4-1話
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" いいか、どうせなら国一番の剣士になるんだ。 それまでは・・・・ "
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空いっぱいに広がる青い空。
主なメイン通りにはいつもの店に加え、国のあちこちからやってきた行商人が構える店も立ち並び、道行く人々はそれらを覗き込んで食べ物や飲み物、この地域では珍しい品々などを物色する。
気に入った品物を購入する者、値段交渉に入る者。歩きながら購入した食品を口にする者。
街は人で溢れ返りまるでお祭りのような賑わいだ。
実際、武術大会が開催されているまっただ中なので、祭りがある時と似たようなものである。
そんな喧噪を遮るかのように、空にポンポンポンッと小さな白い煙が3つあがる。
ここ何日かですっかり馴染みになったその光景は、今日の武術大会予選が始まったことを表していた。
あれから2週間と少し。
国内一の実力者を決めるという名目で武術大会の開催を募集受付を開始し、受付を終了したのが予選の始まる前日でそれが4日前。
今日は予選3日目にあたる。
本当は3日前から本戦を開始して今日あたりには武術大会が終わる予定だったらしいが、出場者募集期間が10日から2週間に延長された結果予定人数を軽くオーバーしてしまったらしい。
まぁ他にも、どこから出てきたのか分からないが、戦績が良いものは国に雇用される可能性があるらしいという噂や、ユイカが参加するという情報が出回ったのも要因のひとつだ。
そこで急遽この1週間は予選とされ、今日が予選の3日目となる。
( ひま・・・・ )
ユイカはぼんやりと窓枠にもたれかかり、打ち上げられた煙が薄れていくのを眺めた。
今日は自分が予選に出る日なので、闘技場の施設の一角にある小部屋で待機している。
この小部屋には小さい丸机と椅子が2脚あるのみで他に人もいない。
外の喧噪もなんのその、闘技場の入り口が面している通りから一番奥にあるこの部屋まではさすがに届かず、見下ろせば目に入る樹木に止まる小鳥が囀るぐらい長閑だ。
簡素な内装なのはユイカがそう望んだからである。
他の予選選手はというと、反対側の棟に選手用控室が用意されているので、そちらに2部屋ぐらいに分けて詰め込まれているらしい。
・・・一応この部屋も選手用控室ではあるらしいが・・・。
こんなに静かで長閑なのに拘束感を感じて逆に疲れを覚える。
万が一のことを考えてなのは分かるが少々過保護すぎやしないかと思う。
彼としては、ここで過ごすのもあまり気に入らないらしく譲歩した結果がこれなので文句は言えないのだが。
その時のことを思い浮かべてユイカは苦笑いを浮かべた。
ほっとくと予選参加をすっとばして本戦からの出場にされそうだったのだ。
「 そんなの参加者に不公平だし失礼よ! だいたいそれで勝ったとして国一番の実力者と言えるの? 」
話を聞いた時思わずそう言い返していた。
予選に参加せず力を温存して本戦から出れば勝つ確率が上がるのは目に見えている。
だいたい出場者全員同じ条件で勝ち上がるから面白いのだ。
そう言って予選からの出場を彼に認めさせたのだが、代わりの条件として個室を与えられることになった。
まぁ、個室になったことで返って彼の意図と逆向きな事象が起こっている気がしなくもないが・・・
ユイカは個室の入り口へ目をやると軽くため息をついた。
「 アルテさん元気かな~ 」
入り口をみていると気が滅入りそうになったので再び空を見上げて別のことを考える。
会えないのはもちろん、素朴とはいえ彼女の手料理が食べれなくなったのも寂しい。
湖で襲われた日からユイカは、ビッツの宿屋に宿泊することはなく王城の一室で過ごしていた。
あの出来事はユイカが街で過ごすことが出来る時間の限界も示していたのだ。
いくら後をつけられないように気を使っていたといっても、あのまま過ごしていればいつかは宿泊先が割れ、宿屋が襲われる可能性は高かっただろう。
あのまま居座って迷惑をかける訳にはいかなかった。
木で囀っていた鳥が空へと羽ばたいていく。
それに伴いなんとなく下を見遣れば、黒い影が建物の影に走りこむのが見えた。
( 少しは暇が紛れるといいな・・・ )
三度空を見上げたユイカの顔には微笑みが浮かんでいた。