上位神・亀蒼(きそう)の好奇心が止まらない!!〜変神(へんじん)様の異世界旅行記〜
「おい、てめえ。調子に乗ってんじゃねえぞ、このコスプレ野郎が。」
目の前の男が暴言を吐いてくる。
どこの世界にも、同じような輩はいるらしい。
それが…異世界であったとしても。
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私の名前は亀蒼。神である。
神の中でも上位の存在、いわゆる上位神だ。
私の暮らす世界は神界と呼ばれていて、どこに行っても神がわんさかいる。
数多いる神の中でも上位神というのは上澄みの存在ではあるが、それぞれ派閥を持っており、私は天翔家という一族に仕えている。
天翔家には天翔大御神様という、二千年近くも一族を守っているとても偉大な方がいらっしゃる。
私はそのお方の側で、防衛や後進の育成を任されているが、それは副業に過ぎない。
私の本業、それは…研究だ!
世界には未知なるものが数多の神よりも溢れている!
その神秘は、どんな能力を使おうとも全てを解き明かすことはできない。
しかし、全てを解き明かすことができないからといって、知らなくていいわけではない。
そうであっていいはずがない!!
第一、神秘や謎というのは最初からわかっているものなど一つもないわけで…………………(以下、長文)。
この話を同僚たちにすると、誰もが苦虫を噛み潰したような顔をするのだが、価値観の違いというのはあって当たり前なので気にしない。
毎日、愛する研究に取り組めればそれでいい。
そんな私はいま、この上ない幸福に包まれている。
なんと天翔大御神様より、新種の鉱物を見てほしいと言われているのだ。
これに胸がときめかない神がいるだろうか?
いや、いるはずがない!いてはならない!!
そんなことを考えながら興奮していると、部下がやってきた。
「亀蒼様、大御神様より例の物が届いております。」
「おお!遂にか!早くこちらに持ってきなさい!」
鼻息を荒くしている私を見て、部下の目が少し怯えている気がしたが、そんなことは今はどうでもいい。
部下が私の研究用机に、所々に白い煙のような模様や緑や茶色が入った青い球体を置いた。
おお、美しい。
宝石のように輝くその鉱物は、美しさだけではなく、底知れない力を秘めていると感じるほど存在感があった。
この鉱物の詳細を知りたい、とりあえず部下から話を聞くことにした。
「何かわかっている情報などはあるか?」
「大御神様からは、虎紅様の攻撃でも傷つけられない代物だと伺っております。」
「なんと!!」
虎紅とは、天翔家の最強格・四天翔の一人だ。
ちなみに、四天翔は龍白・鳳翠・虎紅・このわたし、亀蒼の四人を指す称号である。
あの虎紅ですら傷つけられないとなると、これは骨が折れそうだ。
この鉱物を丸裸にするまで、何本でも骨を折ってみせよう。
「下がっていいぞ。」
ここからは、私の至福の時間だ。
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十数時間が経過し、さすがの私も疲労が溜まってきた。
呪いをかけて呪物化を試みたり、研究室が壊れない程度の力で攻撃してみたり、その他様々な方法を試してみたが、鉱物には傷一つつかず、その最上級の美しさをずっと保っている。
実験開始前と後の変化を調べてみても、なんら変化はない。
おそらく、力づくではどうにもできないように、なんらかの加護があるという結論に至った。
とりあえず、最後に力をぶつけるのではなく、流してみることにした。
鉱物は片手にすっぽり収まるくらいの大きさで、触っていても特に変化は無いのだが、じっと見つめていると吸い込まれてしまいそうな感覚に陥った。
そこに、私の神力を流し込む。
神なら誰でも持っている、この世界のどこにでもある空気のような力を目一杯流し込む。
大丈夫だと思うが、万が一壊れてしまわないよう細心の注意を払った。
力を流し込みはじめてから、どれほどの時間が経っただろうか。
私の体力が尽きてしまいそうだったので、そろそろやめようとしたそのとき、鉱物が部屋を全て染めてしまうかと思うくらいの青い光を放った。
思わず目を瞑る。
目を開けると、鉱物は私の背丈よりも高い位置で浮いており、その下には私一人が通れそうな不気味な光を放つ穴があった。
「なんだ、これは…。」
何百年と研究をしてきたが、こんな現象は初めてだ。
鉱物から謎の穴が発生するなど、聞いたこともない事案である。
穴は洞窟のように奥行きがあるわけではなく、横から見ると後ろには見慣れた研究室の景色が広がっていた。
そこそこ疲労は溜まっているし、何の準備もしていない。
今日はやめておくか?
