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2-2話

「 おぅ、帰ってきたか 」


扉を開けると、そこには腕組みをした戦友が壁に寄りかかって立っていた。


「 ただいまビッツ 」


「 晩飯は食べて帰ってきたのか?いつもより遅かったようだが 」


「 ちょっとね。

  城で喧嘩を吹っかけられて相手をしたり、街でつけてくる奴を撒いてたりしたから食べそこなっちゃったわ 」


「 それはちょっとって言うのか? 」


「 さぁ? 」


ユイカは肩を(すく)めた。


「 それよりもビッツ、そんな所に立ってどうしたの?今の時間なら食堂は酒場の営業に変わった頃よね? 」


ここはビッツの意向で宿屋と酒場を両方経営している。


「 あぁちょっとな 」


ビッツはユイカを真似て肩を竦めた。


「 お前を待ってたんだ。帰ってきた早々悪いが、下まで来てくれないか?」


「 え、えぇ…? 」


( 何かしら? )


ユイカはビッツの後へ続き階段を降りる。


「 おぃ、帰ってきたぞ 」


入口から奥にいる誰かにビッツが声をかけた。

"食い逃げ防止"とかで幅の狭い階段と入り口のため彼の背中に隠れて奥が見えない。


(誰 ? それに今日はやけに静かね。)


そう、この時間は客の笑い声やグラスの音などで(にぎ)わっているはずなのだ。

それがビッツが入口から奥に声をかけられるぐらい静かである。

嫌な予感にユイカは怪訝(けげん)な顔を浮かべた。


「 ビッツ? 」


「 ま、入れ 」


踊り場のわずかなスペースにビッツが下がり、(うなが)されるままに酒場へ入ると思わず驚きの声が出た。


「 エリカス! どうしてここに!? 」


「 友人の店へ飲みに来たのだが、いけなかったか? 」


しれっと答える彼だが、聞きたいのはそんなことではない。

いったいどうやって自分よりも先にここへ来たのかというのはもちろん、何の理由でここへわざわざやって来たのかということだ。


「 今夜はユイカ、お前とエリカスの貸し切りだ。

  彼は一晩“じっくり”お前と酒が飲みたいのだそうだ 」


「 えぇ!! 」


“じっくり”と強調された言葉にユイカは叫んだ。

一晩じっくり酒を飲む=一晩じっくり話をする。

何の話かはおおよそ検討がつく・・・嫌な予感的中である。


「 ユイカ、ここに座らないか? 」


エリカスは自分の隣の椅子を引き、(たず)ねた。


「 いいえ、ここで失礼するわ 」


あの話が始まったらすぐに上へ上がろうと、ユイカは酒場の入り口に立っていることを選んだ。が、



「 奥へ入れよ。俺が入れんだろうが 」


というビッツの言葉に、ユイカはしぶしぶエリカスの横まで来た。

しかし、座ろうとはしない。



「 座らないのか? 」


「 えぇ 」


「 そうか… 、ビッツ水割りを二つくれ 」


「 私は普通の水で 」


「 ‥ そうしてやってくれ 」


注文を受け、ビッツはカウンターに回り水割りを作り始めた。ユイカには水を出す。

つっけんどな態度のユイカにエリカスは内心ため息をついた。


(きちんと聞いてくれればいいのだが。)


「 なぁ、ユイカ‥ 」


「 例の話ならしないわよ。何度も話した通り、私 剣士を辞めるつもりはありませんから。」


にべも無い彼女にエリカスは片眉を上げたが、そのまま話を続ける。


「 それが、国王の勅命(ちょくめい)なら? 」



「 え? 」



「 その話が 国王の勅命ならどうだ?と言っている。

  知っての通り国王の命令は絶対だ。

  この国に所属している限り、命令は守ってもらう。」


「 ‥う‥ そ‥ 」


「 嘘ではない。ここにこうして書状がある 」


エリカスは(ふところ)から書状を出して見せた。

解雇通知ではなく仮の扱いで停職となっていたが確かに国王直筆の署名があり、それは明日からとなっていた。


「 明日正式な書類が君の下にも届くはずだ 」


「 …………」


(うつむ)き震える彼女にエリカスは(さと)すように言った。


「 君は結婚を控えた身だ。

 そして、結婚式まで後一ヶ月になろうとしている。

  少しの怪我が一大事なんだよ。

  今日みたいな事が起こっては困るんだ。

  頼むから城で大人しくしていてくれないか? 」


「 ~~~ バカ!! 」


ユイカは叫ぶと階段を駆け上がっていった。


「 ‥ あれじゃぁ、苦労するな。」


「 だろ? 」


それでも今日は最後まで聞いてくれたのだから、いい方だ。

エリカスはカランとグラスを(かたむ)けた。

上でビッツの妻アルテとユイカが話しているのが聞こえる。


「 あら、ユイカどうしたの? 」


「 なんでもない… 」


「 そう? 食事はどうする?

 まだなら部屋まで持って行くわよ? 」


「 ありがとう。食事はまだだけど、食欲が無くって…今日はもう休むから 」


「 え、えぇ… 」


一人分の足音がさらに上へ登って行き、ドアの閉まる音がした。

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