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螺旋図書館42階司書室にて  作者: 室井 連
「お節介ものの鏡」
2/15

第2話 真実の鏡

「ねぇ、お姉ちゃん……」

「なぁにぃ? あっ、もしかしてこのチョコが食べたいとか? でも、だめだよ~。だって、お姉ちゃんチョコ大好きだもん」

「ねぇ……」

「あはっ。やっぱりチョコは、このとろける感触がたまらんっすわぁ……」

「ねぇ……オネエチャン」

「あぁもう、しつこいよぉ……だからこのチョコ――――ひっ!? そ、その顔……だ、大丈夫!?」

「…………」

「ど、どうしたの! 一体何が……」

「ドウシテオネエチャンガイキテイテルノ?」

「え、え、え…………?」

「ドウシテアノトキ――――」

「い、いや……いや、いや。や、やめてぇぇ!!!!」







第2話 真実の鏡







 レイフォース学園の一年生が使う教室に、特別司書である鴇田瑠璃がいた。教室には様々な生徒がいるが、その中でも彼は目立ってしまう。 特別奨励生徒として入学した彼は、他の生徒達との差別化のために、制服の色が違う。通常の生徒達は、紺色がベースの制服だが、特別生徒である彼の制服は、灰色ベースで、背中に校章が黒色のラインで描かれていた。

「ふぅ」

 ちなみに現在彼は、特別司書の腕章はしていない。彼曰く、おれの活動時間は放課後だ、らしい。本当のところは、面倒というところが妥当だろう。

「珍しいものだな。君がこんなに早く教室にいるなんて……」

 そんな彼に話しかける者がいた。

 瑠璃に話しかけたのは、彼と同じ灰色の制服に身を包んだ女生徒だった。長めの髪を後ろでシンプルなゴムを用い一本にまとめていて、彼女の凛々しい顔立ちの印象を強くしている。

「あぁ? 人のこと小馬鹿にしてそんなに楽しいのか? あぁ、やだやだ。これだから風紀員の連中は嫌いなんだよ」

「えっ……あぁ、いや。気分を害したのならすまない。僕にはそういうつもりは無かったのだが」

 口調もどちらかといえば、女性に似合わないかたい喋り方だが、彼女のハスキーな声には似合っていた。僕、という一人称もさして違和感は無い。

「おい。申し訳なさそうな顔しといて、さりげなく隣に座わるなよ」

「気にするではない。特別司書と風紀員、同じ穴の狢なのだからな」

「一緒にすんなよ……つーか、千草がそう思っていても、お前の姉と兄はどう思っているんだか」

「ウジ虫、といったところなのだろうな」

「うじむ、し……? ひどいな、それ」

「兄上達も複雑な心境なのだ。君という存在は幾分、イレギュラーだからな」

 そう言い放つと、彼女は瑠璃の隣の席に腰を掛け、目の前の机に二本の長物をおいた。ひとつは日本刀らしきもので、もうひとつは木刀だ。普通ならば、こんな物を持ち歩いていたら、没収されてしまうが、レイフォース学園で3人しかいない風紀員の一人である彼女は、それが許されている。というよりも、レイフォース学園の特殊な環境を守るためには必要といえる。

「はいはい。どうせおれは、ただの成り上がりでございますよ。えぇ、そうです。お前達兄妹とは違って、何も知らなかった普通の中学生上がりですよ」

「そう拗ねるな。千草茉莉ちぐさまつり、僕は君のことを多少は評価している」

「さいですか」

 瑠璃はどうでも良さそうに、机に肘をつけ、手のひらに顎を乗せた。いかにも気だるそうだった。

 先ほどの話が彼を悩ませているのではなく、メルの言いつけにより、強制的に受けさせられている英語の授業がめんどくさいのだろう。特別奨励生徒である彼は、本来ならば授業に出る必要などないからだ。

「ここからが本題なのだが、ここ一週間、何者かが力を使っている形跡があると兄上が仰っていたのだ。君は何か知らないか?」

(なるほど、ね)

