6-1話
※少し暗いので注意をお願いします。
閑話ぽいので苦手な人は最悪飛ばしてしまっても読めると思います。
(た、たぶん・・・)
「 なんかずるい・・・ 」
抜けるような青い空。
噴水広場のベンチに腰かけつつ、カリアはぽつりと呟いた。
思い出されるのは表彰式のときに明かされた、憧れの人の素性が分かった瞬間のことだ。
あの時わたしは・・・・・・
「 ずるいって何が? 」
突然の声に物思いに拭けっていたわたしは現実に戻された。
「 え、あ、ロゼ?
おかえり 」
「 ただいま。
はいっ。 飲み物とごはん 」
どうやったら持てるのか、器用に飲み物を片手で2つ持った彼女はその1つをわたしに渡すと、隣に腰かける。ごはんが入っているらしい紙袋から中身を取り出し、それも1つわたしに渡してくれた。
大会も終わったことだしどこかの町へ旅立つ前に露店で何か買って食べてから出発しようと、ロゼは買い出しに、わたしはすぐに食べたいものが決められそうになかったので、ここで場所取りをしていたのだ。
「 ありがとう 」
どうやらミートパイを揚げたものとフルーツミックスジュースのようだ。
「 で、おつりっと 」
ズボンのポケットから掴み出したそれを受け取りわたしは苦笑した。
さっきのロゼの問いに答えることにする。どうやって話そう?
「 う~んと、さっきのは……大会のこと思い出してたのね 」
何の話しかすぐに分かったようで、切り出したわたしにロゼは頷いた。
「 ユイカ様かっこよかったよね 」
「 もう、ロゼってばそればっかり 」
話の腰を折られてわたしは避難めいた声を出した。
ほんとにロゼは少しでも関連があればすぐ「ユイカ様」だ。
「 で? 」
「 あ、うん。そのユイカ様かな。ずるいな~~って思ったのは 」
果たして盲目的なほどユイカ様を尊敬している友人にわたしの思いは伝わるだろうか・・・。
一口揚げパイをかじるとサクッと音がした。すぐに具材の肉汁が口の中にジュワッと広がって美味しい。
ユイカ様の素性が分かった時、あの時わたしは「ずるいっ」て思った。同時に「なんだ・・・」とがっかりした。
「 なんで? 」
「 えっと・・・ほら、英雄がお父さんだなんて・・・ 」
悪口を言っているような気がしてカリアは語尾を濁した。
強いはずなのだ。素質が高ければ強いのは当たり前。
今まで、努力すればあの高みに上れるかもしれない、近づけるかもしれない。そう思って頑張ってきた。
女性で国の5本の指に数えられるなんていうことは、なかなかできることではないから。
今でも尊敬をしているのは変わらない。でも、あの発表を聞いてその思いは少しだけ嫉妬が混じった物に変化した。
努力しても素質がないと・・・それもとびきりの素質がないとダメだと誰かに言われた気がして。
優柔不断にのろま・・・それでからかわれる事も多い自分には素質なんてものは限りなく低そうで・・・。
「 うん。ずるいね・・・ 」
「 え? 」
まさか同意が返ってくるとは思わなくてカリアは思わず年下の友人をまじまじと見詰めた。
いつも前しか見ていない友人には珍しいことだ。そしてほんの少しだけほっとする。わたしの思いが、わたしだけじゃないと思えて。
だから続いた言葉に思わず頭を沈没させてしまった。
「 英雄の特訓ていったいどんなのだろうね!
いいなぁ・・・私もやりたい!! 」
実にロゼらしくていいとは思う。ロゼは悩むことってあるんだろうか。
「 な、なんで? 」
「 なんで? 」
分からないと言うようにロゼは復唱して首を傾げた。
「 それでずるいって言ったんじゃないの? 」
「 あ 」
聞き返さなければ良かった・・・
聞き返さなければこの鬱屈した気持ちを表に出さなくてすんだのに。
「 カリア? 」
促すように名前を呼ばれて私は溜息を吐いた。
「 うんと・・・ずるいって言うのは、ユイカ様自身を指して言ったつもりだったんだけど・・・ 」
「 うん? 」
「 ほら、この業界って力が物を言うんじゃない? 」
「 うん 」
「 で、素質が高ければ、強いのは当たり前じゃない?
だって、努力は必要なんだろうけど、やっぱり努力したらすぐ強くなれることに変わりはないんだもの・・・
だからずるいな~~って、英雄の血をひいているなら強いのは当たり前・・・って違うか、わたしもそんな素質が欲しいなって・・・ 」
「 そっか・・・ 」
そう言ってロゼは困ったように笑った。
「 素質か・・・素質ってなんなんだろね 」
「 え? 」
「 ねぇ、素質って目に見える?
私がユイカ様を尊敬してるのは、強いからなんだけど。
なんていうかね、文句のつけようが無いほど強いから尊敬してるんだ。
ユイカ様が今の強さになる為には確かに素質って重要なのかもしれない。
でも、それはどこまで?どのくらい重要なの?
それになんでカリアが・・・ううん私達の素質がそこまで無いって分かるの? 」
「 え、だって。生まれが・・・ 」
「 それは私達には関係ないよ。生まれは違って当たり前。
そうじゃなくて、見えないんだよ?見えないのに何でないって分かるの?
両親が剣術に秀でてるわけじゃないから?
親戚にそんな能力をもった人がいないから?そんなのやってみなくちゃ分からないじゃん。
なんでそれで自分まで素質が無いことになるの?
なんでも例外ってあるでしょ?その例外が自分かもしれないじゃない 」
「 う、うん 」
捲し立てられて思わず私はのけぞってしまった。
「 それにね、カリアに素質が無いなんて私思わないからね。
じゃなきゃここまで一緒に来られなかったって 」
「 うん。ありがとう 」
心優しい友人に微笑んでお礼を言った。
そしてもう一度考えてみる。
あの時がっかりしたのは・・・
「なんだ・・・」て思ったのは・・・
きっと、思わず妬んでしまったわたしに愛想を尽かしたわたし自身の声だったんだ。
「 ロゼリア・ガーネットさんとカリア・ウェルデンさんですね? 」
その声にハッとなった私たちは注意を前方に向けた。
いつの間にそこに立っていたのだろう、目の前にたつ男性が着ている服は城の兵士の物。しかも、位が高い。そして先の大会で表彰を受けた人物。アディアス・ファルジーオだった。
なんでそんな人がここに?
そう思ったのも束の間、すぐに答えは向こうからやってきた。
「 王より、言伝を預かってまいりました。人の耳に入れたくないので、兵士宿舎支出所まで足を運んでいただけないでしょうか? 」
なんだろう?
わたしとロゼは顔を見合わせたのだった。