5-4話
「 準決勝を始める!!
龍門からはロゼリア・ガーネット! 獅子門からは ユイカ! 」
対戦相手は戦ってみたいと思っていた小柄な少女だったのだが、ステージにあがり、ユイカは対戦相手をついまじまじと眺めてしまった。
少女がこれから扱うと思われる得物が少々意外だったのだ。
小柄な彼女が扱うならば刀身の細い片手剣か、両片手用の剣だろうと思っていたのだが、彼女が構えているのはショートソードを2本。
長剣よりかは短くて懐刀よりかは長い。
オーソドックスな二刀流は間合いの関係もあって長剣と懐刀の組み合わせが多い。
ショートソードでは攻撃範囲が狭く相手の間合いに入りにくい。
理由はなんとなく分かるが、そもそも2本を扱いきれるのか・・・
「 公正なる判断の元各々の力を示せ! はじめ!! 」
審判の合図で先に動いたのは少女だった。
猛然と地を蹴り、ユイカへと肉薄する。
( 速い! )
さすがに準決勝まで進んだことだけはある。
速さは今まで戦った対戦相手の中で一番だろう。
そして・・・
ギィン!!
2本同時にとはいえ、小柄な少女から放たれたとは思えない重みの攻撃を受け止め、押し返すように弾く。
( 器用だわ )
その攻撃の仕方にユイカはそう思った。
少女は攻撃をしかける直前に小さく跳躍、しっかりとした高さがあるわけでもないのに宙返りを行い、その遠心力を攻撃に上乗せしてきた。
しかも走った勢いを落とさずに・・・。
攻撃を押し返された少女は着地と同時に再び猛然と向かってくる。
それを先程と同じように押し返す。
押し返された少女は着地と同時にまた・・・
猪としか思えない愚直な行動。
しかし、輝いている少女の瞳に宿るのは強い者と戦える喜びであり、子犬のような無邪気さだ。
( 次かしらね )
己よりも実力が上の者と自分はどのように戦っていたか・・・その時の戦術を思い浮かべながら少女の攻撃を受ける。
それは先ほどまでの攻撃と比べれば驚くほど軽く、片方の剣だけで行われたのが分かる。
もとからそちらは攻撃するためではなかったようで、少女は片方の剣をユイカの剣に押し付けるようにしてバランスを取り、反動を利用して身をねじるともう片方の剣で横薙ぎの攻撃を放ってくる。
ある程度は予測していたユイカは垂直に身を屈めると、空気抵抗を少なくするため額の上に剣を構え、屈伸の要領で足を伸ばした。
空中で剣を振り切った形となった少女に下から刃がせまる。
「 くっ 」
ロゼリアは最初に攻撃を放った剣をなんとか交錯させた。
が、重いユイカの攻撃を片方の剣だけで受け止められるわけがなく、勢いよく吹き飛ばされる。
受け身を取る暇はないが地面スレスレでぎりぎりバランスを取り戻し、後転で勢いを殺して前へと駈ける。
スピードとバランスの良さを活かして攻撃あるのみ。
緩急をつけることはあっても策を練ることはできない。自分は挑戦者だ。
猪突猛進で愚かだろうとも憧れの人物との力量差は大きく、隙を付こうにもそんな隙をみせる人物ではないし、隙を作らせることもおそらく無理。
体格差が大人とこども程ある上に、小さい体のせいで長剣を装備できずショートソードを2本装備するのが精一杯な自分は、相手の間合いに入ることが出来ない。
ここまで勝ち進んでこられたのは、スピードが対戦相手より上まっていたからだ。
スピードで相手の間合いに押し入ることができたし、手数によるゴリ押しと、ヒット&アウェイの戦法がとれたのだ。
でも、それは憧れの人には通用しない。
両手剣にも関わらず、ユイカはスピードタイプだからだ。
( 体が小さいからこその双剣か )
剣を横に構え、左右交互に繰り出される攻撃を最小限の動きで受けて弾きつつ少女について分析していく。
攻撃をする暇を与えないかのような怒涛の攻撃。
少女が双剣なのは、片手剣で戦った場合、体が小さいから攻撃力はどうしても普通よりか軽くなる。
どうせ威力が望めないなら手数勝負の方が勝算が高いというところだろう。
( 攻撃が単調なのが欠点かな )
実力差を考えればしょうがないのかもしれないが。
ユイカは腰を落とすと足に若干力を込めた。1本、2本・・攻撃を弾くのではなく抑え込む。
無理やり剣を拮抗状態にされたことに少女の眼が驚きで見開かれるのが見えた。
同時に彼女の体に余分な力が入り、硬直したのが剣越しに伝わってくる。
「 残念。不足の事態に落居っても硬直してはダメよ。」
ユイカは一度剣を引くと、硬直してしまったが故に動けない少女の剣にスピードと遠心力を掛け合わせた重い一撃を放つ。
硬直状態から立ち直れなかった少女は双剣で受けたにも関わらず大きく吹き飛ばされ、その体はステージの外へと吹き飛ばされたのだった。
「 勝者、ユイカ!! 」
会場がいつものように賑わうのを聞きながら、ユイカは少女の元へ歩いていき手を伸ばす。
きょとんとしたようにその手を見つめる少女だったが、意味を察したのかにっこり笑う。
無邪気な笑み。そして、なんとなく感じる自分への憧れ。
「 ありがとうございます 」
少女が礼を言い重ねた手を握り、ひっぱってやる。
上の者に抱く尊敬の念。強い者と戦える喜び。
少女を見ていると、そんな感情が知らないうちに色あせていたのだと気付く。
実力を伸ばせば伸ばすほど、自分より強い者と戦う機会はどんどんと減っていたからか。
「 だからなのかな・・・ 」
空を見上げ、ユイカはポツリと言葉を零した。
「 え? 」
少女が首を傾げたが、ユイカはそれになんでもないと首を振って答えると。
獅子門の方へと歩を進めた。
上を見て進んでいたはずが、守りたいものを見つけ、そして憧れを抱かれる存在になるとは・・・
遠くまで歩いてきたかのような感慨に包まれる。
あの人も――父も――そうだったのかもしれない。
頂点に立つものの孤独。
だからあんな約束をさせられたのだろう。