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5-6話

「 それでは決勝戦を始める!! 」


「 やっぱり・・・ね・・・ 」


もともと今相対している人物は自分のよく知っている彼だろうと予想はしていた。

黒のローブに身を包んだ男性。構えている剣を見る限り予想は当たっているだろう。


「 龍門からはクロイ・ファレオ!! 獅子門からはユイカ!!」


男が構えた剣は、彼が…いや彼だけが身に着けることを許される物だ。

量産されていない業物で、名品と言ってもおかしくない優美な剣。


「 公正なる判断の元各々の力を示せ! 」


だからちょっと突っ込ませてほしい。


「 いくら偽名だからって、クロイは安直でしょう・・・ 」


黒いローブ――黒衣(こくい)――だからクロイなんだろうけど、それはどうかと思う。


「 ・・・・・・ 」


返事はない。

ここで民衆に正体を明かす気はないということか。


「 はじめ!! 」


( でも・・・ )


そう、"でも" だ。


( そんなこと、私が知ったことではないのよ! )


開始の合図とともに斬りかかってきた彼の剣に合わせるように剣を薙ぎ払い気味に己の剣を叩きつける。

ガギィンという音と共にチリチリと(つば)迫り合いに入るが、両片手剣は純粋な両手剣よりも軽く作られているので、力比べはユイカの方が勝る。

男は競り負けると判断したのか間合いをとるために下がった。

しかし、それを許すつもりはない。

相手が下がるのに合わせて踏み込み攻撃を仕掛ける。が受け止められ、そのまま打ち合いになる。

普通ならユイカのほうが剣が重い分不利だが、ユイカの方が攻撃速度が速く、男はだんだんと受けが間に合わなくなっていく。

男の受けを掻い(くぐ)り届く剣先は相手のローブを切り裂き、時々硬質な感触を手に伝える。


( 部分宛てだけど鎧はちゃんと着ているわね )


それなら服で隠れる部位ならば多少本気を出して攻撃しても大丈夫なはずだ。

胴の部分宛てがある部位に、フェイントを交えつつスピードよりはいくばくか力重視の攻撃を打ち込む。

これで戦闘不能になってくれたら楽なのだが、相手だってここまで残るぐらいには実力者だ。

そう簡単にはいかず、剣を打ち合わせた感触を残し、ユイカの攻撃を活かして男は後方へと大きく距離をとった。

フェイントにしっかりと反応するのを確認して放った攻撃だけに、防がれるとは思わなかったが、離れた男を見れば成程、咄嗟に剣を片手に持ち替えて対応したようだ。

男は剣を両手で持ち直すことなくそのまま片手で構える。


( 手数勝負か )


「 受けて立つわ 」


ユイカはそう(つぶや)くと笑みを浮かべた。

人にケガをするななんだのと(うるさ)いくせに立ちはだかるのなら容赦はしない。

いつもの冷たい冷気とは違い、エネルギーめいた何かが陽炎のように彼女の周りを包む。


( これは怒気・・・ )


男は背中に冷や汗をタラリと垂らした。

いつもの彼女らしくもない。

だけど、と思う。自意識過剰だろうか? 自分だからこその態度なのだと。

不謹慎だとは思いつつも目深(まぶか)(かぶ)ったフードの影で男は笑みを浮かべた。


「 なるほど・・・余裕じゃないですか。で・ん・か 」


笑みを浮かべたときに集中が切れてしまっていたらしい。

間近で聞こえたその声と広がる視界に表情はそのまま凍りついた。

やけに視界がクリアで、会場が静寂に包まれている。


「 気持ち悪い気配がしたので切り払ってみれば・・・ 」


視界の端にただの布と化したローブがパサッと地へ落ちるのが目に入る。


「 それは、私への侮辱ですか? 」


「 ち、ちがっ――!! 」


チャキッと小さい音をならしなががら問答無用で構えられたそれに「違う」とは言えず横っ飛びに回避する。

ドカッという音にその方へゆっくりと視線を向けると、手加減なしで振り下ろされたのだろう。

床に食い込んだはずの剣は床を割り、欠片が散乱している。


「 殿下だ・・・ 」


「 王子殿下だ・・・ 」


観客席がザワザワと騒ぎ始めるが、それを気にしている余裕がこちらにはない。

獲物を逃がしたと判断するや、ユイカはこっちへと追撃を開始していた。


キン・・キン・・キンッ


片手で対応しているにも関わらず、ユイカの攻撃速度はそれと同じ。

さっきまでのスピードの比ではない。

唯一の救いは速さ重視の攻撃の為に威力が普段よりか下がっていることだ。

ただ、両手剣の重さを片手で受ける負荷はきっちりかかっているので今よりも速度があがると・・・


キン・・キ・・キ・・キッ


速度に追いつけなくなって剣筋がぶれたときだ。


ギンッ!!


速度を殺さないままに剣複を叩かれ、剣が弾かれそうになるのをこらえる。

けれどその反動で上半身が(わず)かに()ってしまった。

必然的に次の動作が遅くなり、その(わず)かな時間に渾身(こんしん)の力でユイカの剣が腹部に叩きつけられふっとばされる。


「 ぐっ 」


視界が一瞬白くなるが、無様に転がるのはプライドが許さず片膝をつく形となったが着地する。

吹き飛ばされる間なんとか手放さなかった剣を握りしめ直し、顔をあげたところで勝敗がついたことを悟った。

目の前にあるのはユイカの剣の切先(きっさき)


「 勝者 ユイカ!! 」


「 殿下。 後でしっかり説明をお願いしますね 」


()わった目でそう告げるとユイカは剣を収めたのだった。

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