否!!
この穴がいつまで開いているかも不明で、次に同じ現象が起こる確証もない。
何より、私の好奇心がこの穴に飛び込めと叫んでいる!
善は急げ!いざ!
目の前の穴に飛び込むと、平衡感覚がめちゃくちゃになり、いつの間にか気を失ってしまった。
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何かが私の顔を触っている。すごく激しい。
いや待て、何やらざらざらした感触がある。
これは手ではない、舌だ!
目を開けると、黒い鼻とつぶらな瞳、そしてもふもふとした毛が私の視界を覆っていた。
これは見たことがある、柴犬だ!
我が大和に伝わりし、由緒正しき和犬。
天翔家や分家の神が連れているのを、結構な頻度で見たことがある。
柴犬は私に乗っかっているらしく、胸のあたりがやけに重く感じた。
「ごめんなさああい!」
突然、柴犬が視界から消えると、見慣れない服を着た、栗色の髪の女性が現れた。
柴犬は抱きかかえられていたが、女性のそばで降ろされると尻尾を振りながら私に飛びつこうと暴れていた。
「大丈夫ですか?この子がいきなり走るもので、リードを放しちゃったんです。本当にごめんなさい。」
一応、言葉はわかる。
しかし、ここがどこかわからないので、目の前の女性に問いかけることにした。
「#”!&%$$#’))(’」
女性がぽかんとした顔をする。
「!”##%$&$’」
女性が何か言っているがわからない、ということはここは神界以外の異世界らしい。
神々には、私が開発した異世界人専用翻訳の加護を授けており、ほとんどの神は異世界の存在の言葉がわかる。
……人間以外を除いて。
なので、この女性の言葉はわかるのだが、猛烈な歓迎をしてくれた柴犬の言葉は分からないというわけだ。
これは逆も然りで、私の言葉も翻訳の加護が相手にわかるように伝えてくれる。
つまり、翻訳の加護を切った状態の言葉で通じれば神界、通じなければそれ以外の世界ということだ。
世界には三種類あって、神や上位存在が住む神界、それ以外が住む道界、このどちらでもなく神界や道界の力で発生する創造界が存在する。
私が飛ばされたのは道界か創造界のどちらか、もしくは誰も発見したことのない未知の世界だ。
これは研究しがいがある。
「#$#$%&%’$((&」
おっと、加護を切ったままだった。
女性が心配そうな表情で話しかけてくるも、何を言っているのかわからない。
私は加護を元通りにした。
「あのぉ、大丈夫ですか?」
「これは失敬、大丈夫ですよ。」
上体を起こしてみると、どうやら私は草むらで倒れていたらしい。
そこを柴犬に発見され、顔を舐めまわされたようだ。
立ち上がってみると、目の前には見たことのない建物がずらりと並んでいた。
四角いものから、とても長いものまで様々だ。
辺りを見渡してみても、初めて見るものばかりで心が躍った。
「それじゃあ、これで失礼します。」
「申し訳ない、一つ尋ねてもよろしいだろうか。」
女性は少し驚いたような表情をしていた。
「はい、何でしょうか。」
「実は私はここに来たばかりでね。ここは何という場所だろうか。」
女性の表情が、ハトが豆鉄砲を食らったような顔に変わる。
「ああ、だからそういう格好なんですね。ここは日本ですけど、外国人の方ですか?」
「日本…ああ、そうか。大和のことか。外国人とはなんだい?」
服装のことを言われたが気にしない。
私の普通は彼らの異質、異世界なら当たり前だろう。
翻訳の加護は、知らない単語の意味までは教えてくれない。
「えーっと、海外の人でわかります?」
「……この国以外の人という意味かな?」
「そうですそうです!」
「んー、当たっているような外れているような微妙なところなのだが…。」
女性はきょとんとしている。
まずい、せっかくの情報源だ。できるだけたくさんの情報を集めなければ!
