですよね!?」


「え? う、うん。好きだよ」


栞ちゃんは真剣な表情で顔をずいっと近付けてきた。

私はそんな栞ちゃんに戸惑いながらも、こくりと頷いてみせた。


「じゃあ大丈夫です! お互いが大好きなのに仲直りできないなんてことないはずですから!」


「う、うん。そう、だよね……」


たしかに栞ちゃんの言う通りだ。

両思いなのに仲直りできないことなんてない。

でも、相手は飛鳥だ。

飛鳥は私をどう思ってるんだろう? 飛鳥の気持ちがわからない。

でも――


「……海佳さま?」


「あ、ごめんね。大丈夫だよ、絶対仲直りするからね!」


「はい! その意気です、海佳さま!」


「うん!」


でも、謝りたい。

仲直りはしたい。

誤解を誤解のまま終わらせたくないから。

私は栞ちゃんの言葉に笑顔で応えた。


「いるかな、遅くなっちゃったけど」


私はその後、栞ちゃんと別れて、飛騨先生に外出届を出した。

そして今は桜川の家の前にいる。

深呼吸してインターホンを鳴らした。


「はーい――って海佳ちゃん!? どうしたの?」


「こんにちは咲良さん。えっと飛鳥はいますか?」


「飛鳥? えぇ……いるけど」


出てきた咲良さんはどうにも歯切れが悪かった。

私から目を逸らしてるし、会わない方が良いって言われてるような気分になる。


「良かった。入っても良いですか?」


「ん……どうぞ」


それでも私は言った。

家の中に入らせてくださいと勇気を出して言った。

今日もしも帰ったら二度と話すタイミングを無くしてしまうような、そんな予感がしたから。


「お邪魔します」


「飛鳥は部屋にいるわ」


「わかりました。それじゃあ」


了承を得ると私は玄関へ行き靴を脱ぎ、上がらせてもらった。

飛鳥の部屋に行くために階段を上がろうとすると咲良さんに呼び止められた。



「海佳ちゃん」


「? はい?」


「頑張ってね」


「はい!」


それは他愛もない会話、励まし。

それでも咲良さんのそんな気遣いが嬉しかった。

笑顔で頷くと私は階段を上がっていく。


「飛鳥? いる?」



私は飛鳥の部屋の前まで来ると扉の中心を軽くノックした。

そして部屋の中の主が聞こえるくらいのボリュームで声をかけた。


「……いない」


「嘘、だね」


「……うるさい」


「これでも抑えてるんだけど」


数秒間の静寂の後、私と同様に私に聞こえるくらいのボリュームで飛鳥の声が返ってきた。


「知らないわよ、そんなの……」


「ねぇ……ドア、開けて?」


「開いてるわ」


「……本当だ。不用心だね」


飛鳥のきっちりとした性格上ドアは鍵が掛かってると思ってた。

だから少し意外だったし驚いた。


「たまたま忘れてただけよ。いつもは掛けてるわ」


「そうなの?」


ドアノブを回すと軽い手応えとドアが開く。

中へ入るとベッドの上で体操座りして壁の方を向いてる飛鳥の姿があった。

私からは背中を向けた形になる。

どうせだし、今日は部屋の鍵を掛けてない理由を訊いてみることにした。



「あんたがいた頃はね」


「はは、なるほど」


理由を聞いて、全然面白くないのに笑った。

笑わないと泣いちゃいそうだったから。



「そんなことより、何しに来たのよ」


「謝りに来たの。飛鳥にロクに相談せずに寮に行ってごめんなさい」


飛鳥は素っ気なく体操座りで背中を丸めたまま言った。こっちを向いてくれる気はないらしい。

でもそれでもいい。

背中を向けたままでも、私を見てくれなくても。

私の言葉に耳を傾けてくれる。

拒絶されないだけ良かった。

私はそんな飛鳥の背中を数秒間見つめてから頭を下げた。



「謝罪なんて、いらないわ」


「……どうして?」


「……逢いに来てくれただけで嬉しいもの」


「へ? 今なんて」


「なんでもないわ! 言いたいのはそれだけ?」


「わわっ!?」


よく聞こえなくて聞き返すと思いっきり枕を投げられた。危ない。


「仲直りしたいなーなんて」


「はあ?」


「だめかな」


「いらないわそんなの。別に怒ってないもの」


「本当に!?」


私が左手の人差し指と右手の人差し指を重ねてモジモジとしていると思わぬ言葉が返ってきた。


「そ、その代わり」


「その代わり?」


「その代わり、今後このようなことがあったら私に相談すること! いい?」


