放課後
カタカタカタ……。
時間は午後となり、午後の授業も終えて放課後を迎えた。
今は、職員室で事務作業に取り掛かっていた。
まずは、今日の授業の自己評価と反省をまとめる。その後、明日の授業の準備と計画をする。G組の授業は全てを俺が受け持っている為、準備にも時間が掛かる。
「えーと、明日は……現国、数学、体育、歴史、物理、総合学習か」
一時間目からの授業で何を行うか、どのように教えるかを考える。
「うーん、体育の女子は凛に任せるとして、総合学習といっても何すればいいのかな?」
しばらく考えても案が浮かばなかった……。
「……りーん」
とりあえず凛任せにしようという結論に至った。
「はい? 何ですか和人?」
「凛ならこの総合学習の授業はどんなことする?」
手招きして凛を呼びながら画面を見せる。
「そうですね、クラスの今現在の学力を理解するためにも小テストでも行
(おこな)ったりしますかね」
顎を人差し指に乗せて考えるような仕草をしながら凛が答える。
「ふむ、じゃあ明日の総合学習の中身は任せた」
「……はい!? まさかそのために呼んだのですか!?」
「そういうこと、気付くの遅いぞ」
凛の反応が面白可愛くてついつい口角が上がってしまう。
「ハア、分かりました……って、なんでニヤニヤしてるんですか!?」
「いやー、凛が面白くて……」
やばい。にやけが治まらない……。
「と、とりあえず、あ、明日は任せ、た」
下を向いたまま凛の肩に手を置く。
「はいはい。分かりましたからそのにやけ顔を静めてください」
「あ、あぁ、分かっ、た」
一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
「そんじゃ頼むわ」
☆
「んー! 疲れたー!」
時刻は午後7時。職員室での作業を終えて自宅へ帰宅中である。
「あ、コンビニ寄ってこ」
少し歩いたところにあるコンビニ立ち寄る。
コンビニで飲み物とパン、おにぎりを買ってく。レジを通り過ぎ、自動ドアから出てみると……。
「…………まえ、君たち!」
「…………れだお前?」
「…………か? やっべマジウケる」
聞き覚えのある声が一つと聞いたことのない声が複数聞こえた。
「今の声……」
ふと気になって声がした方に向かってみる。
建物の影から耳を立てる。
「僕はしっかり見たぞ! さっき、君たちが買った商品の金額を全てその少年に払わせていただろう!」
この声……やはり青山の声か。
今まで聞き耳を立てていたが少しだけ体を出して様子を窺ってみる。
視界の先には、青山とその向かいには五人の不良っぽい奴らと小柄な男の子がいた。
「はぁ? 何言ってんだお前? こいつが自分から払いたいと言いだしたんだぜ。つまり、俺たちが払わせたという事にはならねえんだよ」
「……本当にそうなのかい?
青山は先ほど指を指された小柄な彼に尋ねる。
「…………………………」
少年は口を開かなかった。
「何も言ってこないがこれは同意ということではないみたいだね」
青山の目が鋭くなる。
「チッ、あんまり荒事は起こしたくなかったんだがなー。仕方ねえ、お前らやるぞ」
青山に向かって五人同時に襲いかかってきた。
まずい! そう思ったときには既に体が反応していた。
☆
拳がこっちに向かってくる。
そう認識した時には既に手遅れだった、
避けられない!? 殴られる。そう感じて歯を食いしばる。
「後悔しろよオラァ!」
相手のリーダー格の拳が振り下ろされる。
バシィ
歯を食いしばり続けても拳がぶつかる感触は訪れなかった。
「…………?」
恐る恐る目を開けてみると……。
「ったく、どうすんだよこの状況……」
視界に現れた背中から首だけをこちらに向けた顔は若干気怠そうな顔をしていた。
☆
拳が振り下ろされる前に不良と青山の間に入り込む。
向かってくる拳を掴みあげる。
「ったく、どうすんだよこの状況……」
手を掴んでからの行動を全く考えてなかった。
とりあえず今掴んでる手を捻ることにした。
「いってえぇぇぇ!?」
目の前の不良が悲鳴を上げる。
つうか既に涙目じゃね?
そう思っているうちに不良は腕を思い切り振って俺から手を解放させた。
「くそっ! 行くぞお前ら!」
逃げてくように不良グループが去っていく。
残った少年はペコリとお辞儀をして不良達が向かった方向とは逆方向に走っていく。
「んだよ。最近の若い者は根性ねえな」
「いやいや、先生も大して変わっていませんよ」
青山が苦笑しながら言ってくる。
「お前もあんなのと絡んで勝機はあったのかよ」
「いえ、全くありませんね」
迷いもなく答えやがったな、コイツ。
「それでも……」
青山が続ける。
「それでも……見逃せないんです」
そう言った青山の目は何かしらの決意の表れでもあるかのように見えた。
「……ふーん、青山。お前実はバカなのか」
「なっ!? ちょっ!? どういう意味ですか!?」
「そのまんまだよ」
青山が不満のような視線を向けてくる。
それを見てると笑ってしまいそうになる。
「ほら帰るぞ。明日も学校あるんだからな」
隅に置いていたコンビニ袋を持って歩きだす。
「先生も飲みすぎで二日酔いとかしないでくださいね」
「フッ、気をつけらあ」
コイツ、いつから気付いていたんだ。
コンビニ袋には一週間分のお酒が入っていた。