出会い
「うわ!」
まさしくゲリラ豪雨。さっきまで日差しが強くてうんざりしていたはずなのに、突然黒雲が空を蔽い隠したかと思うと、これだ。新調したパンツスーツが台無しである。
「くう!」
折り畳み傘すら持っていなかった私は、慌てて目の前にあるコンビニに駆け込んだ。
「いらっしゃいませ」
店員の型通りの挨拶を心苦しく感じた私はビニール傘でも買って出ようと思った。何せ、まだ営業先に向かう途中なのだ。
「あれ?」
ところが、一般的に置かれていると思われる入口付近に傘がない。店員に聞こうと思ったが、レジで接客中。他の店員は見当たらない。
(どこに置いてあるのよ?)
肩透かしを食らったような気がして私は店の奥へと歩を進める。
「おお!」
私は思わず声をあげてしまった。店の奥に三歳くらいの可愛い男の子がいたのだ。もう天使と言い表すより他にないと思われるような可愛さ。どちらかと言うと、子供好きでもなく、ましてや近頃流行の「ショタコン」でもない私は、どうしてその子がそんなに自分の心を鷲掴みにしたのかわからなかった。周囲を見渡すとお客は今レジを終えた中年の男性と私だけ。この子の親らしき人はいない。
「ねえ、お母さんは?」
私は男の子の視線に合わせるためにしゃがみ込んで尋ねた。すると男の子はまた私の心がとろけてしまいそうなくらいの笑顔で、
「ここにいるよ」
と私の方を指差す。
「はあ?」
私はどういう事かと思って立ち上がり、棚の向こうを覗いてみた。でも、そこには誰もいない。
「ねえ、僕、お母さん、どこかに行っちゃったの?」
もう一度しゃがみ込んで尋ねる。するとその男の子は悲しそうな顔をして、
「ここにいるじゃん」
とまた私の方を指差す。
(からかわれてるのか?)
私は笑顔のままで男の子を観察する。しかし、またニコッとするその子にメロメロになりそうだ。
「お姉ちゃんにホントの事教えてよ、僕」
するとその子はスーッと霧のように消えてしまった。
「ひい!」
私はそのままペタンと床にお尻を着いてしまった。
(幽霊?)
どうしてこんな昼の日中に幽霊を見るのよ!?
疲れていて、幻を見たんだ。そう思う事にしたら、雨が上がっているのに気づいた。
そして一年後。
あの時の事をまた思い出している私。そして、私の腕には生まれたばかりの赤ん坊。
あの日の夜、付き合っていた腐れ縁の幼馴染にプロポーズされ、結婚した。そして妊娠、出産。
「また会えたね、僕」
私はその愛らしい手に指を絡ませた。