 瑠璃は引っ掛かっていた違和感があった。それは、彼女が英語の授業に出ようとしている点だった。

 茉莉も瑠璃と同様に、授業に出席する必要が無く、彼女の兄妹はほとんど出席していなかった。しかし、茉莉という人物は、考え方が違う。 学べる場があるならば、せっかくなら学ぼうという前向きな人物であり、選り好みしつつも、授業には出席していた。その選り好みで、出席しない教科が英語などの他言語類だったというわけだ。

「あぁ、実は――」

 胸のつかえが取れた瑠璃は、昨日合った出来事を掻い摘んで説明した。

「ふむ……そうだったのだな。できれば昨日のうちに兄上に話をしておいてほしかったものだ」

 一通り聞き終えた後、茉莉は不満げに呟いた。瑠璃の耳に言葉が届いてしまったので、彼は言い訳がましく補足した。

「……まぁ、おれだって、さすがにレメシスだったら報告するし、回収が必要なレイシスでもお前らには相談する。でも、今回は急ぎの要件でもないし、求められたら助けろ、なんて曖昧なことしか言われなかったから言わなかったんだよ」

 今の瑠璃の発言は、半分嘘だった。

 基本的に、鴇田瑠璃という男は、なるべく人を頼らず、自分の力のみで物事をやり抜くということが染みついている。そのため、特別司書の仕事で、彼の上司ともいえるメルの言いつけが無ければ、最初から風紀員に関わることもなかったろう。

 なので、特別司書の仕事であるレイシスの回収ならば、四苦八苦すると予想しても、メルだけを頼り、自身の力でやり遂げようとするわけだ。

「そうなのか。しかし、これからはちゃんと報告を頼む」

 見透かしたかのように、茉莉は風紀員として釘を刺した。茉莉としては、あくまでも瑠璃は、風紀員の支配下にいるということを認識させておきたいのだ。

「はいはい、わかったよ」

 二人にはそれぞれの思惑と立場がある。それらの拮抗がなければ、親しい間柄になっていたかもしれない。しかし、確立されてしまっているものが皮肉にも邪魔をしていた。

 ともあれ、聞きたいことを聞き出せた茉莉は、違う授業を受講するために他の教室に移動しようとした。だが、気になることがあり、一時中断した。

「それにしても、どこからか強い視線を感じるのだか……」

「……お前もか? 実はおれも――」

 二人の指摘通り、熱い視線を投げ掛けているものがいた。

「あっ」

 瑠璃はその人物と目が合い、思わず顔をしかめた。

(うわっ……あいつかよ。なんであいつが一年の教室に――)

「あっ! やっぱり、昨日の司書さんだ」

 瑠璃だと確信したのだからか、遠目に様子を観察していた周防あやめが二人の側によってきた。

「誰だ?  僕の記憶だと、君には親しい者は1人しかいなかったはずなのだが……」

「その1人ってお前じゃないよな?」

 瑠璃は茉莉のボケにしっかりと突っ込みを入れつつ、答えた。

「さっき話してた客だよ」

「なるほど」

 あやめは、二人がそのやり取りをしている間にたどり着いていた。そして、鋭い声を発する。

「なんでここにいるんですかぃ!」

(う、うるせぇ……)

