chapter⒉いつか奪われた絆
過去編モノローグです
十鳥朝睹と十鳥夜祭
双子の兄と僕はいつも一緒にいたが
兄の朝睹は僕とは正反対だった
彼は僕には無いカリスマ性に、協調性
およそ人と関わり合う中で、特に大事なものをすべて持っていた
そんな人だったから、彼の周囲には沢山の人がいた
僕もその1人だった
彼は周囲に期待され、その期待に彼も答えていった
僕は彼よりできなかった
こういうと、僕が人より劣っているように聞こえるが、決してできなかったわけではない
彼が出来すぎたせいで、僕が劣っているように見られてしまっていた
光が光るほど影が目立つように
彼が期待に応えるほど、僕の評価は落ちていた
でも決して、僕は彼を恨んでなどいない
なぜなら彼は、周囲がどんなに僕を責めようとも、彼だけは僕の味方だったからだ
幼稚園にいた園児や、保育士の方たち
両親に至ってまで、僕のことを
『兄よりもできない、出来損ないの弟』
そう思われていたのにも関わらず、彼は決して僕を出来損ないと呼ばず、寧ろ弟のことを自慢するかのようだった
そんな、まるで僕にとっての希望そのものだった兄
また、周囲にも期待され、そして期待に応えていった兄
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これはよくある思い出
ありふれた町で起きたありふれた悲劇
小学1年生の頃の暑い夏休みのこと
僕は彼と公園でサッカーをして遊んでいた
しかし僕が、後ろにボールを逸らし、ボールは車道に出てしまった
慌ててボールを拾おうと道路に出た僕の目の前に現れたのは、トラックだった
とっさに逃げようとしたが体が動かず、そのままトラックが突っ込んでくる
硬着し、動けない僕はその時死を覚悟した
しかし訪れるはずの死は来なかった
トラックに引かれそうになる僕を、兄が道路の反対側に突き飛ばしたからだ
突き飛ばされた僕は驚き、トラックの方を見た
スローモーションのように動く世界の中
僕を突き飛ばした兄は、一瞬、満足そうに笑い
そして次の瞬間、トラックに引かれた
辺りに充満する鉄の匂いと、兄が僕を庇いそして引かれたという事実に耐え切れず、そこで僕の意識は途切れた
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目が覚めたとき僕がいたのは、病院のベッドの上
病室に設置されていた、デジタル時計を見ると、あの日から2日経っていた
兄はどうなったのか、と両親に聞くと
2人とも泣き始めてしまった
この時、僕は悟った
彼はあの日、トラックに引かれるはずだった僕を庇い、そして死んだのだ、と
そして気付く、気付いてしまう
両親は恐らく、何故兄ではなく僕が死ななかったのか、と思っていることに
いや、両親だけじゃない
兄の友人、知人のほぼ全てがそう思っているだろう
そう気付いたとき、僕の意識は再び深い闇の中に沈んでいった
再び目を覚ました後は、正直よく覚えていない
兄を事実上、殺してしまった
そのことで僕の中で罪悪感が膨れあがる
罪の意識に苛まれ、精神が不安定になっていたからだ
そんな僕が、1人になることが多くなるの必然だった
また、事故の日からまるで神が僕を1人にしようとしているかのように、人と関わることがなくなっていったのも関係しているだろう
流石に、どんな時でも1人になってしまうという体質になってしまったのは驚いたが、これも僕が兄を殺した事への天罰なのだろうと思った
そう思い、僕は1人で生き続け、そしてこの世界に召喚された
何の因果か、召喚された世界で僕は、死んでいたはずの兄と再会することになった
誤字脱字、文法の間違い等ありましたら、ご指摘お願いします