4-2話
「 ユイカ覚悟!! 」
入り口にドアがあったら蹴破りそうな勢いで男は部屋に飛び込んだ。
しかし、すぐにどこからか斬撃が来るだろうと思って左右を警戒しながら入ったのだが、攻撃がくる気配はない。
拍子抜けした男は少し構えを解き、左右の警戒から前方へと視線を切り替える。
そこには、こちらに背を向けた状態でここと直線上にある窓の側に立ち、空を見上げているユイカの姿があった。
( ダメだ・・暇つぶしになりそうにない・・・)
男からは見えないが、空を見上げたユイカの表情はさっきの微笑みと打って変わって残念そうな表情である。
本当ならガクッという擬音付きで項垂れたいぐらいの気分だ。
( 実力差があると分かってて怒鳴り込んでくるとは・・・ )
扉が無いとはいえ、入ってすぐ視角になりやすい左右を真っ先に警戒していたことから、理解していないとは思わない。
ただ実力差があると分かっているなら普通不意打ちを狙うべきじゃないだろうか?
実力差がある相手に勝ち目があるとしたらそのぐらいしか方法がないと思うのだが・・・
そこまで考えたとき、ヒュッという風切り音がしてユイカはサッと体をわずかに左にずらした。
ガキンッという音と共に石でできた窓枠に剣が突き刺さる。
しかもよっぽど運が悪かったのか、力任せに振り下ろしたのと相俟って剣が石と石の隙間に挟まり抜けないようだ。
( わかった。頭が悪いんだ・・・このまま剣が抜けるまで待とうかな? )
文字通り窓枠に突き刺さっている剣と、自分が目の前に居るにもかかわらずなんとか抜こうとして足掻いている持ち手の男を見比べ、あまりの暇さにその方が面白そうだとユイカはそんなことを考えた。
けれどもそれは一瞬のことで、次の瞬間には蹴りを男の鳩尾に叩き込み、ノックダウンさせる。
そのまま、こんなこともあろうかと――というよりこんなことばかり起こった為に、部屋に常備されている縄で男を縛り上げ、窓枠に突き刺さっている剣へと視線を向けた。
( 抜け・・・ないか・・)
殺伐としたものが視界に入るのは嫌だったので何とかしたかったのだが、仕方がないのでそれが視界に入らないようにユイカは扉のない入り口へと椅子を向けるとそこに座った。
こっちに向いて座っても、先ほどの男より前に来た数々のお客様達により、木屑となり果てた扉の残骸が部屋の隅に寄せられているのが目に入ってしまうが、突き刺さっている剣を見るよりマシだ。
( 憩いの場が欲しい・・・ )
ユイカは小さなテーブルにぐたーーっと突っ伏した。
***
「 よっ。 調子はどうだ?っと・・またかよ 」
「 えぇ。 またよ 」
それからほどなくしてビッツが部屋に様子を見にやってきた。
ユイカは突っ伏していた机から体を起こすといまだ伸びている男に目をやり苦笑いを浮かべた。
「 確かここのほうが安全だからここに居るようにって言われた気がするんだけど・・・ 」
「 まぁ、ここのほうが安全なのは確かなんだが 」
「 ん? なんか言った? 」
ボソッと呟いたビッツの言葉に聞き返すが、「 いや・・ 」という言葉が返ってくる。
「 どうせ何もすることが無くて退屈してたんだろう? 」
「 ・・・そうだけど 」
「 ならいいじゃないか 」
「 よくないわよ!
ただでさえ気が滅入るっていうのに、その大破した扉と一時的にとは言え突き刺さった剣と一緒に過ごさなくちゃいけないのよ? 」
ちなみに剣はビッツが部屋に入ってすぐに引き抜いてくれている。
「 これなら私に挑戦したい奴纏めて相手した方がずっとすっきりするわよ! 」
「 そういうなって。
まぁ、文句があるならあいつに言ってやるんだな 」
「 その本人が姿を見せないんですけど? 」
エリカスならこんなことが続けば絶対にすっとんで駆けつけてきそうなのに、今日一度もここを訪れていない。
今日ユイカがこの部屋に入るときも付き添ってきたのはビッツだった。
「 気になるか? 」
「 べつに・・・王城に居ても四六時中時間さえあれば部屋にやってくる人がこないから・・・ 」
「 ハハッ気になってんじゃないか 」
拗ねたように下を向くユイカの頭をぐしゃぐしゃとビッツは撫でた。
「 あいつにはあいつなりに考えがあるのさ 」
「 ビッツ? エリカスがなんで来ないか知ってるんじゃない! 」
「 そのうち分かるさ・・っと起きてるんだろ? 立てよ 」
ビッツはニヤッと笑うと縛られた男に近付き引き立てる。
「 じゃ、俺はこいつを警備兵に突き出してくるから・・・あ、そうだった。
ユイカ、お前の出番そろそろだぞ 」
「 普通そっちの話を先にしない? それなら一時待機室に向かうわね 」
「 その間にそこの扉の残骸も片付けとくように言っとからな、頑張れよ 」
「 えぇ、じゃまた後で 」
部屋の前でビッツと分かれたユイカは、ビッツと反対方向――闘技場へと続いている方へと足を運んだ。