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Limit of mental  作者: くらしかる
3/12

前身

"で?なんで折れたんだ?正論はお前だろ?"

"さぁな。でも"

"でも?本当はわかってんだろ?"

"あぁ、わかってるよ。そっちこそわかってること訊くなよ。"

"そういうもんは口に出して初めて一歩進むもんだ。ほらほら言った言った"

通話に沈黙が流れる。

"自分が納得できない受け売りに説得力があるわけないだろ。そういうことだよ。"

また沈黙が流れた。

"ふーん。"

"だから頼みがあるんだ。その…講義を開いて欲しくてな。"




昼10:00。約束通りに茂原へ行くと、サンデーサーキットで賑わっていた。都心から最も近いそれなりのサーキットとしてここは割と人気で、時よりプロや本物のD1車両とかも気晴らしだのテストだので出没しているスポットなのである。受け付けを済ませ、車に戻ると一人の中年男性がまじまじと車を眺めている。

「これ、あんたのかい?」

男性は尋ねる。

「ええ、まあ。」

事情を説明するのが尽く億劫で、簡単に済ませた。

「となると、山田が寄越したガキはあんたか。」

30半ばの時たまおっさん呼ばわりされる俺をガキと呼ぶとは。

「あんたここを走ったことは?」

戸惑う俺を華麗にスルーして男性は続けようとする。いやいや、待ちなされ。

「失礼ですがお名前は?」

名前?とぶっきらぼうに男性は切り替えし、続けた

「タチさん。これでいいよ。名前なんて個人が識別できればそれでいんだ。安心せい、ここでタチさんて呼ばれて振り向くのは俺だけだあよ。」


そう言いながら彼が解錠したのは旧式のブルーバードだった。失礼ながら禿げかけた白色はお世辞にもその手の車とは思えず、困惑の色を隠しきれなかった。いや待て、このボンネットのダクト…SSS-R?!俺も20代の頃だてにGT-Rを調べまくった訳ではない。そう、このボロいブルーバードの駆動システムは第二世たちGT-Rと同じATTESA。そして心臓はS13後期からシルビアを支えたSR20。自分はただもんではない、そう訴えるのはこのボンネットのダクトだけだ。

つまるところこいつはへたなスポーツカーにはリアランプしか拝めない優れもの。


「何ぼーっとしてんだ。乗れよ」

もう少し眺めていたかったが生憎そんな暇もないらしい。

「は、はい!」

助手席に乗り込むとSR20が目を覚ます。

「いいか、よく前後左右のGを感じるんだ。いいな。」

そう言って彼はコースまで車を進めた。そこからは言わばダンスだった。前後左右、コーナーに合わせてGは踊った。ときに優しく緩やかに、ときに強く激しく。ただし、車を降りるそのときまで常に動きはスムーズだった。アクセルオフで荷重を前に、ステア操作で移した荷重を旋回へのエネルギーに変え、そしてアクセルを微妙に開けつつ荷重を後ろに。(マシン)は加速していく。実にしなやかで速かった。見蕩れるような完璧なライントレースとマシンコントロール。あっという間に5周が過ぎた。

「次はお前だ。やってみろ。」

突然。本当に突然だ。見ただけでできたら苦労しない。

「え、いや…」

「早くしろよ。時間は限られてるんだ。」

言われるがままRB26に火を入れる。コースまで運び、スタッフの合図を待つ。待つこと二分、この間特段会話なし。横のおっさんはコース上をただ眺めている。GOサインを確認、走り出す。アクセルを踏み込むと間髪入れずRB26は吠え立てる。ステアを切って1コーナー

「ダメだ。ダメだダメだ!前後の荷重移動がなっとらん!」

いきなり激が飛ぶ。

こんどこそ!ブレーキ、前に荷重を切ってステア操作

「ダメだ。サスペンションの動きを完全に無視している。もっと頭の中のイメージを固めるんだ」

サスペンションの動きだと?…。落ち着いて…。自分の車を客観視するんだ…。レースゲームの三人称視点のように、そうだ、こんな感じに…。

眼前には右コーナー。ブレーキを踏み込むとフロントは沈みこむ。リリースとともに徐々にサスペンションは伸びはじめる、ステア操作、サスペンションは路面を押し付けステア感度は良好、ロールが始まる。ステアの舵角は一定に。次第にリアのロールも大きくなりテールが流れ始める。ステアを戻してテールスライドを収め、脱出。

「まだまだ、もう一回。」

これでまだまだかい。

1周まわって1コーナー、荷重移動よし、テールスライドの管理もよし、完璧にクリア。

「アクセル開度の管理がまだまだ。もっと繊細に。前輪と後輪のグリップを感じて」

アクセル開度かよ。とりあえずコーナーに備えてブレーキ、ステア。クソ!ミスった。アンダーだ。

「慌てるな。慎重に」

わかってるよクソジジイ

ブレーキ、シフトダウン、ピッチングを利用して切り込む、そしてロール、リアが流れようとするのをアクセルで抑え込む。ダメだ、プッシングアンダーか。


次第に助手席の男の口出しは減っていった。


タイヤもタレてくる。


「ラストラップだ。プッシュかけろ。ゼンカイで行け。」

あー!さっきからゼンカイだっての!

全神経をタイヤからの情報に集中させる。するとどうだろう。路面のうねり、舗装の荒さ、全てが手に取るようにわかる。身体が勝手に動いていく。まるでスローモーションのように、それでいて一瞬で1周が過ぎた。

「オーケー、上出来だ。」


ピットに戻るとどっと疲れが押し寄せる。

彼は片手を振り上げるとそのまま去っていった。





アクアラインを東京に向かって走る。R35では200km/hで流れる景色もこの車だと100km/hで流れていく。


VVVVVVVVVVaaaaaaahhhhhnnnn

後ろから近づくモーターのように滑らかなエンジン音。間違いない、REだ。サイドミラーにはリトラクタブルヘッドライトがうつり込む。あっという間に接近し、そして追い抜くそのサウンドの持ち主は、女性的な丸みを持つボディラインをトンネルを照らすナトリウム灯を反射させ華麗に一般車をパスしていく。

「FDか…」

そういえば、今日は現れるのだろうか。アイツは。今のFDとは同じRE,13B REWだとしてもあの声とは違う。決定的に、何かが。そう、決定的に違う存在感がそこにはある。俺とも、誰とも違う、威圧感、いやそうではない、同じオーバー200km/hの領域(ゾーン)にいる者だけが感じる圧迫感。またもう一度味わいたい。前の時よりもっと長く、そして強烈に。

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