 もはや存在自体がうるさいのではないかと、瑠璃は考えていた。

「いちゃ悪いかよ……つーか、おれは二年のお前がここにいる方が謎だよ」

「あ……あはっ。実は英語が苦手なもんでして…………え、えへっ」

「そ、そうか。頭悪そうだもんな、お前……」

 笑ってごまかそうとするあやめに、思わず瑠璃は本音を漏らしてしまった。もちろん、今の発言に悪気などはなかった。

「失敬な!  司書さん、それは失礼ですよ!? 人を見た目で判断するなんていけません! 小学生の頃、先生に言われなかったんですかぁ!」

 その発言にすっかり激怒したあやめは、真正面から鼻と鼻がぶつかりそうなほど接近した。

 今にも噛みつきそうな勢いだったので、瑠璃はとりあえずなだめるためにも謝罪をした。

「わ、悪い」

 怒りが収まったのか、彼女は離れていった。そして、彼がいる理由を再度尋ねた。

「わかればいいんですよ。って、司書さん、なぜここに? ここは一年の教室ですよ。あっ、もしかして、学園職員として視察に来たんですか? さすが司書さんですなぁ」

「はぁ……」

 見当違いの発言に、瑠璃は深々とため息をついた。

 その理由ははっきりとしている。瑠璃は昨日も、現在の制服を着てあやめに接していた。違う点は、腕章をつけていないだけだ。となると、レイフォース学園が変わっているとはいえ、学生をしつつ、司書を兼任しているという事実に気付けないのは単に、あやめの認識力が低いということを意味している。

 とにかく瑠璃は、その誤解を解消するために、しっかりと説明することにした。

「この制服見て気づけよ。おれは、特別奨励生徒として入学した、れっきとしたレイフォース学園の一年生だぞ……」

「へっ……?」

 あやめは、驚きで大口を開けている。

「中学も卒業したばかりだ」

「や、やだなぁ、司書さん。証拠が無いじゃないですかぁ。わたしよりも年下なんて……あり得ません!」

 瑠璃は少なからずショックを受けていた。

「残念なのだが、彼のいう通りだ。僕が保証する」

 断固として信じようとはしないあやめに、見かねた茉莉はフォローを入れた。

「――な、ナンダッテー。こんなに目つきが悪くて、既に人生を達観しているようなこの御方が正真正銘の一年ですと!?」

 ようやく受け入れてきているようだが、いかんせん心では拒否しているのか、目を白黒とさせ、口からは本心が漏れてしまっていた。

「一回殴っていいよなぁ? どう考えてもお前の方がナチュラルに失礼だよな?」

 あまりにも失礼な発言に、瑠璃は割と本気で怒っていた。

「ひぅ……ぼ、暴力はんたーい!」

「言葉の暴力って知ってるか? 人はな、言葉だけでも簡単に傷つく……」

「――あっ! こちらがかの風紀員さんですか。初めて見ましたよー。うわぁ、この威風堂々とした腕章、すごくかっこいいですね!」

「光栄だ、僕もそう思っていたんだ」

「あっ、自分のこと僕っていうんですねぇ。さっきはスルーしちゃいましたけど、全く違和感がありませんねっ」

「ありがとう」

「人の話を聞け!」

 その後、憤慨していた瑠璃が機嫌を直したのは授業が始まってからだった。瑠璃は、英語の授業が終わるとすぐに、螺旋図書館へと足を運んで行った。








 螺旋図書館42階司書室。いつものように瑠璃は、特別司書として相談室を開き、対応していた。しかし、7月になり、人が訪れることがめっきり減っていた。

「ふぅ……」

 なんてことが言えるが、今の一年が入学して2週間ほどは、この相談室に訪れる者が多数いた。相談内容はほとんどが似通っていて、まともな教師がいないという不満や、食堂で注文すると、頼んだ物がふわふわと浮いてテーブルにたどり着くという怪奇現象に対する恐れ、それに、気温や湿度がほとんど一定で、天気も常に晴れ、さらに四季すらほとんど無いという超自然現象に関する困惑などだ。

 特に多いのが、外部との連絡を徹底的に禁じられているどころか、年に二度ある休暇以外、レイフォース学園の敷地内を出ることが叶わないということの不満だった。

 そのような不満が積りに積って、中学校卒業と同時に入る生徒は、事前に申されていたことを鵜呑みにしているケースが多く、例年半数程度はやめる。

 瑠璃もそんな軽い気持ちで入った生徒のうちの一人だが、彼は他の生徒よりも早くレイフォース学園に来ており、メルの元で働かされていたことで、幾分も通常では考えられない出来事にも慣れていた。それだけではなく、他に行くあてがなかったということもあったわけだが。