「道界や創造界という言葉に聞き覚えはあるかな?」
おそらく感触のいい答えはもらえないだろうが、立ち去られてしまうよりはいいだろう。
そんなことを考えていると、女性から予想外の返事が返ってきた。
「ベースド?は分からないですけど、くりえいとは近くにありますよ。」
「何だと!!」
思わず大きな声を出してしまったせいで、女性がまた驚いてしまった。
創造界が近くにあるだと!?
神界なら、創造界への入り口を見つけたらすぐに調査隊を派遣する程なのに!
創造界は我々にとって、戦力増強に欠かせない場所であり、独占しようものなら他の神々を敵に回してしまう可能性を秘めた場所で、そうならない為にも各国で報告を義務付けている。
例外もあるが、その存在の有無で平和が維持できるかどうかが変わるといっても過言ではない。
それが、すぐ近くにある。
私の知る限り、ここは認知されていない可能性が高い。
危機感と高揚感が、私の中で渦巻いていた。
「すまないが、そこまで案内してもらうことは可能か?」
「はい、散歩コースの途中ですし。」
犬の散歩のついでに寄れるくらい、身近にあるのか。
余程の実力者でなければ、単騎で行こうなど考えない場所なのだがな。
いや、もしや柴犬に隠された戦闘力があるのか?
ふと柴犬に目をやると、私のことを見て尻尾をぶんぶん振っていた。
この子に……戦闘力……?
そんなことを考えているうちに、女性への礼を欠いていることに気づいた。
「そういえば、自己紹介がまだだった。私は亀蒼だ。」
「きそうさん、珍しい名前ですね。私は高田っていいます。」
「高田殿か。世話になっているのに、挨拶が遅れて申し訳ない。」
「殿…?」
高田殿が何やら気難しそうな顔をする。
そんな主人の横で、相変わらず柴犬は尻尾を振りながら荒い息遣いをしていた。
「それと、この子を撫でてみてもいいだろうか?」
「え?いいですよ。姫ちゃん、あなたのこと凄く好きみたいですし。」
「姫ちゃん?」
「ゆき姫って名前なんです。かわいいでしょう?」
高田殿が優しい笑顔をこちらに向けてくる。
その様子からして、この柴犬はとても愛されているのがよく伝わってきた。
「とても素敵な名前だ。おいで、ゆき姫。」
私がそう言った途端、ゆき姫は満面の笑みで耳を後ろに倒しながら、私に飛びかかろうと興奮気味で近づいてきた。
高田殿が縄のようなものを引っ張り、飛びかからないよう調整してくれているが、引っ張る力が強いのか苦労しているようだ。
ゆき姫の頭を撫でてやると、言葉はわからないが、間違いなく喜んでいるのが伝わってきた。
撫でながら思ったが、やはり戦闘力の類は感じられず、顔を舐めたいという凄まじい欲望だけが私に向けられていた。
「それじゃあ、行きましょうか。」
「うむ、そうしよう。」
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高田殿とゆき姫と並んで歩いていると、少し遠めに風情のある小さな建物があり、大きな文字が目に入った。
「スーパー くりえいと」と書いてあった。
「高田殿、あれは?」
「あれが、くりえいとです。優しいお爺ちゃんお婆ちゃんがやってるお店なんですけど、外国の人にも認知されているなんてびっくりしましたよ。」
高田殿は勘違いをしたらしく、創造界と同じ名前の商店に私を案内してしまったようだ。
いや、高田殿は勘違いなどしていない。
間違えたのは私だ。何をどう間違えたのかはうまく説明できないが、責任は私にあるのだ。
