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3-2話

「 ずい分時間が立っているが大丈夫だろうか… 」


必死に水中に目を凝らすが、彼女の姿は見当たらない。

彼女は泳げなかったのだろうか?

しかし、泳げないなら普通はもっと水面で足掻くはずで、そんな気がどうもしない。


けれどこのままこうしていても(らち)があかないので潜ってみようかと思った時だった。


「 あら? 敵がいない? 」


後ろからかかる女性の声。

その声に二人は驚き後ろを振り返った。

そこには、水色の長い髪や衣服から水滴を滴らせた先程の女性の姿があった。


「 あなたたちはやつらの仲間?にしては雰囲気が違うわね。

  やつらがいないってことは追い払ってくれたのかしら? 」


「 あぁ、俺達が追い払った。

  たまたまここへ散歩に来たら、お前さんが追われているのをみかけてね。

  あまりに多勢に無勢だったしな 」


「 ところで君は何故後ろから? 湖に落ちたはずだよね? 」


「 えっと・・・ 」


エリカスの質問に言い(よど)む女性。

いや、少女なのか?

大人びた顔はしているが若干幼い気がする。

その時、雲に隠れていた月が顔を出した。

その光を受け彼女の瞳は銀色に輝き、肌の白さは透き通るように際立つ。

それは一瞬のことで月はすぐに別の雲に隠れてしまったが、エリカスとビッツはハッとして顔を見合わせた。


「 ねぐらにしている場所と関連しているのであまり言いたくはないけど・・私がここに居る時点で半分ばれてるようなものか 」


彼女はひとりごちるとからくりを簡単に説明した。


「 湖の中に近くの洞窟と繋がっている穴というかトンネルがあるんです 」


それを聞いて二人は確信した。


「 もしかして、そこから泳ぎに来ることがある? 」


「 え、えぇ。 最近は夜なのに人が多いからしてないけど・・ 」


「「 君だったのか!! 」」


「 え? 」


首をかしげる彼女にエリカスは声をかけた。


「 話は後だ。まず城へ戻ってその濡れた服をどうにかしよう 」


「 城って…? 」


「 あ、紹介が遅れた。私の名前はエリカス・デュアル・フォンシエルこの国の王子だ。

  こっちは私の部下であり、友であるビッツ・ファルデン 」


エリカスの紹介にビッツは軽く一礼する。


「 君の名前は? 」


「 え? 」


「 君の名前は? 」


「 ユイカです 」


「 ではユイカ、行こう 」


強引に彼女の腕をひいて自分の馬に乗せ、後ろにまたがるとエリカスはビッツと共に帰城したのだった。




***




「 何を考えているんだ? 」


報告を終え、部屋に帰ってきたエリカスはユイカの隣へ座った。


「 ちょっと出会ったときのことを思い出していたの 」


エリカスの個室なので、周りの目を気にする必要がないからか、ユイカの言葉遣いは普通だ。


「 あぁ、あの時か。

 確か賞金稼ぎをしながら、強い相手を求めて街に来ていたのだったな? 」


「 そう、それで目を付けられて追われていたのよ。

 なんとかなる数だと思っていたのだけど、湖に落ちてしまって… 」


「 ・・なんとかなる・・ね。落ちたはずの君が後ろから現れたときは驚いたよ 」


「 私だってただの水浴びが街中の噂になっているとは思わなかったわ。

  王子様がわざわざその噂を調べに来るほどだともね 」


二人は顔を見合わせるとぷっと吹き出し笑いあった。


「 それであの後、父上が君を雇って 」


(しばら)くして功績が認められて・・今は王宮に仕える剣士か。

 でも、もう剣士でいることは出来ないのね… 」


悲しそうにユイカはつぶやいた。


「 ・・・そのことだが、剣士をやめなくてもいいかもしれない 」


「 え? どういうこと? 」


「 条件があるんだ。

  10日後に行うことになった腕試し大会で優勝すること 」


「 エリカス! 」


「 あぁ、ビッツに助言をもらってな。

  そのかわり優勝できなかったら、今度こそ本当に剣を扱うこと自体をやめてもらうよ? 」


「 いいわそれでも・・ 

  私、嬉しい… ありがとう。」


ユイカの目から涙が溢れ、こぼれ落ちる。


「 あれ?… 」


思わず流れ出た涙に戸惑う彼女を改めて愛しいと思った。

思わず彼女を抱き寄せ、その唇にそっとキスをする。


「 な、何するのよ! 」


ガバッと顔を離すとユイカはエリカスを軽く睨んだ。

その顔は真っ赤になっている。


「 いいじゃないか、恋人同士なんだし 」


「 良くないわよ。わ、私にも心の準備が… 」


「 そうか、なら今度はきちんと受け取ってくれ 」


「 ちょ、ちょっと! 」


ここは自分の個室であり、人払いもしてきたので誰かに邪魔されることはない。

数少ないチャンスは逃さないエリカスだった。


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