 ともかく瑠璃は、同じ立場であるのにそういった生徒の対応に追われ、次第にめんどくさくなっていき、知らん、そうなんだ、で? 、お前が悪い、の4点張りで対応していたところ、30名いた最年少の一年が10人しか残らないという結果になってしまった。当然、メルにはやんわりとねちねち叱られていた。

「真実の鏡、ね。何がしたいんだか……」

 それから多少は心を入れ替えたのか、きちんと対応するようになったわけだ。

 今回も、真実の鏡、というレイシスを51階第一書庫にて調べを済ませていた。だが不幸なことに、真実の鏡に関する具体的な記述は無かった。唯一書いてあったことが、呼応型の心理解放レイシスであるということで、メルの言った通り使用者に対してさしたる害は無く、放置しても問題ないということだ。

 瑠璃が他に状況から読み取れることは――

(周防あやめが、真実の鏡に見入られた何かを心の奥底に抱えているということ、か。能天気に見えそうで、複雑な想いを抱えているってわけか)

 結局、瑠璃がわかったことはそれだけだった。先日は、頼らないでくれと願っていたが、あの明るくて能天気そうに見える彼女が、どうして真実の鏡に魅入られ、何かを望んでいるのか。瑠璃は、時間が経つにつれ、はからずも興味が湧いてきていたのだった。

 そうして、瑠璃がしばらく考えにふけっていると、ドアのノックが聞こえた。

「どうぞ」

 先日とは違い、ノックしてきた相手が優に予想できたので、ほとんど無意識に返事をしていた。

「し、失礼しまぁーす」

 予想通り姿を表したのは周防あやめだった。

「あぁ」

 昨日と同じように二人は、向かい合わせに座っていた。

「あっ、今日はほうじ茶なんですか」

「まぁな」

 会話は思ったよりも弾まなかったので、瑠璃は本題に入るために形式に沿い、彼女の悩みを聞くことにした。

「何か聞きたいことがあるんじゃないか? それとも」

(聞いてほしいことか?)

 続きを発しはしなかった。あくまでも彼は、頼られたら助ける、というメルの教えがあったから。

「えと……」

 あやめは十分に思い悩んだ後、まずは軽度の質問をすることにした。

「気になってたんですけど、レイシス……? ってなんですか?」

「レイシス、か」

 別に秘密にするようなことではないので、瑠璃はちゃんと説明することにした。

「概念としては、法術――法理格式魔術ほうりかくしきまじゅつを使うために必要なもの、だな」

「…………すいません、意味がわかりません」

「まぁとりあえず聞いておけ」

 レイシス――法理格式因果物質ほうりかくしきいんがぶっしつとは、瑠璃が説明した通り、法理格式魔術を使うために必要な物質だ。人間とレイシスの間に因果関係が結ばれることにより、人間が持つ因果力(またの名を理)、を介することで、レイシスの効果を発揮できるという仕組みになっている。

 人為的に生まれたものではなく、自然的に発生するもので、数千以上の種類があるとされている。能力ももちろん、様々なものだ。

 レイシスとレメシスの違いは、因果の果てに人体に対して因果力以外の代償を求められるか、という差である。前者はそれが不必要で、後者は必要だ。

 だが、レメシスはその分、強力な力を扱える場合が多く、人間の因果力という一種の才能にあまり左右されない節もある。もちろん、レイシスでも強力なものがあるが、それを扱うには相応の因果力が必要となるというわけだ。

「日本語でおk」

 あやめは感想を述べた。つまり、まったく理解できないということだった。

「まぁ、人間に過ぎたものを使うためには、それ相応のなにかが必要ってことだよ」

「うーん……まっ、いいです。でも、そんなものをわたしが使っているなんて信じられませんね」

「そりゃあそうだ。驚くほどのレイシスなんて数が少ない。大抵は大したことがないし、気づかないものだってある。目に見えるレイシスなんてものは、そうそうないってことだろうな」