私は落胆と同時に、目の前の商店に興味がわいてきた。
せっかくの機会だ。異世界の商店を見るのも悪くないだろう。
「高田殿、ここまで世話になった。」
「いえいえ、通り道だったので気になさらないでください。」
軽く会釈して店に行こうとすると、
「わん!わん!」
ゆき姫が私に向かって吠えていた。
どことなく、目が寂しそうだった。
「ゆき姫もありがとう。今日から私たちは友だ。」
「きゃうーん!きゃうーん!」
後ろ髪を引かれる思いで高田殿とゆき姫と別れ、店に向かった。
屋根は見たことのない素材でできていて、緑と黄の縞模様になっており、その上に「スーパー くりえいと」と書かれた大きな看板があった。
神界には、不定期だが同界から人間や生き物を連れてくる時期があり、やってきた人間から、住んでる世界の情報などを教えてもらっていた。
前回は、三十年ほど前だっただろうか。
そのときに聞いた情報と、目の前の店の情報が大体一致していたので、私はとても感動した。
情報によれば、こういう店では「美味な筒」という菓子を買って食べたというので、私もそれを買いたいと思う。
当時、情報をくれた人間を助けたこともあり、お礼として百円というものをもらっていた。
人間曰く、これがあれば「美味な筒」を十本くらい買えるらしい。
十本もあれば、高田殿とゆき姫にも分けてあげたかったが、こればっかりは致し方ない。
店の前に立つと、透明な素材で作られた二枚扉があった。
片方を押してみると、扉が奥に開いたので店の中に入る。
店の中には見たことのないものがたくさん陳列されており、私は言葉を失ってしまった。
「いらっしゃい。」
そんな私に気づいたのか、奥のほうから声が聞こえる。
奥に行ってみると、神であれば二千歳を超えてそうな老夫婦が椅子に座っており、穏やかな表情でこちらを見ていた。
店内をじっくり見たいが、老婆のほうと目が合ったので、情報を集めることにした。
「失礼、美味な筒はどこにあるだろうか?」
「ご丁寧なお客さんだね。爺さん、美味な筒はどの棚だったっけ?」
「何味が欲しいんだ?」
情報を思い出してみる。
確かあの人間は、てりやき味がおいしいと言っていた。
しかし、百円ならばそれ以外の味を買うことも不可能ではないだろう。
「ここに来てまだ間もないのだが、おすすめはあるだろうか?」
「儂は、サラダ味とたこ焼き味が好きだ。」
「私は、マヨネーズとやきとりとチーズとめんたいと納豆とコーンポタージュが好きかね。」
知らない味ばかりだが、買えるのであれば全部いただこう。
「そこにてりやき味を足すと、いくらになるだろうか?」
「えーっとぉ、爺さんので二、私ので六、お客さんが一で一本十五円だから、百三十五円だねえ。」
百円を超えてきただと!?
あの人間、嘘をついたのか!この私に!
三十年前に戻って、問い詰めてやりたくなった。
※当時は百円で十本買えました。
「仕方ない。少々本数を減らすか。」
その後、老人に売り場を案内してもらい、てりやきとサラダとたこ焼きとやきとりとめんたいとコーンポタージュを購入した。
心なしか、老婆が冷たい目で私を見ている気がした。
袋も購入したので、おつりとして五円を渡された。
「まいどぉ。」
後悔はあったが、やれるだけのことはやった。
それにしても、この世界は興味深いことが多い。
美味な筒の梱包材も、渡された袋もおもしろい素材でできている。
帰ったら研究することだらけだ。そう考えると胸の高鳴りが収まらなかった。
あれ?でも、どうやって帰るのだろうか?
