5-5話
" いいか、どうせなら国一番の剣士になるんだ。
それまでは俺の娘だと分からないように姓は隠せ。
名を隠しても国一番の剣士だと言われるようになれば、お前は一人前だ。
その時はもう隠さなくてもいい "
「 教えることはもうない 」そう言われて家を旅立った日に父と交わした約束。
それからは"国一番と言われる実力を示すにはどうしたらいいのか?"そればかりを考え、とにかく上を目指せばいいのだと意気込んでいたあの頃がとても懐かしい。
***
私が子供のころ住んでいたのは村はずれの山頂に建てられた小屋だ。広さはそんなになく、父と母とそして私が過ごすぐらいが丁度いい大きさ。
辺りは大自然に囲まれてとても長閑で、小屋の背面に森と標高の高い山が聳え立ち、村へと続く道がある全面は草原に覆われ、季節ごとに様を変えて目を楽しませてくれた。
「 ユイカ。そこの野菜を洗ってくれる? 」
「 うん! 」
「 おーい。今帰ったぞ 」
「「 おかえりなさい! 」」
「 今日は何が捕れたの? 」
「 魚が3匹だ 」
「 そうそれなら――― 」
父が狩りをして母が料理を作り、私は母を手伝う。それが日常だった。
***
「 ユイカ・・・残していくことになって・・ごめん・・・ね?
あなた・・後はお願い・・・します 」
「 あぁ・・・ 」
「 お母さん! お母さん!! 」
目を閉じた母はそれきりだった。
私が5・6歳のころだったと思う。
母が流行り病に倒れ、亡くなったのは。
私が受け継いだ白い肌、透き通るような水色の髪に触れることがもうできないのだと、優しかった空のような青い瞳が私を見ることはもうないのだと分かった時はひどく悲しかった。
私が剣を覚えたのはその頃。
「 う~ん。母さんに怒られてしまいそうだが、俺にはこれしかないしな。
ユイカ・・・気分転換に剣でもやってみないか? 」
悲しみに暮れる私を見て、父が気晴らしにと剣を教えてくれるようになったのがはじまり。
それから剣の才能がある事がわかるまでそう時間はかからず、分かってからは小屋で暮らすことはほとんどなく、森の奥や標高の高い山裾などで過ごした。
今思えば父も思い出の詰まった小屋で過ごすのがつらかったのだろう。
「 修行といえばサバイバルだ! 」と言っていたが、夜に見張り番として焚火の側に座る父はよく空を眺めていた。
***
大会前に王の間でも答えた旅立ちの時の会話だが、これには続きがある。
" そうなったらすぐに俺の所まで伝わってくるだろうから、分かり次第お前の所へ赴くからな?
全力で勝負しよう "
「それまでは泣いて帰ってくるんじゃないぞ」と笑う父。
国一番と言われる実力を示すにはどうしたらいいのか・・・
それを考えなくなったのはいつだろう?
気付いたら考えなくなっていた。いや、違うか。
国一番の実力者になることが目的ではなくなっていた。
今はエリカスを守るために強くあること、その為に鍛錬し続ける続けることが目的だ。
国一番では足りない。他国のものに襲われたら?その者が私よりも強かったら?国一番であるかどうかは関係ないのだ。私が弱かったら彼を守ることができないのだから。
とまぁ、実力を示すことにあまり関心を示さないでいるうちに、王様が良くも悪くもおせっかいを焼いてくれて今日のような状態になっていたりする。
さぁ、あと1試合。ここまでくれば上を・・・仮の頂点を目指すだけだ。
誰が立ちふさがろうとも、この後何が起ころうとも・・・・・・・。