2-3話
「 しっかし、よく国王が、あんな命令をだしたな。
ユイカが聞いたら卒倒するだろうが、ユイカ隠れファンクラブの会長だろ? 」
厳格そうな雰囲気なのに意外とミーハーな父親の姿を思い出しエリカスは苦笑した。
「 だからこそ、かな。」
「 だからこそ? 」
先ほど西の城庭で会話したあの2人はこう切り出した。
『 牢勤めの者から聞いた話ですが 』と。
「 お前も薄々気づいているだろうが、最近都の治安が悪くなってきている 」
「 確かに、最近ガラの悪いやつが増えているな。それがどうした 」
「 その理由は、ユイカの結婚が間近に迫ったからなんだ 」
「 は? ユイカの結婚が近いからガラの悪いやつが集まってくる?
なんだそれは? 」
「 強いやつを倒して名を上げようとする者はどこにでもいるだろ?
ユイカも例外ではない。彼女は強いからな。
今までにも今日城で戦うことになったような事例は何度もあった。
が、その度に彼女は勝ってきた。
結果、彼女はますます名を上げ狙う者が増えてきた。
もともと治安の悪化に伴い街の警備を強化して取り締まっていたんだが、
今日聞いた話によると、牢に捕らえた者達のほとんどがこう言ってるそうだ。
『ユイカと戦わせろ』と 」
「 成る程。その長い講釈を訳すと。
ユイカが結婚して迂闊に手を出せない存在になる前に勝って名を上げようってわけだな 」
「 ・・そういうことだ。
連中が礼儀をわきまえて一対一で挑んでくるようなやつらならよかったんだが、
いや、良くは無いがその方がずっとましだ。
だが、都に集まってる連中がそうするとも思えないからな。
いくら彼女が強いと言っても大勢と戦って無事ですむとは思えん。
まして、今は結婚式前。
当日、傷だらけの花嫁を迎え入れるわけにも行かないだろ?
今まで、何事も無かったのが不思議だよ 」
「 手は先に打つ。 か…
なぁ、ユイカから剣を取り上げる事だけが、あいつを守る唯一の方法か? 」
「 そう思うが、どうかしたか? 」
「 いや、その方法だと結婚式の日に不満を持った奴らが暴動を起こしかねないと思ってな 」
「 しかし、他に方法は無いだろう? 」
「 いや、一つある。
そいつらに無理にでも一対一の礼儀を守らしてやればいいのさ 」
「 どうやって? 」
「 武器OKの腕試しをトーナメントで行うんだ。
そうすれば、体力を使いすぎないからユイカが負ける可能性も少ないだろ?
あいつと戦うまでに勝ち抜けられないようなやつは実力不足ってことだしな 」
「 それはそうだがユイカが怪我をしてもらっては困る 」
「 あのな 」
ビッツは飽きれた調子で続けた。
「 ユイカが大怪我するのと、かすり傷程度ですむのと、
結婚式で暴動が起こるのと、どれがいいんだ? 」
「 それは・・・ 」
「 国王ホクホクで、ユイカは剣士を辞めずにお前と無事結婚式を迎えられて、暴動は起きない!
これがベストじゃないか!!
かすり傷ぐらい大目にみろよ 」
すごい言われようだが、国王は"ユイカの戦う姿"が好きである。
都に集まった者達も、機会が与えられるのだ文句は言えないだろう。
ビッツの言うことはもっともだった。
「 わかった、ユイカに話してくる・・ 」
エリカスはしぶしぶ頷くと重い足取りでのろのろと上がるユイカの部屋へ上がって行った。
( まったく世話の焼ける… )
ビッツは自分も何か飲もうとウィスキーの瓶を手に取った。
貸切のため一般客は入ってこないし問題はないだろう。
砕いた氷をグラスに入れて中身を注ごうとして手を止める。
2階でドアをドンドンと叩く音がした。
そんなに強く叩かなくても中には聞こえているだろうに、隣の宿泊客に迷惑だ。
おおよそユイカが拗ねて扉をあけないのだろうが…。
しかし、それを裏切るようにドアが開く音がした。
と思った瞬間、ダダダットいう音と共にエリカスが酒場に飛び込んできた。
「 ビッツ! ユイカがいない!! 窓から外へ出たみたいなんだ。
あいつ、外は危ないとさっき言っ… 」
「 言ってないだろ・・・ 。」
「 え? …」
「 お前、国王の命令で剣士を辞めさせるとしか言ってないぞ。」
「・・・・・・」
沈黙が酒場に下りた。