「うん! もちろんだよ!」


飛鳥はあらためてこちらを向くと人差し指を立てて少し照れくさそうに続けた。


「ねえ、海佳」


「なに?」


「こっち来て」


「うん? ええっ!?」


ぽんぽんとベッドを叩く飛鳥。

私はその真意を汲み取ると顔が熱くなった。



「な、何を想像してるのよ! バカ! 別に深い意味はないんだから早く隣に来なさい!」


「は、はいっ」


言われるまま緊張で出来損ないのロボットみたいな変な動きでおずおずと飛鳥のベッドに近寄る。


「どうしたの? なに突っ立ってるのよ。座りなさいよ」


「う、うん」


なんだか飛鳥のベッドに座るのがもったいなくて、思わずベッドと飛鳥を見つめてしまっていた。

私にとっては飛鳥の部屋でさえ聖域だというのに! ベッドで隣になんて! 嬉しい!


「もうあんたの顔をウチで見ることはないのね


「寂しい……?」


「そんなんじゃない。って言いたいところだけど、名残惜しくはあるわね。月陽も姉さんたちもあなたと暮らすの楽しみにしてたから」


「そう、なんだ……」


月陽ちゃんはわからないけど咲良さんや伊吹さんが残念に思ってくれるのは容易に想像がついた。

そのせいか少し胸が痛んだ気がした。


「だからってあなたが気に病むことはないのよ? 勝手に決めた姉さんたちが悪いんだから」


「うん、そうだ、ねっ!?」


「姉さんたちもだけど私も寂しいんだからねっ」


「あ、ああ飛鳥さん!?」


飛鳥ちゃんに手を握られた! ど、どどどドキドキするよぉ……


「それと言っておきたいことがあるの」


「いい、言っておきたいこと!? な、なにかな!?」


「うん、私、別にあなたのことを避けてられたり、嫌ったりとかしてないから!」


「う、うん? はい?」


飛鳥は顔をずいっと近付けて言った。

頬はどこか赤らんで見えた。

私は状況が飲み込めずにいた。

でもそれはきっと飛鳥が悩んでいたことなんだ。

じゃないとこんなに力強く言ってくれるわけがない。

その証拠に私の手を握る飛鳥の手の力は少し強くなっていた。


「わかった!?」


「うん! わかった!」



「うん、し


分かればよし! さてと、それで今日は、これから帰るの?」


「うん。幸い、そんなに遠くないし」


「そう。そこまで送っていくわ」


「うん」


私が大きく理解を示した返事をすると飛鳥は満足したように笑み混じりに小さく頷くと私の手を離して、立ち上がった。

そうして帰宅することになり、私たちは部屋を出る。


「海佳ちゃん」


「あ、咲良さん」


「帰るの?」


「はい。帰ります」


「そう。ごはんくらい食べていけばいいのに」


「咲良姉さん……時間も時間だし、そういうわけにはいかないでしょ」


「残念ですけどまた今度。咲良さんの料理食べに来ますね」


飛鳥の部屋を出たところで偶然、咲良さんが通り過ぎるところだった。

たしかに咲良さんの言う通り咲良さんのごはんは食べたい。

でも外出届だけで宿泊届は出てないから寮に帰らなきゃいけない。

栞ちゃんも心配してるかもしれないし。


「ざんねん。ふふ、でも楽しみにしてるわね!」


「はい。それじゃあ咲良さん、また」


「えぇ、またね海佳ちゃん」


部屋の前で咲良さんと別れると階段を降りて玄関で靴を履く。


「ここでいいよ?」


「だめ。外まで見送らせて」


「そう? じゃあお言葉に甘えて」


外に出ると外に真っ暗になっていた。

夜風が肌寒い。


「……栞とは仲良いの?」


「栞ちゃん? うん、仲良くさせてもらってるよ?」


「あの子、人見知りなのに。何したの?」


「な、何もしてないよ!」


「……本当に? どうだか」


なんかいきなり栞ちゃんの話になったと思ったら謎に疑われてるんですけど!?



「……うー」


「くす、冗談よ。これからも栞と仲良くしてあげてね」


「うん、それはもちろんだよ!」


「……手は出さないでよね」


「出さないよ!?」


「くす、それじゃあまた学校でね」


「うん。飛鳥、またね」


私が抗議の声を上げると飛鳥はクスッと笑ってくれた。

こんな風に冗談になれたんだと噛み締めながら私は学院を目指して手を振り合って飛鳥と別れた。

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