そんなことを考えていると、遠くから声が聞こえてきた。
「なあ!!いいだろう?犬も一緒でいいから俺たちと遊ぼうぜ?」
「やめてください!警察呼びますよ!」
「わんわん!ぐるるるるる!」
なんと、高田殿とゆき姫が、茶髪の男たちに囲まれていた。
「ちょっとでいいからさ!いい店知ってるから行こうぜ!」
「しつこいですね。行かないって言っているでしょ!」
「おい、やめないか、みっともない。」
声をかけると、その場にいた全員が私を見た。
「きそうさん!」
「なんだ?着物?コスプレか?」
私は取り巻きをかきわけ、高田殿にしつこくしている男に近づいた。
「聞こえているだろう?やめろと言っているんだ。」
男が私を睨めつけてくる。
「おい、てめえ。調子に乗ってんじゃねえぞ、このコスプレ野郎が。」
目の前の男が暴言を吐いてくる。
どこの世界にも、同じような輩はいるらしい。
それが…異世界であったとしても。
「きそうさん!危ないです!逃げてください。」
「高田殿、心配無用だ。すぐに助ける。」
「殿だってよぉ!こいつ、めちゃくちゃ設定凝ってるわ!」
男と取り巻きたちが大声で笑う。
呆れてため息をついたそのとき、男の足元にゆき姫がいるのに気づいた。
そして、ゆっくりと足を広げ腰を落とすと…
男の足元近くの地面に向かって放尿した。
ゆき姫は、そそくさとその場を離れる。
「うわ!この馬鹿犬!」
男がゆき姫に近づき脚を振り上げたその時、私は間に入って男の蹴りを受け止めた。
私の右足が、ゆき姫の尿溜まりを踏む。
「おまえアホだろ!ションベン踏んでまですること
か?」
「………に何をしようとした?」
「あ、聞こえねえよ!」
「私の友に何をしようとしたと聞いているんだ!!!」
私が怒声を響かせると、男は多少怯んだが、退く気はないようだった。
「てめえ、もう許さねえぞぉ!」
男が力を込めて右拳を振るう。
私はそれを額で受けた。
寺の鐘の音のような音が辺りに鳴り響く。
「ぐぁぁぁぁぁ。」
男が右腕を抱えながら倒れ込む。
男の拳が腫れあがり、所々青くなっていた。
一方、私の額には傷一つ無い。
「まだやるか?とことん相手になってやるぞ?」
倒れ込む男を見下すように、私は言い放った。
「おい、やべえぞ!逃げろ!」
取り巻きたちが男を抱えて逃げていく。
「きそうさん!大丈夫ですか!?」
高田殿が心配そうに私を見ていた。
「大丈夫。それより、怪我はないか?」
「私は大丈夫です。」
「わんわん!わんわん!」
ゆき姫が嬉しそうに吠えながら立ち上がり、私に寄りかかった。
「姫ちゃん!おしっこ踏んだ足で寄りかかっちゃダメでしょ!」
「いえいえ、ゆき姫も私も、互いに高田殿を守ろうとして、それを成し遂げた。今は余韻に浸らせてほしい。」
「でも、服や靴が汚れてしまいましたよ?」
「これは汚れではなく、勲章ですので。」
誇らしげに笑う私に対して、高田殿はきょとんとした顔をしていたが、ゆっくりと笑顔になった。
「それじゃあ、お言葉に甘えますね。」
「そうしてもらえると助かる。そうだ!渡したい物がある!」
私は右手に持っていた袋を、高田殿に渡した。
「くりえいとで買ったのだが、好きな物を選びたまえ。」
「わあ、美味な筒じゃないですか!ありがとうございます!じゃあ、これにし………」
高田殿がてりやき味の美味な筒を持っていたので、私は動揺してしまった。
それが顔に出たらしく、高田殿が数秒停止した。
そして、てりやき味を袋に戻した。
「やっぱりこれにしますね!」
高田殿はめんたい味を手にしていた。
老婆にまた冷ややかな目で見られそうだが、恩人に渡すのだから問題ないだろう。
「わんわん!わんわん!」
「そうか、ゆき姫も欲しいか!好きな味を選んでいいぞ!」
私がゆき姫にそう言うと、高田殿が慌てていた。
「やめてください!犬に美味な筒をあげちゃダメですよ!」
「そうなのか、それはすまない。しかし、ゆき姫にも何かお礼をしないと。…そうだ。」
私はしゃがむと、ゆき姫の頭を撫でる。
そして、私の神力を込めた加護を施す。
これで、さっきのような輩に遭遇することも減るだろう。
「そういえば、きそうさんってどういう漢字なんですか?」
「亀に蒼いで、亀蒼だ。」
「へえ、珍しいですね。」
「同じ名前の者に、会ったことはないな。」
「でしょうね。」
