4-3話
ワアアァアア!!
闘技場の方から歓声が漏れ聞こえてくる。
さすがに一時待機室までくれば闘技場がすぐそこというだけあり、観客達の歓声がここまで伝わってくるようだ。
( 出番こないな・・・)
先ほど呼ばれた男が部屋を出てからどのくらいたっただろう。
予選から1対1のルールを適用しているため、時々こうして実力が拮抗した者同士がぶつかる事があるらしい。
実力が拮抗するというのは実力が高い者同士が戦う場合だけではなく、低い者同士の時も同様で、今戦っている者達は多分後者だろう。
一時待機室は龍門と獅子門側2か所にあり、一部屋に次の試合出場者と更に次の出場者の2人が待機するようになっている。
先ほどまで部屋で一緒だった男は、緊張しているのか終始おどおどしており、体に力が入っていた。
体つきが悪いわけではなかったので、そこそこの力はあるだろうが、あれでは実力を発揮するのは無理だと感じた。
それよりかは、今部屋で一緒になっている男の方が強いと思える。
短く刈り込んだ髪にあごひげを生やした男は土坑でもやっていそうながっしりした体。
部屋に入ってきた時軽く挨拶をかわした後は、壁にもたれて目を瞑ってじっと佇んでいる。
そこから感じ取れるのは戦い慣れた者の貫録というか、そういった雰囲気だ。
ただどちらにせよ、自分の敵ではなさそうだ。
上半身は確かに筋肉ががっしりとついているが、足腰の筋肉がいまいちのように見える。
鍛えていないわけではないだろうが、重心が上に偏っているのだ。
これでは腕力はあれど、それを完全に生かすことは難しいだろう。
まぁこれはあくまで予想に過ぎないし、実際の実力は戦ってみないことにはわからない。
"油断大敵"であるし、"人間驕るるなかれ"だ。
自分はこの大会で優勝して国一番の実力者として認められないといけないのだから。
それは剣を持ち、エリカスの傍に立つためでもあるし、もうひとつ、約束の為でもある。
『 ユイカ、お主に言っとかねばならんことがある 』
ユイカは王に呼ばれた時のことを思い出した。
***
あれは武術大会の受付が開催されてすぐのことだ。
王直々に呼ばれて部屋へ伺うとそのように切り出された。
『 今回エリカスが開催したいと言ってきた武術大会のことについてなのだが、どうせならこれを利用しようと思ってな、そのことを主に一言伝えておこうかと思ったんじゃ。 』
『 利用・・ですか? 』
『 うむ 』
おもむろに肯いた王は片手で髭を扱きつつ続けた。
『 お主、婚儀がこんなに間近になってるというのに、まだあの変な約束の為に素性を誰にも・・エリカスさえにも明かしておらん上に明かすつもりがないじゃろう? 』
『 明かさなくても結婚はできますし、王子殿下はそれでも私は私だと受け入れてくれました。
問題はないと思うのですが? 』
『 確かに婚儀で女性側はファーストネームを名乗るだけじゃし、素性が何者であろうとお主はお主じゃろう。
エリカスが主の素性を知ったところで主から離れていくということはないというのも確かじゃ。
だから我が息子とあやつの娘であるそなたとの婚姻を認めたのだからな 』
『 はい 』
『 じゃが、じゃ。
主の素性をそこまでして隠さなければいけないものなのか?という問題はあるのじゃ。
主の素性など明かしてしまえばたいしたことではあるまい?
よその国の王族だとか、神に仕える巫女であるとか、そういう訳ではないのじゃから 』
『 ・・はい 』
『 主は真面目すぎるんじゃ。
約束はえ~となんじゃったかのう・・・ 』
『 " いいか、どうせなら国一番の剣士になるんだ。
それまでは俺の娘だと分からないように姓は隠せ。
名を隠しても国一番の剣士だと言われるようになれば、お前は一人前だ。
その時はもう隠さなくてもいい "と家を旅立つ時言われました 』
『 うむ。あいつらしい内容というかなんというか。
ほんとに主の剣の力を上げるためだけのような約束じゃのう。
でな、今度の武術大会をな"国一番の実力者を決める"という趣旨にすることにしたのじゃ。
そうすれば後は主が優勝すればいいだけじゃ。
どのみち、誰にも負けないつもりなのじゃろう?
隠し事をしなくてよくなるし、剣も続けられる。
一石二鳥とはこのことじゃな 』
『 それはそうですが・・・しかし―― 』
『 もう決まっておるのじゃよユイカ。
事前に主へ知らておきたかっただけなのでな、話はこれで終わりじゃ。
下がってよいぞ 』
『 ・・・失礼します 』
***
「 ひとつ問題があるのよね・・・ 」
王は気付いていないのか、それともわざとなのか。
結婚式は荒れ模様となりそうな予感に、ユイカは頭痛を覚えた。
せっかくの元旦なので、かけたところまでアップします。