 瑠璃は結論付けていた。

「へぇ…………でも司書さんも、何かそのレイシスってやつを持ってるんですよね!」

「えっ……? まっ、まぁな」

「どれですか?」

 渋々ながらも、右中指にはめている銀色の指輪と、首につけている黒のレザーの首輪を指した。

 あやめが興味を示したのは、南京錠が取り付けてある、いかにもな首輪だった。

「そういう趣味なんだと思ってました!」

「違う!」

 一瞬だけ瑠璃はどもった。それは、片方のレイシスの名が、【従者の首輪】、というものだったからだ。

「だって、上の階のかわいらしい女の子、なんていうか……」

 あやめは51階での出来事を思い出していた。実は、少女に畏怖していた。

「王様、女王様って感じが………」

(……間違ってないな)

 瑠璃は、あやめの言い分に納得していた。瑠璃も初めてあの部屋に入室した時は、メルの異様なオーラを感じ取り、寒気を感じた。

 メルのことをある程度知ったあと、現状では普通に接することができるが、それはあくまでメルとの交わした契約と、身につけているレイシスがあってのものだ。

 普通の人間が関わるには危険なことに変わりは無いのを理解していたので、あやめに対して忠告をしておくことにした。

「あいつは、あんな見た目してるけど、この図書館の管理人だからな…………あいつにはなるべく関わらないことをすすめる」

「は、はい」

 あやめは素直に頷いた。先日、あの部屋に入ったときに感じた恐怖が染み付いてるのだろう。実際、彼女はあの部屋で、自分自身が操り人形であるかのように感じていた。

「話を戻すが、お前が尋ねたいことは違うんじゃないのか?」

 そんなことよりも、瑠璃はさっさと本題に入ってほしかった。あやめがどうするのか、これ以上にないくらい気になっていた。

「………いえ、その」

「余計なお節介かもしれないが、真実の鏡が失われてしまうのはおそらく、今日か明日だ」

 なかなか話を切り出さないあやめに、ついに瑠璃は話を切り出した。

「いえ、それだけで十分です。数日で……」

 しかし、想像していた展開にはならなかった。もう一歩先へ踏み込みたくて、もう一度聞き返す。

「本当にいいのか?」

「はい、それじゃあ私帰りますね」

 だが、あやめは食いついてはこなかった。その代わり、陰鬱な表情を見せていった。

「あぁ……」

 あやめが見せた暗い表情が、瑠璃の心にいつまでも残っていた。











 午前3時、女子寮へと進む男の姿であった。本来ならば、男子禁制ではあるが、特別司書である彼には、必要がある場合ならば許可されている。

「えぇと……」

 なるべく音をたてないように、小さなライトと彼女の部屋のメモを頼りに、瑠璃は部屋を探していた。

『312 周防あやめ』

「ここか……」

 女子寮の管理人から受け取ったマスターキーを使い、彼女の部屋へと忍び込んだ。その瞬間、彼の目にまばゆい光が差し込んできた。

「――っ!?」

 その光に引き込まれるように部屋へと足を進めると、ベッドに仰向けで寝ているあやめがいた。

「これは……鏡の破片?」

 手のひらサイズの鏡の破片が一欠けら、宙に浮いていた。暗い部屋に、きらきらと光を発していて、とてもきれいに見える。

(とてもきれいな手鏡、ではないんだな)

 瑠璃にはそう見えなかった。しかし、彼には自分に見えているこの姿こそが、真実の鏡の本当の姿であるとは理解している。そう見えるのは、彼の所有しているレイシスの影響だ。

 彼の右手中指に身につけている指輪は、【無益無償のことわり】、というレイシスだった。このレイシスを身につけている限り、瑠璃はあらゆるレイシス、レメシスの因果に影響されることはない。無益を主張する限り、無償であるということがこの指輪の本質だからだ。特異中の特異であるレイシスでもある。

 つまり、第三者として傍観者として、レイシスと使用者に対して介入することができるというわけだ。

「…………」

 瑠璃の手が自然と延びていったが、直前で止まる。

(なにしてんだ、おれ)

 自身に問いかける。どうして、こんなことをしているのか。

 一瞬逡巡したが、好奇心が勝り、おそるおそる光の中へ手を伸ばしていった。

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