高田殿と目が合い、お互いに自然と笑みが溢れる。
そこには異世界の壁など無く、美しい友情だけがあった気がする。
安心して小腹が空いたのか、高田殿がめんたい味を食べ始めた。
おそらく一番食べたかった味ではないだろうが、とても美味しそうに頬張っていた。
「わんわん!わんわん!」
高田殿が食べてる姿を見て、ゆき姫が吠えていた。
欲しいと言っているのは、言葉がわからなくてもわかった。
「よしよし、ゆき姫には今度、何か美味しいものあげよう。」
ゆき姫は私の言葉を聞くと、高田殿から離れて私の目の前でお座りをした。
「かわいいやつめ。」
ゆき姫を撫でようとしたそのとき、私の体が青く光り始めた。
「亀蒼さん?」
高田殿が不思議そうにこちらを見ている。
「すまない、元の世界に帰らなければならないようだ。」
「え?元の世界?」
「とどのつまり、お別れというわけだ。」
高田殿は、目の前で起こっていることを理解できずにいるようだった。
それもそうだろう、いきなり目の前の男が光り始めて、元の世界に帰ると言われて、すぐに理解できる者などいるはずがない。
そんななか、ゆき姫は私のことを寂しそうな目で見つめていた。
「くうーーん。」
【美味しいものくれないの?】
いきなり頭に、優しそうな女の子の声が響く。
私は驚いたが、それがゆき姫の言葉なのはなんとなく察しがついた。
加護を授けた影響なのかわからないが、ゆき姫の言葉がわかるようになった。
それにしても、この状況で食べ物のこととは…。
思わず笑いが溢れてしまった。
「あははは、ゆき姫。そう寂しそうにするな!きっといつかまた会える!そのときは、最高に美味しいものをご馳走するぞ!」
「わん!」
【うん!待ってるね!】
光が一段と強くなる。もう時間のようだ。
「高田殿!ゆき姫!世話になった!いつか、また会おう!」
「き、亀蒼さん!あの!」
その瞬間、私の体は一段と強く光り輝き、跡形もなく消えた。
「…美味な筒、忘れてますよ。」
この後、高田さんはひょんなことから亀を飼うことになるのだが、それはまた別の話。
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目が覚めると、研究室で仰向けで寝ていた。
体を起こすと、床にはあの鉱物が落ちていた。
「これは、最高の研究ができそうだぞ。」
まだまだ不明な点は多いが、この鉱物が私にかけがえのない時間を与えてくれたのは間違いない。
「亀蒼様!こんな時間まで研究してたのですか!?もう朝ですよ!?」
「あぁ、もうそんなに時間が経過していたのか。」
懐に手を入れる。
そこには、老夫婦から受け取った五円が入っていた。
…五円?
「ああああああああああああああ!!」
部下が驚いて、体をビクッとさせた。
「どうなされました!?」
「美味な筒忘れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁ!!」
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数日後。
「亀蒼様、よろしいでしょうか?」
部下が研究室に入ってきた。
「なんだ?今は取り込み中だ。」
「申し訳ありません。龍白様より、文が届いております。」
部下から、文を受け取る。
「ほぉ!これはおもしろい!早速、準備をしなければ!」
またもや、おもしろそうな話が転がり込んできた。
少々面倒そうだが、それも含めて好奇心を掻き立てられる興味深い内容だ。
興奮気味で作業をしている私を見ながら、部下が聞いてきた。
「ところで、何をやっているんです?」
「これか?異世界に行ったとしてもついてきて、情報を収集してくれるからくりを作っているのだ!名付けて、自動追尾装置一号【ゆき姫】だ!」
ご愛読、ありがとうございます。
今作は、連載中の作品「神々の戯れ(ゴッドゲーム)」に登場するキャラクター・亀蒼の外伝作品になります。
宜しければ、本編のほうでも亀蒼の活躍を楽しんでくれたら嬉しいです。こっちは、もっと神様する予定です。
神々の戯れ~ゴッドゲーム~
https://ncode.syosetu.com/n1625mr/
亀蒼の活躍が見れる本編の更新は、
本日10月26日(月)22時頃を予定しています。
それでは、またどこかでお会いしましょう!




